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地域経済活性化のための公共空間利活用の新しい形
~誰もがチャレンジできる場づくりとプレイヤー発掘~(福島県須賀川市)

 福島県須賀川市では 中心市街地の公共施設や駐車場、広場といった公共空間の利活用を積極的に推進しており、民間事業者でも営利・非営利を問わず活用できる取組みが特徴的です。従来、民間事業者の営利目的使用が制限されていた公共施設・空間の使用要件を緩和し、収益事業も行えるようにするとともに、活用事例を紹介するなど継続的な啓発活動を行っています。
 2015年から始まったRojima(ロジマ:広場や路地を活かした月1回開催されるマーケット)は開催70回を超え、休日における回遊性向上だけでなく、創業・出店の増加に寄与し、既存事業者の顧客獲得の場にもなっています。
 今回、須賀川市及び須賀川商工会議所(協議会事務局)、株式会社こぷろ須賀川へ取材を行い、官民連携で推進する公共空間利活用の状況や今後の展望について伺いました。
  

(須賀川市 経済環境部 商工課)  ・にぎわい創出係長 藤田 克典氏
                 ・主任 大和田 卓氏(一般社団法人ロヂカラ 理事)

(須賀川商工会議所)        ・地域振興課長 国分 英樹氏
                 ・地域振興課主事 箭内 達哉氏

(株式会社こぷろ須賀川)       ・専務取締役 平栗 正之氏
                 ・企画事業部 業務課長 吉田 和樹氏

<目次>

  • 須賀川市
    (左)大和田卓氏 (右)藤田克典氏
  • 須賀川商工会議所
    (左)国分英樹氏 (右)箭内 達哉氏
  • 株式会社こぷろ須賀川
    (左)平栗正之氏 (右)吉田和樹氏
  1. 須賀川市の地域概要と認定基本計画進捗状況
  2. 民間事業者の公共空間利活用状況
  3. 公共空間の利活用を促進させる制度整備
  4. 民間事業者の利活用を増やすための工夫
  5. Rojima(ロジマ)と創業出店者を増やす支援体制
  6. 今後の展望と課題について
  7. 取材を終えて

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.須賀川市の地域概要と認定基本計画の進捗状況

 須賀川市は人口73,800人(2022年10月1日現在)、福島県中通りの中部に位置しています。郡山駅から東北本線で所要時間12分、県内唯一の空の玄関口である福島空港を有するなど、高速交通網にも恵まれた交通アクセスの良い地域といえます。
 当市は奥州街道屈指の宿場町として栄えていた頃、松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅の途次8日間滞在するなど、俳諧や職人文化のある街です。また、「ウルトラマン」や「ゴジラ」を世に送り出した、〝特撮の神様〟円谷英二監督の出生の地でもあります。市では、和文化と特撮文化を活かしたまちづくりに精力的に取り組んでいます。
 
 第1期基本計画(2014年4月~2019年3月)では、東日本大震災で甚大な被害を受けて使用不能となった市役所庁舎を建て替えたほか、複合拠点施設である『市民交流センター(愛称tette:てって)』の整備を行いました。市民交流センターtetteが2019年に開館したことにより、中心市街地への来街者が大幅に増加し、賑わいが周辺の飲食店等にも波及しています。
 現在は第2期計画(2019年4月~2024年3月)が推進中で、令和2(2020)年には俳句などの和文化伝承展示等を行う『風流のはじめ館』、須賀川観光物産館『flatto(フラット)』が開館したほか、民間事業者によるシェアオフィスやサテライトオフィスも整備される等、中心市街地には新たな動きが出ています。

  • 市民交流センター(tette)
  • flatto(HPより)
  • 風流のはじめ館(HPより)
  • 須賀川市役所 光の広場のモニュメント
    (須賀川市観光物産振興協会HPより)
  • 松明通りのモニュメント
    (須賀川市観光物産振興協会HPより)

