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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例

TMOからDMOへ 公民連携のまちづくり(岐阜県多治見市)

 2023年2月16~17日、山形県山形市で開催された『令和4年度第2回東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー』において、一般社団法人多治見市観光協会(通称:たじみDMO)COO小口英二氏の基調講演がありました。

  • たじみDMO COO 小口 英二氏
  • 基調講演の様子

 たじみDMOは、2022年4月、多治見まちづくり株式会社(中心市街地活性化)と多治見市観光協会、株式会社華柳(まちなか観光)の3団体が統合した、中心市街地の活性化と観光・産業の振興を目的に観光地域づくりを行う、新しい形のまちづくり組織です。
 小口氏は、多治見まちづくりの代表取締役として中心市街地活性化事業に取り組んできました。たじみDMOではCOO(最高執行責任者)として、引き続きまちなかの活性化を目的としたカフェや複合施設等の収益事業のほか、観光の情報発信強化を手掛け、組織体制の強化にも取り組んでいます。
 多治見市においてまちづくり団体が統合された背景や目的、事業体制、統合に際しての工夫等、DMOならではの強み等について、講演内容を紹介します。
(セミナーの詳細報告は、最下段のボタンをクリックしてください)

<目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.まちづくり会社×観光協会/たじみDMO誕生のきっかけ 

 多治見市は人口107,142人(2023年3月1日現在)、名古屋から鉄道で約30分ほどの距離にあります。美濃焼の産地として有名です。市内には作家や窯元、商社や関連企業が集積し、器やタイル、ニューセラミックまで幅広い窯業製品が生産される、やきもの産業の一大産地です。近年では、継承してきた文化と技術に誇りを持とうと、「セラミックバレー」としてのブランディングも行っています。
 やきもの以外にも、国宝の虎渓山永保寺や、築100年近い多治見修道院があるほか、古い町並みや個性的な店舗が並ぶエリア(本町オリベストリート)や中心市街地の商店街等も観光資源であり、観光客へのPRに力を注いでいます。

  • 美濃焼
    (たじみDMO HPより)
  • 虎渓山永保寺
    (多治見市観光協会 HPより)
  • 本町オリベストリート
    (たじみDMO HPより)

 多治見市の発意により、前述の3団体が統合されました。統合の目的は以下のとおりです。

・経済部外郭団体の人材や事業、財源を束ねることで効率的に事業を推進、運営効率化を図る
・動きが活発な組織に一本化する
・まちづくり方針を合致させ、観光と中心市街地活性化の連携強化を図る

 形としては観光協会が存続し、現在は職員50名ほどの組織となり、事業規模も3億円近くまで拡大しています。
 行政をはじめとした各機関と連携しながら、中活協議会からの事業提案や観光戦略会議からの評価を受けつつ、組織を経営しています。統合を契機に、各組織の行政OB等は退任し、民間・若手を中心としたプロパー社員で構成される組織になりました。
 事業規模や職員数では多治見まちづくりが一番大きかったため、事務所や機能も含めて統合後の組織の中心となっています。そのため、消費者向けサービスからの収益の割合が大きくなっている点も、観光協会としては特徴的です。


2.統合に際して工夫した点/会費の廃止と営利型への転換

 統合に際して、会費制度を廃止し、それを賄うため収益事業による財源確保を進めています。
 従前の観光協会は会費で運営してきたため、会員を平等に扱う必要がありました。また、郊外・市外のステークホルダーがいるため中心市街地活性化事業に対する異議も懸念されました。そこで、会費を廃止し、会員には応援団としての関与をお願いしました。同時に、会費に頼らない運営への転換として、一律の会費徴収ではなく、事業毎に協賛金をお願いする仕組みを取り入れました。
 以前まちづくり会社のとき、収益事業の計画を立案した際、資本金を事業投資に回すことに反対した一部の株主へ出資金を返金、新たに事業へ賛同してくれる株主を募集し、株主の入れ替えを行ったことがあります。会費制度を廃止するといったドラスティックな決断も、そうした経験があったから出来たことと言えます。

(関連記事)多治見まちづくり株式会社(多治見TMO)

 こうした改革等により、機動力を持ち、意思決定のできる組織となりました。統合前、各組織がそれぞれに動いていたことが、人材や資金を集約したことで、一つの意思決定で同じ方向を目指して取り組める体制となったと、小口氏は述べました。

小口氏講演資料より

 さらに統合以降は、情報発信や活用できる制度の紹介など、ステークホルダーの事業環境の改善等に貢献する事業も意識して行っています。こうした事業を組み合わせて収支のバランスを取り、持続的なまちづくり活動につなげています。


3.たじみDMOの事業、取組目標など 

 多治見の魅力は「まち」と「産業」です。やきもの産業を含めたまちなか資源が観光対象になることも踏まえ、まちづくり会社が観光事業を行うのは非常に合理的です。「まちと産業」、「中心市街地を観光対象に、観光の発信拠点がまちなかに」という活動定義を、たじみDMOが始動する際に広く周知しました。

