魅力的な個店の集積で新たなエリアイメージを構築~戦略的なテナントミックスでエリアと商業を活性化(京都府福知山市)
<第2回>地域に必要な機能を/銀鈴ビルのリニューアルオープン
京都府福知山市の福知山フロント株式会社は、民間出資100%のまちづくり会社です。JR福知山駅北側の駅正面エリアで空き店舗を活用したテナントミックス事業等を手掛けています。
リノベーション事業『銀鈴ビルプロジェクト』を実施し、複合施設「銀鈴ビル」として2023年5月1日にオープンしました。この事業は、中小企業庁の令和4年度予算「地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)」に採択されています。
第2回のレポートでは、銀鈴ビルのオープンの様子をご紹介します。
<第1回目>福知山フロントのテナントミックス事業と銀鈴ビルプロジェクト <第2回目>地域に必要な機能を/銀鈴ビルのリニューアルオープン |
<目次>
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1.生まれ変わった銀鈴ビル
『銀鈴ビルプロジェクト』は、福知山フロントがこれまで手掛けてきた中でも最大規模の、集大成の位置付けとなる事業です。福知山らしさ・健康・昭和レトロなどをコンセプトに、地域コミュニティの拠点、福知山の魅力を発信できる複合施設として整備しました。新たな客層が商店街に足を運ぶきっかけとなることを目指しています。
竣工記念式典と一般向け内覧会の様子
2023年5月1日のオープンを控え、連休前半の4月29日・30日に竣工記念式典と一般向けの内覧会を開催しました。
29日の竣工記念式典では、同社の代表取締役 秋山保彦氏の挨拶とともに、国、府、市の関係者からの祝辞があり、テープカットでビルの完成を祝いました。秋山氏は、「幅広い年代の方に楽しんでもらえる場所となれれば嬉しい」と述べました。
竣工記念式典後の内覧会では、開始前から多くの人がビル前に並び、各店舗が開催したオープニングイベントは大盛況でした。家族連れも多く、配布された割引チケットやノベルティをきっかけに店舗へ立ち寄り、限定数の特別メニューやサービスを楽しむ様子が見られました。
銀鈴ビルの特徴
建物は鉄骨造りの3階建てですが、1・2階部分のみをリノベーションしています。元パチンコ店であったときの鏡張りの天井や柱、パチンコ台の枠を活かした内装、レトロなデザインの椅子など、懐かしさを感じさせる建物となっています。
①チャレンジしやすい賃料設定
銀鈴ビルは1区画の広さを10~15坪とし、賃料も地域の相場より低めに設定しています。
新規出店だけでなく、すでに事業を行っている方が2店舗目を出店するケースもあり、チャレンジしやすい賃料設定にしています。
②敷居を作らないレイアウト
ビルの東側は商店街、西側は広い通り(けやき通り)に面しています。ビル内を通れば両方に行き来でき、どちらの通りからもビルに入れるユニークな立地であるため、人がふらっと立ち寄りやすい利点があります。
特定の店舗目当てに来た人が他のお店にも回遊しやすくするため、テナント間は壁で仕切りを作らないレイアウトです。美容室やエステ店のような業種は区切りが必要ですが、基本的に壁がないため、ビル内は開放的なイメージです。
2.地域に必要な機能を/特色あるテナント
地元への想いを持つ、特色あるテナント8店舗が揃いました。業種の内訳は、飲食店が4店舗、サービス業が4店舗です。これらのテナントの他に、1階には地元野菜の無人販売コーナーを設置しています。奥京都の一次産業女性グループ「ゆらジェンヌ」が管理し、季節の野菜、米、黒豆などのほか、トマトジュースやジャムなどの加工品も販売しています。
商店街側の入口から入ると、1階に地元野菜の販売スペース、菓子工房・カフェ、たこ焼き店があり、奥に進むとレンタルリビング、美容室が続きます。反対側の広い通り(けやき通り)沿いから見ると美容室が路面になります。
2階には飲食店スペース、けやき通り方面に進むとエステ店、携帯販売・PC教室が入居しています。応募時に業種を制限しませんでしたが、結果として良いバランスになったということです。
<飲食店>
- 菓子工房・カフェは、同社の他物件テナント(肉料理店)がいま人気の洋菓子カヌレを本格的に展開するため出店しました。厳選した京都の食材を使ったカヌレの製造・販売を行います。
- たこ焼き店は、学生がアルバイトできる場を提供したいという想いから、建設業の代表が開業しました。テイクアウトとイートインの両方が利用可能で、学生や仕事帰りのビジネスマンなど幅広い客層を想定しています。
- 韓国料理店は銀鈴ビル近隣で焼肉店を経営している事業者が出店しました。日本人が好む味の韓国料理を追求し、ランチもできる、気軽に寄れる居酒屋として営業しています。
- うどん製麺所オーナーが出したラーメン店は、これまで市内のレンタルスペースで週1日営業していましたが、自店舗出店の検討と銀鈴ビルプロジェクトの出店者募集のタイミングが合いました。
<サービス業>
