MARUHIKO PROJECT ~秋田県能代市から発信する、新しいコミュニティ商店街活性化事業~
(秋田県能代市)
2021年11月11日~12日、青森県八戸市で開催された『東北地域中心市街地および商店街関連セミナー~まちの人材育成編~』(以下セミナー)において、経済産業省の補助事業を活用した東北地域の事例の中から、地域の関係者がネットワークを構築し、合意形成を進めながら拠点形成を行った事例として、2つの地域の発表がありました。発表の詳細を事例としてまとめました。
(※セミナーの詳細報告は下のボタンをクリックしてください)
事例紹介:秋田県能代市(能代駅前商店会)<コミュニティ拠点整備>
(発表者)合同会社のしろ家守舎 代表社員 湊哲一氏、
能代市環境産業部商工労働課 中心市街地活性化室 室長 堀口誠氏
事業概要
(事業名)
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MARUHIKO PROJECT(秋田県能代市から発信する、新しいコミュニティ商店街活性化事業)
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(活用した事業)
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令和3年度地域商業機能複合化推進事業
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(取組概要)
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空き店舗の「丸彦商店」の改装
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【ハード】
【ソフト】
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①シェアオフィス・コワーキングスペースの設置
②「こどもの遊び場」の設置
③カフェ・物販ブースの設置
④DIYブースの設置
①創業支援及びチャレンジショップ支援
②子育て支援及びコミュニティ機能
③住民参加型の地元木材を活用したDIYプログラム、自身で行う空き店舗リノベーションのノウハウ支援
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(課題及び目的)
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・子供や子育てママ等を中心に人が集まるコミュニティエリアを提供する。
・チャレンジオフィス等の展開により、空き店舗率を低減する。
・DIYを活用した店舗リノベーションによる地元木材関連産業の振興を図り、【木材能代】を復活させる。
・街全体のイベント等の実施により、人の流れや観光客増を展開する。
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商店街等の位置情報
地域概要と課題
秋田県能代市は県北西部に位置し、日本海、世界自然遺産「白神山地」、出羽丘陵森林地帯に囲まれ秋田杉をはじめとする木材関連産業等で栄えた町です。1989年度からバスケットボールのまちづくり事業等、地元市民と一体となった取り組みを展開するも商店街の衰退は止まらず、中心市街地の空き店舗率は29.5%(平成30年度)となりました。
合同会社のしろ家守舎は2020年度、能代の街を元気にしていくことを目標に、まちなかで事業を行っていた家具店、仏壇店、建設会社、飲食店をそれぞれ経営する多様な4人の若手事業者が立ち上げたばかりの会社です。
セミナーでは、代表社員の湊哲一氏より、まちづくりに関わった経緯、どのような思いで活動しているか等を交えながら事例が紹介されました。
MARUHIKO PROJECT(マルヒコプロジェクト)、のしろ家守舎立ち上げの経緯
能代市出身の湊氏はもともと神奈川県で家具店を経営しており、より環境の良いところで家具を作りたいという思いから、4年前にUターンで能代市に戻ってきました。
帰郷後、まちなかで子供が遊ぶ風景が見られないことが気になったといいます。それまでまちづくりに関わっていなかった湊氏は「この状況をどうにかしたい」という思いを持つようになったそうです。
そのようなタイミングで能代市中心市街地活性化室の堀口室長から、秋田県主催のまちづくり勉強会への参加を誘われたことをきっかけに、能代市中心市街地のまちづくりへ関わることになりました。
マルヒコプロジェクトへ
能代市の駅前・畠町通りは空き店舗が増え、東北でも代表的なシャッター街と呼ばれるほどの商店街になっています。
そのような状況をもたらしている能代市のまちなかに足りないものは何か、湊氏や集まったメンバーで考えた結果、「空き店舗だらけ(働く場所がない)」「子供のあそび場がない」「子育てママさん達の居場所が無い」「木都能代らしい場所がない」の4つの要素が挙げられました。
