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『頭の中の回遊』~まちづくり会社が仕掛けるローカルエリアプロモーション~(まちづくり岡崎:愛知県岡崎市)

 岡崎市の中心市街地は、ここ数年飲食店を中心に創業や出店が増えているほか、若い層も回遊するようになり、賑わいが戻ってきています。
 20年前から商店主中心に行っている「岡崎まちゼミ」や2014年から始まった「QURUWA戦略」を中心とした施策や事業、まちづくり岡崎が仕掛けるローカルエリアプロモーション等、さまざまな要素の積み重ねによるものだと言えます。

 まちづくり岡崎は、QURUWA戦略で整備された各拠点を繋ぎ、人の流れをつくり回遊性を向上させるため、さまざまな取組みを行ってきました。岡崎市の状況、QURUWA戦略に派生した、主にまちづくり岡崎が取り組んでいるローカルエリアプロモーション、空き店舗対策事業などについて、お話を伺いました。

 (株式会社まちづくり岡崎)
  ・代表取締役 松井洋一郎氏
  ・取締役事業統括部長/まちガイドcorin制作室副編集長 長谷川伸介氏
  ・情報発信コーディネーター/まちガイドcorin制作室編集長 寺澤明日未氏
  ・IT事業推進部/インターネットアドバイザー 市川敬晃氏
 
 (岡崎市商工労政課にぎわい創生係)※空き店舗対策事業について
  ・係長 兵藤麻理江氏
  ・事務員 萩原章太氏

(左より)萩原氏、市川氏、松井氏、兵藤氏、長谷川氏

<目次>

  1. 官民連携による岡崎市のQURUWA戦略と、都市再生推進法人まちづくり岡崎としての取組み
  2. QURUWA戦略を補強するまちづくり岡崎独自の取組み
  3. ぽけろーかる/双方向の情報連携による「ローカルエリアプロモーション事業」
  4. 頭の中の回遊(情報発信の重要性)
  5. 空き店舗調査からオーナーのプラン作りまで行う岡崎流・空き店舗対策事業
  6. 今後の展望
  7. 取材を終えて

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.官民連携による岡崎市のQURUWA戦略と、都市再生推進法人まちづくり岡崎としての取組み

 岡崎市は人口385,350人(2022年7月1日現在)、愛知県のほぼ中央に位置する中核市で、徳川家康の生誕地としても知られています。
 岡崎市ではQURUWA戦略という公民連携プロジェクトにより、主要回遊動線(QURUWA※)の回遊を実現させ、まちの活性化を図っています。

※QURUWA(くるわ)とは
乙川リバーフロント地区(RF地区)の名鉄東岡崎駅、乙川河川緑地、(仮称)乙川人道橋、中央緑道、籠田公園、図書館交流プラザりぶら、岡崎公園などの公共空間各拠点を結ぶ約3キロのまちの主要回遊動線。かつての岡崎城跡の「総曲輪(そうぐるわ)」の一部と重なること、また、動線が「Q」の字に見えることから命名されました。

 QURUWA戦略において、行政は人道橋(桜城橋)の整備、人道橋と籠田公園を結ぶ中央緑道の整備など、歩行者の回遊性を高める公共投資等を行いました。

(岡崎市HP「QURUWA戦略」~乙川リバーフロント地区公民連携まちづくり基本計画~より)

 もともと岡崎市内には年間約130万人利用する「りぶら」や岡崎城跡地の岡崎公園など、集客核となる拠点が複数ありましたが、目的地以外の拠点への人流が弱く、回遊性向上が課題でした。
 そこで、新規拠点としてまちの玄関口である東岡崎駅前には、駅直結の複合施設「OTO RIVERSIDE TERRACE」(レストラン、カルチャースポット、ホテル、駐車場等)をPFIの手法で建設したり、桜城橋(人道橋)や、桜城橋から籠田公園を結ぶ中央緑道等、行政が各拠点のハード整備を進めました。
 同時に民間3団体を都市再生推進法人として指定するほか、指定管理者制度で各拠点の運営を民間に委託し、イベント等を活発に開催しています。これらの拠点に多様な目的を持たせ、繋げていくことで、エリア自体の価値を上げていくことを目指しています。