 その他、公共空間利活用としてRojima(ロジマ)※等のマルシェ事業やキッチンカーイベント等も定期的に行われており、中心市街地の魅力向上に繋がっています。

※Rojima(ロジマ:広場や路地を活かしたマーケット)
須賀川の街の中で、新たなヒトとモノの交流が生まれることを願い、路地裏散策をテーマに2015年から始まったマーケットです。駐車場や空き店舗、広場など、街中の路地に面した様々な空間を利用しながら、毎月第2日曜日に開催されています。民間団体である一般社団法人ロヂカラが運営しています。

 第2期計画では、①魅力あるコンテンツを増やし、休日における回遊性を向上させる、②新たに店舗を構える人を増やす、③公共施設・空間の民間活用を増やす、の3つを目標としています。

出典:第2期須賀川市中心市街地活性化基本計画パンフレットより

 令和3年度末までに、①休日の歩行者通行量、③民間事業者における対象施設利用件数は、ともに目標値を大きく超え達成し、②新規出店数についても、5年間で36店舗目標のところ3年目までの実績で27店舗と、達成が見込まれています。

 市民交流センターtetteの集客力とともに、民間事業者による公共空間の利活用や各種イベントが行われたことで、休日の歩行者通行量の増加につながり、Rojimaやチャレンジショップなどの「チャレンジできる場」と創業を支援する体制(後述)があることで、新規出店数が増加していると考えられます。


2.民間事業者の公共空間利活用状況

 中心市街地では、市庁舎や市民交流センターtette、風流のはじめ館といった主要施設のほか、公園や広場、道路などの公共空間を活用することができます。

民間事業者による営利目的利用の件数推移
(出典:令和3年度定期フォローアップ報告書より)

 上図は主要な6施設(公共空間・公共施設)における民間事業者の営利目的利用件数の推移です。令和2(2020)年度は新型コロナウイルス感染症の影響により利用件数が減少しましたが、令和3(2021)年度は595件と大きく増加しました。全体の利用件数のうち84%が市民交流センターtetteでの利用であり、民間事業者の収益事業にも多く利用されています。
 また、公共空間利活用の一環で、週1回市役所の防災広場にキッチンカーが3~4台出店し、社会実験を行っています。他の施設前においても、要望があれば各窓口で対応しています。


3.公共空間の利活用を促進させる制度整備

 民間事業者の営利活動に対して制限を設ける地域が多い中、当市では積極的に利活用を推進しています。制度整備やポイント等について伺いました。

民間事業者による利活用推進の狙い

 当市における公共施設・空間の積極的な利活用推進は第2期計画から始まりました。市の財源に負担をかけずに公共施設を維持することを考える中で、民間事業者の利活用を増やして施設の収益を上げるとともに、民間事業の活力向上に寄与することで、中心市街地を活性化させたい考えがありました。

最初から稼ぐ施設として位置づけられた『市民交流センターtette』

 市民交流センターtetteは、図書館や公民館などの生涯学習機能をはじめ、子育て支援、市民活動団体等の支援、賑わい機能などを併せ持つ、集客力の高い複合施設として整備されました。1Fにはコンビニエンスストアやチャレンジショップも出店しています。また、5Fには円谷英二ミュージアムが併設され、パネルや映像インタビューで円谷氏の軌跡を紹介するほか、特撮メイキング映像や造形物が展示されています。

  • 市民交流センターtette施設内
    (tette HPより)
  • 市民交流センターtette1F
    チャレンジショップ
  • 円谷英二ミュージアム
    (tette HPより)

 従来、同様の施設は社会教育法に基づいて設置されることが多く、その場合は法律の制限があり、営利活動はできませんでした。

 市民交流センターtetteは、当初から「稼ぐ施設にしよう」という考えのもと、制度が整えられました。
 地方自治法に基づく施設として、条例を定めることにより、営利活動が出来るように整備しました。これにより館内にコンビニエンスストアが出店でき、駐車場も一定時間経過後は有料化しています。貸館については、営利活動の場合1.5倍から3倍の料金で貸し出しています。
 なお、市民交流センターtette以外の公共施設・空間においても同様の対応をしています。