 「まち」についてはリノベーション、テナントミックス事業、複合施設ヒラクビルの運営等を行いながらまちの魅力を作るとともに、駐車場運営やサブリース事業により財源を確保しています。
 「産業」については情報発信に注力しています。たじみDMOとしての新たな取組みは、キャッシュレスや多言語対応等の一般的なインバウンド対応のほか、海外旅行代理店向けのプロモーションを開始しています。また、地域の宿泊数や消費額の把握など、登録DMOとして必要な活動も行っています。
 DMOとしての取組目標は、「空き不動産を魅力的な場に!」「まちなか観光核の強化」「それぞれに必要な情報をお届け」の3つです。

出典:小口氏基調講演資料より

 DMOでは、3団体の事業を引き続き行うとともに、新たな事業も始めています。出店サポート、地域の人と場所の魅力を体験するイベント「多治見るこみち」、器と食を組み合わせたイベント「パンと器と」、「四季と器と」等。駅舎を使ったマーケットイベントや、多治見PRセンター運営(土産物店舗)、歴史的資源保存事業、情報発信事業、不動産事業、直営飲食店事業まで、さまざまな事業を行っています。
 多治見まちづくりの特徴的な事業として、「カフェ温土」、「ヒラクビル」のエピソードをご紹介します。

<うつわとごはん カフェ温土(おんど)>

 カフェ温土は、多治見駅から徒歩5分の商店街にある空き店舗を活用して2010年7月にオープンしました。店内には陶器やアクセサリーなどのギャラリースペースもあり、先述の株主入れ替えの契機になった事業です。多治見まちづくりを代表する逸話でもあり、補助金執行の受け皿から事業会社へ舵を切ったきっかけでもあります。
 しかし、2023年2月末、今の住所での営業を終了することになりました。
 商店街への出店希望者がいても物件がない状況があり、そうした方にバトンタッチする、前向きな閉店ということです。

 オープン当時、商店街の中には気軽に集まれるような場所がなかったことから、地元の人がふらっと寄れる、情報発信や交流の拠点になる場所を目指しました。その頃は商店街に出店したい事業者はおらず、投資が起こらないまちへ最初の一石を投じ、波紋が広がることを期待して開始した事業でした。
 カフェに行列ができ、賑わいが生まれた商店街に出店希望者が増え、近隣の店舗が当店に定休日を合わせるようになったり、ショーウィンドウの中の服が若返ったりしました。カフェ温土をきっかけにまちが変わった、当初想定した役割を果たせたと思う、と小口氏は振り返りました。

  • カフェ温土:Instagramより
  • 出典:小口氏講演資料より

<ヒラクビル> 

 元眼鏡店だったビルをリノベーションし、書店・カフェ・シェアオフィス・レンタルルームを併設した複合施設としてオープンしました。「ヒラクビル」の名前は、「何かに気づいて心を開いていく」「未来を開く」のように、この場所から、多治見の未来や訪れる人の可能性が「ひらいて」いくことを願って付けました。
 ビルの中に残っていた備品や美濃焼のタイルといった地元資材を活用してリノベーションしています。例えば、店舗に残っていた眼鏡のレンズを使って新たにシャンデリアを作ったり、眼鏡を陳列していたテーブルや検眼に使う椅子をカフェで再利用しています。昭和の雰囲気が残っており、写真を撮る方も多く見られるそうです。
 当事業は市独自の中心市街地活性化計画の主要事業として位置づけられました。年度をまたいで事業を実施したため行政の補助金は使わず、中部電力やJA、金融機関などの企業等がスポンサーとしてハード整備や運営面を支援しています。また、店内のリノベーションをする際には、地元の方や子供たちがボランティアで手伝ってくれたこともあり、地域の方との関係も深まったということです。

ヒラクビル webサイトより

 ハード整備と並行して、キーテナントである書店を成功させるため、まちづくり会社と書店オーナーで全国の特徴的な書店を視察するとともに情報発信を工夫しました。書店のPRだけでなく、情報誌A2(あっつう)を創刊、多治見に本好きを増やすための本に関連する取組み、イベントを繰り返し実施しました。
 同時に、ヒラクビルができることで増加する来街者を如何に自店舗に誘引するか、商店街のビジョンづくり等を兼ねた勉強会を実施し、ビルのオープンに合わせて各店が集客戦略を立てました。
 このようにハードの整備にとどまらず、ビル単体の成功だけではない地域への波及効果等を考えて、各種取組を連携して進めてきたのも、この事業の特徴的な点です。
 

  • (小口氏講演資料より)

※複合施設「ヒラクビル」についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

多治見の未来を開く複合施設ビルのリノベーション(岐阜県多治見市)

