
エリアリノベーションによる面的活性化(富山県高岡市)
空き店舗や空き家の再生(リノベーション)が、まちの活力を創出するきっかけになっています。エリアのなかで小さな再生が「点」状に連鎖して生まれ、やがて「面」的に広がる‘エリアリノベーション’と呼ばれるものです。
「リノベーションまちづくり」を掲げる富山県高岡市では、中心市街地内でのリノベーションが連鎖的に起き、エリアでの面的活性化につながる動きが見られます。本稿では、小さなリノベーションがどのように連鎖し、現在まで続いているか、現場の声とともにひも解いていきます。
目次
1.エリアリノベーションとは
(1)民間主導の萌芽と広がり
空き家や空き店舗など民間の不動産を民間主導で再生し、それが一定のエリア内で連鎖的に起こるという動きは、2000年代初頭から都市の空きビルや空き家を活用する民間主導のプロジェクトとして各地で見られるようになりました。この動きは2010年代半ばから全国へと拡大し、官民連携型の事例も増加しました。リノベーションスクールや家守会社の設立など、先進事例をモデルとした仕組みが各地で展開され、まちづくりの新しい潮流を形成しました。
例えば、福井県福井市、京都府福知山市等、当サイトでも民間主導のリノベーションを取材してきました。
こうした動きを受け、国土交通省は「リノベーションまちづくり」を、民間主導で既存資源を活かし、都市課題を同時解決する手法と位置づけました。
2012年には「地方都市リノベーション事業」を創設し、市街地の既存ストックの活用推進を目指しました。また2015年に刊行された「リノベーション・エリアマネジメントによるまち育て」では、建物の再生だけでなくエリアの価値向上につながる手法として、民間遊休不動産の民間主導によるリノベーションと地方公共団体によるコンセプト策定や活動支援とその連鎖的展開について言及しています。


「リノベーション・エリアマネジメントによるまち育て」(国土交通省)より一部抜粋
(2)エリアリノベーションという概念
2016年に刊行された「エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ」(馬場正尊+OpenA、学芸出版社)では、行政主導の都市計画を演繹法的と位置づける一方、民間主導によるエリアでの再生の動きを帰納法的なアプローチとして「エリアリノベーション」と定義しました。計画から始めるのではなく、現場の実践的な使われ方から発想し、使う人が場所や使い方を決めます。その過程のなかで、事業者や不動産業、設計者等の多様な主体が、職能を横断してプロジェクトに関わる点が特徴としています。こうした形のプロジェクトの小さな複数の動きが、エリア内で同時多発的に生まれ、ネットワークを結び、共鳴しながら広がっていく、これをエリアリノベーションの本質としました。
(3)中心市街地活性化法(中活法)関連
中活法関連では、市町村の基本計画認定を通じて、民間主体のエリアリノベーションを後押しする仕組みが整備されています。
例えば、国土交通省では、社会資本整備総合交付金などにより、空き店舗・空きビル等の再生や公共空間活用を支援しています。経済産業省では、民間中心市街地商業活性化事業計画の経済産業大臣認定に基づくソフト面の支援や低利融資などを行っています。
このように、エリアリノベーションは民間の活動から始まり、国の制度や政策と連動しながら広がりました。従来型の都市計画とは異なる「現場発」のアプローチが、エリアの価値や魅力向上につながるまちづくりの形として定着しています。
2.高岡市について
(1)市の概要
富山県北西部に位置し、日本海に面した高岡市は、歴史とものづくりの文化が息づくまちです。人口は約15万9千人、面積は約209.6平方キロメートルです。県内第2の都市であり、古くから交通と産業の要衝として発展してきました。


高岡市位置図※
高岡の歴史は、1609(慶長14)年、加賀前田家二代当主・前田利長が高岡城を築いたことに始まります。高岡城跡である高岡古城公園、国宝・瑞龍寺や日本三大仏の一つとされる高岡大仏、そして伝統的建造物群保存地区に指定された山町筋や金屋町など、中心市街地には城下町の面影を残す街並みが見られます。
城の廃城後、町は商工業都市として成長し、現在では「ものづくりのまち」として知られています。高岡銅器や高岡漆器といった伝統的工芸品のほか、近年では伝統技術を活かしたデザイン性の高いクラフト製品が国内外で注目されています。さらに、アルミ、化学、紙・パルプなどの工業も盛んで、日本海側有数の産業都市としての顔もあります。
2015年の北陸新幹線新高岡駅の開業により、都心から最短で約2時間半と大幅短縮され、近隣の金沢や富山にも1時間以内でアクセスできます。また富山県内を東西に走るあいの風とやま鉄道、JR在来線(城端線、氷見線)のほか、路面電車である万葉線が中心市街地から隣接する射水市までを結んでいます。

