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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

進化するまちゼミ
(まちゼミ説明会@三重県四日市市)

 三重県四日市市では、定期的にまちゼミ(※) を開催しています。四日市商工会議所は事業者同士の連携をすすめながらまちゼミで成果を上げており、今年度で7年目を迎えます。2022年9月15日~10月31日の期間で「第7回四日市まちゼミ」を開催するにあたり、7年ぶりにまちゼミ発祥の地・岡崎まちゼミの会代表 松井洋一郎氏を招いて、新規参加店舗向けの説明会を実施しました。
 セミナーでは、まちゼミの開催方法、効果的な講座の作り方、どのようにしたら売上・商売に繋がっていくか、特徴的な取組や進化している手法などをお話いただきました。
 注: この記事は2022年6月現在のものです。

※まちゼミとは
得する街のゼミナール、略して〝まちゼミ〟は、お店の方が講師となり、プロならではの専門的な知識や情報、コツ、また趣味の楽しみなどを無料で受講者(お客様)にお伝えする少人数制(2~7人)のゼミです。 各個店内で実施する講座を通じて店主やスタッフとお客様のコミュニケーションの場から、信頼関係を築くことを目的とした事業です。

(外部リンク)岡崎まちゼミの会HP 別ウィンドウで開きます

<目次>

各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。

  1. 主催者挨拶
  2. まちゼミ研修開始 (講師: 松井洋一郎氏)
  3. 「まちゼミ」=コミュニケーション事業 (店舗とお客様、店舗同士)
  4. コロナ禍でも実施可能なまちゼミ
  5. 「まちゼミ」を商売につなげるための工夫
  6. まちゼミの効果
  7. 『みどりや』の事例から見る、コロナ禍における目的別まちゼミ講座
  8. 新しいビジネス 実証実験のためのまちゼミ事例
  9. その他 新たなまちゼミの動き
  10. まちゼミ実施方法ルール
  11. おわりに

1.主催者挨拶

 開会に先立ち、主催者の四日市商工会議所 商工振興部商工振興課の水谷貴宣課長より、開会挨拶と松井洋一郎氏の紹介がありました。

  • 四日市商工会議所 水谷 貴宣氏
    四日市商工会議所 水谷 貴宣氏
  • 松井 洋一郎氏
    松井 洋一郎氏

 2003年、岡崎で初めて開催された『まちゼミ』は、2022年4月時点で425地域29,000社が実施する、非常に大規模な事業となっています。
 松井氏は、内閣府の地域活性化伝道師、全国タウンマネージャー協会会長、株式会社みどりや代表取締役、岡崎まちゼミの会代表、株式会社まちづくり岡崎の代表取締役社長等、複数の顔をもち、多方面で活躍されています。
 一方、松井氏自身も家業(化粧品店) を持つ、岡崎で101年続く商売人であり、20年間約40回以上自店舗でまちゼミを開催しています。


2.まちゼミ研修開始 (講師: 松井洋一郎氏)

 まちゼミは、まちの活性化事業として始まりました。これまでのまちづくり・商店街活性化事業のようにまちなかに人を呼び込もうとする取組みではなく、“個店の活性化なしに地域の活性化はない”という考えのもと、『エリア内の店舗で来店客を増やす取組み』です。
 今では全国各地で行われており、「まちゼミ」と検索すると、多種多様な記事や動画が出てきます。商店街単体で実施しているところはほとんどなく、地域・広域において意欲的な事業者が実施している事例が多いです。

 まちゼミは、「売り手買い手世間よし」三方よしの事業と言われています。「まず地域の方に喜んでもらいたいという点が前提になりますが、結果的にきちんと商売に繋がっていくことが、事業者にとってまちゼミを続けていく重要な要素になる」と松井氏は語りました。
 セミナーは松井氏が一方的に話をするのではなく、会場の参加者同士も自己紹介を行う等、お互いにコミュニケーションを取りながら進められました。


3.「まちゼミ」=コミュニケーション事業(店舗とお客様、店舗同士)

 まず冒頭で、松井氏はまちゼミはセミナーやワークショップではなく、「コミュニケーション事業」であることを強調しました。
 ネットや大型チェーンではなく自店舗を選んでもらうためにも、店主やスタッフ“人“の魅力を伝え、店舗と顧客とのコミュニケーションを通じて、「あなたから買いたい」「ここだから来ている」と信頼関係を築き、お得意様を作ることが目的です。