楽しくやる、楽しく見えるように情報発信する

 同社のような事業を展開したい場合、取り掛かる際に何を意識したら良いかという質問に対して、小口氏は「数字をはじくこと・計画がうまくいかなかったときの代替策を考えておくことは勿論のこと、楽しんでやること、企画を楽しそうに見せること」と答えていただきました。
 例えば物件の掃除をするとき、バケツをカーリングに見立てた記念写真を撮影してSNSに掲載しました。「楽しさ」を意識することで、現場に携わる人も楽しみ、参加したい人が増え、オープンした後も関係は続いているということです。

  • (小口氏講演資料より)
  • (小口氏講演資料より)

4.ビジネスコンテストから創業者を支援(タジコン)

 出店促進施策のひとつに、「たじみビジネスプランコンテスト(通称:タジコン)」があります。市が主催し、『まちなかグランプリ』では300万円、『創業グランプリ』では200万円の賞金が付きます。先述のヒラクビルのオープンを見据え、同時多発的な開業を狙う目的からビジネスコンテストを企画・開始し、今年で5年目となる事業です。

  • (小口氏講演資料より)
  • (小口氏講演資料より)

<空き店舗家賃補助制度の見直し> 

 タジコンの財源は従来の空き店舗家賃補助制度の見直しによるものです。家賃補助制度を見直すようまちづくり会社から行政に提案していたこともあり、“誰でも使える”から、“選ばれた人”の出店支援制度に転換したことで、まちに想いのある、意欲ある出店希望者を発掘することができています。

<タジコンサポート隊が創業までサポート> 

 市役所、たじみDMO、商工会議所や地元金融機関、インキュベーション施設のマネージャーなどで構成する「タジコンサポート隊」が、応募者の事業計画ブラッシュアップから創業までの支援を行っています。グランプリを受賞しなくても創業する方もあり、そうした人達をサポートする体制が整っています。

<グランプリ受賞者の活躍、応募者同士の事業連携> 

 賞を取って創業して終わりではなく、受賞者は翌年の審査員や司会者を務めたり、事業説明会でプレゼンをする等、事業の広告塔として動いています。また、歴代の受賞者が新たな受賞者を育てる縦の繋がり、応募者同士の事業連携といった横の繋がりが生まれており、まちづくりの担い手発掘の面もあります。
 タジコンが続いている重要な要素として、受賞者が地域の中で活躍していることと、創業まで伴走支援を行う体制が整っていることが大きいと、小口氏は述べました。


5.借りたい人と貸したい人の思いをつないで(さかさま不動産 多治見支局)

 空き物件を活用した事業を行う中、中心市街地が賑わい、出店希望者が増えてきました。
 空き店舗対策として、まちづくり会社が地域の空き店舗情報を集約してwebに掲載するような取組みを行っている地域もありますが、地元の不動産業者との関係に影響することがあります。また、貸してもいいが誰でも良いわけではない、情報を掲載されることを厭う所有者も一定数います。
 当市でも、自治体で空き店舗調査を行ったり、まちづくり会社でアンケートを実施する等、積極的に物件情報を収集してきましたが、空き物件はあっても提供できる物件が不足している状況でした。
 そこで、空き店舗と創業者のマッチングを加速させるため、「さかさま不動産多治見支局」の活動を始めています。「さかさま不動産」とは、通常の不動産会社とは逆に、借り手がどのような店舗を開きたいのか想いを可視化・情報発信して貸主を募集する不動産webサイトです。

さかさま不動産 多治見支局HPより

(外部リンク)さかさま不動産 多治見支局 別ウィンドウで開きます


6.今後の展望

 まちなか観光の強化のため、中小企業庁の地域商業機能複合化推進事業を活用し、観光エリアの古民家を複合施設にするための改装事業を行っています(2023年2月時点)。当施設では、飲食、やきものや雑貨の販売のほか、茶室を備え、文化的な発信をしていくスペースが計画されており、多治見の観光エリアの目玉のひとつとして立ち上げようとしています。
 組織が統合したことにより、こうした施設の情報発信がより効果的にできるようになったということです。また、情報紙A2のサイトを作成・オンライン化し、SNSとも連携、紙とオンラインの両方で発信しています。サイトを作ってから、市庁舎内のプレス室に投げ込みされた情報は同社に届く形になっています。情報が集約されることで、効果的な情報発信が可能となり、事業連携の情報源にもなっています。

(小口氏講演資料より)

 たじみDMOには、観光客・来街者を増加させることや情報発信の頻度・質の向上等さまざまな役割がありますが、新しい事業を起こすことへの期待を非常に感じる、と小口氏は述べました。
 まちづくり会社として、これまでも事業アイデアを具現化してきましたが、観光協会が担う役割や、期待されていること、今後このような姿にしたいというビジョン達成のための取組みを通して、同社に相談に来てくれる方へハッピーな話題をつくっていきたい、とまとめました。

(小口氏講演資料より)

※『令和4年度第2回東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー』レポートはこちらから