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中心市街地での創業促進策を学ぶ(新潟県上越市(高田地区)第1回:岐阜市柳ケ瀬地区でのセミナー開催~創業環境のつくり方~

 新潟県上越市は、市の成り立ちから高田と直江津の両地区に中心市街地活性化協議会が設立されています。
 8月7日、同協議会(高田地区)は、中心市街地での創業促進策を学ぶことを目的に、講師の招聘ではなく講師の所在地を会場とするスタイルでセミナーを開催しました。先進的な取組を続ける岐阜市及び多治見市の2市を訪問し、それぞれの会場で講師のお話に耳を傾けました。
 セミナー概要を2回に分けてご紹介します。第1回目のレポートは、岐阜市柳ケ瀬地区での、講師の大前貴裕氏(柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社取締役)のお話です。

第1回:岐阜市柳ケ瀬地区でのセミナー開催~創業環境づくり~
第2回:岐阜県多治見市でのセミナー開催~ビジネスプランコンテスト~

※本セミナーは中小機構の診断・サポート事業(セミナー型支援)を活用しています。

<第1回 目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。

  • 柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社での様子
  • セミナー会場(美殿町)

 
<上越市高田地区のまちづくり課題>
 上越市高田地区は、江戸時代に築かれた高田城の城下町です。日本一長い雁木(がんぎ)通り(※)や町家、寺町寺院群などの歴史的建造物が数多く残り、中心市街地にある高田本町商店街は商業・サービス業を中心に180店舗以上が集積しています。しかし、空き店舗の増加や顧客の高齢化等の問題があり、出店者と若年層顧客の取り込みが課題となっています。
 協議会は、これらの課題解決のヒントを得るため、中小機構の支援制度を活用し、高田地区の商業者、まちづくり会社、市役所担当者等が現地を訪問し、セミナーを開催しました。
 
※雁木通り:主に積雪期の通路を確保するために、家屋の一部や庇(ひさし)などを長く張り出して、その下を通路にしたもの。片側アーケードに似ています。雁木もその下の通路も個人所有ですが、誰でも自由に歩行できます。私有地を公共のために提供し続けている、雪国の助け合い精神の象徴といえます。


1.柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社の取り組み

 柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社は、2016年12月に設立、岐阜市から都市再生推進法人の指定を受けた民間資本100%のまちづくり会社です。主な事業は「サンデービルヂングマーケット(後述)」の開催と商業ビル「ロイヤル40(ヨンマル)」をはじめとする不動産のサブリース事業の運営等です。サンデービルヂングマーケットへの出店を機に、柳ヶ瀬のまちを創業の地として選ばれるようにすべく、日常的な集客、リアル店舗の出店促進を事業目的としています。まちづくりに関心を持つ若い世代が事務局メンバーです。

 講師の大前貴裕氏(同社取締役)は、設計事務所勤務を経て独立。一級建築士として岐阜市の商店街活性化プロデューサー就任。これをきっかけに、職域を拡張すべくリノベーションまちづくりを開始。2012年に株式会社ミユキデザインを設立、ビルのリノベーション企画・運営等を手掛けながら、サンデービルヂングマーケットの立ち上げに参画、柳ヶ瀬に魅力あるコンテンツを増やす活動をしながら、活性化に取り組んでいます。
 サンデービルヂングマーケットは、「ここにしかない、ひと・もの・空間」をテーマとしたライフスタイルマーケットです。柳ヶ瀬商店街のアーケード空間に、毎回100を超える出店があります。20~40代の女性客層をメインターゲットに、アクセサリーや革製小物、食器類、洋菓子、雑貨などを販売しています。2014年からはじまり、毎月の「第3日曜サンビル」のほか、偶数月に「第1日曜サンビル」等を開催しています。

  • 柳ヶ瀬商店街
  • サンデービルヂングマーケットの様子
    (アーケード通り)
  • サンデービルヂングマーケットの様子
    (大型施設跡地前)