  • イベント等も活発に行われる桜城橋(人道橋)
  • 中央緑道の休憩スペース

<都市再生推進法人としての社会実験と成果>

 都市再生推進法人として指定されているまちづくり岡崎は「康生通り」一帯のまちづくりを推進しており、2018年より公共空地の利活用・将来を見据えた社会実験を行っています。
 1年目は回遊性向上と外部出店者促進を目的に、空き地と歩道を活用したマーケットを開催。2年目は道路空間活用の実験として2車線を1車線に減少させて拡大した空間をつくり、休憩スペースの設置や、軒先の利用、沿道の空地を利用したキッチンカーや店舗の出店など、「歩いて楽しい通り」を具現化する取組みを実施しました。
 それ以降も社会実験を継続しています。沿道の空地は現在でも市から借りており、マーケットや休憩所として活用するほか、最近では弁当店が1か月単位で借りる等、空地活用も継続しているということです。
 康生通りを歩くと、店舗前の緑色の芝を見かけます。これは社会実験の成果で、自分のお店の前の歩道(公共の場所)を市から借りて使う「軒先活用」に繋がりました。

(康生通り 軒先活用の事例)

 このように岡崎市では行政がハード整備を行い、民間団体がソフト事業等を担い、中心市街地活性化に取り組んでいます。QURUWA戦略における各種取組みが奏功し、公共空間が活用された日数は2019年実績265日から着実に伸ばし、2021年度までに累計725日となっています。また、域内の新規出店は28件(2019年~2021年実績:岡崎市HPより)となりました。


2.QURUWA戦略を補完するまちづくり岡崎独自の取組み

 一方、各拠点間における人の流れや商業活性化についてはまだ伸び代があると、まちづくり岡崎では考えました。そこで、拠点間を繋げて人の動きを作り、商業支援のために取り組んできたのが、情報発信による商業支援と空き店舗支援(市委託事業)の二本の柱です。情報発信による商業支援としてまちづくり岡崎独自の取組み「まちガイドcorin」と「ぽけろーかる」について、また岡崎流・伴走支援型空き店舗対策支援について、ご紹介します。

◆「情報」による商業支援(まちガイドcorinからぽけろーかるへ)

 例えば図書館に来た人が帰りがけに地元の和菓子店で季節限定のお菓子を買うといったように、各拠点に目的を持って集まった人に「情報」を渡して、さらに第二の目的を持たせて回遊性を向上させる。こうした人の流れをつくることと、地元事業者のPRをテーマに運営しています。

 corin(こりん)は、岡崎・康生エリア限定のフリーペーパー「地元密着型・まち歩き情報ガイド」です。2016年8月創刊以降21号まで発行(2022年6月現在)されています。corinの冊子は岡崎市の協力もあり、市内68か所(2022年6月現在)に配架されています。
 当初はA4サイズで発行されていましたが、21号(2022年4月発行)からは、バッグなどで持ち運びしやすいA5サイズに変更しました。さらに、次項でご紹介するWEBサイト「ぽけろーかる」とQRコードで内容を連動することで、まち歩きをより促進させる形態にリニューアルされています。

 (参考リンク) まちガイドcorin 別ウィンドウで開きます

(corin21号表紙 / corin 配架場所 https://okazaki-corin.com/place/)

3.ぽけろーかる/双方向の情報連携による「ローカルエリアプロモーション事業」

 ぽけろーかるは康生エリアの地元情報が一本化された情報プラットホームです。
 エリア内のお店やスポットの検索ができるほか、加盟店のショップページや店舗ブログ、公認ライターが書くまちの話題、大きな季節イベントから施設・個人店で開催される小規模なものまで大小さまざまなイベント情報や、駐車場検索もできるまち歩きMAPなどの機能がありますがが、特徴的なのは市民・店舗・拠点管理者など、みんなが発信者になれる参加型のエリアプラットホームである点です。

 (参考リンク)ぽけろーかる 別ウィンドウで開きます

   (ぽけろーかるチラシ / スマホのぽけろーかる画面)

(1) 情報発信の課題から、ローカルエリアプロモーションへ

 先述のとおり、川や公園等では年間を通して様々なイベントが開催されています。例えば、イベントに来た人がカフェで休憩したり、他の観光スポットまで足を延ばしたり、地元のお店でお土産を購入する等、まちを目一杯楽しんでもらうためには、「まちの情報」が必要です。
 従来の情報発信は各拠点から個別に発信するため、その拠点以外の情報を探すには更に別のサイトを検索して・・というように、情報を探す側の手間もかかり、目当ての情報に行きつかず、諦めてしまうケースも多いのではないでしょうか。それが回遊に繋がらない要因のひとつとも考えられます。
 また、個店の情報発信にも課題があります。SNSで個別に発信しても、フォロワーがいなければせっかくの情報も届きません。