 例えば、文房具店であれば「はじめての万年筆体験」、ギフトショップであれば「ラッピング講座」等。事業者自身が持っている知識・技術をテーマにする講座のほか、全国では実に2割の事業者が趣味に関する講座を実施しています。例えばクリーニング店ではアイロンがけ講座ではなく「魚釣り講座」など、自分の趣味に関する講座で顧客に楽しんでもらい、店主の人となりも理解してもらえ、店舗の常連が出来た、という事例も多くあります。

 もう1点、店舗と顧客のコミュニケーションの前に、“店舗同士のコミュニケーション”がまちゼミ成功の必須条件でもあります。
 まちゼミでは講座案内のチラシを作りますが、チラシを配る際に、他の店の講座を宣伝するからこそ、まちゼミは広がっていきます。顧客からすると、自店舗の講座の案内は宣伝と思われますが、他の店の宣伝は“口コミ”となります。「ここの花屋さんの講座おもしろいですよ」「ここのうどん屋さんの出汁のとりかた講座絶対行くといいですよ」と、事業者仲間同士が他店舗を紹介することで、自分の店のPRをしなくても仲間が紹介してくれる連鎖を作っていく事業でもあります。
 だからこそ、事業者同士のつながりは大切にしてほしい、と松井氏は語りました。

  • 第6回 四日市まちゼミチラシ
  • 第39回 岡崎まちゼミチラシ

4.コロナ禍でも実施可能なまちゼミ

 この2年半、コロナ禍で各地域の事業者は大ダメージを受けました。そのような中でも、多くの地域において、まちゼミはコロナ対策事業として実施されています。
 全国でも人を集める事業が自粛されている中、まちゼミは徹底した少人数制、予約制で感染予防対策も可能であること。まちゼミを原因とするクラスターや陽性者を出したことがないこと。またオンラインを使ったまちゼミも実施されるようになり、コロナ禍でも実施する地域は増えています。


5.「まちゼミ」を商売につなげるための工夫

 まちゼミを開催するだけでなく、開催した後商売につなげるための工夫が必要です。500事業者に「まちゼミはあなたの商売に繋がっていますか?」というアンケートを実施したところ、次のような結果になりました。

                        (松井氏資料「全国まちゼミ実施店データ」より)


 1回だけであれば商売につながっている実感のある事業者は多くありませんが、6回以上開催している地域の事業者では実に92%が「まちゼミは自分の商売の実績につながっている」という実感を得ています。

 成果を出すには継続開催するだけではなく、まちゼミが終った後「良いところを伸ばして、改善すべきところを改善する」ことが重要です。例えばキャッチコピーやテーマがいまひとつで人が集まらなかった場合、「テーマを変えたら?」「曜日を変えたら?」「時間を変えたら?」等、どう変えたら良くなるかを考えてPDCAサイクルで改善・工夫していきます。

 例えば、講座内容を変えずにキャッチコピーを変えただけで集客数が変わった事例があります。ある飲食店が「ダシのとりかた」講座のタイトルを「20年の板長経験者から学べるダシの取り方体験」に変更したところ、3倍増えた事例。「ダイエット講座」より、「5キロやせるダイエット講座」に変えただけで集客が1.5倍増えた例もあるそうです。
 顧客の満足をどう上げるか、売上につなげるためアフターフォローをどうしていくか、これらの工夫からも結果は変わっていきます。※具体例は「10. まちゼミ実施方法ルール」で後述しています。


6.まちゼミの効果

 まちゼミの効果は、主に新規顧客獲得、新たなビジネスのきっかけ、他店とのつながり・関係構築があげられます。

                    (松井氏資料「全国まちゼミ実施店データ」より)

新規顧客開拓

 まちゼミを開催した80%の事業者が、「まちゼミは新規顧客獲得につながっている」と実感しています。

新たなビジネスのきっかけ

 コロナ禍で商売のやり方を変える必要に迫られる事業者が多い中、71%の事業者が、「まちゼミは新しい自分の商売のきっかけになる」と答えています。
 商売人の1番の先生は地域の市民です。市民に必要とされるお店はどういう状況でも残っていきます。市民に必要とされる事業を見つける際に、まちゼミの講座が実証実験の場となります。

 なお、松井家は101年前の創業時はおもちゃ屋で、その後カフェや画廊、携帯ショップを経営したこともあるそうです。化粧品は100年前から少し取扱っており、今ではエステ事業も行っています。これもその時々の市民の必要に応じて変えてきたものだといいます。

