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「来てください」と言わない商店街に、なぜ人が集まるのか—北助松商店街・ぬのびきプロジェクトの実践(大阪府)

人材不足に悩む商店街や地域活動では、「どうすれば人に関わってもらえるのか」が大きな課題になります。大阪府泉大津市の北助松商店街では、あえて「来てください」と強く呼びかけるのではなく、関わりやすい場を整え、来た人を歓迎し、活動の目的を共有するなかで、少しずつ関わる人を増やしてきました。最初はわずかな人だけで回していた活動が、現在では地域内外のプレーヤーが関わり合う動きへと広がっています。
北助松商店街を中心としたエリアの活性化に取り組む、北助松商店街理事長の松尾美砂子さんと、ぬのびきプロジェクトの諸橋里沙さんへの取材を通じて、先進事例の取り入れ方、無理に募らない関わり方、目的や役割の見える化という3つの実践を軸に、そのプロセスをたどります。

画像:松尾さん(左)と諸橋さん
松尾さん(左)と諸橋さん

目次


1.北助松商店街について

北助松商店街は、通りの向こうとこちらが違う自治体に属するという、全国でも珍しい商店街です。通りが市境にあたり、大阪府泉大津市と高石市にまたがっています。両市は大阪中心部から電車で約20~30分圏内にある住宅都市です。
商店街は、南海電鉄北助松駅から、東側の助松団地までの約600メートルの間に位置します。1961年に助松団地への入居が始まり、人口の増加とともに自然発生的に小規模な商店が並び始め、やがて商店街としての形が整っていきました。 現在、助松団地は高齢化が進み、外国人の割合が増えているそうです。

  • 南海電鉄北助松駅
  • 北助松商店街の様子
    南海電鉄北助松駅と、北助松商店街の様子

取材に訪れたのは平日の日中でしたが、人や車が行きかい、通りは明るく、穏やかな活気がありました。朝晩は学生や通勤の人などでかなりの人通りがあるそうです。しかし、商店街の運営などを担う人手は不足していたそうで、「人がいないことが、一番の困りごとだった」と、諸橋さんは振り返ります。


2.はじまりは「軽い応募」から 

(1)「何かヒントがもらえれば」ワークショップへの参加

転機になったのは、2023年度に中小企業庁による「商店街等における課題解決のための専門家派遣及びワークショップ」(令和5年度外部人材活用・地域人材育成事業)に、松尾さんが応募したことでした。

「なんかいいアイディアを教えてくれるんちゃうか、くらいの軽い気持ちで応募したんです」。(松尾さん)

ワークショップには、商店街関係者をはじめさまざまな人が参加しました。特に、それまで直接的なつながりが無かった助松神社の宮司の井上さん、専門家として入ったハッピーロード尾山台商店街(東京都世田谷区)の理事・高野さんに出会ったことが、その後の活動に大きく影響します。

助松神社
助松神社
ワークショップの様子 (中小企業庁ホームページより引用)
ワークショップの様子 (中小企業庁ホームページより引用)

(2)商店街ではなく、「暮らしを見る」という視点の転換

ワークショップでは、その後の活動の方向性を決定する大きな視点の転換がありました。それは、商店街を単なる消費の場としてではなく、地域の暮らしを支える場として捉える、ということでした。

「『暮らしを豊かにする機能が商店街の新しい役割なんですよ』と、高野さんに教えていただきました。『商店街を外に開くイメージです』とも。 『へー、そうなんだ!』って驚きました」。(諸橋さん)

諸橋さん自身、商店街の中で育ち、周りの人に世話になりながら大きくなってきたという経験がありました。高野さんの言葉をきっかけに、大型ショッピングモールなどにはない、地域の見守りや人との関係性こそが、商店街の新しい機能なのだと気づけたそうです。

ぬのびきプロジェクト 活動範囲 (ぬのびきプロジェクトより提供)
ぬのびきプロジェクト 活動範囲 (ぬのびきプロジェクトより提供)

