市民が集う拠点整備とソフト展開でエリアの魅力更新中~八戸市中心市街地活性化の取組み~
(青森県八戸市)
2021年11月11日~12日、青森県八戸市で開催された『東北地域中心市街地および商店街関連セミナー~まちの人材育成編~』が開催されました。
2日目に『八戸市中心市街地活性化について』と題して、柳沢拓哉氏(株式会社まちづくり八戸)より、八戸市の中心市街地における取組みと柳沢氏の関わりについて講演がありました。この記事は講演内容を事例としてまとめたものです。
(※セミナーの詳細報告は下のボタンをクリックしてください)
八戸市について
八戸市は青森県の南東部に位置し、太平洋に面しています。人口223,640人(令和3年11月30日現在)、商圏人口は約60万人強です。八戸市は東北新幹線八戸駅、八戸港フェリーターミナル、三沢空港と近く陸海空の交通結節点です。北東北有数の工業都市であり、サバ、イカ等の水揚げも多く全国有数の水産都市でもあります。
中心市街地は八戸市のほぼ中央に位置し、行政、金融、商業等の機能が集積しています。大型店舗や行政機関の移転・撤退による集客力の低下に伴い、歩行者通行量の減少、定住人口の減少も重なり、中心部の賑わいが失われつつあった平成20年に第一期中心市街地活性化基本計画の認定を受け、活性化の取組みを始めました。
そこに至るまでの近年の八戸市の中心市街地にはいくつかの転換期がありました。ひとつ目は東北新幹線の八戸駅開業、ふたつ目は郊外への大型ショッピングセンター誘致計画への対応でした。
八戸市中心市街地 第一の転換期:平成14年東北新幹線の開業
八戸市は東北でも有数の工業都市、港湾都市であり、商業や文化より産業都市の顔が強く、観光面にあまり注力してきませんでした。東北新幹線の八戸開業を前にしたテレビ局の取材で、「八戸の見どころは?」という質問に対して、タクシーの運転手が「八戸は見るところがないので、十和田や二戸に行った方がいい」と話している映像が全国放送で流れたそうです。まちの関係者は非常にショックを受け、八戸商工会議所や行政を中心に、それまで弱かった観光を強化する取組みを始めました。
そのひとつが全国二例目の屋台村でしたが、一過性の開業イベントで終わらせることなく形にするため数人の経営者が出資して会社を作り、現在では26店舗、年間総売上げ4億8000万円(新型コロナ禍前)という全国でも有数の屋台村に成長し、八戸の大切な観光資源になっています。
八戸市中心市街地 第二の転換期:郊外のショッピングセンター誘致計画
第二の転換期は、前市長が就任した頃に検討されていた、郊外に5万平米以上のショッピングセンター(以下SC)を誘致する計画でした。既に市内および隣接自治体に複数の大型SCやモールが立地していた八戸でしたが、郊外にSCを誘致したい土地区画整理組合側と中心市街地の活性化を進めたい商業者側の意見が対立し、市が立ち上げた商業アドバイザリー会議では専門家が入って活発な議論があったとのことです。
民間の立場で公聴会に出席した柳沢氏は、「自分や周辺の利益や利便性の話だけしていたら八戸は終わってしまうのではないか」という複数の意見を出したのが、土地区画整理組合側でもなく中心市街地の商業者でもない市内近郊商店街の方々だったことが、とても印象に残っているそうです。
そういった意見や議論を踏まえた結果、都市計画に基づいて1万平米以下の建物しか認めないという方針になりました。
「大型のSC計画を止めたところから、八戸市として覚悟を決めて、中心市街地の活性化に取り組んできたといえる」と、柳沢氏は講演の中で語りました。
3期にわたる中心市街地活性化基本計画の中で整備してきた主な施設
ポータルミュージアム「はっち」のオープン(平成23年)
その後、柳沢氏は八戸市が開設を進める施設「はっち」の開設準備室に入り、初期の段階からまちの人や実際に使う市民と交流しながら信頼関係を作ってきました。
なお、当初は観光交流施設を想定していた「はっち」ですが、前述の郊外SC計画ストップを経て、八戸市中心市街地活性化基本計画や八戸市都市計画マスタープランの基本理念等もあり、「中心街に人を呼び込んで賑わいのきっかけになるような」「市民が何度もリピーターとして訪れるような」複合施設を開設する方針に変わっていきました。そして、新たな交流と創造の拠点として、中心市街地・八戸市全体の活性化を目指す「はっち」はオープンします。
(ポータルミュージアム「はっち」に関する記事)
八戸ポータルミュージアム 1周年で888,888人来館! 青森県八戸市