- 「ジャパンチャレンジアワード2021」(京丹後市の起業家コンテスト)のグランプリ受賞者が出店した携帯ショップは、オリジナルSIMの格安モバイルを販売するとともに子供向けのプログラミング教室も併設しています。新規契約ではなく顧客サポートを重視するスタイルで、まちの携帯屋さんを目指します。
- ホテルのブライダルエステと自宅サロンで講習や指導を行うオーナーが開店したエステ店は、主婦層・働く女性をターゲットに、手軽な価格でボディとフェイシャルエステを提供します。
- 神戸の美容室で店長をしていたオーナーが独立のため福知山駅周辺で物件を探していた際、銀鈴ビルと出会いました。奥様と二人で経営します。
- レンタルリビングは「リビングルームのレンタルスペース」で、市内でゲストハウスを運営している方がオープンしました。福知山駅周辺にはママ友が集まれる場所が少ないことから、場をつくりたいと開業しました。
レンタルリビングは銀鈴ビルの核になるのではと、事務局の奥田氏や広瀬氏は考えています。会議室やシェアスペースとは雰囲気が異なり、家のリビングでくつろぐように利用できるスペースです。キッチンが付いているので利用者が簡単な料理を作ることができるほか、銀鈴ビルの飲食店からデリバリーも可能です。女子会、誕生日会、ワークショップや習い事教室などいろいろな集まりに使えます。
このように、エステや美容室は女性の来街動機になり、携帯ショップ兼子供向けのパソコン教室は親子連れで来店します。レンタルリビングは地域コミュニティの活動の場になります。カヌレや地元野菜は駅を利用する観光客のお土産にも最適です。軽食やカフェ、ランチにも使えるお店、居酒屋など、色々な世代が集まる店舗が揃い、地域に必要な機能が充足してきています。
3.ビルのお披露目とイベントの同時開催で人の流れをつくる
同市では、今後を見据えた実験として、2022年10月29日・30日に、駅前広場と商店街のAブロックを車両通行止めにして、第1回目の「ファーマーズテーブルズ」(福知山市主催、同社受託)を実施しました。福知山の食を集めたイベントで、フード・ドリンク、スイーツ、カフェや農家による旬野菜の販売を行うもので、商店街自体を通行止めするのは初めての試みでしたが、2日間で40店舗が出店、1万人が来場した大規模なイベントになったということです。
銀鈴ビル内覧会の日にも、ファーマーズテーブルズを実施しました。32団体が出店し、当日は銀鈴ビルの内覧会とファーマーズテーブルズの会場間を人々が行き来する様子が見られました。ハード整備だけでなく、ソフト事業との両輪で効果を上乗せする戦略的な取組みは、非常に参考になります。
4.今後の展望、まちづくり会社としての課題
多彩なテナントが入居する銀鈴ビルのような複合施設は、これまでの福知山駅周辺には無かった機能です。施設そのものが起業チャレンジの場となっているだけでなく、駅で電車を待つ高校生の新たな居場所にもなるなど、銀鈴ビルをきっかけにエリアへの来街者が増えることが期待されます。また、同社がこれまでに誘致してきたテナントも、特徴的かつ人気店が多いため、それらの店舗の顧客が銀鈴ビルにも足を延ばしてくれることも想定しています。
銀鈴ビルがリニューアルオープンし、現時点で出店可能な空き店舗はほぼなくなりました。同社のテナントミックス事業は一段落します。今後しばらくは賑わいを取り戻したエリアに人を呼び込むイベントに注力していきます。商店街に足を運ぶことのなかった客層を呼び寄せて既存店や新規店を知ってもらい、地域住民に商店街や地域に愛着を持ってもらう機会を創出すると共に、イベントの定期開催によって徐々に規模を拡大し、広域からの誘客に繋げることを目指します。
また、公共空間や道路空間を活用した賑わい創出事業等を行うため、都市再生推進法人の指定を目指して取り組んでいくということです。同社のイベント主催だけでなく、他の事業者も活用しやすい仕組みを作ることができれば、駅正面エリアの更なる活性化に繋がります。
そして、「銀鈴ビルやイベント開催などハード事業とソフト事業の相乗効果により交流人口が増加して商店街の活性化が目に見えるようになれば、不動産所有者の意識改革を促すきっかけとなります。所有と利用の分離による遊休不動産の流動化を図り、テナントミックス事業の推進に繋げたい」と、同社は今後の展望を描いています。
課題は次世代メンバーの参加
一方で、まちづくり会社としての課題もあります。同社の会議では「次の世代をどう入れていくか」がよく議題に上がるということです。現在のメンバーは30代から40代が中心ですが、20代から30代の起業者の加入を進めて新陳代謝を促したい考えです。
「次世代を入れて、現プレイヤーの株主はリタイアしていかないといけない」と、事務局長の奥田氏は述べました。そうした考え方も、同社の特徴であるスピード感と機動力の源泉だと考えられます。
さいごに
同社は民間出資100%のまちづくり会社ですが、行政と連携し、補助制度等をうまく活用しながら、駅正面エリアのリニューアルで実績を積み上げてきました。施設の完成前にテナントを決める、テナントに事業計画書の提出を求めること等、同社の工夫は参考になります。
また、テナント誘致で新たなプレイヤーが登場し、まちのリニューアルだけでなく、地域経済の新陳代謝にも寄与しています。駅正面エリアの更なる賑わいづくりを目指し、福知山フロントの挑戦は続きます。