お客さんに満足を、お店に新規顧客と売上を、まちに賑いをもたらす 得する街のゼミナール ~岡崎「まちゼミ」~
ポイント
- 三方にメリットをもたらすまちの活性化策
- 「まちゼミ」の効果アップには運用ルールの徹底を
- 「まちゼミ」を広げて、中心市街地の活性化へ
- 場所:
- 愛知県岡崎市
- 人口:
- 37.4万人
- 分類:
- 【イベント】
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- 岡崎まちゼミの会
- 支援策:
- --
1.まちの概要
位置・人口
岡崎市は、愛知県の中央部にある人口約37万人の中核市です。 三河山地と岡崎平野の接点に位置し、市内にはこの豊富な水を利用した大規模工場や水田地帯が多くあります。
近年は、隣の豊田市にあるトヨタ自動車の関連企業の進出により、住宅地が多く造成され、ベットタウンとして人口の微増が続いています。
交通アクセス
市内を東西に国道1号、南北に国道248号が通り、主要な県道も多く走る等、道路網は発達しています。また鉄道も東海道本線、名鉄名古屋本線が市内を東西に抜け、名古屋まで約30分で行け、このほかにも豊田市、瀬戸市方面へ愛知環状鉄道線で結ばれています。
まちの現状
岡崎市の中心市街地では、モータリゼーションの進展、大規模集客施設の中心市街地外への出店、岡崎市民病院等の公益施設や行政機能の拡散等により衰退が顕著になっています。とくに平成10年に中心市街地にあったジャスコ岡崎店の撤退等により、歩行者通行量が、平成19年には、平成10年に比べ約1/3近くまで減少(61.2%減)、また小売販売額も平成9年に比べ48.2%減と厳しい状況に陥っています。
2.まちの課題と活性化への取組み(「まちゼミ」の取組み内容)
(1)「まちゼミ」取組みのきっかけ
こうした状況を克服しようと中心市街地商店街では、歩行者天国やスタンプラリーなどのイベントを実施しました。しかし、イベント当日の集客がお店の売上に結びつかず、お客の固定化につながりませんでした。中心市街地商店街の疲弊は一層進み、活性化対策が喫緊の課題となっていました。
一歩入ればいいお店があるのに、店内に入りづらく、良さに気づいてもらえない。こうした思いから、まちに来る仕掛けよりも、まずお店に来てもらう仕掛けづくりに取組んでみようと、商店主と商工会議所が活性化へのアイデアを持ち寄り、模索しながら「まちゼミ」の実施につなげていきました。
(2)「まちゼミ」(正式名「得する街のゼミナール」)とは
「まちゼミ」とは、商店主が講師となって、プロならではの専門的な知識や情報、技術等を無料でお客さんに伝える少人数制のゼミナールで、お客さんにとっては、まちなかの楽しい学びの場になっています。1回の開催期間は概ね1~2カ月、年2回開催し、今年で10年目を迎える岡崎市中心市街地商店街の名物イベントです。 平成15年に、参加店10店、講座数20、参加者199人でスタートしました。
第1回の開催以降、日頃聞けない専門店の話が気軽に聞けるということで、「まちゼミ」の評判が口コミで広がり、直近の第17回(平成23年1月~3月開催)には、参加店54店、講座数325、参加者数1348人にまで拡大。開設講座も小売店のほか、美容、健康、金融・保険、旅行、教養といったサービス業のお店も加わり、バラエティーに富んだ充実したものとなっています。例えば、呉服屋さんの「浴衣着付け教室」、化粧品店の「プロの教えるメイクレクチャー」、韓国料理店の「家庭でできる本格韓国料理」、エステ店の「夏の疲れをクリーニング 美白エステ」、等多彩なメニューが揃い、「まちゼミ」の人気を支えています。
(3)「まちゼミ」の目的
「まちゼミ」の目的は、「まちゼミ」への参加を通じて、お客さんにお店の存在やセールスポイントを知ってもらい、お店や商店街のファンを増やし、中心市街地商店街の活性化を図ることにあります。売上にすぐつなげるというのでなく、まず商品、店主を知ってもらい、お客さんとのコミュニケーションを通して信頼関係を築き、顧客の固定化、売上増を図っていく取組みです。
(4)運営上のポイント
「まちゼミの運営上のポイントは、お客さんに喜んでもらい、お店や商店街のファン作りにつなげていくルール(考え方)を、参加店に徹底して理解してもらうことです。」と岡崎まちゼミの会代表の松井洋一郎氏は語ります。
その主なルールは、次のとおりです。
「まちゼミ」開催中には商品セールスを決して行わないこと
「まちゼミ」開催にあたってはおもてなしの気持ちで接客し、先生的態度で接しないこと
「まちゼミ」終了後には、お客さんからの問い合わせに丁寧に応対しアフターフォローにも十分気を配ること
教材費(実費分)以外に参加費をとったり、もうけに走らないこと
松井代表は、こうした「まちゼミ」のルールを、参加店に対して入念に説明し、「まちゼミ」が単なる商店街の活性化策でなく、お客さんとお店との信頼関係を築くベースとなる事業であることを強く伝えています。