3.北助松商店街が取り組んだ「人が関わるメソッド」

プロジェクトの立ち上げ後、諸橋さんたちは、手探りのなかで活動の形を少しずつ組み立てていきました。
その過程で実践されていたのは、先進事例を取り入れること、無理に人を募らないこと、そして活動の目的や目指す姿を見える形で共有することでした。
これらの工夫は、参加者を増やすためだけではなく、プロジェクトに関わる人たちが、活動の意味や自分の役割を理解しながら関わり続けるための土台にもなっていました。
 

ぬのびきプロジェクト(北助松商店街)が実践した「人が関わるメソッド」
①先進事例を 「TTPする」(徹底的にパクる)
②「来てください」と言わない人集め
③存在意義の「見える化」
メソッド①先進事例を「TTPする」(徹底的にパクる)

プロジェクトを立ち上げたものの、諸橋さんたちは、何からどう手を付ければよいか分からず悩んでいたそうです。そんなとき、高野さんから「最初のうちは、他のまちの事例を徹底的にパクれば(真似すれば)いいんだよ」とアドバイスを受けました。そこで、まずは高野さんが理事を務めるハッピーロード尾山台商店街の事例を真似ることにしました。ハッピーロード尾山台商店街では、商店街内にある店舗「タタタハウス」を中心に、地域内外の多様な人たちが集まり、連携して、さまざまな活動を生みだしています。

諸橋さんたちは、まずプロジェクトの活動拠点づくりに着手しました。諸橋さん松尾さん親子が営む商店街内の「ゆりや化粧品店」の2階を、プロジェクトの拠点としてリノベーションしたのです。タタタハウスと同じように、まちの人たちとプロセスを共有できるように、作業のほとんどをプロジェクトのメンバーや地域の人、子どもたちと一緒に手作りで仕上げたそうです。

  • ぬのびきプロジェクトの拠点。レンタルスペースとしても地域で活用されている 
  • ぬのびきプロジェクトの拠点。レンタルスペースとしても地域で活用されている 
    ぬのびきプロジェクトの拠点。レンタルスペースとしても地域で活用されている ※2番目の写真 

定期的に開いている「ぬのびきミーティング」も、他地域の実践を参考にした取り組みです。商店街の中に、まちや暮らしについて気軽に話せる場をつくることで、参加者は、これからやってみたいことや地域で気になっていることを自由に共有できます。「まちや暮らしについて話したいという人は一定数いて、そういう思いを叶える場になっています。みんな話すとスッキリした表情になってくれます」と諸橋さんは話します。

はじめから独自性を目指すのではなく、まずは実績のある事例をそのまま取り入れ、自分たちの地域に合わせて少しずつ変えていく。この始め方が、「何をすればよいのか分からない」という最初のつまづきを乗り越え、無理なく活動を続けるための土台になったと言えます。

メソッド②「来てください」と言わない人集め

もうひとつ、高野さんから受けた助言のなかで、諸橋さんが今も守っている言葉があります。

「『来てくださいって絶対言っちゃダメだよ』と、言われたんです」。(諸橋さん)

人手が足りないときほど、関わってくれそうな人を見つけると、つい「来てください」「お願いします」と声をかけたくなります。けれども、プロジェクトではそこをぐっとこらえます。その代わりに、実際に来てくれた人を丁寧に迎え、「来てよかった」と思ってもらえる時間をつくることを大切にしてきました。

プロジェクトの初期から現在まで続く月1回の「おついたち詣り」は、そうした関わり方を象徴する取り組みの一つです。ワークショップの参加者の提案を取り入れて、毎月1日の午前中に助松神社をみんなでお参りする形で始まりました。申込不要で誰でも参加できるため、それまでプロジェクトと接点のなかった人にとっても、気軽に足を運べる入口になっています。ワークショップをきっかけに生まれた助松神社との関係も、この取り組みの土台になっています。