瑞龍寺 
高岡大仏

伝統的建造物群保存地区(山町筋) 
伝統的建造物群保存地区(金屋町)
(2)高岡市中心市街地活性化基本計画について
高岡市では、2007年度から中活法に基づく基本計画を策定し、現在は第4期を実施中です。


高岡市中心市街地の商店街の様子
3.インタビュー エリアリノベーションの担い手たち
高岡市中心市街地では、2014年頃から民間事業者等による空き家・空き店舗のリノベーションが連続的に見られるようになりました。
1~10は文中で紹介するもの(赤印)、11~15はその他(青印)
| 1 ほんまちの家(2014年) 2 コンマコーヒースタンド(2014年) 3 大菅商店(2016年) 4 すえひろ酒場お茶め(2024年) 5 MATSUKI COFFEE ROASTERY(2025年) 6 Engawa-縁側—(2020年) 7 旧わろんが(建築中) 8 サカサカ(2022年) 9 山町ヴァレー(2019年) 10 旧赤レンガの銀行(旧高岡共立銀行)(計画中) 11 博労町まちかどサロン(2016年) 12 Ahora Aqui(アオラキ)(レストラン:2022年) 13 SEKAI HOTEL(宿泊施設:2022年) 14 フレンチレストランMOKU(レストラン:2024年) 15 FREAK FREAK(カフェバー:2024年) |
今回は、中心市街地でのリノベーションに関わってきた4人の方に、お話を伺いました。
| 【清水さん】 有限会社酢谷不動産(1971年創業)代表取締役、ゲストハウス「Engawa-縁側-」、「MATSUKI COFFEE ROASTERY」オーナー 【服部さん】 たかまち鑑定法人株式会社(2012年創業)代表取締役 ゲストハウス「ほんまちの家」、商業施設「サカサカ」、「すえひろ酒場お茶め」オーナー 【大菅さん】 「コンマコーヒースタンド」「大菅商店」オーナー、一級建築士 【野田さん】 合同会社KISUI SEKKEI代表社員、一級建築士 |
(1)服部さんの取り組み 【「ほんまちの家」で始まった小さな連鎖】
不動産鑑定業を営む服部さんが地域に関心を持つようになったのは、商工会議所青年部で地域の祭りやイベントに関わったのがきっかけでした。清水さんや大菅さんとの出会いも、商工会議所でのつながりから生まれたそうです。
同じ頃、清水さんの仲介で町家の空き家を購入した服部さんは、その活用方法について検討していました。「古いものを直して活用する」という気運が山町筋などで高まっているのを感じて、リノベーションをしてゲストハウスを作ろうと考えたそうです。そんな服部さんに、一級建築士である野田さんが、全国の事例を示しながら可能性を後押ししてくれたとのこと。
さらに、東京工業大学(現:東京科学大学)真野洋介さん(現:教授)との出会いがありました。真野さんは都市デザイン・都市再生等が専門で、服部さんが参加した講演会で空き家とまちづくりについて尾道市を事例として話をされたそうです。「ゲストハウスを作るにも、どう運営していけばいいか悩んでいた時に、真野さんの講演を聞いたら解決へのヒントをたくさんもらえました」。そこで、高岡のまちなかでの取り組みを大学の研究対象にして、真野さんの後輩だった野田さんや、清水さん、大菅さんもプロジェクトに加わったそうです。

ほんまちの家 外観▲ 
ほんまちの家 内観▲
「プロジェクトには学生が多く参加してくれました。活動の歯車が回り始めると、富山大学の学生や、地域の方、行政(市や県)、金融機関の関係者なども加わり『産学官金』になりました。皆がそれぞれの分野でPRを進めて、取り組みに広がりが生まれました」。(服部さん)
2014年、町家体験ゲストハウス「ほんまちの家」がオープンしました。学生の1人だった加納亮介さんが研究を兼ねて管理人になったそうです。加納さんは、地域の方や関係者とのネットワークのハブ的な役割を果たしたとのことです。開業後もメンバーはイベントや企画を続け、関係性は今も続いています。
(2)大菅さんの取り組み【地域との対話が活きた「コンマコーヒースタンド」】
Uターンで都心から高岡に移り住んだ大菅さんがリノベーションに注目したのは、ほんまちの家のワークショップに参加したことがきっかけです。「素敵な建物がどんどん壊されていく一方で、直して活かす動きもあるのだと気づいたのです」と語ります。
真野さんの協力を得て、カフェ開業に向けて3回のワークショップを開催したそうです。「地域住民の皆さん、特に年配の方からたくさんの意見をお聞きしました。ワークショップで周囲との合意形成を図ることができたことが、今までお店を続けられた理由だと思います」とのこと。
2014年、山町筋の古い商家を活用した「コンマコーヒースタンド」をオープンし、その経験を活かして、2016年には高岡大仏近くの土蔵造りの商家を活用した「大菅商店」をオープンしました。