 そこで情報を届きやすくするため、康生エリアを中心に様々な話題を集めた情報プラットホームをつくり、歩いて回れる小さいエリア(ローカルエリア)のプロモーションを行う事業として、「ぽけろーかる」を開始しました。これは康生エリアに存在するコンテンツを、スマートフォンに丸ごと入れ込むプロジェクトといえます。

(2) ユーザーのメリット 

 ユーザーにとっては、オールインワンで情報を得られるというメリットがあります。従来の情報ツールは“駐車場”“イベント”等の「カテゴリー」で区分されたものが多いですが、ぽけろーかるは「エリア」で括るため、目的地を定めた後にプラスで行きたい場所を簡単に探すことができます。人の動きを考えて作っているので、主目的地の周辺にある店舗やイベント情報をまとめて見ることができ、目的以外の新たな発見・回遊のきっかけに繋がります。

(まちづくり岡崎 資料より)

(3) 個店のメリット

個店(加盟店)のメリットとして、挙げられるのは以下の点です。

●年間3万円で自店舗のHPが持てる。
 →ショップページ機能があり、簡易ホームページ、店舗ブログ機能、商品紹介/ギャラリー、応援口コミ機能がついている。専用管理フォームがあり、店舗自ら情報発信できるほか、GoogleやSNS等と紐づけが出来るので情報拡散力がアップする。

●発信格差をなくし、誰でも高水準な情報発信を可能にする
 →情報発信に不慣れな店舗でも、専用の入力フォームを使うだけで簡単に「ブログ」や「ショップページ」などによる一律の発信ができ、さらに入力に不慣れな店舗はサポートが受けられる。

●まちづくり会社がプラットホームを見にくるユーザーを増やす仕掛けをするので、店舗のフォロワー自体が少なくても、自店のフォロワー以外にも広めることができる。

(まちづくり岡崎 資料より)

 これまで個別に発信していた自店のお知らせやイベント情報をプラットホームに投稿して、プラットホームの情報を発信すれば、自店舗のお客様以外にも情報が届くことになります。「個別に情報発信しなくていい」のがぽけろーかるのポイントです。

(4) 地元を盛り上げたい“まち遊びの達人”が記事を書く、公認ライター制度 

 ぽけろーかるには「公認ライター制度」というものがあり、さまざまな得意ジャンルを持つ公認ライターが約20名揃っています。歴史が好きな人、写真が得意な人、スイーツの魅力を伝える人、岡崎グルメを知り尽くしている人、お店の紹介がうまい人、動画が得意な人・・など。
 公認ライターはcorinの編集に関わってきた人のほか、SNSやYoutubeを見て気になった方に声をかけることもあります。
 最近では、地元の特産品を取材しカタログギフトとして紹介していた方に、執筆の声をかけたこともあったそうです。すでに取材していた内容をぽけろーかるに転載してもらうので、改めて記事を書かなくても、ぽけろーかるを見た人は初めて見る記事になります。このようにライターとコンテンツを増やしているということです。

(5) 拠点間の情報連携でプラットホームに情報を一本化  

 まちづくり岡崎では各拠点の指定管理団体や行政等と情報連携しています。例えば、川のイベントは川の指定管理団体が記事を書いて、拠点のHPに掲載するほか、ぽけろーかるに投稿してもらいます。各所と情報を連携することで、拠点に集まった人が他拠点にも回遊するような流れを作っています。QURUWA戦略を補完する、まちづくり会社ならではのアプローチといえます。

(まちづくり岡崎 資料より)

(6) 無理のないまちづくり参画/まちづくり人材発掘としても効果的 

 最近ではどんな人も日常的にSNSで情報を発信したり写真をアップしています。写真が得意でInstagramでフォロワーを多く持っていたり、文章が好きだったり、歴史が得意だったり。そうした人は“まちづくり人材”になりうる、育てなくても「顕在化させて集める」というのが、まちづくり岡崎の考え方です。
 まちに対して何かしたい気持ちを持っている人には、関わりやすい形としてライターとして活動してもらえます。自分の趣味や活動の延長線でライター活動をしてもらえば、それが結果的にまちにも良い影響となり、まちづくり人材発掘にもなっています。
 また、事業者がまちづくりに関わるためには、日々の営業活動に入れ込むことが無理なく続けるポイントです。個店が情報を発信して、顧客が「今月も行こうか」と人が動くこと。自分の店に来た人に「こういうイベントをやっていますよ」「こういうお店がありますよ」と口コミをして回遊に繋がれば、まちづくりになります。