  • 画像:おついたち詣り
  • おついたち詣り
    おついたち詣り

活動を紹介するインスタグラムなどのSNSでも、意識しているのは「大変だから助けて」ではなく、「楽しそうだな」と感じてもらうことです。「おいしいものと楽しいところには人は寄ってくるものですから」と諸橋さん。関わる人を、やる側・やられる側に分けるのではなく、みんなが主役として一緒に楽しむ空気を大切にしています。

活動に少し深く関われそうな人には、個別の活動ごとに設けているLINEグループを案内します。「今度こういうことしますけど、いかがですか?」というように、相手の負担にならない形で次の入口をそっと示しているのです。

「お願いしない」人集めは、参加者の自発性を大切にする方法です。無理に誘うのではなく、来てくれた人を歓迎し、話せる場を用意し、必要に応じて次の関わりへつないでいく。その積み重ねが、「また来たい」「自分も関わってみたい」という気持ちを育て、新しい担い手が自然に加わっていく流れを生み出しているように見えます。

(3)存在意義の「見える化」

諸橋さんは、プロジェクトが目指すものを、目に見える形で見せることも大切にしています。
プロジェクトの設立後、間を開けずに、会則、組織図、活動エリアを整理し、目的や目指す姿などを「共通言語」として明文化しました。そして、これらを一連のスライドにまとめて、ぬのびきミーティングなど機会があるたびに、繰り返し参加者に見せているそうです。「私たちは何者か、何のために活動するか、いつでもブレることなく立ち戻れる場所を明確にしておくためです」と諸藤さんは話します。プロジェクトの参加者の活動に対する認識を常にそろえておけることや、新しい参加者がプロジェクトの趣旨を正しく理解することにも役立っています。
こうして、プロジェクトには少しずつ人が集まり、関わり方も多様になっていきました。

  • ぬのびきプロジェクトの「共通言語」(2023年11月~)
    ぬのびきプロジェクトの「共通言語」(2023年11月~)※
ぬのびきプロジェクト 人の関わりイメージ図(ぬのびきプロジェクト資料を基に作成)
ぬのびきプロジェクト 人の関わりイメージ図(ぬのびきプロジェクト資料を基に作成)

4.人のつながりを持続可能な体制に変える


一方で、人のつながりが広がるほど、活動の内容も複雑になっていきました。
楽しく関わる場をつくるだけでなく、その活動を無理なく続けるための体制や資金をどう整えるか。プロジェクトは次の段階へと進んでいきます。

(1)ボランティアの限界

活動2年目の2024年度、北助松商店街(ぬのびきプロジェクト)として、中小機構の中心市街地・商店街等診断・サポート事業(巡回型支援)を活用し、空き店舗プロジェクトに着手しました。専門家による全3回の訪問で、空き店舗対策について学び、商店街内の空き店舗の調査を実施しました。
支援ののち、プロジェクトの事業として、貸店舗見学ツアーやチャレンジショップ実証実験を行いました。

  • 貸店舗見学ツアーと北助松チャレンジショップの告知 
  • 貸店舗見学ツアーと北助松チャレンジショップの告知 
    貸店舗見学ツアーと北助松チャレンジショップの告知 ※

この取り組みはとてもハードだったと諸橋さんは振り返ります。「同じ商店街のなかの大家さんに『貸す気ありますか?』って聞くのは、素人にとっては厳しかった」と話します。 専門性が必要で、業であれば有償になるような活動を、完全なボランティアで続けることに限界があると痛感したそうです。

インスタグラムなどSNS投稿の編集やデザインでも、新しい参加者が率先して取り組んでくれるのを喜びつつも、無償で制作を続けてもらうことに、このままではいけないと思ったそうです。
みんな一緒にボランティアで楽しむことも大切、しかし役務として報酬を払って依頼することは、きちんと切り分けるべきということです。 「これはもう仕事のレベルやろ、という部分には、きちんとお金を回す」、そのためのお金を集め、さらには集めてプロジェクトを回す役割を設けることも必要だと考えるようになりました。

