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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

イベントを継続的な賑わいにつなげるには(兵庫県伊丹市)

 イベントによって一時的な賑わいを生み出すことはできても、それを継続的な賑わいへとつなげることは容易ではありません。さまざまなイベントに挑戦するものの、負担増やアイデアの出尽くし感などから担い手が疲弊してしまうといった例も見受けられます。まちの活性化を目指すうえでイベントは有効な手段のひとつですが、継続的な賑わいを生み出すには、単発の盛り上がりにとどまらない工夫が求められます。
 兵庫県伊丹市では、20年近くにわたりさまざまなイベントを行い、イベントを通じて地域の魅力を発信しながら、継続的な賑わいへとつなげる取り組みを進めてきました。今回は、伊丹市の事例を通して、イベントによる継続的な賑わいを作るためのポイントについて考察します。


目次


1.伊丹市の概況

(1)概要

 伊丹市(いたみし)は兵庫県の南東にあるまちで、大阪や神戸などの大都市に近接し、広さは約25平方キロメートルです。市内を猪名川と武庫川が流れ、周辺には豊かな自然が広がり、遠くに六甲山を望む平地です。
 交通は、大阪国際空港(伊丹空港)が市内にあり全国へ行きやすいのが特徴です。JR福知山線の伊丹駅・北伊丹駅、阪急伊丹線の伊丹駅・新伊丹駅・稲野駅と2路線5駅があります。市の南北には阪神高速11号池田線、中国自動車道が走っており、車でのアクセスも良好です。
 昔から酒造りや俳句が盛んで、江戸時代には多くの文人が訪れた町でした。明治時代になると鉄道が開通し、大阪の近郊の住宅地として成長しました。その後、空港や道路の整備が進んだことから工業地としても発展しています。
 「ことば文化都市伊丹」として言語教育を進めるなど、文化振興でも力を入れています。日本酒の歴史を代表する場所でもあり、「伊丹諸白(清酒)」の歴史が日本遺産に認定されています。
 近年、中心市街地における路線価も上昇傾向にあります。

  • 画像:JR伊丹駅
    JR伊丹駅
  • 画像:旧石橋家住宅
    旧石橋家住宅
  • 画像:市立伊丹ミュージアム
    市立伊丹ミュージアム

2.イベントのまち伊丹

 伊丹市では、10年以上続くイベントが数多くあります。

(1)伊丹まちなかバル

 2009年にスタートした「伊丹まちなかバル」は、中心市街地全体を対象とした飲み歩きイベントで、5月と10月の年2回開催しています。市内外から多くのお客様を集めており、2025年5月に開催した32回目では、62店舗が参加し約1万人が訪れました。伊丹市中心市街地活性化協議会(以下「協議会」という)が主催しています。


画像;伊丹まちなかバル チラシ(2025年5月)
画像;伊丹まちなかバル チラシ(2025年5月)

(2)イタミ朝マルシェ

 2011年にスタートした「イタミ朝マルシェ(以下「マルシェ」という)」は、中心市街地のほぼ中央に位置する三軒寺前広場で、月に一度、日曜日の朝8時から11時まで開催しています。始めたときは5店舗くらいでしたが、現在は37店舗、多いときは40店舗超が出店しています。雑貨や飲食などのお店が並び、音楽ステージでライブも行われます。151回目となる2025年9月のマルシェでは、JR伊丹駅そばのイオンモール伊丹と連携し、出店者の一部が参加して同日午後「出張!イタミ朝マルシェinイオンモール伊丹」も開催しました。協議会が主催しています。

画像:イタミ朝マルシェの様子
イタミ朝マルシェの様子

(3)鳴く虫と郷町(ごうちょう)

 2006年にスタートした「鳴く虫と郷町」は、中心市街地の公共施設をはじめ、カフェや広場など様々な場所で行われるイベントで、9月初旬の10日間で開催しています。江戸時代の庶民に親しまれた「虫聴き」を現代に取り入れ、スズムシやキリギリスの鳴く音がまちなかに響き、ライブや手作り体験なども楽しめます。イベント終了後は「スズムシ里親プロジェクト」を通して市民が虫を引き取り、来年に向けて育てるという取り組みをしています。鳴く虫と郷町実行委員会と公益財団法人いたみ文化・スポーツ財団が主催しています。