4.頭の中の回遊(情報発信の重要性)

 『頭の中の回遊』はまちづくり岡崎の寺澤氏の言葉です。人がどこかへ行く前には、事前にネット等を調べて情報を探し、実際に現地へ行く前に計画(=頭の中でまちを回遊)しているのを『頭の中の回遊』と表現されました。「これもある」「こんなイベントをやっている」というように、頭の中の回遊を楽しんでもらえるよう、corinやぽけろーかるのコンテンツを作っています。それらを見て、実際のまちに足を運んでもらいたい、ということです。
 まさにこの言葉通り、ユーザーがインターネットやSNSで情報を検索している昨今、事業者にとって情報発信はますます重要になっているといえます。

<ぽけろーかるのメリットとまちづくり会社が事業に取り組む意義>

 この仕組みについて、既に他地域から問い合わせを受けているということです。取材でお話を伺った中から、ぽけろーかるのメリットやまちづくり会社が情報発信事業の運営に取り組む意義等についてまとめました。

①お店を「世の中」に存在させることができる
 先述のとおり、スマートフォンが普及している現在、「ネットに載ってないお店は世の中に存在してないのと同じ」とも言えます。しかしながら、中心市街地商店街の中小・小規模事業者の多くが、自社のホームページを持っておらず、SNS等でも情報発信をできていません。まちづくり会社が情報プラットホームを作ることで、個店の支援を直接でき、いわゆる「まちに存在させる」ことができます。

②まちなかの事業者と関われる支援ツールであり、まちづくり会社の自主財源になりえる
 まちに関するさまざまな情報が集まるほか、このツールを介してやり取りすることで導入時の個店支援から良い相談相手にもなれるほか、公認ライターを探す中で多様な人材とも繋がることができ、まちづくり会社にとっては必要な要素が詰まっています。
 また、まちづくり会社が持続していくため、委託や補助金に頼らず民間の費用で運営できるため、自主の収益事業に育てることができます。

③回遊性向上、まちの利益に繋がる
 インターネット上にまち自体をアップするような取組みですが、インターネット上で商売をするものではなく、実際にまちに来てもらうことを目的にしています。回遊性を向上させ、事業者の売上に繋がり(自治体の税収アップにも繋がり)、結果まちの利益に繋がるものといえます。

<ぽけろーかるのデメリット>

 一方、克服できるデメリットとして「営業できる人材」の必要性に触れていました。岡崎では前段階でタウン誌corinがあったため、ぽけろーかるの加盟店がすぐに集まりましたが、他地域で展開する場合は加盟店募集の営業が必要になるだろう、という点です。
 ただし営業活動は地域内の人との接点を持ち懐に入り込むという、人の巻き込みにおいて基本的な活動でもあり、まちづくり人材の育成にも繋がるので、決してマイナス面ばかりでもないと言えます。すでにまちゼミ等を行っている地域では、それらのネットワークを生かすことも可能です。


5.空き店舗調査からオーナーのプラン作りまで行う岡崎流・空き店舗対策

 第二の柱として行っている空き店舗対策事業は岡崎市からの委託事業です。冒頭でご紹介した通り、岡崎市の中心市街地には賑わいが戻りつつありますが、空き店舗対策は継続した課題として存在する一方、出店したいが物件が少ないという状況もありました。

<岡崎市の物件と状況把握について>

 まちづくり岡崎は約10年の中で数回にわたり、空き店舗対策事業として商店街空き店舗の状況把握調査や、空き店舗予測を行うため事業承継等の調査も行ってきました。
 調査を通して把握した状況によると、民家兼商店のような物件が多く、貸すことを前提とした構造になっていないこと、商売をやめても2階に住んでいるため、他人に貸すことに抵抗がある方が多いということが判りました。
 そこで2020年度の商店街現況調査事業では、商店街理事長へのヒアリングや現地目視調査、既存店舗の状況調査を実施し、データベースを作成しました。

<未利用不動産オーナーの支援業務>

 「店舗の老朽化」や「家賃の折り合いがつかない」など理由はさまざまですが、“所有者に貸す意思がない物件“については、”貸さない“ことへの課題解決により再生の可能性があるのではないかと仮定しました。
 そこで、2021年度では『貸店舗化への促進を見据えた事業』として、前年度の調査から得られたデータをもとに優先順位をつけ、オーナーの伴走支援を行いました。
 具体的には、それまでの調査結果から絞り込んだ3物件を対象に、物件の深掘り調査と利活用に向けたプラン作りを専門家と共に行いました。オーナーの意向をじっくり伺い、専門家を入れて物件の使い方のイメージ等図面をオーナーに見せて、丁寧な説明を重ねたことで「未利用店舗」が「貸店舗」に変わりました。

