(第2回)副業・創業支援が小商いを誘発し、まちに活気を与える(埼玉県越谷市)
前回の記事では、カフェ803とはかり屋が展開する事業や小さなイベントの数々、さらには市民団体しあわせのたねプロジェクトが展開するマルシェイベントAcha Achaが相乗効果を発揮し、地域内外からの来街者ばかりでなく、副業・創業の担い手となり得る若手クリエイターや子育てママなどのまちづくりプレイヤーをも呼び込んだことについて記載しました。
(第1回)副業・創業支援が小商いを誘発し、まちに活気を与える(埼玉県越谷市)
株式会社まちづくり越谷(以下、まちづくり越谷)ならびに一般社団法人越谷テロワールの井橋潤氏(以下、井橋氏)や畔上順平氏を始めとするまちづくりプレイヤーは、これらの環境の変化から、越谷には副業や創業のニーズがあるのではないかと仮説を立てます。
そこで、専門家協力の下、副業や創業に関する調査を行い、その展開に向けた動きをとっていきます。
今回の記事では井橋氏に伺い、そのプロセスについて記載します。
副業・創業支援ニーズ調査
井橋氏を始めとするまちづくりプレイヤーは、中心市街地及び、中心市街地に来街が顕著な、越谷レイクタウン駅周辺の住民に対して、副業や創業に対するニーズのアンケート調査をしました。
質問は、副業・創業の希望の有無とその理由、どのようなノウハウを活かして創業したいかなどの設問を設けました。また、アンケート回答者の属性を地域別、年収別、住居別(持ち家か集合住宅か)などに分け、これらの相互関係性を分析しました。
分析の結果、対象エリアの約43パーセントが副業に興味を持っていることが分かりました。年収別では世帯年収が500~1000万円の世帯が副業・創業を検討しており、その中でも集合住宅の世帯が副業・創業を強く希望する傾向が分かりました。
また、副業に活かしたい分野として越谷レイクタウン駅周辺ではクラフトの趣味を、中心市街地である越谷駅周辺では、それに加えて農業で収入を得たいと希望する傾向があることが分かりました。
さらに、イベントなどに出店する事業者予備軍は、副業や開業に関するノウハウの不足から本格的な事業に繋がらないケースが多く、ノウハウを学ぶ場を求めていることも分かりました。
これらの分析から、副業・創業を希望する層が十分であると判断した井橋氏らは、副業・創業を支援する拠点を整備することにしました。
オフィス803の整備
井橋氏が代表取締役を務めるまちづくり越谷は、これらの調査・分析結果を受けて、副業・創業希望者が集い、それぞれが事業の深化を図るシェアオフィス・コワーキングオフィスを整備することにしました。それがオフィス803です。
6月のシェアオフィス・コワーキングオフィス開設にあたり、プレイベントとしてまちなかツアーを兼ねたオフィスの内覧会で、有限会社エコカレッジ代表取締役の尾野寛明氏による講演会を開きオフィス803の機能を周知しました。
このプレイベントの目的は、まち歩きツアーによる副業・創業希望者と商店街店舗との顔合わせを兼ねた、歴史ある越谷市中心市街地の魅力発信、講演会によるオフィス803で展開される継続的な事業スキルアップ支援の魅力発信です。
前回の記事では、若手クリエイターや料理人が瀬戸物店や乾物屋など商店街店舗と協働して新たな商品・サービスの開発や顧客創造に繋げたことをお伝えしました。
まち歩きツアーが、隠れた魅力を持つ商店街個店とそれを発掘し活用する副業・創業希望者が協働するきっかけとなることを目的としています。
また、副業・創業のスタートアップ期には、事業を軌道に乗せるため、自己研鑽を続けると同時に第三者のアドバイスを得ながら事業をブラッシュアップしていくことが必要になります。尾野氏による講演はそれを啓蒙するものとなりました。
プレイベントで手ごたえを感じたまちづくり越谷が、副業・創業支援イベントとして、手始めとして行ったのが「越谷デザイナーズ・バー」です。これは、商品・サービスに事業者の想いや魅力を反映させ、発信するには、デザイン力も必要と考え開催されました。
当日は、尾野氏の講演の効果もあってか、予想以上の参加者が会場を訪れ、副業・創業希望者とデザイナーのマッチングが盛んに行われました。
副業・創業希望者が自身の事業を熱く語る姿や、デザイナーがデザインサンプルを持ち込みプレゼンテーションする姿が見られました。
両者の交流が生む熱気は、いい意味で予想を裏切るものでした。これから展開する副業・創業支援に期待が持てるものとなりました。