(2)外部人材からの資金調達のヒント

プロジェクトの活動資金の多くは、行政からの補助金でした。しかし、補助金は後払いで立て替えが必要なことや、消費税分が対象外であること、年度を経るごとに補助率が下がることなどから、補助金に頼ることへの不安を感じるようになりました。補助金のために活動しているような違和感もあったそうです。

「自分たちでお金を生み出す仕組みをつくる」という方向に転換する契機となったのが、Yさんの参加でした。
Yさんは、企業人として他の地域のまちづくり事業に関わってきた経験を持ち、プロジェクトの活動を高く評価していました。Yさんは、行政からの事業受託、金融機関との接点づくり、寄付の仕組みの可能性など、具体的な資金調達の手法についてアドバイスをしてくれたり、実際に営業活動的な動きにも踏み込む姿勢を見せてくれています。
Yさんの提案を「全くの発想外のアドバイスだった」と諸橋さんは話します。そして、イメージしにくかった「お金を生み出す活動」を、現実的なものとして捉えられるようになったそうです。

(3)組織の強化に向けて

活動3年目となる2026年春、諸橋さん(代表)、井上さん(副代表)、金原さん(会計)が動き出しました。資金調達のための活動や、仕事を受注するための体制づくりに着手したのです。

今までの活動(現在も)はすべてぬのびきプロジェクトの活動、事業に対して賛同、協力してくださる方々のボランティア活動で成り立ってきました。市などの補助金あっての事業、活動となっている中、このままでは賛同協力してくだる方々をはじめぬのびきプロジェクトメンバーにも時間的、経済的な様々な限界が来て活動自体が消極化してしまう懸念がありました。そこで自らが活動費を生み出し携わってくださる方々の負担を軽減できる仕組みを考えることになり、将来的には一般社団法人の設立も視野に入れているそうです。

プロジェクトでは、2025年10月に共通言語を刷新しました。新しく掲げた理念「未来のたまごをはぐくむまちづくり」に は、かつて諸橋さんが商店街の人たちから受けたような、子どもたちや創業希望者など、商店街を中心としたまちなかで 育ち、活躍しようとする人たちを応援したいという思いが込められています。現在進行中の組織強化の動きはこの変化に も関連しています。地域活動が経済的な力を充実させ、未来の担い手につなげていくという明確な方向性を打ち出した ことは、プロジェクトにとって大きな転換点と言えます。

ぬのびきプロジェクト 現在の紹介文 
ぬのびきプロジェクト 現在の紹介文 ※

5.取材を終えて

今回の取材を通じて印象的だったのは、一連の取り組みが、特別な仕掛けや強い動員によって成り立っているのではなく、地域の暮らしに目を向けながら、関わりやすい場を少しずつ整えてきたことでした。先進事例を柔軟に取り入れ、周囲の知識や経験を素直に受け入れながら進めていく諸橋さんの姿勢が、応援団のように力を貸す人たちを呼び込み、人のつながりを広げる土台になっていたように見えます。
一方で、人が集まり始めた先には、運営の負担や資金、組織のあり方といった次の課題が生まれていました。本事例は、参加のきっかけづくりだけでなく、その先をどう持続可能な体制につなげていくかまで含めて考える必要があることを示しています。
商店街や地域活動の現場では、人材不足や担い手不足がしばしば課題として語られますが、本事例は解決の糸口が、人が自然に関わりたくなる関係性や場をどう育てるかにあることをあらためて教えてくれます。こうした視点は、同様の悩みを抱える地域にとっても、大きなヒントになるのではないでしょうか。

※印の写真は、以下のぬのびきプロジェクトの公開情報から承諾をいただき引用しました。

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