4.民間事業者の利活用を増やすための工夫

 民間事業者の利活用を増やすため、制度整備のほか、市民への啓発も進めています。

ガイドブックによる見える化・周知で利活用を推進

 全国的にも公共空間等の利活用が進められている中、当市においても民間事業者の利活用を推進するため、商工課において2020年度に『須賀川市中心市街地公共空間活用ガイド』を作成しました。
 まずは、庁内各課における利活用の機運を高めるため内部向けガイドラインを作成し、翌年度に一般向けのガイドブックを作成しています。
 ガイドブックは、対象エリア及び施設、活用事例をイラストや写真を使って分かりやすく説明するほか、窓口・手続きを一覧化し、連絡先をまとめています。
 「活用してみたいが、どこに相談したら良いかわからない」「何を説明したら良いか」等、相談履歴の中から市民の意見を反映し、より使いやすい内容に仕上がっています。

ポイントはガイドブック裏面の『公共空間の利活用事業相談シート』 

 ガイドブックの最後のページに『公共空間の利活用事業相談シート』があり、相談する前に記入してもらうことで、「誰がいつどこに向けてどのようなことをやりたいのか」を5W1Hで整理できるようになっています。どの窓口に持って行っても活用できる相談シートにより、利活用したい民間事業者と受け付ける側双方の利便性を向上しています。

『公共空間の利活用事業相談シート』より抜粋

5.Rojima(ロジマ)と創業出店者を増やす支援体制 

 Rojimaは、一般社団法人ロヂカラが運営し、まちづくり会社の株式会社こぷろ須賀川が出店受付や調整等の事務局を担っています。
 発端は市役所職員で始めた勉強会で、当初からまちづくりを意識していた勉強会ではありませんでしたが、回を重ねるごとに、「具体性があり、震災後に疲弊しているまちなかにプラスになる事業を」と考え、自分たちで資金を出し合って開始しました。 もともとマルシェイベント等に出店していた方に声をかけ、約25店舗から始めた路地裏の小さなマーケットが、今や最大180店舗が集まるまでに成長しています。(現在はコロナウイルス感染拡大防止の観点から、出店者数を制限して開催しています。)
 開始当初は路地裏を中心とした会場で実施していましたが、出店希望者の増加に伴い、開催エリアは路地裏だけでなく、公園や市役所防災広場等まで広がっています。Rojimaの集客力の高まりに伴い、店舗を持たない事業者だけでなく、すでにお店を構えている事業者も、お店を知ってもらうために出店するケースが増えてきました。
 なお、行政の補助金等は一切入っておらず、出店者からの出店料で事業を運営しています。

  • 第69回Rojimaの様子
    (通り沿い)
  • 第69回Rojimaの様子
    (市役所1F)
  • 第69回Rojimaの様子
    (風流のはじめ館前)

まちなか散策のきっかけにも 

 Rojima当日、本部や各拠点では出店者情報を掲載した地図を配布しており、初めての人はマップを手に店巡りをし、リピーターの人も新たなお店を発見する等の楽しみがあります。スタンプラリー企画は各会場を回るきっかけになり、各ポイントを回ることで中心市街地のまち歩きを楽しめます。

創業出店希望者をバックアップする支援機能(こぷろ須賀川の創業者支援) 

 Rojimaは休日の歩行者数増加や中心市街地の賑わい創出に寄与するほか、創業出店者発掘の場にもなっており、須賀川市の創業者支援機能とうまく連携しています。
 まちづくり会社の株式会社こぷろ須賀川は、リノベーション事業、コインパーキング事業、コミュニティFM事業、ユニット型店舗の運営、ウルトラマングッズの商品開発・販売事業など、幅広く事業を行っています。基本計画の中の重要事業でもある「まちなかの出店推進業務」として、須賀川市から委託を受け、情報発信や創業相談対応等の支援事業を行っています。
 期間限定のポップアップストアの運営等を行い、起業に向けてチャレンジできる場を設置するほか、市からの委託を受けた市民交流センターtette内のチャレンジショップの支援や、創業支援情報サイトの運営・発信、空き物件情報紹介など、多方面から創業者向けの支援を行っています。
 また、同社が運営している、製菓作業室『おかしばこ』は保健所から製造許可を取得しており、作業環境を持たないRojima出店者等が活用しています。

左:おかしばこ  中:ユニット型店舗  右:創業支援情報発信サイト (こぷろ須賀川資料より)

