みちがまちを変えていく~公共空間利活用と、人の繋がりづくり~
(福井県福井市)
<第2回>「ふくみち」プロジェクト
福井県福井市では2024年の北陸新幹線福井駅開業を見据え、福井駅周辺で複数の市街地再開発事業が進められています。
同市は2018(平成30)年に第2期認定中心市街地活性化基本計画が終了したのちは、独自計画で中心市街地活性化に取り組んでいます。
特に公共空間利活用を推進し、国土交通省で事例が紹介されているほか、2021年より歩行者利便増進道路制度・通称ほこみち制度を活用した社会実験「ふくみち」に取組み、道路の日常使いに向けた検証を重ねています。また、2022年8月には今後のまちづくり指針となる「県都グランドデザイン」(案)が公表され、その実現に向けて様々な動きが加速するなど、中心市街地は更なる変化の過程にあります。
シリーズ第2回目は「ふくみち」プロジェクトについてご紹介します。
<第1回> 公共空間利活用へシフト! <第2回> 「ふくみち」プロジェクト <第3回> コミュニティ作りから面々と続く人づくり/まちづくり福井の新たな役割と今後の展望 |
<目次>
- 「ふくみち」プロジェクトについて
- 「ふくみち」社会実験の様子
- 公共空間利活用について豊富な経験・ノウハウが「ふくみち」実施を後押し
- 事前アンケートの実施と事業者巻き込みを意識したワークショップ開催
- さまざまなパターンで検証/「ふくみち」を通して把握できたこと
- 「ふくみち」取組みにおけるポイント
- 課題と今後について
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1.「ふくみち」プロジェクトについて
「ふくみち」プロジェクトは、ほこみち制度(※)を活用した社会実験です。福井のほこみち=「ふくみち」と名付けられ、『「みち」から「まち」を変えていく』をテーマに、福井駅周辺の道路(中央大通りや県庁線)で実験を行っています。
※ほこみち制度
歩行者利便増進道路制度=略して「ほこみち」は、「道路空間を街の活性化に活用したい」「歩道にカフェやベンチを置いてゆっくり滞在できる空間にしたい」など、道路への新しいニーズが高まっている中、道路空間の構築を行いやすくするため、2020年11月に施行されました。
2021年10月2日から17日の第1回社会実験を皮切りに、第2回社会実験は2022年2月21日から25日、第3回社会実験は6月1日から17日(取材時点)と、回を重ねています。
毎回実施内容や場所・期間等が異なる試行事業のため一概に比較はできませんが、第1回社会実験には延べ1万人が来場しました。
2.「ふくみち」社会実験の様子
社会実験ではキッチンカー出店やイートインベンチの設置、休憩ベンチやハンモック等の設置、古紙回収で集まった本を活用した図書コーナー、アコーディオンやウクレレのライブBGM、ワークショップ等を実施しています。
社会実験場所である中央大通りや県庁線は官公庁・オフィス街にあり、目的がある人以外の通行が少ない場所です。2022年度から2023年度にかけて中央大通りのリニューアル計画があり、せっかく道路をリニューアルするならより良く使える空間をつくりたいということから、ほこみち制度の活用検討として社会実験を開始しました。事業主体は福井市ですが、企画・運営はまちづくり福井(株)に委託しています。
※ふくみちinstagramより (https://www.instagram.com/fukumich2021)
平日のお昼時はオフィスワーカーや学生でにぎわい、今まで通過していた“みち”に人が滞留する空間が生まれました。休日の中央公園(市役所北側)と駅の間にある県庁線では、遊具やハンモックで遊ぶ姿も見られました。駅から中央公園に歩いていくまでの間に休憩スペースを設けたところ、「小さい子供連れには辛い距離だったが途中で休めて非常に良かった」という声が利用者からあったそうです。
※「ふくみち」社会実験の様子は動画でも紹介されています。
3.まちづくり福井の公共空間利活用経験・ノウハウが「ふくみち」実施を後押し
「ふくみち」の実施に踏み切れたのは「実績のあるまちづくり福井の存在が大きかった」と福井市の熊野主幹は語りました。公共空間利活用のワンストップ窓口として対応してきた経験とノウハウを持ち、警察や消防の信用があることは、大きな優位点だったといいます。
ほこみちのフォーラムに参加した際に、ほこみちを実施するうえで「警察協議」に時間がかかったという地域が多く、長いところでは協議に半年かかった話も聞いたそうです。