  • 画像:鳴く虫と郷町の様子
  • 画像:鳴く虫と郷町の様子
    鳴く虫と郷町の様子

(3)伊丹市立図書館「ことば蔵」での市民主催イベント

 2012年7月に移転オープンした図書館で、市民公募により「ことば蔵」と名付けられました。公園のような図書館を目指し、市民が運営に参画しています。毎月第1水曜日の「交流フロア運営会議」は、1階の交流フロアの活用を市民や利用者と一緒に検討する会議で、誰でも気軽に参加でき、開館当初から続いています。この取り組みから、市民によるイベントが年間約200も誕生しているとのことです。

  • 画像:伊丹市立図書館 ことば蔵
  • 画像:伊丹市立図書館 ことば蔵
    伊丹市立図書館 ことば蔵

3.基本計画における賑わいとは

 中心市街地は、多様な都市機能が集まり、長い歴史の中で文化や伝統を育んできた「まちの顔」ともいうべき場所です。近年、社会情勢の変化などにより空洞化が進み、かつての賑わいを失っているところも見られます。商業活動や人の流れ、交流、文化的な集積などによって形成される活力ある状態を作り出し「賑わいを創出」することが、中心市街地活性化における重要な柱の1つとなっています。

 内閣府「中心市街地活性化基本計画 令和5年度最終フォローアップ報告」では、認定基本計画における評価指標(目標指標分類)数の推移を挙げ、多くの自治体で「にぎわいの創出」に取り組んでいることが分かります。

画像:評価指標(目標指標分類)数の推移(年度別) ※内閣府「中心市街地活性化基本計画 令和5年度最終フォローアップ報告」より一部抜粋。グラフの青色が「にぎわいの創出」
評価指標(目標指標分類)数の推移(年度別)
※内閣府「中心市街地活性化基本計画 令和5年度最終フォローアップ報告」より一部抜粋。グラフの青色が「にぎわいの創出」

 また、2025年度に認定基本計画を実施中の50団体のうち、「賑わい」を基本方針または目標に明記しているのは37団体(74%)、そのうち「賑わい」に関する評価指標を「歩行者通行量」としているのは29団体(78%)と最も多く、他に「公共施設等の利用者数」「新規出店数」などを評価指標に設定しています。


 伊丹市では、第1期(2008~2013年度、4年9か月)、第2期(2016~2021年度、6年)、第3期(2022年度~2026年度、実施中)と、伊丹市中心市街地活性化基本計画(以下「基本計画」という)に取り組んできました。

画像:伊丹市中心市街地活性化基本計画(第3期) 計画区域図※
伊丹市中心市街地活性化基本計画(第3期) 計画区域図※

 第2期において、前述の「伊丹まちなかバル」「イタミ朝マルシェ」をはじめとするイベントが、賑わい創出事業と位置付けられました。そして、第3期の基本計画策定時に行った来街者アンケートでは、中心市街地のイメージについて「イベントがたくさん行われて賑やか」(平日・休日とも)という意見が多く寄せられました。

画像:イタミ朝マルシェの様子
イタミ朝マルシェの様子

 しかし「イベント等のソフト事業による賑わい創出の効果が限定的」「これまで魅力的なイベント事業に取り組んできたが、その効果が、開催日以外も含めた恒常的な賑わいに繋がっていない。また、JR伊丹駅側に比べ阪急伊丹駅側への効果に乏しい」という自己評価から、第3期の基本計画では「いままで整備されてきた都市機能や、イベント、事業等の取り組みを活かし、恒常的・継続的な中心市街地のにぎわいを充実・強化していく」必要があるとしました。

画像:伊丹市基本計画(第3期)基本方針等※
伊丹市基本計画(第3期)基本方針等※

 3年後の2024年度のフォローアップにおいて、市は「イベント等の主要事業により、中心市街地の賑わい創出が図られている」としました。特に、中心市街地のほぼ中心に位置する三軒寺前広場では、通年にわたって多種多様なイベントが開催され、ソフト事業による中心市街地全体の賑わい創出を十分に図ることができたとしています。基本計画の目標指標である「中心市街地4エリアにおける1日あたりの流動人口(4エリア合計)」においては、今計画期間内では最多の数字となり、賑わい創出に効果が見られたとのことです。


4.マルシェの現場から見えるもの

 2025年9月にマルシェを訪れ、協議会事務局である伊丹まち未来会社の内田さん、伊丹市商工会議所の伊藤さん、伊丹市空港・にぎわい課の清水さんにお話を伺いました。

画像:内田さん(左)、伊藤さん(中)、清水さん(右)
内田さん(左)、伊藤さん(中)、清水さん(右)

