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中心市街地での創業促進策を学ぶ(新潟県上越市(高田地区)
第2回:岐阜県多治見市でのセミナー開催~ビジネスプランコンテスト~

 新潟県上越市は、市の成り立ちから高田と直江津の両地区に中心市街地活性化協議会が設立されています。
 8月7日、同協議会(高田地区)は、中心市街地での創業促進策を学ぶことを目的に、講師の招聘ではなく講師の所在地を会場とするスタイルでセミナーを開催しました。先進的な取組を続ける岐阜市及び多治見市の2市を訪問し、それぞれの会場で講師の話に耳を傾けました。第2回目のレポートは、岐阜県多治見市のたじみビジネスプランコンテストのお話です。

第1回:岐阜市柳ケ瀬地区でのセミナー開催~創業環境づくり~
第2回:岐阜県多治見市でのセミナー開催~ビジネスプランコンテスト~

※前回の記事はこちらから

<第2回 目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。

  • セミナーの様子
  • セミナー参加者と講師(会場のヒラクビル前)

 
 同市のたじみビジネスプランコンテスト(以下、タジコン)は空き店舗対策の一環で始まった事業です。まちなかへの出店増加だけでなく、起業・創業、新規事業の創出を促進し、地域経済全体の活性化を実現しています。
 講師は、タジコン立ち上げ時からの中心人物である同市経済部産業観光課長の久田伸子氏と、まちなかの活性化に取り組む一般社団法人多治見市観光協会(通称:たじみDMO)最高執行責任者の小口英二氏です。
 タジコンは多治見市が主催し、たじみDMOとの強固な連携体制で実施されています。セミナーでは、同市の中心市街地活性化の状況とたじみDMOの事業紹介があった後、タジコンの成り立ちや効果、受賞者がまちでどのように活躍しているのか等、お話いただきました。


1.多治見市の中心市街地活性化について

 多治見市は独自計画で中心市街地活性化を進めています。同市の中活計画は非常にユニークです。今期より計画書を「絵本」にしました。定量データ等を用いて課題や取組事項等を記載する文章中心の計画が一般的ですが、市民には馴染みにくい面もあります。多くの人に読んでもらいたい、知ってもらいたいという想いから絵本に変更し、「このような未来にしたい、こんな風に過ごせたら楽しい」と未来への期待を実現する説明書として作成しています。

多治見市中心市街地活性化基本計画より抜粋

(多治見市 中心市街地活性化基本計画リンク) 別ウィンドウでpdfファイルを開きます

  
※たじみDMOの取組は、別稿でご紹介しています。

(事例)TMOからDMOへ 公民連携のまちづくり(岐阜県多治見市)


2.多治見市の創業支援(タジコン)

 タジコンは、今年で6年目を迎える創業支援事業です。中心市街地活性化基本計画の目玉事業として、商業施設の誘致、出店促進を目的に立ち上げました。同市では長年力をいれてきた、ビジネスフェアー「き」業展、企業お見合い、企業支援センターの運営といった産業振興事業があります。それらの関係団体と連携することで、タジコンは地域経済全体を活性化させる事業となっています。

 タジコンの開催は、従来の空き店舗家賃補助制度の見直しがきっかけです。市民の意識調査の結果からも中心市街地へ望むことは商業集積であり、まちなかへの出店促進が課題でした。市では空き店舗対策として家賃の半額を3年間補助する制度を実施していましたが、補助対象の条件が6か月の空き期間がある物件だったことから、不動産オーナーによる空き期間のコントロールや、家賃の高止まり、補助期間が終了すると再び空き店舗化する等の問題が生じていました。
 この補助制度に代わる新たな空き店舗対策を模索していたところ、小口氏より「ビジネスプランコンテストが有効」という提案がありました。そこで、市の担当課やまちづくり会社、金融機関担当者等で、ビジネスプランコンテストの先進事例地を視察。商店街の空きビルをリノベーションした「ヒラクビル」のオープンに合わせて、ビジネスプランコンテスト開催に至りました。
 “誰でも使える”補助金から、“選ばれた人”の出店支援制度に転換したことで、まちに想いのある、意欲ある出店希望者を発掘できています。

タジコン2023 チラシ

<実施体制>
 「たじみビジネスプランコンテスト実行委員会」は多治見市中心市街地活性化協議会の下部組織です。毎月1回、委員会を開催して事業の進捗を確認しています。
 実行委員会の構成メンバーは、多治見市役所、たじみDMO、多治見商工会議所、笠原町商工会、多治見市起業支援センター、東濃信用金庫、十六銀行、日本政策金融公庫、岐阜県信用保証協会です。

  • 出所:たじみDMO資料

  
<スケジュール>

・4月  実行委員会立ち上げ、PR開始(ゴールデンウィーク前にポスター掲示)
・5月  募集要項の検討・審査員選出
・6月  募集開始(~8月31日)、説明会の開催・事前相談の開始
・7月  ビジネスプラン作成セミナーの開催(2回)
・8月  事前相談(事業計画のブラッシュアップ)
・9月  1次審査(タジコン実行委員会)
・10月 ファイナリスト説明会、プレゼンテーション研修
・11月 ブラッシュアップ研修(~1月末)
・1月  審査員事前ヒアリング ⇒ 最終審査会(ファイナル)

 タジコンのスケジュールは上記の通りです。一次審査で6~7組のファイナリストを選出し、タジコンサポート隊(後述)から専属のサポート担当が決まります。事業計画のブラッシュアップを支援し、最終審査会のプレゼンに向けた準備を行います。タジコンサポート隊のメンバーには金融機関も多く、資金計画のアドバイスは的確で、より実現性の高いビジネスプランにブラッシュアップされています。
 最終審査会は公開で実施され、観客や応援者等が見守る中、ファイナリストが事業計画のプレゼンを行います。(コロナ禍中は無観客でLive配信)