福井市ではまちづくり福井が警察とやりとりをしてきた実績があるため、行政が間に入らなくても、1か月程度で調整できました。
また、他地域では飲食店の前の道を活用するケースが多いそうですが、福井市はオフィス街の道を使って、人が滞留する空間を作る取組みなので、ほこみちの中でも珍しいケースということです。
4.事前アンケートの実施と事業者巻き込みを意識したワークショップ開催
第1回社会実験を行う前には、どのように道路空間を活用すべきか、一般市民(駅利用者・観光者含む)、通勤者(駅周辺オフィスワーカー等)、キッチンカー出店者や地元事業者を対象に、ターゲット毎の課題認識を踏まえたアンケート調査やワークショップなどを行いました。
①事前調査からの仮説
例えば通勤者アンケートによると、ランチ形態についてお弁当の人が67.0%、そのうち職場で食べている人は86.7%、現状のランチに満足はしている人は75.4%という結果になりました。ただし、キッチンカーが並ぶ賑わう空間の写真を見せて「通りが画像のようになれば利用したいか?」という質問には、利用したいと答えた人は73.0%おり、ランチニーズがあるのではないかという仮説を立てました。
そのほかアンケート結果からは「休憩できる場所があると良い」「緑や木陰があると良い」といった意見も見られました。
②ワークショップ開催:合意形成とニーズの把握
アンケート調査の後社会実験前までに、ワークショップを2回開催しました。ワークショップの参加者は沿道の地権者、付近で勤務している方、キッチンカー経営者や商店街事業者等です。1回目は事業の趣旨を説明したうえで他の都市の事例を紹介し、どのように道路空間を活用したら良いか意見交換を実施しました。2回目は1回目で出た意見を更に掘り下げて、実現可能なアイデアにするワークショップを行いました。
③事業者の巻き込み
また、2回目ワークショップ後に参加企業等に協力を打診したところ、NTT西日本からは人流調査の協力、旭化成㈱からはクッションやマットレスの提供、福井大学の学生からは出店の申し出がありました。そのほか、フクビ化学工業㈱からは人工木材使用のFandaline(ファンダライン)という屋外家具を、福井市園芸センターからはオリーブの苗木を無償提供いただきました。民間の資金や人的支援もあり、社会実験に厚みを持たせることができたということです。
将来的には民間主導で道路空間を活用していく構想があり、早い段階から民間の協力を得ながら道路空間で何ができるか一緒に考えていく、巻き込み手段のひとつとしてワークショップ等を行った、と熊野氏は述べました。
5.さまざまなパターンで検証/「ふくみち」を通して把握できたこと
今後日常使いするための課題解決を目的としているため、社会実験は天候が悪い時期にも行っています。さまざまなテーマ、条件で社会実験を行った結果、次のことがわかりました。
①冬場もある程度ランチニーズはある
第2回の「冬のふくみち」は試行的に行いました。気候の良い季節だけでなく、福井のように降雪・積雪のある地域・季節でもニーズがあるか、真冬にキッチンカーを並べて実験しました。
この時はテーブルや椅子を置きませんでしたが、寒さが厳しい時期でも人出はあり、ランチニーズはあるという結果がわかりました。
②天候が悪くても人流はある(「雨だから人が来ない→売上が悪い」ではなかった)
第3回の「6月のふくみち」は梅雨の時期に実施しました。アンケートでは「天気が悪くて売上が伸びなかった」と答えた事業者が多かったのですが、人流カメラの結果を解析したところ、期間中晴れの日も雨の日も普段の約3倍の人が歩いており、雨の日は人が来ているのに売上に結びついていないことが判明しました。
利用者アンケート等も検討した結果、「キッチンカーは温かいものを提供できる反面、提供まで時間がかかるため、キッチンカー前で待つ人がいると買うのをやめてしまう」という課題が改めて浮き彫りになりました。
このように実験の結果を踏まえて毎回改善を行っており、利用者の満足度は第1回と比較して、2回目3回目と向上しています。キッチンカー事業者にも結果を共有しながら、状況に合わせたオペレーションの変更や特典付与を検討する等、今後の日常使いに向けて、課題の抽出と解決案検討を繰り返しています。
③直接的利益だけではないメリットを感じた方もいる
第3回の「6月のふくみち」では民間企業の社員が講師を務め、多肉植物ワークショップを実施しました。準備のため定時で帰宅できるよう業務効率を意識したり、人に教えるため話す練習をしたりと、自身にもプラスになったということです。直接的利益だけではない、別の意味合いを感じてもらえたことで、今後市民が活躍できる新たな取組みの例となりました。