他店とのつながり

 先述のとおり、まちゼミは店舗と顧客、店舗同士のコミュニケーション事業です。まちゼミをきっかけに他の店舗とのつながりが出来たと回答した事業者は6割以上ありました。

 「中小の事業者が地域で生き残っていくための2つ重要なことは、新しいことにチャレンジすることと地域の事業者さんのつながり。四日市商工会議所はここをすごく分かっていただいている。会場のみなさんは後で名刺交換をして、どんどんつながっていきましょう」と松井氏は語りました。


7.『みどりや』の事例から見る、コロナ禍における目的別まちゼミ講座

 まちゼミでは、「新規のお客様を作るため」、「離れるお客様を防止するため」、「新しいビジネスに取り組むため」、3つの目的に合う講座を設けることが必要です。松井氏の自店舗『みどりや』での事例をお話いただきました。

まちゼミ初期からコロナ禍まで

 20年前まちゼミを始めた頃、大型店やドラッグストアチェーンの出店ラッシュで価格の競争が始まり、商店街の化粧品店『みどりや』にとって苦難の時代だったそうです。品揃えや立地環境、価格は大手ドラッグストアには太刀打ちできない中、1つだけ負けないもの、店舗の一番の魅力は何か?といえば、何十年も店頭で接客し、商品もお客様のことも良く知っている松井氏のお母様や奥様、お店のスタッフ「人」でした。

 まちゼミ開始後、講座を通じて店舗の「人」の魅力が伝わり、「〇〇さんから買いたい、相談したい」という関係性から顧客が足を運んでくれるようになりました。

 しかしコロナ禍で、岡崎の商店街から高齢の方の姿が消えました。高齢の常連客は来店しなくなり、感染症対策を考えエステ事業をやめ、売上は35%ダウンとなりました。経営に悩む日々が続いたといいます。「今までまちゼミでうまくやってきた、やはりまちゼミしかない」と、集合形式だったまちゼミのやり方を変え、新しい方法にチャレンジすることになりました。

 みどりやでは、「新規のお客様を作るためのまちゼミ講座」、「離れるお客様を防止するためのまちゼミ講座」、「新しいビジネスに取り組むためのまちゼミ講座」、3つの目的に合う講座をそれぞれ設けて実践しています。

新規のお客様を作るためのまちゼミ講座

 新しいチャレンジとして、オンラインのメイクアドバイスを行いました。YouTubeやSNSの発信は一方通行で、顧客は「なるほど」で終わってしまい、顧客それぞれの悩みを解決するためにはコミュニケーション双方の会話がないと難しい。オンラインであれば相互コミュニケーションが出来るため、その後の来店率が高いとのことです。現在では、リアルの講座も行いながら、オンライン講座も実施しています。

離れるお客様を防止するためのまちゼミ講座

 コロナ禍で、家族から商店街への外出を反対されて来なくなった常連をはじめ、固定客の来店頻度が減る中、オンラインでも講座も始めました。高齢である松井氏のお母様も77歳でタブレットを駆使し、Zoomを立ち上げて講座を開いているということです。

 既存顧客、離れる顧客を防止するための講座として、「オンラインの化粧品カウンセリング」を実施しています。カウンセリングではなく趣味の話題で終わることもあるそうですが、顧客は楽しんでくれ、来店頻度が落ちた方とのコミュニケーションとして、来店等のきっかけ作りに繋がっています

岡崎まちゼミの会HPより オンラインまちゼミの様子

新しいビジネスに取り組むためのまちゼミ講座

 コロナ禍の影響でエステ事業をやめましたが機材はあるため、『お客様自身が施術するセルフエステ』をまちゼミで実験しました。その結果、全くの新規顧客が30名来店し、うち11名の高評価が得られたため、店舗を改装して売り場をつくり、現在サブスクリプションのセルフエステサービスを展開しています。

 新しい事業にチャレンジし、まちゼミで顧客の反応が良いものはビジネスにする。「事業者にとって新しいビジネスの実証実験は非常に重要、まちゼミを活用してどんどんチャレンジして欲しい」と松井氏はまとめ、まちゼミを使った実証実験の具体事例をご紹介いただきました。


8.新しいビジネス 実証実験のためのまちゼミ事例

  • 鹿児島県鹿屋市の事例:委託商品が多い雑貨屋のため粗利率が低く、収益性の高い商品を開発して販売したいと考えていたところ、そのお店の強み(鹿児島産農産物と店主の人柄)を活かして黒ニンニク作り体験講座を実施。講座を体験した顧客から黒ニンニク購入希望があり、製造・販売を開始した。結果、1年で150万円販売できる自社商品を作ることができた。
  • 男性客中心の理容店の事例:女性専用顔そり体験をまちゼミで実施したところ非常に好評で、女性専用のシェービングサービスを開始。後継者が帰ってこられる収益体質が整った。
  • 沖縄のコーヒー店の事例:新しいビジネスのきっかけをつくるためまちゼミを活用。沖縄で有名なちんすこうの企業が興味を持ち、店主の焙煎するコーヒー豆を使ったちんすこうを開発、沖縄のコンビニで販売開始、大人気に。

