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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

多治見まちづくり株式会社(多治見TMO)

事業推進のポイント
  • 資本金を使い、空き店舗をまちづくり会社直営の工房カフェに再生
  • 希望者には出資金を全額返還、あわせて新たな出資者を募集
  • 一連の取組みをきっかけに新イベント開催や空き店舗に新店舗が開店中

1.まちづくり会社の取組

(1)新たな取組までの経緯

多治見まちづくり株式会社(以下「多治見TMO」)は、商業者が中心に出資を募り、それに行政が呼応する形で2001年12月に設立されました。
事業基盤としては、駐車場の運営管理を行い、そこから生まれる収益を活用することにより各種事業を展開する予定でした。
しかし、事情により、この基盤となる駐車場管理事業の実施が不可能となり、大きな試練を迎えることになりました。
その結果、当初考えられていたまちの活性化に役立つ事業はあまり行うことができなくなり、設立に関係していた商業者の方々の意気込みも、いつしか低下していきました。

このような状況がおよそ7年間続きます。


2009年になり、このような状況を打破しようと、行政、多治見TMO等の関係者が鋭意協議し、この年6月の定時株主総会で大きな方向転換が承認されました。  総会では、代表取締役が交代し、商店街活性化につながる新たな事業を推進していくため、行政から「中心市街地活性化に係る調査事業」を多治見TMOが受託することになりました。

これに伴い、新事業を担当する人材を募集することになり、8月に現ゼネラルマネージャー・事業課長の小口英二氏が入社しました。

小口氏は、入社する数カ月前まで、石川県金沢市の「(株)金沢商業活性化センター」でまちづくり会社での業務経験がある方です。  小口氏は、まず各方面の関係者に挨拶回りをしましたが、印象的だったのは、「頑張れ。」という声と同じくらいの「どうせ無駄だ、無理だ。」、「金がかかるから何もするな。」、「出資金を返してくれ。」という切実な声の多さでした。

(2)新たな取組

(ア)クラフトショップながせの開設

クラフトショップながせ3号館

新しい戦力の入った多治見TMOは、早速、多治見駅近くの中心商店街である「ながせ商店街」にクラフトショップを開設する事業(行政からの補助事業)に取組みました。
 この事業は、空き店舗を、ものづくりのまちである多治見市の産業育成・活性化に活用しようというものです。

 小口氏は、入社翌日から作業着を着、市の職員とともに空き店舗の壁のペンキ塗りやパーテーションの造成、そして出店作家の募集と施設のPRに打ち込みました。その甲斐あり、入社した同じ月の8月に1号館をオープンすることができました。

 このクラフトショップは3号館までつくられましたが、各々の開設時期と機能は次のとおりです。

1号館(2009年8月:2011年3月に民間へ引継ぎ)

クラフト作家に、チャレンジショップとして1週間程度を単位に貸し出す。

2号館(2010年3月:2013年5月に民間へ引継ぎ)

陶磁器作家に、展示販売ができる場として1カ月単位で貸し出す。

3号館(2011年7月)

コミュニティスペースとして、多目的に活用。多治見TMOは、ここに入居。

まちカフェTAJIMI企画書

ところで、当時小口氏は、多治見TMOに入社したものの、人件費として計上されていたのは、前記「中心市街地活性化に係る調査事業」の受託期間の1年半分だけでした。そのため、1号館の内装作業をしている時でも、常に次の新しい事業に思いを巡らすとともに、商店街の方々に多治見TMOのこと、今取組んでいること、多治見TMOの必要性を知ってもらえるよう積極的に集まる機会をつくりました。

その際、一番困ったことは、商店街の方々とまちづくりについて協議しようにも、夜お店を閉めた後に集まれる場所がとても少ないことでした。

そこで、次年度(2010年度)の事業として、商店街に人が集まれる場所、カフェをつくろうと思い立ち、シンプルではありますが一気に企画書を作りました。

商店街にカフェをつくるには、自分達で運営する方法と外部から入ってもらう方法があります。しかし、空き店舗が目立つ商店街に、テナントとして入ってくれるところはありません。そこで、自分達、多治見TMOでやってみようと思ったのでした。

ちょうどその頃、県庁へ行く用事があり、担当課と打合せをしている際、活用できそうなメニューを紹介してもらうことができました。

(イ)カフェの開設そして資本金の返還と新たな出資

小口氏は早速、支援制度の活用により、まず、ともにまちづくりに関わる従業員を確保しようと、県との相談を開始しました。これについては2009年12月初めにはメドを立てることができました。しかし、店舗そのものの改装費は手当てすることができず、大きな問題として立ちふさがりました。

そこで関係者と相談を重ね、ひとつの結論を出しました。
それは、多治見TMOの資本金を使う、ということでした。
しかし、少し前の入社時の挨拶回りの際、商店街関係者から厳しい声が出ていたとおり、これは順調にいくはずのないことでした。まちづくり会社は、その目的を達成するために収益事業の確立を求められますが、一方で会社の性格から新規事業の取組には慎重にならざるを得ない面があります。

2009年12月に多治見TMOの取締役会が開かれました。この席上、小口氏はカフェの必要性や予想される効果を熱意を込め説明しました。その結果、「資本金を部分的に投資に回す」方向が了承され、実現に向け一歩前に進むことができました。

