
中心市街地活性化の担い手をどう育てるか 川西市に学ぶ「まちなかプレーヤー」発掘・育成の仕組み(兵庫県)
人材の発掘・育成は、中心市街地活性化に取り組む多くの地域が課題としています。どれほど立派な施設や制度を整えても、担い手がいなければ、まちの動きは生まれにくいからです。人がどのようなきっかけでまちに関わり始め、どうすればその関係が続いていくのか、多くの現場で向き合っている実践的なテーマと言えます。
川西市では、中心市街地活性化協議会が人材の発掘・育成の実行部隊として関わってきました。まちなかで活動する「まちなかプレーヤー」を増やすことを明確に掲げ、市の方針を受け止めながら、協議会とタウンマネージャーが日常的な関わりを通じて人とまちをつないでいます。
本稿では、川西市の中心市街地活性化における、まちなかプレーヤーを軸とした人材の発掘・育成について紹介します。川西中心市街地活性化協議会(以下、「協議会」と言う)、タウンマネージャー、市担当課、商工会の関係者への取材をもとに、その取り組みを整理します。
目次
1.川西市の概要
兵庫県の南東部、阪神間の北部に位置する川西市は、都市近郊にありながら豊かな自然と歴史をあわせ持つまちです。人口は約15万3千人、面積は約53.4平方キロメートルです。京阪神地域内の各都市へのアクセスに優れた住宅都市として発展しています。


川西市の場所※
歴史的には、平安時代末期に源満仲をはじめとする清和源氏の拠点として栄えた多田院(現在の多田神社)や、明治時代に多田村平野の天然鉱泉で作られた三ツ矢平野水(後の「三ツ矢サイダー®」)などが有名です。
明治時代以降、市域を南北に流れる猪名川の水資源と大阪に近い立地を背景に近代産業が発展し、なかでも皮革産業は長く地域経済を支えました。現在までに工場などの産業施設は閉鎖し、その跡地は「キセラ川西地区」として再開発され、医療・住宅・集客・公共施設などの多機能が連携する場所になっています。
交通の要所は市南部に集結しています。阪急電鉄宝塚線が川西能勢口駅を起点に大阪梅田方面と結ばれ、能勢電鉄が川西能勢口駅から市北部への地域交通を担っています。さらにJR宝塚線(福知山線)川西池田駅も利用できます。
2.川西市中心市街地活性化基本計画
川西市は、2010年度から中心市街地活性化基本計画(以下、「基本計画」と言う)を策定し、現在は第4期を実施中です。計画区域は阪急電鉄宝塚線・能勢電鉄川西能勢口駅を中心とした81ヘクタールです。
第1期は、中心市街地の南に位置する川西能勢口駅周辺のハード整備とソフト充実、第2期は中心市街地の北側のキセラ川西地区の都市整備を踏まえた、川西能勢口駅とキセラ川西の2拠点での活性化を目指しました。
第3期は、上記2拠点間の回遊性の向上をめざすとともに、「まちのプレーヤー」の発掘や交流拠点の整備などで人を結び様々なチャレンジを生みだすための取り組みを行いました。
第4期は、総合計画で示した「まず、子どもの幸せから始めます」の基本姿勢を受けて、子育て世代の交流の場づくりを行うほか、第3期から取り組むまちなかプレーヤーの発掘と育成に注力するとしています。従来の創業支援などの取り組みに加え、2025年度からスタートした「LOCAL BUSINESS HUB かわにし」を拡大して開催し、中心市街地の2拠点の周辺で起きているにぎわいの兆候(川西能勢口駅東側エリア等)を捉えながら、エリア全体での活性化を目指すとしています。