 事業承継は商店街でも大きな課題ですが、問題の本質は跡継ぎがいない・帰ってこない点ではなく、2家族が食べていけるだけの収益が上がっていないから事業を継げない点だと松井氏は指摘しました。だからこそ、新しいビジネスや商品開発等にまちゼミを活用して実証実験をして欲しい、とまとめました。


9.その他 新たなまちゼミの動き

まちゼミ×SDGs

 まちゼミをSDGsと捉えて取り組んでいる事業者が増えています。SDGsは大企業だけでなく、中小企業も取り組んでいく必要がありますが、まちゼミを通して、「うちの店舗、会社はこういう取組みでSDGsを達成していく」ということを市民に伝えています。

連携まちゼミ

 単独地域での実施だけでなく、連携が増えています。全国で実施されている「連携まちゼミ」は他地域との連携例、大企業と地域事業者や商店街との連携例があるほか、図書館で講座のネタになるような書籍を置くまちゼミコーナーを設置している地域も100か所程あるそうです。

 他地域との連携事例としては、滋賀県において4地域で連携して1つのチラシを作って実施している例や、岐阜県の恵那商工会議所と中津川商工会議所の連携例があります。

 また、大企業との連携例としては、九州電力×九州20地域の飲食店とのコラボレーション講座を開催している事例や、京急電鉄×キリンビール×生麦商店街の連携まちゼミを開催している事例等、企業連携として大企業がまちゼミに参加する例も出てきています。


10.まちゼミ実施方法・ルール

 まちゼミのルールについてご説明いただきました。以下、概要です。

  • 開催期間は約1か月、その間3回~7回くらい、自身で講座の日程を決める。
    (予約がなければやめればよい、毎日開催はまちゼミのブランド価値が落ちるのでNG)
  • 講座は60分の場合、20分は店主のお話、40分はお客様同士の会話の時間とすること。
    (店主が一方的に話すセミナーや、黙々と作るワークショップでは顧客の満足度は上がらない)
  • 定員は3名~7名程度とする、人数が少ないほどコミュニケーションが成り立ち、参加者の満足度は高くなる。また、他店舗とのコラボレーション講座も満足度は高い。
  • 無料で出来ることを考えて実施する。(趣味など、本業と関係ない講座の方が気軽に楽しくでき、結果的に売り上げに繋がるというお店が続出している)
  • 講座の中で売り付けない・買わざるを得ないことはしない。
  • (松井氏資料より)
  • (松井氏資料より)

 どのお客様も顧客になろうと思っておらず楽しみに来るだけですが、店舗は顧客が欲しい。このギャップを埋めるのは“お得意様づくりストーリー”という、まちゼミ独自の考え方です。参加者を顧客化するための3つの秘訣について、最後に松井氏よりお話いただきました。

①来店回数×接した時間によりお得意様化率は上がるのはまちゼミも同様、追加講座や日程、キャッチコピー等の工夫で受講者を増やす。

②感動値を上げ、お客様の小さな満足を積み重ねるために、お客様が喜ぶことを5つ実践する。

③再来店のきっかけを作る:お礼状や当日の写真をLineで送る、イベント案内等でも良い。
 「まちゼミ受講認定証」等各人に特別感をもって渡すチケットは使用される率も高くなり、再来店のきっかけになる。

 また、まちゼミに参加する店舗連携の共通クーポンは非常に効果が高く、200枚配布に対して181名利用という驚異の成果(鹿児島県の事例)も出たそうです。なお、自店舗のクーポン内容は仲間の事業者さんが考えることがポイントだということです。


11.おわりに

 さまざまな事例や効果的な方法など、盛りだくさんの内容をお話いただき、四日市商工会議所でのまちゼミ説明会は大盛況のうちに終了しました。
 まちゼミは全国各地で実施される中、効果的な方法などもブラッシュアップされ、さまざまな成功事例が出てきています。
 書籍や新聞、動画なども多数出ていますので、興味を持って調べていただくと、新しいまちゼミの形に出会えるのではないでしょうか。

(まちゼミ書籍例 松井氏資料より)

※当セミナーは中小機構の中心市街地活性化事業 セミナー型支援を活用いただきました。
(外部リンク)中小機構 中心市街地活性化支援 別ウィンドウで開きます