(1)ゆるさが担い手をつなぐ

 マルシェのはじまりは、先にはじまったイベント「鳴く虫と郷町」がきっかけでした。
 「イベントのなかで、みんなで朝ごはんを食べる場所を作りたいという話になったのです。朝活のようなことをしたいね、と」。それから15年間、月に一度、日曜日の朝というペースでマルシェを続けてきました。

 出店者の募集については特別な広報はせず、口コミや事業者間のつながりなどを通して出店希望者が増えていったそうです。
 「マルシェの3日後の水曜日に、出店者の皆さんと作る実行委員会を行っています。そこで次回の出展者希望者など募ります。毎回20名近くの方が出席します」。
 「実行委員会では、雰囲気を大切にしています。音楽をかけたり紙の資料を減らしたり、出店者の飲食店を会場にしたりと、『ゆるい』雰囲気のなかで会話が弾むように心がけています」。(内田さん)

 話のなかで「ゆるさ」という言葉が何度もでてきました。しかし、出店の決まり事は細かく設定しています。
 「出店者は基本的に伊丹市内の事業者の方に限り、原則として紹介制です。飲食については安全性の関係から実店舗を持つ方のみ可としています。出店希望者には個別に面談をし、マルシェのコンセプトや決まり事などをきちんと理解していただくようにしています」。
 「お店のレイアウトやデザインも、実行委員会で決定した統一のデザインに合わせてもらっています。テーブルクロスやレイアウトなどをそろえ、飲食の場合は朝ごはんに合うようなメニューにするようにお願いしています。店の大きさも2メートル四方と決めています」。(内田さん)

画像:イタミ朝マルシェの様子
イタミ朝マルシェの様子

 内田さんは、長くマルシェを続けてこられた理由として「誰かに大きく負担がかからないようにすること」「みんなで作ること」の2つを挙げました。ゆるい雰囲気とつながりを大切にし、決めるべきことは皆で決めて実行する、という流れを作っています。

(2)創業につなげる

 マルシェは新たな創業も生み出しています。
 「1回のマルシェにつき1~2枠の『ゲスト枠』を設けていて、市内に別事業の事業所がある、創業予定や出店予定がある、市外から参加したい、といった方向けに提供しています」。(内田さん)
 「出店をきっかけに実店舗を開業した例もあり、マルシェの存在が新たな創業につながっています」。(伊藤さん)

 Boule de neige(ブールドネージュ)さんは、チーズケーキ専門のお店です。2020年にマルシェのゲスト枠で初出店し、2023年からは毎月出店を続け、2024年に実店舗を開業しました。マルシェに参加して一番よかったことを「伊丹のまちのなかで『横のつながり』ができたこと。お客様だけでなく、同業者など仕事仲間と出会えてつながれたことが大きかった」と話しています。

  • 画像:Boule de neige(ブールドネージュ)さん
  • 画像:Boule de neige(ブールドネージュ)さん
    Boule de neige(ブールドネージュ)さん

 SATISFACTIONZ COFFEE WORKS(サティスファクションズ コーヒーワークス)さんは、シェイカーでつくるアイスコーヒー(シェケナアイスコーヒー)が評判のお店です。三軒寺前広場の近くに実店舗を開業する予定です。「お店のことを伊丹の皆さんに知ってもらえたことがよかった」と話しています。

画像:SATISFACTIONZ COFFEE WORKS(サティスファクションズ コーヒーワークス)さん一家
SATISFACTIONZ COFFEE WORKS(サティスファクションズ コーヒーワークス)さん一家

(3)行政のバックアップ

 マルシェの会場である三軒寺前広場は、2025年6月から8月にかけて整備工事を行いました。タイル張りだった路面を石張りにして凹凸を少なくし、排水設備と分電盤を新たに設置しました。工事期間中はマルシェ開催ができなくなるため、期間の決定には実行委員会の意見が反映されたそうです。
 三軒寺前広場は市道に区分されていますが、街灯やベンチが設けられ、イベント参加者の憩いの場にもなっています。水道とトイレは無いので、必要な水は出店者が持参し、出店者用のトイレは近隣の住民宅のものを、事務局が交渉して使わせていただいているそうです。

画像:三軒寺前広場のベンチや街灯
三軒寺前広場のベンチや街灯

 「市民の皆さんがイベントなどを計画する際、まずは空港・にぎわい課に訪れる方が多いです。その後、庁内の関係部署につないだり、警察等への必要な申請について案内したりしています。まちづくり会社と連携して情報共有をしています」。(清水さん)
 「空港・にぎわい課の対応は、相談に来た市民の皆さんが、いわゆる『たらいまわし』にならずに、安心して相談できる環境を作ってくれています」。(内田さん)