オフィス803では、このようなまち副業・創業者に必要となるノウハウを提供する勉強会や講演会、交流会を定期的に提供することで、副業・創業者の事業継続性を高めていきます。
この動きに地元信用金庫も共感。埼玉縣信用金庫が、まちづくり越谷と共同して日本財団の「わがまち基金」を活用した地方創生スキーム「こしがや副業・起業支援事業」に取り組むことになったのです。
オフィス803で展開される事業や、後述する越谷暮らしLABで展開される事業費の一部についてわがまち基金が活用されます。当該事業については、越谷商工会議所も協力しています。
副業・創業者の技術・ノウハウを高める拠点の整備
オフィス803が商業に関するノウハウを提供する場なら、2019年秋に整備予定の越谷暮らしLABは、料理やモノ作りのノウハウを提供する場といえます。
上記画像、左より越谷暮らしLABのLAB802、LAB801。一番右は生活雑貨から業務用道具まで揃える釘清商店。
LAB801のクラフトスタジオとLAB802は、本格的なものづくりが可能となる環境です。個人では揃えるには難しい特殊加工が可能な作業器具・設備を揃えること、さらに技術講習を提供することで、副業・創業希望者の技術レベル向上を図ります。技術レベルの高度化により、付加価値の高い製品作りにつなげます。
まちづくり越谷と越谷新町商店会は、古材などを活用してリノベーションされた家具の魅力を発信するリビルディング・マーケットを開催予定。リノベーションの可能性と共に組子や桐細工を始めとする越谷の伝統技術を発信する狙いがある。
菓子製造許可を取得したLAB801のレンタルキッチンでは、老若男女問わず料理教室などを展開できる空間になる予定です。地元農家や飲食店が協働してそのレンタルキッチンを活用し、6次化商品の開発などから越谷の農産物の魅力を発信することもできます。
このように、まちづくり越谷は、今後、越谷暮らしLABを拠点に食のスモールブランドづくりを促進したい考えです。料理人や農家、消費者が、越谷暮らしLABで交流することで、商品作りを促進し、新たな越谷ブランドの誕生に繋がるよう支援したいとしています。
食のスモールブランドづくりの一環として、まちづくり越谷は、有機小麦栽培を促進する農家を支援する予定。小麦を活用した食品は多種多様だ。食材として利便性の高い小麦が、地元ブランド化することは、地元の魅力向上ばかりでなく、販路を広げたい有機農家や飲食店の一助にもなる。
有機小麦の魅力発信として、中心市街地の飲食店と連携した「小麦フェス」の開催を11月に予定している。
以上から、越谷暮らしLABは、副業・創業者の技術の高度化を図るばかりでなく、越谷の産業の魅力を発信する集客の拠点としても機能する可能性があります。
まちづくり越谷は、中心市街地の魅力発信を強めるため、越谷暮らしLABを拠点とした越谷の魅力を伝えるツアー商品の展開を予定しています。その為に、すでにまちづくり越谷では国内旅程管理主任者(ツアーコンダクター)資格を取得済みであり、国内旅行業務取扱管理者資格も取得予定です。
現状、予定されているツアーは、まちなかの伝統産業や歴史的建築を案内する「まち歩きツアー」や地元農産物の魅力発信のため農家と協働する「収穫ツアー」などです。
7月の中心市街地通行量調査では、近年、平日の通行量を下回っていた休日の通行量が回復し、平日を上回った。その要因としてカフェ803やはかり屋整備の相乗効果が高いことが考えられる。越谷暮らしLABが第3の集客拠点となり、更なる来街者の増加を図りたい。
まとめ
井橋氏らをはじめとするまちづくりプレイヤーの活躍により、廃業を検討する店主や空き店舗オーナーから、物件の利活用についてまちづくり越谷に相談が来るようになりました。
こうした空き物件に、副業・創業支援、そしてカフェ803やはかり屋の活性の一助となったリノベーションが相乗効果を発揮し、新陳代謝が絶えず図られることで、中心市街地の魅力向上に繋がることが期待されます。
最後に、以下に、越谷暮らしLABの利活用に真剣に取り組む様子やそのメンバーを紹介します。越谷では以下のようなまちづくりプレイヤーが、切磋琢磨しながら自分のノウハウをまちに活かし、魅力を与えています。郷土愛を持ちながら、まちでやりたいことを楽しむその姿に共感し、まちづくりに参画する人材も多くなってきました。
まちづくりプレイヤーの活躍により、訪れる度に新しい動きが起きている越谷市の中心市街地に今後も注目です。