館内には、飲食やものづくりのチャレンジショップやシアター、ギャラリー、アトリエ、子育て交流スペース、FMスタジオ、アーティストの宿泊施設、観光インフォメーション等、多彩な機能が用意されています。
1つの施設にさまざまな機能を入れることで、これまでまちに来なかった人たちがエリアに集まるきっかけとなり、またエリアの商店街が活性化していけば、この施設自体もさらに賑わいが出るような好スパイラルを意図しました。
また敢えて「はっち」に駐車場を作らないことで、公共交通機関の活用と近隣の民間駐車場や百貨店、商店街との連携を図っています。
「本のまち八戸」推進事業と『八戸ブックセンター』(平成28年~)
八戸ブックセンターは全国でも珍しい市営の書店であり、「本のまち八戸」事業※を推進するための中心的施設で、後述する民間ビル「ガーデンテラス」に入居しています。
※「本のまち八戸」(第6次八戸総合計画(平成28年から32年の五カ年計画)のうち重点的に推進すべきまちづくり戦略のひとつに位置付けられています。
「本のまち八戸」事業は、例えば生後90日~1歳未満までの赤ちゃんを対象に、検診終了後にボランティアによる絵本の読み聞かせを通じて親子関係を築くことを目的とした「ブックスタート事業」、市内の小学生を対象に商店街などの市内の民間書店で使用できるクーポンを配布し、自ら本を選び購入する体験を通して読書に親しんでもらう目的の「マイブック推進事業」などがあります。商店街の書店で、実際に自分で選んで本を買うという体験が、子育ての支援の中でも非常に重要という観点で事業を実施しています。
八戸ブックセンターは、市民が本に触れる新たなきっかけを創出するため、本の閲覧スペースと販売機能の提供、及び本に関するイベントや企画実施等を行っています。
売れ筋以外の本でも専門スタッフが選書した本を販売しているのが特徴です。昨今ネットショップで本を買う人が増え、地方の書店では売れ筋の本だけを取り扱いがちになる中、地方でも良い本に触れることができるようにという意図があります。また、飲み物を飲みながら手に取って読むことができるカフェ機能も併設しました。
また、「本のまち八戸」実現のために市内の書店が集まって「どのように本を並べれば、本が売れない今の時代に売れるようになるのか」等、専門スタッフとともに、成功体験や失敗談を共有する情報交換会を毎月開いたり、運営面でも市内書店が共同で会社を立ち上げ参画するなど、民間の書店とスクラムを組みながら共に事業を推進しています。
「マチニワ」による新しい繋がり
「はっち」と「八戸ブックセンター」の間にある、まちなか広場「マチニワ」は、ガラスの屋根つき広場で、雨や雪などの天候に左右されずに過ごせる多目的スペースです。平成30年に竣工しました。
実はこの場所はシャッターが閉まったまま20年ぐらい手付かずだった2つの商業ビルでした。そのビルを地元の葬祭事業を手掛ける企業の創業者が「まちへの最後の貢献として、何とかしたい」という思いで再開発に着手したことがきっかけだったそうです。
その後、「はっち」との連携により中心市街地活性化の効果を引き出すことが期待できることから八戸市も再開発に参画し、葬祭会社が敷地の半分を複合ビル(ガーデンテラス)として、市が半分を広場・公共空間(マチニワ)として整備することになりました。
待ち合わせ場所や広場としての顔のほか、中心街の飲食店の若手経営者がこの場所を使ってバルイベントを開いたり、結婚式や、マルシェやクラフト作家のイベントも実施されています。これまで中心街の飲食店同士が一緒にイベントをすることは少なく、「マチニワ」ができたことによって、まちなかの新しい繋がりが生まれました。
葬祭会社が建設したガーデンテラスには、八戸ブックセンターが入居しているほか、国内大手のIT企業が東日本の拠点として入居し270名のスタッフが働いています。
株式会社まちづくり八戸で取り組んでいる事業について
まちづくり八戸では、主に以下の事業を行っています。
マンション建設・賃貸(八戸番町ヒルズ)
まちづくり八戸がマンションを建設し、八戸市が市営住宅として20年間借り上げている連携事業。1階には7時~27時まで開園の保育園が入居し、中心街で働く保護者のニーズに応えている。
共通駐車券事業
中心市街地の27駐車場で使用可能な共通駐車券の発行、運営を行う。
まごころ宅配サービス
中心商店街取扱店での買い上げ商品を360円で自宅まで配送するもの。(※令和4年1月現在は休止中)
