
まちづくり会社の自立とは何か—事業と資金を循環させて地域を動かす経営|たじみDMO(岐阜県多治見市)
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取材日:2026年7月21日 掲載日:2026年10月16日 |
岐阜県多治見市の中心市街地にある、カフェや本屋、シェアキッチンなどが入る複合施設「ヒラクビル」。行政補助に頼らず民間融資や地域の信頼をもとに実現したこのプロジェクトは、運営主体が「たじみDMO(観光地域づくり法人)」へと発展・改組していく上での大きな転換点になりました。
同法人は、前身のTMO(多治見まちづくり株式会社/中心市街地活性化推進機関)の事業を引き継ぎ、TMO時代の経営危機を乗り越える中で、事業と資金のあり方を見直してきました。ヒラクビルは、その転換を象徴する事業で、TMO時代から培われ、現在のDMOへと受け継がれた「事業を実現し続ける力」が表れています。
なぜ事業を継続できたのか。そのための資金をどう調達してきたのか。
本稿では、たじみDMOのCOO(最高執行責任者)小口英二さんへのインタビューを通じて、まちづくり会社の自立とは何かを探ります。
目次
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2001年 多治見まちづくり株式会社(たじみDMOの前身)設立 (2009年 小口さん入社) 2009年 会社方針の変更(事業中心)と資本金の入替え 2014年頃 駐車場事業の終了により経営が一時的に悪化 2019年 ヒラクビル開業 2022年 たじみDMOへ組織改編(多治見市観光協会、(株)華柳との3者統合) 2023年 「みんなでえがく たじみのまちなか」刊行 |
1.ヒラクビルが教えてくれたこと
2019年に開業したヒラクビル。商店街内の空きビルをリノベーションするというこの事業は、TMOが経営危機脱出後の最初の大型事業として掲げたものでした。
開業の5年ほど前、駐車場運営の事業が終了したことが影響し、経営状況が一時的に悪化しました。苦難の時を乗り越えて、会社として今一度事業にきっちり取り組もうとなった最初がヒラクビルでした。「厳しかった時でも、空き店舗調査を継続していたことが良かった」と小口さんは振り返ります。
ヒラクビルの成功には、「生きた資本金」があったことが大きいと小口さんは言います。
会社方針の変換を機に実施した資本金の入替により、事業に共感し、事業のためにお金を使うことに理解を示す多くの出資者が、会社を支えていました。
「圧倒的に、事業がやりやすかった」と語ります。

ヒラクビル 建物中央の階段 
ヒラクビル「ひらく本屋」2階 特産のタイルを活かした装飾 
ヒラクビル「ひらく本屋」1階
2.資金調達の変遷
たじみDMOでは、前身のTMOにおける方針変更と出資者入替え、経営悪化からの再起、統合によるDMOの誕生を経て独自の基金設立へと、資金調達の仕組みを進化させてきました。
出資者入替の理由
2009年にTMOに入社した小口さん。「事業の実施を中心にする」という会社方針の変更がきっかけでした。
しかし事業資金に乏しかったため、やむなく事業費に資本金を取り崩して充てることを会社として決断しました。そしてこのことに賛同しない出資者に対しては資本金を返還することにしました。
返還金額は約200万(40口)にも上り、一部の商店街が組合ごと出資から外れるということも起きたそうです。
その後再出資を募り、積極的に事業実施を行う会社の方向性に賛同する人中心へと出資者構成が大きく変わりました。このことが、ヒラクビルにつながったのです。
補助金とのつきあい方
TMOでは、行政からの補助金のほか、県や市の事業委託を数多く受けていました。企画書を作っては役所に持参し提案することを繰り返しやってきた、と小口さんは振り返ります。
「よく『自立しろ』という話が出ますが、TMOは行政が出資しているのだから、会社を動かすために行政も一緒に走り、努力するのは当然だと思っていました。行政が実現したい施策をTMOが担うのだから、そこに財源を充てるのは必要なことじゃないかと」。
行政の組織の性質や、組織が動く仕組み、感覚などの違いについて理解しておくことが大切と言います。
「まちの理想の姿を作るために行政がお金をかける、その意図をきちんと組んで仕事をするという考え方です。行政の財源を民間ならではの高い費用対効果で活用するために、必要な事業を必要なリソースを作って実行する。そういう会社は、たとえ補助金を受けていても、自立していると言えるのではないでしょうか」。
可能性を広げる民間融資と基金設立