川西能勢口駅前ペデストリアンデッキ 
キセラ川西プラザ 
まちなか交流拠点マチノマ
3.まちなかプレーヤーを軸とした取り組み
①まちなかプレーヤー
川西市のまちづくりでは、まちなかプレーヤーという言葉が頻繁に登場します。
基本計画では、第3期で「まちのプレーヤー発掘事業」が主な事業とされ、第4期では「まちなかプレーヤーとして活躍できるまちなか空間を創出する」を目標の1つに掲げるなど、その重要度は年々高まっています。
「川西市は、観光資源や特産品が少ないと言われがちですが、川西には魅力的な人がたくさんいらっしゃいます」。
「人の力でにぎわいをつくっていく、というのが市の考え方です」。(籔内さん)
第4期基本計画では、まちなかプレーヤーを、起業者や事業者に限らず、交流拠点や公共空間を舞台に活動・挑戦する市民や団体を含めた担い手と定義しています。まちなかプレーヤーが活動し続けられる環境整備を行い、その達成度を測るための定量指標(まちなか交流拠点マチノマの利用者数、新規開業者数)を設定しています。
②協議会の役割の変化
協議会は、設置当初から、中心市街地におけるにぎわいづくりを中心に活動してきました。
第1~2期においては、イベントを軸に、構成団体が人を出し合い現場で動く取り組みが主流でしたが、人的負担の大きさという課題も抱えていました。
コロナ禍を経て第3期に入ると、イベントの減少とともに活動スタイルが変化しました。協議会事務局が主導し、実際に動くのも事務局を担う数団体が中心になりました。さらに第3期後半には、「人手を出す協働」から、構成員それぞれにメリットがある形での「無理のない協働」を模索する方向にシフトしていきました。
「協議会の構成員として人を出してください、というのではなく、商業者や施設管理者としてメリットがある形で関わってもらい、一緒にやれることを考えてやりませんか、という姿勢です」。(籔内さん)
こうした変化を背景に、協議会に対しては、イベントや事業の実行部隊にとどまらず、にぎわいづくりの基礎となる人材発掘や育成を担う役割が期待されるようになりました。
一方で、構成団体である商工会からは、「中心市街地が盛り上がることは、地域にとっても商売にとっても良いことです。商工会としても、商工会の強みを活かした何らかの形でもっと関わっていきたい」という声も聞かれました。
➂人材発掘と育成の具体的な取り組み
タウンマネージャーの活用
協議会では、第2期の途中から、タウンマネージャー制度を取り入れています。2019年からタウンマネージャーに就任した九鬼さんは、人の活動を中心に据えた中心市街地マネジメントの中核を担っています。起業・創業希望者や市民活動団体、チャレンジ出店者、学生や個人などの「何かやってみたい人」を幅広く受け止め、そういう人を見つけ、つなぎ、次の行動へと背中を押す役割です。
「相談を受けたら、『次の一歩』を伝えることを大切にしています。誰に会うといいか、どこに行くか、何を調べるか…。小さくても、一歩でも進んだ感覚を持ってもらうことを大事にしています」。(九鬼さん)

中活エリアなんでも相談 チラシ ※ 
中活エリアなんでも相談の様子 ※
人材育成の進め方と管理
川西市の人材育成で特徴的なのが、人材を名簿やリスト化して固定的に管理するのではなく、個々の「状態」を見立てて捉えている点です。
「この人はまちなかプレーヤーか、そうではないか」というように、二つに分けて考えるのではなく、「この人は今、どんなことを考えているか」「何かの活動に向けて動き出そうとしているか、今は少し立ち止まっているか」「自分の活動だけでなく、誰かの活動を支える役割も担っているか」といったその時々の状態を把握しようとします。この見立ては、協議会事務局とタウンマネージャーの間で日常的に共有され、次に誰を紹介し、何を勧めるべきかなどを考える材料とされています。
「活動している人を単純な数字で表すのは難しいです。その人たちがどんな状態なのかをきめ細やかに把握し、活動を後押ししながら、それを見える化することが大切だと考えています」。(九鬼さん)
まちなか交流拠点マチノマと公共空間の活用
川西能勢口駅の高架下にあるまちなか交流拠点マチノマ(以下「マチノマ」と言う)は、誰でも関われる入口・たまり場として機能し、相談・雑談・小さな活動などを通して、まちなかプレーヤーの自然な形での発掘・育成につなげています。
マチノマのイベントの1つ「おやつミーティング」は、まちなかプレーヤーになるよりも前の人が「自分にも関われるかもしれない」「何かやってみようかな」と思えるための、最初の入口のような位置づけです。当日参加可能で、好きな「おやつ」を持ち寄ってみんなで楽しみながら、まちなかで活躍するゲストスピーカーのお話を聴く、というものです。参加のハードルを下げるために、誰でも参加できる設計のイベントにしているそうです。

おやつミーティング チラシ ※ 
おやつミーティングの様子 ※
協議会の事務局も、マチノマにあります。点在していた人材や活動がマチノマに集まるようになったことで、状態を把握しやすくなったとも言います。
公共空間であるペデストリアンデッキの活用も、人材育成の文脈の中で進められてきました。社会実験として実際に使いながら、活用のための基準(ガイドライン)を整備し、安全性を確保したうえで、活動の主体を協議会以外へと移行させました。現在では、まちなかプレーヤー自身が公共空間を活用しながら挑戦できる環境が整えられています。

