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魅力的な個店の集積で新たなエリアイメージを構築~戦略的なテナントミックスでエリアと商業を活性化(京都府福知山市)
<第1回>福知山フロントのテナントミックス事業と銀鈴ビルプロジェクト

 京都府福知山市の福知山フロント株式会社は、民間出資100%のまちづくり会社です。JR福知山駅北側の駅正面エリアで空き店舗を活用したテナントミックス事業等を手掛けています。
 2015年の設立から14店舗を誘致し、2022(令和4)年度には元パチンコ店だった「銀鈴(ぎんれい)ビル」を複合施設にリノベーションする『銀鈴ビルプロジェクト』を実施しています。この事業は、中小企業庁の令和4年度予算「地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)」に採択されています。
 今回、積極的な事業展開で駅正面エリアの活性化に成功している同社を取材しました。短期間で大きな成果を上げたテナントミックス事業や銀鈴ビルプロジェクト、今後の展望等について、2回に分けてご紹介します。第1回目のレポートでは、福知山フロントのテナントミックス事業と銀鈴ビルプロジェクトの取組みについてご紹介します。

<第1回目>福知山フロントのテナントミックス事業と銀鈴ビルプロジェクト
<第2回目>地域に必要な機能を/銀鈴ビルのリニューアルオープン

(福知山フロント株式会社)
 ・代表取締役 秋山 保彦氏
 ・事務局長 奥田 友昭氏
 ・事務局 広瀬 今日子氏

(左)広瀬今日子氏  (中)秋山保彦氏 (右)奥田友昭氏

<目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.福知山市の概況と福知山フロントの設立経緯

 福知山市は人口75,471人(2023年3月末)、京都府の北部に位置しています。中心市街地の核となるJR福知山駅はJR山陰本線、福知山線および京都丹後鉄道が結節する交通の要衝となっています。
 戦国時代、明智光秀公によって福知山城が築かれたことでも有名です。城下町が整備されて以降、江戸期を通じて丹波地方の政治・軍事の中心地であるとともに、京街道の宿場町として、また物資が集散する由良川の河港町として栄えました。現在も当時の町割りが残っています。

中心市街地活性化基本計画の概況

 第1期計画(2011年3月~2016年3月)では、福知山城に隣接の『ゆらのガーデン』、城下町の中心地『広小路商店街』、福知山駅北側の『市民交流プラザふくちやま』の3つの集客拠点を整備しました。しかし、計画期間中に2年連続の水害等による事業の中断があり、まち全体の活性化が道半ばのまま、第1期計画の事業期間の終了が色濃くなりました。
 そのような中、福知山市から駅正面通り商店街に、第2期計画(2016年4月~2021年3月)の中核事業として、「駅正面通りのリニューアル事業」を位置づけたい、という話が持ち込まれました。第1期計画で整備された3拠点を繋ぐ位置にあり、駅正面通り商店街が位置する「駅正面エリア」をリニューアルすることにより、「駅から駅正面エリア、」「駅正面エリアからまちなか」へ流れを作り、回遊性向上を図る計画です。

3拠点の位置図(福知山フロント資料より)

駅正面エリアのリニューアル計画と福知山フロント設立 

 駅正面通り商店街は、JR福知山駅の北側、南北300mの商店街です。ピーク時の昭和40年代には90店舗もの商店や大型商業施設が並び、人が歩けないくらいの賑わいを見せていました。しかし、郊外型大型店舗の出店、商店街の大型商業施設の撤退、商店主の高齢化等により、商店街の会員数は30店舗程まで減少、衰退してしまいました。
 リニューアル計画を活性化への最後のチャンスと捉え、商店街振興組合の理事会では、市や商工会議所、まちづくりの専門家等と勉強会を重ねるとともに、活性化に向けた調査事業を実施しました。
 商業者への個別ヒアリングや意識調査等を行った結果、リニューアルのため賃貸や売却に応じる意向がある不動産所有者や新しい事業への取り組みに前向きな若手事業者がいることが分かりましたが、商店街組織として新たな投資を行うことは難しいという判断に至りました。
 そこで、「スピード感をもって多様な事業を計画的・継続的に展開できる体制」が必要不可欠であることから、商店街エリアの30代・40代の若手事業者を含む意欲ある有志と商店街組織の共同出資により、2015年に福知山フロント株式会社が設立されました。

立ち上げメンバー(福知山フロント資料より)

2.「駅正面エリア」での集中的事業展開とテナントミックスの成果

 同社では、駅正面通り商店街を中心とする「駅正面エリア」を事業実施エリアとして設定し、A・B・C3つのブロックに分けて戦略的にテナントミックス事業を展開しています。
 まず、駅に近いAブロックから集中的にテナントを誘致することで、「駅正面通りに新しいお店が増えている!」と実際に話題になるようなインパクトを生み出し、リニューアル感を醸成していきました。次第に女性や若者等の来街者が見られるようになり、新規出店を検討している事業者から問い合わせが来るようになりました。
 その後、Bブロック、Cブロックへもテナントミックス事業を展開し、2022年末までに14店舗を誘致しています。出店者は、ゲストハウス、焼肉居酒屋、ラーメン店、ケーキ店、ネイルサロン、うどん店(退店)、美容室、肉料理店、ダイニングバー、製菓工房、カイロプラクティクス、フォトスタジオ、ヨガスタジオ、ビール醸造所&シェアオフィスと幅広い業種・業態となっています。