 セミナー前日はサンデービルヂングマーケットの開催日でした。同社のスタッフは事務局として活躍しています。近年柳ヶ瀬では、彼女たちのように商店街に興味を持って往来する若い世代が増えているそうです。
 前日から岐阜市入りした協議会のメンバーは、サンデービルヂングマーケットを視察し、若い世代が自分たちの言葉で自分たちのまちを発信する姿を見て、感銘を受けたといいます。
 今回のセミナーでは、協議会メンバーから「若手のプレイヤーが登場しない中、どのように次世代に繋げるかヒントが欲しい」という要望がありました。講師の大前氏は、どの地域も人材についての課題があり模索する状況は同じであることと、若い世代の人たちとどのように一緒に活動するか、人が往来する環境をどのようにつくるかを意識した話をしたい、と話し始めました。

  • セミナーの様子
  • 講師の大前貴裕氏
  • 柳ヶ瀬を楽しいまちにする㈱
    事務局のみなさん

2.「リノベーションまちづくり」からはじまる

 かつて柳ヶ瀬商店街は、専門店が揃い大型店も相次いで出店する、消費・娯楽の中心地でした。ピーク時の地価は300万円/坪を超える地点もありましたが、大型店が全て撤退するとともに求心力は低下し、地価も下落しました。
 大前氏が商店街活性化プロデューサーに就任した頃、大型店は閉鎖されたままで、来街者の減少や空き店舗の増加、活用策の見えない空地も点在していました。
エリア衰退への対策や課題が整理されておらず、試行錯誤を繰り返したそうです。イベントで集客しても商店街の売上には繋がらず、商店街振興組合活動の縮小もあり、商店主のボランティアに頼るまちづくり活動も限界を迎えていました。

シェアオフィス「まちでつくるビル」

 そのような時、柳ヶ瀬商店街に隣接する美殿町商店街の理事長と出会い、美殿町商店街の空きビル再生事業に取り組むこととなりました。美殿町は家具、器、布団、和菓子など婚礼関連の商品を扱う老舗店舗や職人が集まる商店街です。地縁のある人が多く、店舗兼住宅が多いのが特徴です。また、石畳風の歩道整備、ガス灯の復元や丸型ポストの保存、独自のイベントや祭りを行うなど、積極的にまちづくりを進めていました。

  • 美殿町商店街の通り
  • 今でも現役の丸型ポスト
  • 復元設置されたガス灯

 空きビルの再生に取り組むにあたり、ビルの再生コンセプトとエリアのリブランディングを商店街関係者と共に検討しました。コンセプトを『つくるがある町』と定め、ビルの再生に着手。賃料を抑えるため、改装は職人でないとできない部分を除き、自分たちでできることはDIYワークショップとして実施し、工事コストを圧縮しました。
 多様な世代の人が一緒に活動する状況を作り、入居者、ビルオーナー、商店街関係者等も参加して改装し、シェアオフィス「まちでつくるビル」を完成させました。共同作業を通してコミュニティが出来上がり、入居者同士の距離が縮まっただけでなく、入居者同士のネットワークから新しい出会いも生まれ、美殿町エリアに人が集まるようになりました。

  • まちでつくるビル
  • 共同作業からコミュニティに
  • 商店街の道路空間を活用して「市」を開催

                   (出所:柳ヶ瀬を楽しいまちにする㈱ セミナー資料)
 

 その後もさまざまな取組を行い、商店街に若者が往来する姿が日常になりましたが、周辺の空き物件への出店に繋がりませんでした。そこで、ビルの再生コンセプト『つくるがある町』に共感する人達に集まってもらうため、商店街の道路空間を活用して「美殿町つくる市」を企画しました。同じ通りの空き物件を使いたい人の発掘を企図したものです。商店街のテナントが撤退するのと入れ替わりに1ブロック先で営業していた古本屋が転居してくるなど一定の成果はありましたが、若手の起業には繋がりませんでした。
 空き物件を使いたい人=新規創業者を増やし、起業したい場所にするには、エリアの集客基盤が必要です。そのためにも、これまでの取組を戦略的に進め持続させる運営体制が必要でした。そこで、新たな「まちの役割」を設定することにしました。


3.新たなまちの役割

 かつて商店街(まち)へ買い物に出かけることは娯楽でしたが、商業機能は郊外へ移っていき、まちの役割が失われつつあります。大前氏たちは新たなまちの役割を「新たな起業が生まれるまち」と定義しました。魅力的なコンテンツがあるから人が集まると仮定し、人が起業したいまちにするため、柳ヶ瀬に魅力的なコンテンツを集める仕組みをつくることを事業目標とし、各種の取組を進めました。
 まず多様な世代が楽しめる「本」をテーマに、柳ヶ瀬に魅力を感じるメンバーが集まって「ハロー!やながせ 本とまち」という年1回のイベントを企画し、若い世代のファン作りを始めました。
 