川西駅前ピクニックマルシェのチラシ ※ 
ペデストリアンデッキを活用した、川西駅前ピクニックマルシェの様子 ※
LOCAL BUSINESS HUBかわにし
2025年度にスタートした「LOCAL BUSINESS HUBかわにし」は、ビジネスを切り口に、これまで中活に関わってこなかった人々をまちづくりの新たな人材として迎え入れる取り組みです。主に川西在住の都市部で働くビジネスパーソンなど、まだ具体的な活動をまちなかで始めていない層を対象に、交流や対話を通じてまちへの関わりのきっかけをつくる場として実施されています。
「川西は利便性に優れたベッドタウンなので、昼は市外で働き、夜は帰ってくるだけの人が多い印象があります。そんな人たちが、まちに興味や関心を持ってくれたらもっとにぎわっていくのではないか、という思いがあります」。(籔内さん)
LOCAL BUSINESS HUBかわにしは、成果や事業化を前提とせず、まずは人と人が出会い、顔見知りになることを重視して設計されています。既に活動しているまちなかプレーヤーと、これから関わろうとする人、協議会関係者などが自然に混ざり合うことで、その後の活動につながる関係が生まれることを想定しています。マチノマや他の中活事業へとつながる最初の入口として機能しています。

LOCAL BUSINESS HUBかわにしのチラシ ※


LOCAL BUSINESS HUBかわにしの様子 ※
4.考察:協議会が人を育てる実行部隊になるということ
川西市では、協議会が、イベント実施組織や調整機関にとどまらず、人材の発掘・育成を担う実行部隊として機能していました。その理由は、協議会ならではの「行政でも民間でもない中間的な立ち位置」にあると言えます。
「行政の立場だと難しい、協議会だからこそできる距離感や新たなチャレンジがあります。新しいこともいろいろ試すことができます」。(籔内さん)
行政は公平性などが求められる立場にあり、個々の市民や事業者と柔軟に関わり続けることには一定の制約があります。一方、民間事業者は特定の事業や収益に軸足を置くことが多く、地域全体の人材を長期的に見守り、つなぎ続ける役割を単独で担うことは難しいでしょう。その中間に位置する協議会だからこそ、行政とは異なる距離感で人と接し、試行的な取り組みを重ねながら関係を築くことが可能になっていると言えます。
また、人材の発掘・育成においては「発掘フェーズ」「育成フェーズ」などの段階わけをせず、複数の取り組みを連携させて、関心の誘因から行動、実践へと連続的な設計が見られます。人を育てるというよりも、関わりが生まれて続いていく環境を整えることに重きを置いていると言えます。
人材の捉え方も特徴的です。まちなかプレーヤーを名簿や数値などで列挙的に管理するのではなく、1人ひとりの状態を「今どういう段階にいるか」という視点で見立て、活動を始めたばかりの人、連携が進み活動が広がっている人、他者を支える側に回り始めた人などの状態を捉え、さらにそれらは常に変化するものと考えて、その見立てはタウンマネージャー個人だけに委ねられているのではなく、協議会事務局と日常的に共有され、次にどうつないでいくかを考えることに重点を置いていました。
交流拠点や公共施設の位置づけも、こうした人材に対する「ステージ」として位置づけられていると言えます。さらに、ガイドラインを整備して安全性を確保したうえで、プレーヤー自身が主体的に場を使える環境を整えたことで、既存のハードが様々な人材の挑戦を支える基盤として機能しています。
こうした取り組みの積み重ねから、協議会は、にぎわいづくりの直接的な担い手から「人と場、人と人を編集する存在」へと役割を変化させてきたと言えます。人材の発掘・育成とは、特別なプログラムを用意することではなく、関わりを持った人を見失わず、次の機会へとつなぎ続けること。川西市の事例からは、協議会がそうした役割を日常的に地道に担い続けてきた様子が浮かび上がってきます。
「人と場をつなぐ、その積み重ねが大切だと感じています」。(籔内さん)
5.おわりに
川西市の取り組みに見られるのは、人が関わり始め、続いていくための方法を模索し続けてきた姿と言えます。協議会やタウンマネージャーが日常的に人と向き合い、相談を受け止め、次の行動へとつなぐ、その地道な積み重ねが、まちなかで活動する人を支えてきました。
「やりたい人が、やりたいと思ったときに、相談先があり、まちのなかでつながりを得ることができる。それを積み重ねていくことが、結局は一番大事なんじゃないかなと思っています」。(九鬼さん)
令和8年度から第4期基本計画がスタートした川西市の、今後の取り組みに、引き続き注目していきたいと思います。
※印の画像は、取材先の許諾をいただき掲載しております。