④まちなかに出る楽しみを知った人が増加
ランチニーズについても興味深いことが判りました。社会実験前のアンケートでは、75.4%が今のランチに満足していましたが、社会実験後同じ質問をしたところ満足度が減り、「どちらでもない」が大幅に増加し、今のランチに満足している人は約3割になったということです。
「ふくみち」でまちなかに出てお昼を食べる楽しさを知った結果であり、新たな取組みが成果として繋がったといえます。
6.「ふくみち」取組みにおけるポイント
「ふくみち」は回を重ねるごとに市民の認知度も上がり、関係する人達との繋がりも強まっています。取組みにおけるポイントについて伺いました。
①「ふくみち」というネーミング
福井と“ほこみち“をもじった「ふくみち」というネーミングにより、福井市民に「自分達のもの」という認識を持ってもらえました。
②コンセプトに基づいてロゴや空間をデザイン
ロゴは地元デザイナーに依頼して作りました。ぷっくり膨らんだ曲線は人が溜まる空間をイメージ、カラフルな色味は道路にも楽しいイメージを持ってもらいたいというメッセージが込められています。あえて交差するような部分をそのまま残して、ロゴを見るだけで道路だとわかるようなデザインにしました。
「ふくみち」というネーミングとロゴがあったおかげで印象が伝わり、幅広く認知が進んでいると考えています。
また緑や憩いの空間、椅子やテーブルの配置、カラフルでおしゃれなキッチンカー等、アンケート調査やワークショップを踏まえて空間をしっかりデザインしたことで、事業者と利用者ともに満足度が高かったと考えています。
なお、実験の検証結果は県道整備の際の道路設計に反映されました。車止めの位置変更、車道との段差解消、給電設備や木陰となる街路樹の設置、ベンチやコンセントの位置などキッチンカーが営業しやすい環境、利用者がくつろぎやすい環境になっています。
③人流データを取って、結果を検証
「ふくみち」では、NTT西日本の協力により、定点カメラによる人流計測及び解析が行われています。根拠となるデータをもとに定量的に検証・説明ができるため、参加者や関係者にフィードバックし、次回に向けた改善策を検討できています。
④関係者間の繋がり強化、情報共有の徹底
「ふくみち」準備のため全体会という会議を実施(第3回社会実験までは隔週)、通常は各担当別に役割分担で進める内容も関係者全員で話し合って決めており、情報共有を徹底しています。定期的に顔を合わせることで関係強化にも繋がっています。
7.課題と今後について
道路空間を活用して利益を得られる事業者ばかりではないため、そうした人たちの“利益”をどうするかが、課題です。
例えば、「少しの期間来て儲けて帰ってしまう」と、キッチンカーを面白く思わない地元の飲食店もいます。こうした課題から『ふくみちスタンプラリー』という施策を実施、5つのスタンプのうちの1つは会場近くの地元飲食店で食事をして押してもらうようにし、周辺事業者へも波及するようにしました。社会実験はまちなか回遊、飲食を楽しんでもらうきっかけ作りであり、今後も地元事業者の巻き込みを考えながら進めます。
また、現在ボランタリー的に参加いただいている民間企業の“利益”も同様です。未来への投資として見ている企業がある一方、事業に参加することが「社の利益になるか」を社内で説明しにくいといった声も一部あります。そこで「ふくみち」が事業課題等を検証するフィールドとなれば、参加の意義も見出してもらえるのはないかと、企業の課題解決や検証を「ふくみち」の事業とマッチングしていくことを次のステップで考えているということです。
「ふくみち」の指定は社会実験エリアだけでなく、再開発エリア周辺の道路も想定しています。各道路はそれぞれ環境が異なるため、道路ごとの組織づくりと全体のとりまとめ組織の設置を検討していくそうです。企業の福利厚生としても活用できる、キッチンカー及びエリア内飲食店共通の食券システム「まちなか社食」(案)など、地域と出店者がお互いに支え合う関係づくりを目指していく、ということです。
このように、本格運用に向けて、地域全体で「ふくみち制度」を支えられる構想や体制づくりを進められています。
2024年の運用開始に向けて引き続き様々なパターンの社会実験を行って課題を洗い出すとともに、今後担い手となる民間事業者を中心とした体制についても議論を重ね、スモールステップで少しずつ組織体として持続可能なものにしていきたい、ということです。