 また、まちのビジョンを明確化しました。「いつ来ても楽しい!お買い物はタカラモノ探し ぎふ・柳ヶ瀬」を前面に出して、商店街の3つの魅力を打ち出しました。

・ここでしか出会えないヒト →特化した技術を持った商店主、生活を楽しみたいお客
・ここにしかないモノがある →他では手に入れられないモノ、そのモノにある背景
・ここにしかない空間がある →特別な時間が過ごせる、人やモノとの出会い、こだわって作られたオリジナリティのある場体験

 これらが集積することによってまちの独自性が高まり、魅力的なまちを形成する、という考え方です。
「来街者が魅力に触れる→口コミ・シェアすることで来街者が増える→出店者が増えて新しいお店ができる→さらに来街者が増える」の一連のサイクルを作ることを目指しました。
 まちに変化を起こすため、年1回のイベントから始まり月1回の定期市に進化させ、その先に遊休不動産の再生を見込みました。中小機構から派遣された専門家のアドバイスを得て、約2年かけて立ち上げたのが、サンデービルヂングマーケットです。


4.サンデービルヂングマーケットで重視・意識していること

 柳ヶ瀬の名物となったサンデービルヂングマーケットですが、最初は、既に顧客が付いている人を中心に出店してもらいました。また、開催エリアを少しずつ拡張し、出店者数は160を超えるまでになりました。ここで重視・意識したことは次の通りです。

サンデービルヂングマーケット チラシ

①ブランドイメージの維持
 会場の構成等のビジュアル、販促物などはデザインを統一し、ブランドイメージ維持を徹底しています。なお、紙媒体はコンセプトやイメージが伝わりやすい利点があるため、どの取組でも開始後1年は紙媒体での販促物発行を重視しているということです。

②出店者を選定しエリアイメージ、品質を維持
 出店希望者は毎月選考により決定しています。選考方法はSNS等を見てセンスがある人、ここでしか買えないもの(商品、サービス)を持っていることが基準です。質の高い出店者が集まり、回数を重ねるごとにディスプレイも洗練されていき、マーケット空間の魅力も増し、それらがエリアイメージの向上に繋がっています。

③経済活動であることを意識
 サンデービルヂングマーケットでは一回あたり全体で400~500万円の売上があります。モノが売れるマーケットとして、出店者が収益を得られることが重要だと考えています。賑わい創出だけでなく、経済活動であることを意識しています。また、顧客との対話や出店者同士の多様な交流も生まれており、新たな企画や連携に繋がっています。

商業ビル「ロイヤル40(ヨンマル)」

 サンデービルヂングマーケットによるアーケード空間の活用と同時に、ロイヤルビル(全国的にも珍しいフィルム上映をする映画館が残る商業ビル)の空き店舗区画を賃貸し、実験的に店舗の「場づくり」を見せる取組をしました。魅力的な場づくりが得意でおしゃれに使ってくれる人に、マーケットに合わせて出店してもらいました。

  • 統一されたデザインイメージ
  • 実際の活用事例
  • SUNDAYからWEEKEND へ

                   (出所:柳ヶ瀬を楽しいまちにする㈱ セミナー資料)
  

 センスのある人の場づくりを見てもらうことで、ビル活用を諦めていたオーナーに使い方を示すことができました。出店者にも使いたくなるような場を見せることを意識し、毎月定期開催しながら出店者数を増やしていきました。
 1年後には、週末のみ営業するトライアル出店スペース「WEEKEND BUILDING STORES」を開始。定常的な出店者が増え、マーケットと連動して金土日の運営ができるようになりました。そして、2017年にロイヤルビルは改装され、新たな商業ビル「ロイヤル40」としてオープン、同社主導で衣料品や家具店などが出店し、計13店舗の商業施設として再出発しています。


5.まちに関わる人を増やすコンテンツづくり

 これらの取組の結果、柳ヶ瀬周辺エリアでは2013年から2016年にかけて合計56名の新規創業者が生まれ、柳ヶ瀬に変化の兆しが出てきました。小売業に限らずデザインやサービス業等も含め、まちで新しいことを始める人が少しずつ増えました。あわせて、新しいコンテンツが次々とつくられていきました。 
 