一方、ヒラクビルのリノベーションは、補助金などの行政の財源は使わず、民間融資・自己財源・企業協力金で賄う完全民営事業でした。会社方針の変更以来、事業を着実に積み重ねてきたことで、TMOに対する地域内での信頼が高まっており、融資は受けやすかったそうです。さらに、地元の東濃信用金庫と連携して「わがまち基金」に採択され、事業の資金調達につなげました。
2022年、TMOから組織統合を経て一般社団法人へと組織変更したことをきっかけに、資金調達のための制度設計を行政とともに行いました。
3者(TMO・株式会社華柳・観光協会)の統合は、公的な信頼性や非営利性を担保しながら、まちづくりや観光振興も含めた地域の公共的な事業を一体的に行うことを可能にしました。一方で、資金調達の点では保証協会の保証が使えなくなるので、融資が難しくなる可能性がありました。
そこで、株式会社だった2者の資本金と内部留保を、たじみDMOの事業のための「まちづくり基金」の設立に充てたのです。
「当時TMOには資本金と内部留保合わせて約3000万の積み上げがありました。統合に伴い資本金はいったん返還し、『まちづくりのために、もう一度私たちにお金を預けてください』と寄付をお願いしました。多くの方から賛同をいただき、基金を設立することができました」。
まちづくり基金は、空き物件取得やリノベーション事業に活用され、複数のプロジェクトを実現する原資になっています。会社の一般会計とは別で管理し、使った分は事業で得た収益などから10年かけて基金にお金を戻し、次のプロジェクトに回す仕組みだそうです。
資金を組み合わせて事業を続ける
現在は資金に窮することが少なくなったという小口さんですが、その背景には複数の資金源を組み合わせる考え方があります。
ヒラクビル1階の直営店「喫茶わに」や駐車場運営のように日常的な収入を生む事業は、会社経営の安心感につながると言います。
一方で、まちづくり基金は空き物件の取得やリノベーションなど、まちの将来に向けた投資を可能にします。場合によっては、地域として望ましいまちの姿を守るための選択肢にもなり得ます。
3.事業が組織を育てる
小口さんは、「お金の使い方は、お金を使うことで覚える」と言います。
融資を受けるにはどのような説明が必要か。出資してもらうためにどのような事業計画を示すべきか。そうした感覚は、実際に事業を重ねる中で身についてきたそうです。
「億単位の事業をやれば、億単位のお金を扱う経験が得られると思っています。事業をやるためにお金を使うことの積み重ねが、結果として次の事業を実現する力を磨いてくれるのです」。
事業は成果を生み出すだけでなく、人材や組織を育てる機会でもあります。だからこそ小口さんは、まず挑戦することを大切にしています。
事業の判断をする際は、まずはプロジェクト単体で成り立つかどうかを見るそうです。
理想的には事業ごとに収支がプラスマイナスゼロ、あるいは少しでも利益が出ることが目安です。ただし、人件費まで含めると成立しにくい案件も多いため、実際には会社全体でバランスを取る考え方も取っています。
リノベーション事業についても、減価償却を除き収支がプラスになるのであれば実施するとのこと。事業単体では収まりきらなくても、他の事業と組み合わせて会社全体で成立するなら挑戦することもあるそうです。

たじみDMOが手掛ける事業 ①多治見情報誌「あっつう」 ※ 
たじみDMOが手掛ける事業②たじみビジネスコンテスト ※

たじみDMOが手掛ける事業③虎渓用水広場の活用 ※ 
たじみDMOが手掛ける事業④観光事業
専門家として他のまちづくり会社の支援に入ることも多いなか、「赤字になりそうだからやらない」と事業を諦めてしまったり、せっかくまちづくり会社を設立したのにその後の仕事づくりには慎重になりすぎるケースをよく見るそうです。
しかし、「事業は実際にやってみなければ始まらない」と小口さんは力強く話します。
採算が厳しくても、事業に取り組むことで関係者が知恵を出し合い、黒字化に向けて努力する経験を積むことは人材育成につながります。もし事業を中断せざるを得なくなっても、それがリノベーションなら、改修されて使えるようになった物件やそれを活用する新たなプレーヤーが地域に残ります。たとえまちづくり会社としては赤字でも、地域には確かな資産が蓄積されるという考え方もできます。
そのため、クラウドファンディングや出資の募集、別事業による補填など、あらゆる方法で事業を成立させる工夫が重要だと言います。
「まちづくり会社は地域の可能性を広げるための存在です。リスクを恐れて事業をやらないことは、まちの成長の可能性そのものを否定することになりかねません」。
4.事業の蓄積が未来を描く