しかし、全株主が出資金を事業に使うことに賛成しているわけではありませんでした。
そのため、多治見TMOは2009年12月21日に、出資者全員に「出資金の取扱いについて」という文書を送付しました。主内容は次のとおりです。

  • 出資金は全額定期預金に預けている。
  • 今年度から多治見TMOは、クラフトショップなど新たな事業に取組んでいる。
  • これをさらに進めるには、会社自立のための収益事業の創出が急務。
  • そのため、出資金を効率的に運用し、収益事業の展開、さらには中心市街地活性化事業への投資に使いたい。
  • これに賛同いただけない方は、連絡をいただきたい。

これに対し、約200万円(40口)の返還を求める連絡が入りました。

多治見TMOは、返還を求める方には全額返還することにしました。これにあたり、関係者との協議や税理士からの助言を受け、慎重にことにあたることにしました。  2010年2月1日に「出資金の返還について」という文書を、返還希望者に送付しました。

一方で、資本金が減少してしまうため、2010年5月31日に「多治見まちづくり株式会社へのご出資のお願い」という文書を、出資していただけそうな方々に送付しました。

この資本金の補充は、理解ある方々や、地元金融機関出身の多治見TMO社長の人脈等から何とか満たすことができました。

このことは、出資者全員に多治見TMOの新たな取組、さらにその方向性の理解をいただけたということになり、今後の活動に大きな追い風となりました。
ようやく開業に至ったカフェは、夏に暑い陶磁器のまち多治見らしく「温土(おんど)」と名付けられ、2010年7月にオープンしました。

「カフェ温土」は、これまで商店街になかったおしゃれな雰囲気で、地元産の食材を中心に丁寧な手作りメニューや併設されている陶芸工房が人気を集め、売上高や来客数は安定的に増加傾向を示しています。

2.取組の効果

クラフトショップとカフェは空き店舗を活用しているため、まず、空き店舗が埋ったわけですが、これ以外の効果として、主にカフェ温土を中心に次のことがあげられます。

(1)雇用が増大した

「カフェ温土」では3名雇用しています。ふるさと雇用再生特別基金事業(県)を活用しています。

(2) カフェが集客施設となり、商店街への来街者が増加した

(3) 商店街の中に人が集まれる場ができた

特に夜間は、公的施設は閉館してしまうので、人が集まり、まちの事を話し合える場所として活用されています。また、このような語らいが発端となり、新しい活動が芽生えています。

(4)商店街にセンスの良いお店ができたため、これが刺激となり、周辺への新規出店希望者が出始めた。

(5)近隣のブティック等がカフェに来店する客層に合ったショーウィンドー・ディスプレイに変え始めた。

商展街パンフレット

ところで、クラフトショップやカフェがオープンするなか、ながせ商店街の若手に動きが出てきました。これまでは、やりたいと思ってもなかなか具体的に動けなかったのですが、若手グループに小口氏が入っていたこともあり、商店街で多治見らしい新しいイベントを開催することになりました。

このイベントは「商展街(しょうてんがい)」といい、陶磁器店以外の店舗を含む参加店に多治見にゆかりのある若手陶磁器作家の作品を展示・販売するというものです。

毎年秋に開催され、2013年で3回目になりますが、イベント当日は、いつもより多くの方が来街し、また、店ごとに陳列している作家が違うことから回遊性も良く、大きな賑わいになります。

小口氏

これら一連の取組について、多治見まちづくり株式会社 ゼネラルマネージャー・事業課長 小口英二氏は、次のとおり語られました。

「入社早々の頃は、自分の動いている姿をともかく商店街の方々に見ていただき、まず、認知していただこうと懸命でした。そこからが、外から来た私のスタートラインだと思っていました。年末年始に出資金返還を求める声が携帯電話にかかってきたこともあります。しかし、このようなことを経てオープンしたカフェ温土は、地域の方から応援していただき、たくさんの方々に利用されています。イベントも活発になり、最近は商店街の空き店舗に新たな若い経営者の店がオープンしています。多治見TMOでは、このような空き店舗への開店を支援しています。私たちは、このような取組をこれからも推進していきます。」

3.取材を終えて

多治見TMOでは、資本金を投資に回すため、資本金の入れ替えを行いました。これにより「カフェ」という新しい事業を実現することができました。

まちづくり会社の、会社としての安定と求められる積極的な事業展開、一方でその基盤となる収益の確保。

今回、この取組への取材を通じて改めてそのことを考えさせられました。

取材年月:平成25年12月

  

会社概要

会社名:
多治見まちづくり株式会社
所在地:
岐阜県多治見市
設立:
2001年12月
資本金:
1,500万円
(多治見市750万円、多治見商工会議所100万円、商店
街組合100万円、東濃信用金庫75万円、 企業70万円、商
業者等405万円)
従業員:
9名

多治見

まちの概要

多治見市は、岐阜県の南部、愛知県に接している人口約115,000人の都市です。
美濃焼の産地として知られ、市内には窯元や陶磁器に関する美術館、資料館、ギャラリーが点在しています。
名古屋駅までJR(快速)で40分のため、名古屋市のベッドタウンとしての性格ももっています。
また、2007年8月に当時の国内最高気温(40.9度)を記録したまちでもあります。