①再生コンセプトの発信
 地域の新規創業者に女性が多いことから、柳ヶ瀬再生のコンセプトは「自分のしごとを始めたい女性が集まる」とし、起業したい女性、素敵に働きたい女性、豊かな日常を探したい女性たちが、自然に集まってくるまちを目指すことを発信しています。

                   (出所:柳ヶ瀬を楽しいまちにする㈱ セミナー資料)
 

②行政との協動
 サンデービルヂングマーケットを起点に行政との協働も始まりました。柳ヶ瀬で起業した人のストーリー等を掲載する冊子の作成や、リノベーションスクール事業の共同実施など、まちに関わる人材発掘に繋がったことも事業効果として捉えています。なお、サンデービルヂングマーケットは中活基本計画に掲載されています。

③まちの資源の活用
 廃墟となった商業施設跡地を使う「ヤナガセワインホール」や、サンデービルヂングマーケットに加えたアーケード内の活用として、特設カウンターを設置し行う「ヤナガセコーヒーカウンター」のようなイベントの開催、道路空間活用の「ヤナガセパークライン」の実施など、商店街にある既存施設を使うさまざまな取組を実施しています。

  • ヤナガセワインホール
  • 柳ヶ瀬コーヒーカウンター
  • ヤナガセパークライン

                   (出所:柳ヶ瀬を楽しいまちにする㈱ セミナー資料) 
 

④誰でも企画し参加できるリノベーション事業
 近年では「柳ヶ瀬日常ニナーレ」という体験プログラムイベントを実施しています。オンパク手法が元となるこのリノベーションまちづくり事業は、企画者である「パートナー」と呼ばれるプレイヤーとしての関わりしろと、体験プログラムと呼ばれるイベントに参加する「参加者」としての関わりしろがあります。かつてのリノベーション事業は創業にフォーカスしたため、事業をしない人は入りにくい面がありましたが、柳ヶ瀬を知って欲しい、まちに飛び込んで欲しいという想いから、色々な人に間口を広げる取組として継続しています。

柳ヶ瀬日常ニナーレ チラシ

まちに関わる人を増やすコンテンツが続々と 

 サンデービルヂングマーケットは、出店者に毎度、新規出店者を必ず含めるなどして、毎回変化のある状態を継続することで、ユニークな企画で若い人を惹きつけています。また、マーケットの出店者として、ボランティアとして、まちに関わる人を増やす役割も果たしています。さらに、サンビルの賑わいに合わせて、商店街に新規出店する事業者も出てきています。
 新規事業の企画会議は同社の経営層だけでなく事務局も交えて皆でアイデアを出し合っています。前述の「柳ヶ瀬日常ニナーレ」も入社して間もないスタッフの意見が反映されています。

 特徴的なのは、サンデービルヂングマーケットのみでなく、まちに関わる人を増やすコンテンツが続々と企画されていることです。色々な取組にゆるく出入りできるのが、若い人を惹きつける点であるのかもしれません。
 各取組は一貫して「新しい人」が入ることを意識しています。柳ヶ瀬商店街に若い人が往来するのも、それを意識した環境づくり・場づくりを重ねてきたからこその成果といえます。
 今後は、都市再生推進法人として大型商業施設跡地の活用を検討するなど、事業を通じて行政課題の解決にも着手し始めています。
 

<セミナー終了、参加者の所感>
 参加者の一人は、印刷物やグッズ、空間のデザイン性の高さに感銘を受けていました。大前氏からは、「コンセプトを伝えやすく、商店街の空間づくりにも効果があるのでデザイン性は重視している。美味しいとか面白いとか、そこで提供される体験、事業の中身が重要。それらを引き立てるのがデザインだと考えている」というコメントがありました。
 上越市職員からは「事務局のメンバーがまちの魅力を笑顔で楽しそうに語る姿に感銘を受けた。地域活性化に熱い想いを持ち、楽しみながら活動する若者がいるまちは魅力的で、今後も環境変化に対応しながら、輝き続けていくのだろうと感じた。」との所感がありました。
 次回は午後の多治見市におけるセミナーの様子をレポートします。