「みんなでえがく たじみのまちなか」
2023年5月、多治見のこれからを描く冊子「みんなでえがく たじみのまちなか」ができました。
多治見市中心市街地活性化基本計画が目指すまちのなりたい姿を、たじみDMOが中心となって、わかりやすい説明書として、絵本のようなスタイルでまとめたものです。

みんなでえがく たじみのまちなか 表紙 
みんなでえがく たじみのまちなか 「まちなかの様子」 
みんなでえがく たじみのまちなか 「こんなふうになっていたよ」
冊子には、これまでの取組みで変化してきたまちなかの様子を振り返るページもあります。
「10年余りの間、まちづくりの事業をやってきたことで、みんなの中に『こんなふうにまちが変わってきた』という共通の認識があります。それがベースとなって生まれた『次はこうなりたいよね』という思いを、まちのビジョンとして描いたのが、この冊子です」。
「ビジョンを描いてから事業を始めるという方法が一般的ですが、私は『事業をやってからビジョンを描く』でも十分ありだと思います」。
「実際にまちが変化してきた経験が地域の皆さんにあるからこそ、『次はこうなりたい』というイメージが共有しやすく、そこに至るまでの手段や必要な資金まで含めて考えられるようになります。地域の皆さんの理解や協力も得やすいと思っています」。
魅力あるまちづくり会社になるために
小口さんが今後の課題として挙げるのは、「地域の人たちが出資し、地域づくりに参加できる新しい仕組みづくり」です。
その前提として重要なのが、まちづくり会社そのものの魅力を高めることだと言います。会社が何を目指し、どのような事業に取り組むのか。その内容だけでなく、社員や組織の姿勢も含めて、「それは応援したい」「あの会社なら何かを実現してくれそうだ」と地域や経済界から信頼される存在になる必要があると考えています。
そのためには、会社のブランディングや対外的な信用力の向上も欠かせません。金融機関から融資を受けるためには健全な経営と分かりやすい決算が求められますし、地域企業とのネットワークの中で一目置かれる存在でなければなりません。
さらに小口さんは、個人や地元事業者が地域のプロジェクトへ出資し、その成果に応じてリターンを受けられる仕組みをつくりたいと考えています。地域に必要な施設や事業を実現する際、資金やリスクを特定の会社だけが背負うのではなく、多くの人がスポンサーとして関わることで、地域全体で挑戦を支える環境をつくりたいというのです。
「みんなで協力して実現できた」という経験が、「応援した結果としてリターンも得られた。次の投資にもつながる」という循環になれば、その地域ならではの資金循環の仕組みが生まれます。地域のために投資する人が増えれば、新たな挑戦も生まれやすくなります。
もちろん、そのためには出資者の期待に応えられるだけの経営力やガバナンスが必要です。企画力や事業推進力はもちろん、適切な経営管理を行いながら責任を果たせる会社になることが、これからの目標だと語りました。
5.まとめ まちづくり会社の自立とは何か
小口さんへのインタビューを通じて見えてきたのは、まちづくり会社の自立とは、補助金や行政財源から離れることではないという考え方です。行政の財源、民間融資、基金、事業収益など、それぞれの資金を目的に応じて組み合わせながら、地域に必要な事業を継続できる状態を作ることこそが自立であると言えるのではないでしょうか。
その根底には、「まず事業をやる」という姿勢があります。ヒラクビルのリノベーションをはじめ、採算面だけでは判断できない挑戦にも取り組みながら、資金調達の経験や事業運営のノウハウを蓄積し、組織や人材を育ててきました。たとえ事業そのものが大きな利益を生まなくても、地域には新しいプレーヤーや活用可能な空間が残ります。まちづくり会社は、その積み重ねによって地域の可能性を広げていく存在なのです。
また、事業を続けてきたからこそ、「次はこんなまちになりたい」という未来像を地域で共有できるようになったと小口さんは語ります。ビジョンが先にあるのではなく、事業による実践の蓄積が未来を描く力になるという考え方は示唆に富むものでした。
そして今、小口さんが見据えているのは、地域の人々や事業者が出資者としてまちづくりに関わる新しい仕組みです。応援したい事業に地域自らが投資し、その成果が次の挑戦につながっていく。そうした資金と人の循環が生まれたとき、まちづくり会社は単なる事業主体ではなく、地域の未来を共に育てるプラットフォームへと進化していくのかもしれません。
たじみDMOの活動に、これからも注目していきたいと思います。
※印の画像は、取材先の許諾をいただき掲載しております。