コンマコーヒースタンド■ 
大菅商店■
「開業には全くの素人でした。でも私が店を開く様子はこれから開業を目指す方にとってのモデルになると思いました」と大菅さんは語ります。「いきなり不動産屋さんに行って開業の相談をするより、カフェで気軽に話す方が気楽ですよね。私ならではの、リアルな情報を発信できると考えています」とのことです。
(3)清水さんの取り組み【小さな点が増えていくリノベーション】
清水さんは、プロジェクトに関わった経験を活かし、ご自身の不動産事業のなかでリノベーションを行ってきました。
「所有者がもう要らない・どうすることもできない、というような小規模な物件を主に対象としました。以前は物件を持っていても貸してくれない資産家の方が多かったです。でも、時間が経つにつれて所有者の方々の状況が変化し、物件を任せていただくことが増えました」。(清水さん)
物件の活用の仕方を任せてもらえる、「貸すけど意見は言わない」というような所有者の方がもっと増えれば、まちの再生と活性化はずっとスピーディに進むと思う、と話します。
「私の手掛けるリノベーションは、中心市街地という白いキャンパスに小さな黒い点を打つような感じです。でも続けていけば、いつかキャンパスが黒い点でいっぱいになります。それがエリアリノベーションにつながるのではないかと思います」。(清水さん)
清水さんの取り組みにも野田さんが設計として加わり、飲食店や宿泊施設などの新規開業が誕生しています。また清水さん自身も、会社に隣接する空き店舗を使ったゲストハウスを2020年に開業しています。現在は3件のリノベーションが進行中で、そのうちの1つは、高岡市が所有していた商店街内の物件を取得し、宿泊・学習室等のレンタルスペース・飲食店を有する複合施設にする予定とのことです。

MATSUKI COFFEE ROASTERY(マツキコーヒーロースタリー):2025開業▲ 
ゲストハウスEngawa-縁側—:2020年開業▲ 
現在取り組んでいる、商店街内の複合施設予定地(イメージ図)▲
(4)サカサカ【10年の経験を詰め込んだ集大成】
ほんまちの家のオープンから7年後の2022年、服部さんは2件目のリノベーション物件「サカサカ」をオープンしました。飲食店や美容室、シェアキッチン付きのアウトドアリビングもある商業施設です。


サカサカ▲
「サカサカの企画を見て、多くの方は難しいと感じたようです。でも、物件を紹介してくれた清水さんは地元で根を張って事業をしている方だし、野田さんや大菅さんなど周囲の支えがあればできると思いました」。(服部さん)
「サカサカは、県道沿いで路面電車もバスも通る道路で、高岡市民は誰でも目にするような恵まれた立地ですが、敷地の奥行きがないため、建て替えも考えづらい物件でした。ですが、リノベーションならば、ほんまちの家から培われてきた人的ネットワークや経験をフル活用して、次世代の『やりたい』という人が育っていくようなプロジェクトにできるのでは、と思いました」。(服部さん)
「休日には、家族連れが散歩したり、カップルが手をつないでデートしたりするような場所になっています。思い描いた『こんな場所になったらいいな』は少しずつ叶ってきたと思っています」。(服部さん)
(5)高岡のリノベーションに見える特徴
ほんまちの家を起点に広がった、一連の取り組みの特徴をまとめました。
民間の投資
まず「民間が自らリスクを取って投資した」ことです。
清水さんは、価値が下がった物件を扱う苦しさを感じながらも「価値のないものを価値のある状態に変えていくことを、不動産業者として先手でやろうというビジネス的発想があった」と話します。
服部さんも「リノベーションで空き家等を再生させればリターンが生まれる。地域に貢献できて、自分たちの収益にもなる。そんな取り組みがあることを示せば、後に続く人も増えると思っていました」と語ります。最近は、まちに貢献したいがどうすればよいか分からないという資産家や企業などから、相談を受けることが増えたそうです。
すべての過程を無駄にしない
プロジェクトのすべての過程を活かし、発信し続けたことも特徴です。
ほんまちの家では、片づけや掃除の様子まで発信し、出たものは蚤の市で売り、ロゴデザインも全国から公募したそうです。
「すべての過程を無駄にしない、という考え方は、その後の取り組みでも活かしてもらいました。発信することで多様な人が集まり、企画に関わる人が次々と入れ替わって変化していきました」と野田さんは言います。コアメンバーは変わらなくても、周囲の学生・地域住民・伝統産業の担い手などが有機的に加わり「人が入れ替わり続けるネットワーク」が育っていったそうです。
完成イメージの共有
さらに特徴的なのは、言語化された、目に見える形でのビジョンが存在しなかったことです。活動の合意形成を参加する全員ですることで、目指すイメージを1つにしていったようです。
「最終的に物件をどう使うかは私が決めましたが、決めるまでの過程は、大勢の人に関わっていただきました」。(服部さん)
「ボトムにある地域住民等の人との関わりやつながりのなかから生まれるものを、うまく行政が拾い上げて形作っていってくれれば」と話しています。
行政との連携と役割分担
高岡のリノベーションには、行政との距離の取り方にも特徴がありました。
前述の取り組みは、行政からの積極的な働きかけで実現したものではありませんが、空き家活用補助や空き店舗を活用した開業支援の補助等の間接的な支援を受けました。
「物価が上がって新規開業が本当に大変になっていますけど、補助金があると『中心市街地のほうがやりやすい』という声もあります」と清水さんは語ります。行政担当者と会う場では「服部さんや大菅さんのように、まちで頑張っている人の活動を支えてほしい」と伝えているそうです。
一方で、行政と民間の役割分担も、これまでの流れの中で感じているそうです。
「私たちが扱う物件は小規模なものが中心です。一方で、山町ヴァレーや旧高岡共立銀行のような規模の大きなリノベーションは、行政や公的主体が担っています。規模によって、互いの役割分担が自然とできればよい」と清水さんは語っています。

