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  • (第1回)副業・創業支援が小商いを誘発し、まちに活気を与える(埼玉県越谷市)

(第1回)副業・創業支援が小商いを誘発し、まちに活気を与える(埼玉県越谷市)※(お詫び)7/19一部修正いたしました。

越谷市は都心から約30キロメートル。公共交通などのアクセスも便利で都心のベッドタウンとなっています。よって、ここ近年、越谷市の人口は、増加しています。

中心市街地の人口は、周辺の新駅や郊外のショッピングセンター周辺と比べ、その動きは鈍いものの、増加傾向にあります。

商業面では、人口増加が著しい新駅周辺や郊外のショッピングセンターが好調であるため、中心市街地への来街者数は減少傾向です。中心市街地の旧日光街道沿いを中心に商店が連なる越谷新町商店会も徐々に弱まってきました。

さらに、人口増加を受け、中心市街地に残っていた歴史的建造物も取り壊され宅地になりつつあり、中心市街地の魅力が失われつつありました。

その状況を打破すべく、立ち上がったのが、株式会社まちづくり越谷ならびに一般社団法人越谷テロワール(以下、越谷テロワール)の井橋 潤氏(以下、井橋氏)と畔上 順平氏(以下、畔上氏)を始めとする商店会若手メンバーでした。

商店会の若手メンバーは、建築デザイナーや商業専門家などと連携し、2016年にはまちなかインフォメーション機能を備えたコミュニティカフェ「CAFE803」(以下、カフェ803)、2018年には古民家をリノベーションした複合商業施設「はかり屋」など越谷の新住民との交流や、他地域からの来街も促す拠点を展開してきました。

さらに、これらの成功を踏まえ展開しようとしているのが2019年6月にオープンしたシェアオフィス「OFFICE803(以下、オフィス803)」です。

これらは、どのような意図で展開され、相乗効果を生もうとしているのでしょうか。まちづくり越谷の井橋潤氏(以下、井橋氏)に今後の展開について伺いました。

井橋氏(左)と畔上氏(右)
越谷市中心市街地活性化に邁進する井橋氏(左)と畔上氏(右)

オフィス803(シェアオフィス)を開業するまで

副業・創業に発展する可能性を秘めたワークショップの展開

カフェ803は、井橋氏や畔上氏を始めとするまちづくりプレイヤーにより、人口増が続く越谷市において、新住民との交流を目的に設置されました。その集客状況は好調であり、当初の目的通り、住民同士のコミュニティが形成されています。

※カフェ803が整備された経緯は以下のリンクを参照ください。

【参考リンク】店舗開店前に顧客が出来たコミュニティカフェ

  

コミュニティ形成の核は、主要顧客である主婦層です。この主婦層がカフェ803で盛んにワークショップ展開しています。ワークショップは、編み物教室やハーバリウム作り、料理教室などのハンドメイドのものが中心となっています。

ワークショップの予定とワークショップで作成された作品
ワークショップの予定とワークショップで作成された作品
カフェ803ではクラフトだけでなく料理のワークショップも出来る
カフェ803ではクラフトだけでなく料理のワークショップも出来る(カフェ803提供)

ワークショップは当初、単発の開催だったが、その様子が来店客の目に留まり、徐々に開催希望者を増やしてきた。今ではほぼ毎日開催されている。
カフェ803がワークショップ開催の場として確立される以前に、主婦の憩いの場として確立されたことが成功の要因。

カフェ803で行われるワークショップなどのイベントは、開催数も多く、カフェ803に行けばいつも何か面白いことをやっていると評判になり、昨今では、郊外のショッピングセンター近隣の住民もカフェ803に訪れるほどです。また、近接する市町村からもカフェ803の展示物やワークショップ参加目的で来店され、地元から中・広域の交流の場になっています。

越谷周辺の主要駅と道路(越谷市中心市街地活性化基本計画より)
越谷周辺の主要駅と道路(越谷市中心市街地活性化基本計画より)

南越谷駅周辺は近年、都市開発が進んでおり、越谷レイクタウン駅には大型ショッピングセンターが立地する。旧日光街道の宿場町として栄えた越谷市中心市街地は、まちの魅力の掘り起こしや創出することで、これらのエリアと差別化を図っていく。

有機農家を支援する市民団体の活動

越谷市中心市街地では、カフェ803の他に子育てママの活動も盛んです。市民団体「しあわせのたねプロジェクト」は、子どもの食の環境の問題を扱う活動からスタートし、2014年6月、消費の立場から人と人、人と自然のつながりを強くし、安心・安全な暮らしを未来に引き継ぐ活動をする、という理念を掲げ設立しました。

しあわせのたねプロジェクトは、人の健康や子どもの成長に食が大きな影響を与えることにフォーカスし、親子が畑で土や野菜とふれあうイベントを展開する中で、農家と畑の置かれている実情を知り、より多様な人を巻き込む必要性を感じ、こだわりの食と暮らしのあるマルシェAcha Acha(アチャアチャ)を考案、2015年にスタートし継続して越谷駅前で開催しています。

Acha Achaは、コンセプトに合った出展者を1件1件訪問して集め、理念に共感する事業者と事業者予備軍を取り込みながら徐々に規模を拡大しています。

(参考) Acha Acha直近3回の来街者と出店者の推移
イベント来街者数 出店者数
第3回(2017年) 約6,000名 53
第4回(2018年) 約5,000名 56
第5回(2019年) 約8,500名 62