とくに「まちゼミ」終了後の「反省会」開催の大切さを強調されます。こうした「反省会」において参加店から多くの改善提案が出され、まちゼミは回を重ねるごとに進化してきている」と確信をもって話されます。
(5)運営体制・予算
「まちゼミ」は、まちゼミ世話人会と商工会議所、街情報ステーションの事務局が中心となり運営されています。「まちゼミ」開催には、約4ヶ月前から準備に入り、綿密な打ち合わせのもと、企画、参加店募集、PRチラシ作成、参加店説明会開催等を行っています。 「まちゼミ」の運営費は、参加店からの参加費収入(PRチラシへの講座掲載料:1マス1万円)で全てを賄っています。この中には事務局経費は含まれていませんが、1回の「まちゼミ」は約30万円~90万円で開催でき、財政上の負担が大きくないことも、継続できる理由の1つといえます。
3.取組みの効果
「まちゼミ」は、お客さん、お店、そして商店街(まち)の三方に、それぞれメリットのあることが大きな特徴です。 参加店からは次のようなメリットがあるとの意見があがっています。
「これまでの一過性のイベントと異なり、当店では確実に新規顧客、売上に結びついています。」
「お店の存在を知ってもらう絶好のチャンスで、まちゼミをきっかけにお客さんから気軽に相談をしてもらえるようになり、お客さんとの信頼関係作りに役立っています。」
「お客さんの声を直接聴け、最新の顧客ニーズを把握できて、店作りに活かしています。」
「まちゼミでは教える立場なので、店主自身が自店の商品・サービスをしっかり勉強し直し、専門知識に一層磨きをかけています。」
松井代表が、「まちゼミ」の効果を知るうえでの、1つのエピソードを紹介してくれました。
<まちゼミに2年間参加している補聴器専門店がありました。これまではまったく顧客の固定化もできず、売上にもつながっていませんでした。
ところが今年に入って、以前「まちゼミ」に参加したお客さんが3人も(!)突然来店し、お買い上げをいただきました。お客さんから「2年前に補聴器のことを親切丁寧に教えてくれ、補聴器が必要なときになったらこの店で購入しようと思っていた」と言葉をかけてもらいました。店主は、「まちゼミ」の効果に驚くとともに、「まちゼミ」は今のお客さんだけではなく、未来のお客さん作りにもつながっていると、その喜びを話してくれました。>
お客さんからは、お客様アンケートを見ても、以下のような、「まちゼミ」に「満足」との回答が多く寄せられています。
「気軽に無料で専門店から知りたかった知識が得られ大変ためになった」
「商品やサービスのことでいろいろ教えてもらい、買物をするのが一層楽しくなりました」
「今まで気がつかなかった新しいお店を開拓でき商店街に来やすくなった」
「これからも長く使える信頼できるお店に出会うことができました」
商店街にとっても、「まちゼミ」により商店街のお店を一斉に紹介できる機会ができ、商店街全体のアピールにつながっています。
また、「まちゼミ」という商店街共通の取組みを通して、参加店同士の連帯感が芽生えるという効果も出てきています。現在ではまちゼミ参加者のモチベーションがアップし、商店主自らが自主的な勉強会である「商人塾」をスタート。さらに飲食店の活性化策として、「まちなかバル事業」を始めるなど、商店街活性化に向けての新たな胎動も起こってきています。
4.今後の課題
上表の通り順調に発展してきた「まちゼミ」。松井代表に今後の「まちゼミ」についてお尋ねすると、「将来的にはまちゼミの参加者を現在の年間3000人から1万人に増やしていきたい。参加店も現在の2倍に拡大したい」と語られ、「こうした規模になると商店街だけでなく、まちなか全体が活性化していくにちがいない。」と期待を込めて話されました。そして、 「今後の課題は、まさにまちゼミの拡大をまちなかの活性化にどううまく結びつけていくかにあります。そのためにはお客さんを含めた市民をどのようにして巻き込んで、まちなか活性化へのムーブメントを起こしていくかがカギとなります。」と強調されました。
5.関係者の声、まちの声
今回の「まちゼミ」に、「すっきり解決!メガネの疑問」の講座テーマで初めて参加した眼鏡店の社長さんに感想をお聞きすると、「誰もお客さんが来てくれないかもしれないと心配でしたが、今まで当店にいらしていないお客さんが来てくれました。熱心に話しを聴いてくれて、新しいお客さんになってくれそうです」と満面の笑み。まちゼミ用に特別に資料を準備され、「次回も是非まちゼミに参加したい」と話される、社長さんの充実した晴れやかな表情がとても印象的でした。
6.取材を終えて
「まちゼミ」に参加された商店主の表情を見て、「まちゼミ」には、厳しい経営環境におかれ、下を向きがちな商店主に、忘れていた商いの楽しさを思い起こさせる「力」があると感じました。
「まちゼミ」の輪が広がり、商いへの想いをとり戻した商店主、商店街が各地でまちづくりに取り組むことを大いに期待したいと思います。
<取材日H23年8月>