山町筋「山町ヴァレー」■ 
旧高岡共立銀行▲
4.考察 エリアリノベーション 連鎖の理由
高岡のまちで起きたことは、本稿の冒頭で示したエリアリノベーションの定義や内容に近似していると言えます。さらに、中心市街地活性化に取り組む高岡市ならではの動きも見受けられます。
以下に、高岡市の事例にみるエリアリノベーションの連鎖のポイントを示します。
民間の小さな挑戦が新たな挑戦を生んだ
高岡のリノベーションは、行政の計画よりも先に、民間の方が自ら動いて始まったものでした。
服部さんの「ほんまちの家」がはじめにあり、その経験や手法が次の取り組みへとつながりました。
対話と発信でネットワークを作った
プロジェクトの進め方の特徴は「開かれていた」ことです。身近な地域から外部の人まで、対話や発信によって、関わる人が入れ替わりながら増えていき、ネットワークが育っていきました。
ネットワークのなかで、ノウハウなどの情報や人の動きも循環するようになりました。
行政との「ゆるやかな役割分担」が点から面への広がりを支えた
服部さんたちの取り組みは行政と一緒に始めたわけではありませんでしたが、民間の動きが積み重なるなかで、補助金制度や基本計画など行政の取り組みが、広がりを支えたと言えます。
5.おわりに
中心市街地では、小さなリノベーションが積み重なることで、まちの「回遊性」にも変化が表れてきているようです。野田さんは「アーケード街は空洞化しているけれど、その周辺が少しずつにぎわってきている」と、民間の小さな取り組みが点として増えている実感を語っています。行政が補助制度などで支援するとともに、規模の大きい取り組みを担うことで、民間と行政が互いを補完し合い、人が動きやすい環境が徐々に整ってきていると考えられます。
さらに、野田さんは「高岡のコンパクトさが、まちの中での投資を促しやすい」と述べ、高岡ならではの“まちのサイズ感”が取り組みを後押ししている点を指摘しました。清水さんも「『こうなりたい』と思い描く姿をつくるスタートラインに、ようやく立てた」と語っており、継続的な変化への手応えが共有されています。
高岡の中心市街地では、民間の小さな実践が連鎖し、新しい動きが生まれています。行政との役割分担や回遊性の向上が進むなかで、点で始まった取り組みが面として広がりつつあるようです。こうした積み重ねが、今後どのように中心市街地の活性化につながっていくのか、引き続き注目していきたいと思います。
※の写真等:高岡市中心市街地活性化基本計画(第4期)より引用
▲の写真:野田氏提供
■の写真:大菅氏提供
【参考文献】
馬場正尊+OpenA編著(2016年)「エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ」学芸出版社
中田海央・市川達博・加納亮介・真野洋介(2022年)『富山県高岡市旧市街におけるリノベーションプロジェクトの連続的展開についての考察 人生100年時代の地方都市から組み立てる、ライフシフトに対応した都市・地域像のデザインその6』「日本建築学会大会学術講演梗概集2022年度大会」日本建築学会
真野洋介・片岡八重子編著(2017年)「まちのゲストハウス考」学芸出版社