そこで、これらの要素を詰め込んだ複合施設をつくろうということになりました。メンバーでまちなかを歩き、効果的な事業が展開できそうな物件を探して歩きました。そこで目に留まったのが駅前の空き店舗、旧丸彦商店(元酒屋)でした。
旧丸彦商店をリノベーションし、子どもの遊び場やカフェ、DIY のがっこう、コワーキングスペースなど、多世代が集まれる居場所をつくる。そして、この拠点から周辺へ賑わいやコミュニティを広げ、地域を再生する「エリアリノベーション」を目指そうというのがこの取り組みです。
丸彦商店 地権者(大家さん)との出会い
プロジェクトを進める上で、旧丸彦商店の地権者との出会いも重要なポイントでした。商店街を何度も歩いて空き店舗を探し、立地と外観などからまず旧丸彦商店をターゲットにしました。しかしながら当初、地権者はプロジェクトに乗り気ではなく、建物を貸し出す意向を持っていませんでした。
そこでメンバーは地権者の元に足を運び、荷物の片付けなどちょっとした「手伝い」をしはじめました。行政担当者も同様に地権者に働きかけ、この活動の地域への意義を後押ししました。毎日にわたるような訪問、交流、行政の後押しを通して、地権者もだんだんとやりたいことを理解してくれるようになり、物件を借りることができるようになりました。
なお、旧丸彦商店を選定した理由の中には、地下の広大な空間など想像以上の広さと雰囲気があったことから大きな可能性を感じたこともあるそうです。メンバーはこの物件にインパクトを受け、ここで何かを始めてみたい!と思ったことが、本格的にマルヒコプロジェクトに踏み出すきっかけの一つだった、と湊氏は語りました。
みんなで取り組む、次の人を支援するための会社設立
湊氏は、「2019年の県主催の勉強会に参加してからマルヒコプロジェクトを立ち上げ、2020年に会社を設立といったように、進み方は怒涛の流れのようだった。勉強会での学びも活かし“みんなで頑張れば良い”という雰囲気を作った結果、背中を押してくれる人が増えた。自分たちもまた、次の人を支援していきたいという思いもあり、会社を設立することにした」と振り返りました。
幅広の歩道を活用した地元イベント・観光誘致イベントの実施
メンバーはまた、ハードの拠点を一つ整備するだけではなく所属している駅前商店会で能代の名物になるようなイベントを作りたい思いから、秋田県と能代市の協力を得てイベント社会実験を行いました。
車道と歩道が広い優位点を活かし、道路空間を利活用した「のしろいち」等、市民が気軽に訪れて楽しむことができる取組みを実施したところ、延べ15,000人が集まる結果となりました。空き店舗だけではなく歩道や道路空間も同時に利活用した取組みの手応えを感じることができました。
能代市のかかわり
当セミナーでは能代市の中心市街地活性化室の堀口室長からも、湊氏の発表を振り返りながら、市の関わりという視点での発表がありました。
堀口室長は中心市街地活性化室に配属になるまで、まちづくりに関係したことはなかったものの、シャッター街の現状を見て何かしないといけないという思いを常に抱いていました。新しく子供向けスタンプラリーを実施するなど活性化のための活動を行っているうちに、商店街関係者をはじめとして、その思いに共感してくれる人がつながっていったそうです。そのような動きはマルヒコプロジェクトにもつながっていくことになります。堀口室長は行政職員ながら民間ののしろ家守舎メンバーとともに学び、ともに地権者に交渉し、ともにイベントを企画し、事業計画作成も支援をしてきました。
一般的にこのような支援は、「個社支援」とみられ行政は及び腰になりがちです。しかしマルヒコプロジェクトは「取組みを支援することで地域に効果が波及する」ものとして一般的な民間事業以上に公益性を有するものです。その考え方を市役所内部のみならず市民に対しても広報誌等で丁寧に説明したといいます。結果的にそれはむしろ、能代市全体としてのしろ家守舎と駅前商店会を応援することがまちなかの活性化につながる、という機運の醸成につながったそうです。
堀口室長は行政サイドの得意なこと、民間の得意なこと等、役割分担を常に意識しながら伴走的に事業立ち上げを支援してきた、それが事業を推進していく上では不可欠な連携でもある、と聴講者に伝えました。さらに、「行政も民間も、自分事として捉えることが大切であること。関わる人に感謝しながら、お互いをリスペクトし合いながら、そういった気持ちで4年間取り組んできたことで街の姿も変わってきた。行政の立場での支援…といったように、難しく捉えなくても良いと思う」と結びました。
今後について
2021年春、まず秋田県の事業を活用しコワーキングスペース・シェアオフィス「Co-motomachi」を開業し、現在10事業者が入居済です。1Fの主となる機能である「こどもの遊び場」とカフェ、地下のDIYの学校「KILTA能代」の整備にあたっては経済産業省の『地域商業機能複合化推進事業』を活用の他、クラウドファンディングで資金を募り、目標額の100万円を大きく上回る165万7千円の寄付獲得につながっております。2022年1月現在、1階のカフェが試験的にオープンを開始しており、3月のグランドオープンに向けて整備が進められています。