Rojimaから創業出店した事例と地域への波及効果

 創業出店支援の取組み等も奏功し、Rojimaの出店者から新規創業された方が出てきています。Rojima→tette内のチャレンジショップ→創業出店という流れで出店したケースもあります。これまでに、飲食業、小売業、カフェバー、花卉店、整体等幅広い業種の7店舗がRojimaから創業しています(2021年度までの実績)。
 前述の市民交流センターtetteや観光物産館flatto等の施設整備によりまちなかの集客力が上がってきた中で、Rojimaというソフトの仕掛けでプレイヤー候補を集める動きがうまく連携した結果といえます。月1回のマルシェ事業がエリアの賑わいをつくるだけでなく、新しい魅力的な店舗の出店に寄与しており、地域への波及効果は大きいといえます。
 また、Rojimaの運営スタッフはロヂカラのメンバーのほか、ボランティアスタッフとして大学生や高校生が参画し、受付案内、パンフレットの配付、駐車場での来場者誘導、会場の片づけ等で活躍しています。若年層にまちへの関心を持ってもらうきっかけにもなっています。


6.今後の展望と課題について

 今後は、Rojimaのように自治体からの補助がなくても、自ら収益を得て継続的に実施していけるような事業が公民連携で定着し、民間事業者による公共空間の利活用等により、中心市街地を活性化させていきたい考えです。

「使いたい人」を見つけ、更に活用を広げる 

 民間事業者の利活用についてはまだ伸び代があると、市では考えています。現在はRojima出店者のうち興味のある方に他施設の活用を提案する等、案内して利用者を増やしています。
 「使いたい人を見つける」こと、「誰に相談したらいいか」、「どのように使えるか」をさらにわかりやすく、市民にPRして行くことが必要だと捉えています。
 Rojimaはプレイヤー発掘チャネルの一つとして確立しており、出店者に対してステップアップを含めた更なる利活用を案内する動線ができています。今後更に広げていくためには、商工会議所等他団体とも連携して、出店・創業意欲の高い人を見つけて使ってもらう。そうした人から更に利活用を広げていけるよう、ハブになる人や組織が必要とも考えています。

市民向けの講演会を開催して啓発を実施
「公共空間利活用推進に関する講演会」チラシ抜粋(こぷろ須賀川HP)

市民交流センターtetteを核にした中心市街地全体の回遊性向上

 第2期計画においてハードの整備がほぼ完了します。今後は整備されたハードを活用したソフト事業による更なる活性化を中心に考えています。特に、市民交流センターtetteを核にした中心市街地全体に回遊性向上を目指し、エリア内の商業活性化に結び付けるため、引き続き各種取組みを深化させていきたい、ということでした。

  • 第69回Rojima時の市役所広場
  • 第69回Rojima時の通りのようす

7.取材を終えて 

 須賀川市商工課の大和田氏は市職員の立場ですが、Rojimaの立上げメンバーでもあります。一部の有志でお金を出し合って始めたRojimaも、回を重ねるごとに認知度が上がり、今では毎回平均6,000~7,000人が来場する大規模なマルシェ事業に成長しています。
 今後のRojimaの展開を伺ったところ、「Rojimaがなくなること自体が目標」と発言されたのが印象的でした。
 公共空間や、民地・空地等に、一般の方が気軽に出店できる雰囲気を作っていき、最終的にはRojimaが無くても、賑わう光景が日常的になり、収益を得られる人自体も増えるところまで行きつければ理想、ということでした。

 須賀川市では、行政と民間が協力しながら進めている公共空間の営利目的活用と、Rojimaなどの民間の動き、創業支援事業がうまく連動し、地域の経済にも波及しながら中心市街地の活性化にもつながる、良い循環が出来上がりつつあります。
 また、当市では経済産業省令和4年度地域商業機能複合化推進事業に採択された事業「須賀川市とまちづくり会社による、空きビルを活用した魅力あるコンテンツの集積事業」も進行中です。

 今後民間事業者の公共空間利活用が更に活発化することにより、Rojimaに続く民間主体の取組みが増え、中心市街地エリアの風景が変わっていくことが期待されます。