左画像:福知山フロント資料より/右上画像:同社が誘致した店舗の一部(HPより)

3パターンのテナントミックス事業

 同社のテナントミックス事業は、①サブリース(同社が借りた物件をリノベーションしてテナントに貸し出す)、②紹介による出店(出店希望者に所有者を直接紹介する)、③所有ビルへの出店、の3パターンあります。テナントからの賃料収入等で得た利益を再投資しながらテナントを増やし、収益を上げています。

エリアのイメージアップ、賑わいの面的な広がり 

 同社が事業を行う前は、エリアには空き店舗が多く、チェーン店が出店する駅南側に人が集まっていたそうです。
 それが1店舗、2店舗とお店が増えるに伴い、市民の駅北を見る目が変わり、「事業の成り立つ場所として認知され、この商店街に出店したいという声も増えてきた」と、事務局の広瀬氏は振り返りました。
 ここ数年の変化としては、大手の不動産会社が事務所を構える等、同社が関与しない自主出店も増えてきています。
 このように、同社のテナントミックス事業によりエリアのイメージが変わり、エリア価値が大きく向上しました。起業・新規出店を促進するだけでなく既存店の収益増にも繋がり、周辺への波及効果は大きいといえます。

まちの賑わいだけでなく、若手事業者の参入で地域経済も活性化

 また、出店者は30代・40代を中心とした若い世代が多く、商店街に出店すると、商店街振興組合と商工会議所青年部の両方に加入してもらうルールにしているそうです。2021年には商店街の理事長を初めとする理事12人が新規出店者を含む30~40代の若手中心に一新され組織の若返りを図りました。さらに、商工会議所に若手メンバーが加入するため、新規出店による商店街の賑わい向上だけでなく、地域経済の活性化にも繋がっています。


3.事業戦略の特徴

①スピーディーな事業展開を支える組織体制  

 同社は、役員3名のほか「動く株主」が事業を進めています。組織は事業開発部、インバウンド観光部、デザイン部からなります。事務局の広瀬氏は外部のまちづくり専門家です。
 株主兼各部の責任者であるメンバーは30代から40代の若手で、それぞれ商工会議所の青年部に所属する会社経営者または後継者です。メンバー全員に経営感覚が備わっているため、意思決定等はスピーディーで、先述の所有ビルを購入する際も、収支の試算から購入決定まで、さして時間はかからなかったということです。

②ハード・ソフト両面での取組み/実業として行っているプレイヤーを呼び込みイベント実施

 ハード整備と同時に、ソフト事業としてインバウンド関連、情報発信、にぎわい創出のためのイベント等を仕掛けています。
 同社の事務局長である奥田氏は、印刷や企画・デザイン等が本業ということもあり、同社のイベント企画や情報発信事業を手掛けています。
 福知山の魅力を発信するガイドマップの定期発行のほか、コロナ禍前にはインバウンド事業として台湾人によるモニターツアーやFAMトリップを実施。さらに、市から委託を受け、夜間経済振興を図る実証事業や「食」を通じた観光促進事業として、定期的に賑わい創出イベントを行っています。

イベントチラシ(福知山フロントHPより)

 同社の特徴は「既に実業を行っている人をエリアに呼び込んで賑わいをつくっていく点」だと、奥田氏は述べました。
 まちづくり人材やプレイヤー発掘を目的にイベント等を実施することがありますが、同社では既にプレイヤーとして動いている人を呼び込み、エリアとお店の認知を高めるためにイベントを実施しています。その点も実効性が高まる要因のひとつと考えられます。

③「たくさん納税しよう」を合言葉に、行政の支援を活用

 事業立ち上げ時の初期投資を抑えるため、同社ではハード整備等の際には、国や京都府、福知山市の支援制度を積極的に活用してきました。
 「行政の補助を受けても、健全な事業運営により利益を出し、税金を納めることで返す」という考え方で事業を進め、実際に収益化しています。この考え方はテナント店舗とも必ず共有しており、これまで誘致したテナントで撤退したのは1店舗のみということです。

④狭いエリアで集中的に投資

 先述のとおり、「駅正面エリア」に限定し、集中して事業を展開しています。これにより活性化イメージも際立つため、エリアのリニューアル感が増しています。

 以上のような戦略をもって事業を行ってきた結果、対象エリアで活用可能な空き店舗はほぼ無くなりました。テナントミックス事業では、賃貸の意向がある不動産所有者の空き店舗を活用して14店舗を誘致しましたが、まだ賃貸や売却を考えていない物件は残っています。そうした物件オーナーの意識を変えてもらうため、『銀鈴ビルプロジェクト』による活性化事業を計画しました。