はちのへホコテン(主催は、はちのへホコテン実行委員会)
毎月1回、最終日曜日に中心商店街のメインストリートを交通規制にするイベントを共催で運営している。
レンタルボックス
市民の方にボックスや壁を貸し出す「テッコ舎」を運営。中心市街地のにぎわいづくりや創業支援を目的にしています。ハンドメイド製品、農産物等が並ぶボックスレンタルの月額は800円から1200円で、売り手・買い手ともに非常に好評とのことです。
八戸市中心市街地のまちづくりに関する覚書による取組み(まちづくり八戸、八戸市、八戸工業大学)
中心市街地の活性化とそれに係る人材育成を推進するため3者で覚書を締結し、中心市街地活性化に関して検討する授業を実施、八戸工業大学の学生が課題解決に向けて検討し、改善提案等を行っています。
花小路(※)整備の際には、基本構想から基本設計を八戸工業大学の学生が行い、ブロック舗装による美装化やスロープの設置等による段差解消とバリアフリー化を実現しました。
「マチニワ」や「八戸ブックセンター」に来る車椅子の方や、ベビーカーの方達がみろく横丁等色々な場所へ行きやすくなり、まち中の回遊性や滞在時間の向上につながっています。学生の研究成果について年1回、報告会を開催しており、市の政策等にも活かされています。
※花小路
花小路は、八戸市大字三日町と六日町の中間に位置するビルの合間の全長約180メートルの裏路地で、昭和40年代防災上空閑地として計画、共同通路として形成されました。昭和50年代消防法改正に伴い消防設備が設置されたため中央で分断され、不通空間となり、40年近く中心街の課題となっていました。「マチニワ」隣接の複合ビル(ガーデンテラス)がオープンしたことで全区間開通可能となることを契機に地権者による協議会が設立され、令和元年度に完工。周辺には「はっち」や「八戸屋台村みろく横丁」「マチニワ」「八戸ブックセンター」など集客力の高い施設が立地しています。
<花小路の重要性と利活用の方向性における検討支援(中小機構)>
八戸市の中心市街地には、通りを相互に結ぶ小路や横丁といった路地が多く存在します。前述のとおり「花小路」は集客力を有する屋台村「みろく横丁」と交差する路地であり、中心市街地の回遊性を高めるための重要な要素です。
この「花小路」の利活用構想、整備の方向性検討においては、中小機構の専門家チームによるアドバイス(プロジェクト型支援)を活用しました。
(参考リンク)■中小機構 中心市街地活性化支援■ 別ウィンドウで開きます
中心市街地の現況と今後の課題
これまでの中心市街地活性化の取組みとして各種施設を整備してきた結果、「行政の施設整備が民間の投資意欲を動かし、また逆に民間の動きが行政の取組みを推進する等の事例もたくさん出てきた」と、柳沢氏は聴講者に語りました。
新型コロナ禍以前の令和2年当初の状況では、中心市街地は青森県で唯一商業地で2年連続基準地価が上昇しています。オフィス・マンション・ホテル・飲食店需要が増加、中心街各所の電線地中化等の整備も進みました。さらに、IT・テレマーケティング企業は、13社1,000人以上の方が中心市街地で勤務するなど、一大集積地となっています。
しかしながら、新型コロナ禍で状況は変わりました。飲食店等の売上への影響は大きく、ホテルの稼働率も停滞し一部休業や廃業も見られる中、“にぎわい”の価値を再確認し、価値を転換していく必要に迫られています。今後の課題としては、引き続き空き店舗・空き地対策を実施していきつつ、不足業種への対応等のほか、公共施設・公共空間の集積をどう活かしていくか、中心市街地のイメージ向上策やプロモーションをどうするか等があり、その対策を検討していきます。
都市再生推進法人としての今後の事業
まちづくり八戸は、八戸市より2020年に都市再生推進法人※の指定を受けました。
※都市再生推進法人
都市再生推進法人とは、まちづくりに関する豊富な情報・ノウハウを有し、運営体制・人材等が整っているまちづくり団体を、都市再生特別措置法に基づき市町村が指定し、行政の補完的機能を担う団体として公的な位置づけを与える制度です。
(リンク)都市再生推進法人webセミナー(2020年8月11日)
現在も実施中の「はちのへホコテン」や、前述の協定による中心市街地課題解決授業を継続して実施するほか、「マチニワ」横の空き地「ヨコニワ」の活用検討、及び中心市街地の公共空間・広場の面的活用や道路活用による回遊性向上や、令和3年に開館した八戸市新美術館周辺地区のまちづくり等、これからも新しい取組みを進めていく予定です。