  • オーナーと対話を重ねている様子
  • オーナーと対話を重ねている様子
  • まちなかの状況把握調査の様子

 なお、物件の情報は連携先の愛知県宅地建物取引業協会とも共有して、物件オーナーと出店希望者のマッチングを行っています。

 3軒のうち、1つ目の物件はすでに建築事務所が入居し、2つ目は飲食店が内定、3つ目は入居を希望する事業者と交渉中という成果になりました。
丁寧なヒアリングと伴走支援により、貸す意思のなかった3軒中3軒が利用可能な物件に変わったことで、大きな手ごたえを感じています。この事業を通して地域の事業者と話す機会もでき、周辺の空き店舗オーナーにも有効性を感じてもらえた結果となりました。

 今後は市役所だけでなく、岡崎ビジネスセンター(オカビズ:岡崎市が運営する中小企業のための無料の経営相談所)や商工会議所、金融機関と連携しながら空き物件対策事業を行う仕組みも考えています。

(今後想定しているスキーム図:まちづくり岡崎の資料より)

 半年のサイクルでお店が変わる等まちの流れは非常に早く、3年から5年に一度の空き店舗調査では把握しきれません。まちづくり岡崎では専任の担当者がその都度状況を把握するほか、社内で密に情報を共有しているということです。

 空き店舗になる前の状況を把握して対応していけるのは、まちづくり会社ならではのアプローチといえます。また、地域と信頼関係が出来ているまちづくり岡崎だからこそ、オーナーの考えを変えることができたと思う、と岡崎市商工労政課の兵藤氏は振り返りました。


6.今後の展望

 二つの事業の柱のうち、情報発信では、ぽけろーかるのコンテンツを更に充実させながら、他地域で展開できる準備も進めています。
 問い合わせが増えていることもあり、まちづくり岡崎では他地域でも導入できるパッケージを作成したということです。当社がこれまで積み重ねてきた社外秘をマニュアル化し、ノウハウ研修でやり方を教えるまでがセットになっています。
 システム導入だけでは従来のポータルサイトになりがちですが、ノウハウ研修をすることでプラットホームとして使えるのだと、伺いました。

 まちの情報が集まり、事業者との関係強化や様々な人材と繋がるきっかけにもなり、中長期スパンでプラットホームをじっくり育てて成功まで導くことができれば、まちの活性化が見える事業だといえます。一過性の賑わいを作り出す事業を繰り返すのではなく、地道に確実にまちの資産を積み上げていく取り組みを行っていく事が、持続可能なまちづくりにおいてとても大切という認識です。
 ノウハウ提供についても、ハードを整備した後のまちづくりについて同様の課題を持つ他地域の課題解決に繋がれば、という考えです。

 また、丁寧な対話を通してオーナーのマインドを変え、プランを提示して貸店舗化することで空き店舗を減らす一連のスキームは、数年かけて仕組みになってきています。引き続き岡崎方式の伴走支援を行いながら、2022年度は10軒の貸店舗化を目標としています。今はまだ小さな実績ですが、今後現地調査からプラン作成まで行う物件を開拓し、1軒でも多く貸店舗化に繋げたいということです。
 


7.取材を終えて

 今回の取材では、『頭の中の回遊』という言葉が非常に印象的でした。まちゼミ発祥の地として有名な岡崎市ですが、タウン誌corinやぽけろーかるもまちゼミと同様、まちの価値向上と個店の商売繁盛支援を目指すものだと感じました。

 以前取材したまちゼミのセミナーにおいて松井氏は「まちゼミは双方向のコミュニケーション事業である」と話されていました。
 消費者と事業者、事業者同士、拠点同士など、関係者相互のコミュニケーションを向上する事業であり、まちゼミのエッセンスがエリアプラットホームになっているという印象を受けました。
 今後も既存店舗、新規店舗ともに支援できるような事業を仕掛けていきたいということでした。

(創業支援の一環として、まちづくり会社がサポートし民間が設置したBOX SHOP)

 行政が担うハード事業を補完するソフト事業の事例としても、まちづくり会社の収益事業の一例としても、非常に参考になるのではないかと思います。