4.銀鈴(ぎんれい)ビルプロジェクト

 銀鈴ビル(3階建て1,093㎡)は、西側は広い通り(けやき通り)、東側は商店街に面した両方に行き来できるユニークな立地です。1階に入っていたパチンコ店が2020年1月に閉店して以来、夜になると周辺の道は暗くなり、活性化イメージが低下しました。
 そこで、中小企業庁の令和4年度予算「地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)※」を活用し、地域に必要な機能を新たに取り入れた複合施設にすることとしました。

※地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)
来街者の消費動向等の調査分析や新たな需要の創出につながる魅力的な機能の導入等を行い、最適なテナントミックスの実現に向けた仕組みづくり等に取り組む実証事業に対して、地方公共団体が支援する場合に、国がその費用の一部を補助するもの。

  • 外観(西側 けやき通り沿い)
  • 外観(東側 商店街沿い)
  • 内観(1階 西側)
  • 内観(2階 東側)

                  リノベーション工事前の銀鈴ビル(福知山フロント資料より)

事業の流れ

①希望者1組ごとに事業説明会を実施
 2021年12月から2022年2月にかけて、テナント募集を行いました。事業説明会兼現地見学会は1回1組限定の個別対応としました。この方法は時間がかかりますが、応募者とじっくり向き合うことができます。説明会は計17回開催し、20名が参加しました。
 オープン時期が固定のためスケジュールが合わない等の理由による辞退もありましたが、事業説明会を経て納得された方には事業計画書を提出してもらい、さらに出店者の絞り込みを行いました。

銀鈴ビルの募集チラシ(福知山フロント資料より)

②特色ある8事業者が決定
 各選考プロセスを経て、最終的に8事業者の出店が決定しました。業種の内訳は、飲食店が4店舗(菓子工房、たこ焼き、ラーメン、韓国料理)、サービス業が4店舗(美容室、エステ、携帯販売・パソコン教室、レンタルリビング)です。特徴のあるお店が揃いました。
※各テナント店舗の詳細は次回ご紹介します。

③個別に希望をヒアリングして区画割りを実施
 区画割りは各テナントの意向を聞き入れ、内装の打ち合わせも個別対応を行いました。内装費は福知山フロントが負担、基本的にテナントの負担は賃料と共益費のみです(飲食店の厨房設備はテナントが負担)。各テナントとは10年定借契約をしており、10年間の賃料で投資分を回収する計画です。

  • 工事中の銀鈴ビル(内部)
  • 工事中の銀鈴ビル(外部)

5.事業における工夫と課題

 テナント誘致に苦戦している地域がある中、同社はこれまでに14店舗、今回の銀鈴ビルプロジェクトで8店舗、合計22店舗のテナントを誘致しています。
 同社が戦略的に事業を進めてきた面も大きいですが、銀鈴ビルプロジェクトにおける工夫やポイントを伺いました。

①事前にテナントを決めて、予約契約を締結 

 同社では最初にテナントを決めてから事業に着手し、各区画にテナントが入った状態で複合施設を開業しています。これは一見簡単なようで難しく、同社のテナントミックスにおける一番の工夫です。テナントの決定後は設計や工事でオープンまで時間が空くため、予約契約を締結して保証金等も事前に入れてもらうようにしています。

②事業計画や面談等により事業者を選考

 出店を希望する人には事業計画書を提出してもらいます。オープン当初、途中・最終どれぐらいの利益を計画しているか、事業コンセプトやこだわり、ターゲットとする客層や想定客単価等を詳細に記載するものです。そこで断念した人もいるそうですが、事業計画の精度、事業への本気度合いや経営感覚を確認できるため、これまでのサブリース形式のテナントミックス事業でも同様の対応をしています。
 なお、計画に落とし込む作業が難しい人は、事務局でサポートします。これまで誘致したテナントの撤退率の低さも、この点にあると思われます。
 同社が手掛けるテナントミックスの特徴は、公益性だけではない、民間の経営感覚と柔軟な発想の成果といえます。

 <事業を推進するうえでの課題> 

 このプロジェクトで一番課題になったことは何か伺ったところ、資材高騰の影響が大きいということです。
 これまでの事業では、運営上必要な利益を確保しながらまちに再投資してきました。銀鈴ビルのリニューアルにも投下しています。しかし、資材高騰によるコストアップで、投資額は当初の計画と比べて大きくなっています。工事予定額の上昇に伴い、都度事業計画の見直しを迫られ、借入額の増加にも注意を払いながら事業を推進されています。

<銀鈴ビルのオープン>
 次回は、銀鈴ビルオープンの様子をご紹介します。

  
                     <第2回の記事は以下のリンクからどうぞ>