5.賑わいにつなげるための2つのこと

 伊丹市の事例から見えてくるのは「①イベントの日常化 ②公共空間の使いこなし」の2つが、イベントを継続的な賑わいにつなげるための両輪になっていることです。

(1)イベントの日常化

 なにげない会話からマルシェが生まれたり、ことば蔵から市民の企画が次々立ち上がったりと、市民(商業者を含む)がイベントを「特別なもの」ではく「日常の延長」と捉えて、気軽に企画・参加できる文化が育まれています。「ゆるさ」からくる心理的な障壁の低さ、イベントを行う際の相談のしやすさ、イベント実施や参画の機会の多さなどが定着し、イベントが途切れなく連鎖的に行われることから「日常にイベントの賑わいがある」といった状況を生み出しています。イベントの担い手の発掘や新陳代謝も進みやすくなっています。
 「月に一度、日曜日の朝」「会場は三軒寺前広場」と時間や場所を固定することも、出店者・来場者両方にとってのイベントの日常化につながっているといえます。

画像:イタミ朝マルシェの様子 最近はファミリー層や子どもの来場が増えたとのこと
イタミ朝マルシェの様子 最近はファミリー層や子どもの来場が増えたとのこと

(2)公共空間の使いこなし

 マルシェが開催されている三軒寺前広場は、行政の整備によりマルシェなどのイベントがしやすくなりました。単なる会場ではなく、市民の自己表現や交流の場としても公共空間が機能しています。設備が整った会場は、創業予定者など出店に慣れない方にとって、よりチャレンジしやすい環境となっています。
 三軒寺前広場が中心市街地のほぼ中央にあり、文化施設や歴史的建造物などがコンパクトにまとまって位置しており、スポット間の行き来を促すことが容易です。JR伊丹駅からアクセスする道が一部電線地中化などにより歩きやすく、瓦屋根や白壁など景観的に配慮された街並みであることも、公共空間の居心地のよさを創りだし、まちなかでの滞在を伸ばすことにもつながっています。

  • 画像:JR伊丹駅から三軒寺前広場までの道
    JR伊丹駅から三軒寺前広場までの道
  • 画像:三軒寺前広場からことば蔵までの道
    三軒寺前広場からことば蔵までの道

 ①②の両輪がうまく回るには、主催者である協議会の事務局(市・まちづくり会社・商工会議所)の連携やはたらきが大きいです。
 「ゆるさ」にこだわること、皆で決めた「決まり事」で品質を保つこと、市民からの企画やアイデアを取りこぼさず実施までつなげることなどにより、市民や商業者の「まちを盛り上げたい」という気運を持続させ、賑わいにつなげています。
 市の柔軟な対応と、まちづくり会社・商工会議所との連携が、公共空間のより良い使いこなしに寄与しているともいえます。


 今後の課題について、事務局の皆さんに伺いました。
 「イベントにより土曜・日曜などの賑わいは生まれているが、平日にどう波及させるかについては依然として課題です。その中で、平日バルなど恒常的なにぎわい創出につながる新たな取り組みも実施いただいており、そうした取り組みを推進していくことが重要であると考えています」。(清水さん)

 「マルシェをはじめさまざまなイベントを実施していますが、事務局としての仕事量が増加し、煩雑になってきています」。(内田さん)
 「今後は、イベントの自立自走が課題と考えています。事務局の支援はどうしても限りがあります。担い手のさらなる発掘が重要と考えています」。(伊藤さん)

 最後に、長くイベントを行うポイントを伺いました。
 「以前は来場者数でイベントを評価することもありましたが、数値ばかり睨みながら実施しても続きません。なにより事務局自身がイベントを楽しみ、出店者や来場者にも楽しんでいただく。『ゆるくやわらかい雰囲気を保つこと』と、『楽しめる範囲から逸脱しない』ことが大切です」。(内田さん)


 イベントが日常になっていくと、賑わいも一過性ではなく暮らしの風景の一部となって溶け込んでいきます。そのために、イベントが続きやすい仕組み作りや工夫、担い手が手を上げやすい環境づくり、関係者の密な連携などが重要なポイントとなると思われます。

※印の写真・画像については、関係者の皆さんから使用の許可をいただき掲載しています。