Acha Achaの規模が拡大する中で、しあわせのたねプロジェクトは、イベントの前後で出店者同士が交流する場を提供し、独自のコミュニティを形成しています。

その過程で有機農家とカフェを営む事業者が連携してドレッシングを開発するなどの動きが見られるようになりました。
また、デザインのノウハウを持つ子育てママと協働してイベント広報物を作成するなど、子育てママのスキルアップを促す活動も見られます。

つまり、しあわせのたねプロジェクトは、有機農家や商店街個店の販路拡大や子育てママの副業支援まで事業を広げているといえます。

マルシェイベントAcha Achaの様子(Acha Achaフェイスブックより)
マルシェイベントAcha Achaの様子(Acha Achaフェイスブックより)

しあわせのたねプロジェクトは、このような事業を展開する中で、中心市街地活性化も活動テーマとし、井橋氏らまちづくりプレイヤーと協働し、軒先ショップなどまちなかイベントに協力する活動も行っています。

歴史的建造物をリノベーション。複合商業施設「はかり屋」の影響力

一方で、cafe803開設後、新たな拠点を井橋氏と畔上氏ら越谷テロワールが整備しました。古民家をリノベーションした「はかり屋」です。この古民家は、明治38年に、材木商として財を築いた大野氏が、貴重な木材をふんだんに使用し建てた屋敷で、越谷中心市街地の象徴的な建物です。

この築120年を越える古民家は解体・更地になる予定でしたが、越谷の魅力が失われることを危惧した越谷テロワールが、建物オーナーに古民家を複合商業施設として利活用する案を提案しました。

この案に、収益性があると判断した建物オーナーは、越谷テロワールに、リノベーションとサブリースを委任することにしました。

はかり屋
はかり屋(地域情報サイトKOSHIGAYAZINE(コシガヤジン)より)

越谷テロワールは、はかり屋を「ハレ」の日はもちろん、豊かな「ケ」の日を提供する場とすることを決めました。はかり屋を特別な日ばかりでなく、豊かな日常を提供する場とし、衣食住をキーワードに入居するテナントを厳選しました。

    

【参考リンク】はかり屋に入居するテナント 別ウィンドウで開きます

    

越谷テロワールとはかり屋に入居したテナントは、持ち前の独自性を活かした商品・サービスを展開し、中心市街地に来街者を呼び込みました。また、地域ウェブマガジン「KOSHIGAYAZINE」を発行する青野祐次氏と連携し、テナントの特徴を発信。さらに、小さなイベントを多数展開することで来街機会を創出しました。その結果、地域外からも来街者が生まれるようになりました。

  

【参考リンク】KOSHIGAYAZINE 別ウィンドウで開きます

KOSHIGAYAZINEは、「この街の物語を、もっと。」をコンセプトに越谷の魅力とストーリーを掘り起こし発信している。青野氏の個人ブログから発展した。
越谷で生きていくことや、「これからの暮らし」について考えるきっかけを与えている。

  

【参考リンク】はかり屋で行われるイベント(平日) 別ウィンドウで開きます

【参考リンク】はかり屋で行われるイベント(土日イベント) 別ウィンドウで開きます

カフェ803とはかり屋、しあわせのたねプロジェクトが生む相乗効果

カフェ803とはかり屋が展開する小さなイベントの数々は相乗効果を生み、地域内外から呼び込んだ来街者が、この2拠点を利用するようになりました。つまり、この2拠点を結ぶ集客の線が中心市街地に出来つつあるのです。

2019年7月の越谷市中心市街地通行量調査(越谷新町商店会より提供)
2019年7月に行った越谷市中心市街地通行量調査結果(越谷新町商店会より提供)

ここ数年、土日の越谷中心市街地歩行者通行量は減少していたが、直近の調査では休日の歩行者量が平日を上回る結果となった。

また、カフェ803で展開するワークショップやしあわせのたねプロジェクトが展開するマルシェイベント、さらに、はかり屋に入居する特徴的なテナントの成功は、若手クリエーターを中心とした副業・創業を目指す層を刺激し、イベントに出店するようになりました。

例えば、井橋氏らまちづくりプレイヤーとしあわせのたねプロジェクトが参画するイベント宿場まつりでは、商店街個店ばかりでなく若手クリエーターなども出店しますが、双方の協働も見られるようになりました。

例えば、古民家の軒先を使ったポップアップショップ「軒先ショップ」では、植物などの卸を展開するクリエーターと瀬戸物店とがコラボレーションし、瀬戸物を鉢植えに活用した商品をママスタイリストがデモ販売したところ、瞬く間に完売しました。

他にも、乾物屋とママ料理人とのコラボレーションをした軒先ショップなども実行し、衰退した商店街の可能性を示す事象が生まれています。イベント後は、クリエーターやママ料理人への問い合わせばかりでなく、瀬戸物店や乾物屋の来客も増加したといいます。

つまり、様々な市民主体の協働が、集客の核になるばかりではく、商店街既存店の魅力の掘り起こし、若いクリエーターなど、新たなまちづくりプレイヤーを呼び込む結果に繋がっているということです。

まとめ

今回の記事では、カフェ803、はかり屋の整備とこの2拠点が展開する小さなソフトイベントやマルシェイベントAcha Achaが来街者だけでなく、新たなまちづくりプレイヤーも呼び込むところまで記載いたしました。

これから、井橋氏を始めとするまちづくりプレイヤーは、これらの環境の変化から、越谷には副業や創業のニーズがあるのではないかと仮説を立てます。そこで、専門家協力の下、副業や創業に関する調査を行い、その展開に向けた動きをとっていきます。

その詳細については後日の記事にてお知らせいたします。

   

(第2回)副業・創業支援が小商いを誘発し、まちに活気を与える(埼玉県越谷市)