様々なチャネルで応募者を掘り起こし

 タジコン応募者の掘り起こしは、起業したい人を探すこととイコールです。周知活動はポスター掲示、チラシ配布、自治体広報誌や新聞掲載、ふるさと回帰支援センターや大学等の起業部への営業等です。
 ターゲットは多治見に縁のある人(居住者、実家がある、仕事先がある等)のため、周知はゴールデンウィーク前に始めます。なお、応募者の9割が駅のポスターでタジコンを知ったそうです。
 そのほか、企業支援センターやたじみDMOに来る相談者にもタジコンへの応募を勧めています。


3.事業のポイント

 タジコンは優劣を競う事業ではありません。まちなかにおける起業・創業、出店を促進し、地域の活性化を図る目的があります。創業促進策として成果が上がっているからこそ継続しているといえます。長年産業振興事業に注力してきた同市に起業支援の土壌があったことも一因ですが、ポイントは次のとおりです。

①タジコンサポート隊の伴走支援
 応募者をサポートする「タジコンサポート隊」の存在が大きいです。各ファイナリストに専属のサポート担当者が付き、事業計画のブラッシュアップからプレゼンテーションの磨き上げまで伴走支援を行います。パワーポイント講習から実施した候補者もいるそうです。よろず支援拠点等からの協力もありますが、専業のコンサルタント等は使わずに伴走支援を行っているため、創業後も続く関係が構築できています。

②納得いくまで事業計画をブラッシュアップ
 平日は夜間しか時間を取れない候補者もいるため、ブラッシュアップ期間を多めにとっています。タジコンサポート隊の伴走支援で事業計画が洗練され、より実現可能性の高い計画になるため、起業までのスピードが早まります。また、借入の際には金融機関への説得力も増す等、応募者にとってメリットがあります。

③地域での応援体制
 金融機関ではタジコン応募者向けの融資制度を設けています。創業者の借り入れは難しい面があるため、タジコンに出場してもらうことで金融機関との橋渡しを行います。なお、同市ではMINTO機構のまちづくりファンドを組成しており、リノベーション資金の出資等も行っています。
 審査員である地元の経営者とのビジネスマッチングもあり、地域全体で起業者を応援する体制ができています。
 
④創業後も継続支援
 創業後も、継続支援を行っています。コロナ禍の影響により事業存続が危ぶまれた際には応募者だけが活用できるタジコンフォローアップ補助金を創設し、コロナ禍を乗り切りました。


4.タジコンがもたらした効果

①創業希望者の発掘
 タジコンの回を重ねるごとに、これまでの創業相談に訪れる人達だけでなく、幅広く創業希望者を知るきっかけになっています。事業計画のブラッシュアップを通してビジネスプランがより具体的になるため、創業を後押しする形になっています。
 過去5年のタジコン開催の結果、総勢100名近くのファイナリストがまちなかに存在しています。第3回あたりから、賞金が取れなくても起業に前向きになる人が増えてきたそうです。

                         出所:たじみDMO資料

 
②エリアの活性化
 タジコン受賞者の出店がエリア活性化の起爆剤になっています。受賞者店舗のオープンイベント等でまちが賑わう様子を見て、空き店舗オーナーの考え方も変わってきました。また、タジコン出身者がまちなかで活躍している姿は、まちなかで創業する人や応募を検討する人のモチベーションになっています。

  • 出所:たじみDMO資料
  • ながせ商店街 TEKOLIN内
  • タジコン グランプリ受賞者

③人的ネットワーク形成と連携強化
 創業して終わりではなく、受賞者は翌年の審査員や司会者を務めたり、事業説明会でプレゼンをする等、事業の広告塔として動くほか、中心市街地活性化協議会のメンバーになった方もいます。また、歴代の受賞者が新たな受賞者を育てる縦の繋がり、応募者同士の事業連携といった横の繋がりが生まれており、まちづくりの担い手発掘の面もあります。
 「タジコンの実施から、まちなかに活気が出てきた、人が増えた」と同市の久田課長は振り返りました。ながせ商店街の「ヒラクビル」オープンの波及効果を高めるため、同時多発的な開業を企図して始まったタジコンは、同市の創業支援の核となる事業に成長しています。今後、タジコンのメリットを高めるため、応募者だけが活用できる支援制度を手厚くする計画です。


5.まちなか視察

 セミナー後はまち歩きを行い、店舗等を視察しました。

  • 商店街の出店者を視察
  • 新町ビル 山の花(第1回受賞者の店舗)
  • IRISE antique外観(第2回受賞者の店舗)
  • 三軒長屋をリノベーションした「かまや多治見」
  • 「かまや多治見」のレンタルスペース
  • 複合施設「THE GROUND MINO」

 
 視察先の店舗等でのやりとりから、たじみDMOだけでなく市職員も地域の信頼を得ている様子が伺えました。タジコンファイナリスト選出前の事業計画のブラッシュアップは、主に市職員が担当しているそうです。「どこまで親身になれるかだと思う」と同市の久田課長は述べました。
 まちなかは商業集積エリアとして、地元の人もお勧めするような店舗、スポットが増えてきています。タジコンを起点にまちなかが変わっているのが目に見えて分かりました。地元の人が通い、お勧めされた観光客が回遊する、そういう環境ができつつあります。

 同市では、商業・観光の核である「オリベストリート」と、駅からの動線上にある「ながせ商店街」を活性化させようとしています。その中心になるのが「ヒラクビル」、新たな核とするため観光エリアでの古民家活用等、新しい事業を行いながら集客核をさらに強化していきたい考えです。

出所:多治見市中心市街地活性化基本計画より