店舗開業前に顧客が出来たコミュニティカフェ(埼玉県越谷市)4
新しい客層と仲間作りのためのリピータブルローコスト事業と情報発信:平成27年夏から継続
この調査後、カフェ開設までに1年以上かかることから、実行委員会はその間に駅周辺の集合住宅の住民などを中心とした新住民に対してカフェの周知を図るアプローチを仕掛けることにしました。コミュニティカフェと同じ敷地内に駐車場をかり、二ヶ月~三ヶ月に一度、土曜日の午前中に小さなマルシェを行う事にしたのです。
マルシェの名前は、八百喜参の蔵(やおきさんのくら:CAFE803と地続きの私有地内にある蔵)の前で行うことから「やおきさんのマルシェ」と名付けられました。
やおきさんのマルシェは、毎回テーマを決めて行うことにしました。出店者については、今から店舗を持ちたい人たちや、新しい商品を試したい人たちを中心に募ることとしました。告知策は、周辺住民や新住民に情報が行き渡るように毎回2,000部ポスティングをし、小学校にも同じリーフレットを配布することにしました。また、ターゲット層である小学生とその親子を確実にフックするために犬のキャラクターを独自に作り呼びかけました。
出店規模10店以下のマルシェですが、一回目のやおきさんのマルシェ(平成27年9月26日〜)は、約400人以上の来客があり、10時に開催し12時前にはすべての商品が売り切れるほどの大盛況でした。会場アンケートは50件回収できましたが、そのすべてが「継続してほしい」という回答を得るほどの反響がありました。
マルシェの会場では、起業支援の案内や、このカフェで出来ることなどを逐次報告して行いました。マルシェ出店者に対しては、それぞれのビジネスに役立つカフェの機能について説明しました。例えば、カフェ中央部にレンタルキッチンを整備し料理教室なども開けることや、会議や音楽ライブ、絵画展示などができることをPRしました。
- 第一回 やおきさんのマルシェ(土曜日のスペシャルモーニングプレート)
- 第二回 ヒトハコ古本市(雨のため中止)
- 第三回 Marche de Noel
- 第四回 蚤の市
- 第五回 Sweets&Picnic
- 第六回 夏の疲れをのんびり癒やすマルシェ
- 第七回 Marche de Noel
- 第八回 春の和マルシェ
このようなマルシェの成功には、出店者の質と数が重要になります。やおきさんのマルシェ出店者申込数(商売の仲間)増加を図った要因の一つは、Facebook広告とTMOのホームページの徹底的な情報連携です。Facebookのマルシェページを見る利用者は、中心市街地周辺の30-40代であるに対して、出店希望者は、Facebookの広告分析で近隣市町村の30-40代であることが分かってきました。商いを始めようと考えている方は他市であっても出店条件が有利なエリアへの出店する傾向があります。よって、市内・市外問わず、起業したい人やマルシェ出店希望者に対して、現状や事業内容を明確に届ける必要性があると考えました。
また、周知策の他にマルシェ出店申込者が増加している要因は、井橋氏らが、運営者・出店者・利用者の「三方よし」を意識していることにあります。例えば、運営者の803マルシェを行う目的は、カフェの新しい客層の誘因です。しかし、それだけではなく、マルシェ出店者にとっては、商売人として成功体験を積み成長機会の場になるように、利用者にとってはマルシェ出店者とのコミュニケーションを通して新しい発見があるように、店舗数とマルシェのテーマをコントロールしています。このように設計することで、地域を巻き込む継続性のあるマルシェにすることを目標にしています。(リピータブルローコストイベント事業)
そのため運営者は、出店者に利益を出してほしいという願いから、予測利用者数や出店者の商品単価、一人家族当たりの購入金額からマルシェ全体の総売上を算出し、そこから一店舗当たりの売上平均予測を算出しています。さらに、出店舗数が少なくても会場演出を行うことで、利用者がゆっくり出来る環境を整え、滞在時間数を長くする工夫をするなど、売上確保に繋がるようにしています。
また、マルシェのテーマに合うよう、井橋氏・佐々木デザイナー・畔上建築デザイナーの三人が出店者を厳選し、出店者の質の向上を図っています。
マルシェは、前述のとおりカフェ開業までの周知策として行いました。しかし、マルシェの高い集客力からカフェの広告塔としての役割、マルシェ出店者の創業支援の役割を果たすためにカフェを開業した後もマルシェを継続して行うことになりました。
さらに、井橋氏たちがマルシェの他に行ったカフェ周知策は、「親子で参加するCAFE803リノベーションキャンプ」です。これは、カフェの内装などを近隣住民自らが手がけることで、カフェに親しみを持っていただく試みです。これまでのマルシェ利用者は、当初想定していた通り、地域とのつながりを強めてほしい新住民層でした。この層にリノベーションキャンプにも参加してもらえるよう、告知策を強化しました。具体的には、マルシェ内でもリノベーションキャンプの告知を行うことはもちろんのこと、マルシェとリノベーションキャンプが関連したイベントであることを訴求するために、マルシェ告知に用いた犬のキャラクターを使用しました。また、新住民が住む集合住宅を中心にポスティングを行いました。リノベーションキャンプ当日は、左官職人の指導の下、カフェのフロアに子供たちの好きなガラス玉や貝殻を絵柄のように埋め込みんだり、本棚の制作を親子で行い楽しんで頂くことで、オープンまでの間、工事現場の様子を覗く家族連れが多くなりました。この様な取組みが、今のカフェ集客の基礎となりました。
※上の4点がやおきさんのマルシェのリーフレット、赤いリーフレットがリノベーションキャンプのリーフレットです。リノベーションキャンプがマルシェと関連性を持つことを訴求するため、マルシェと同様に犬のキャラクターを用いています。
さらに、マルシェのほかにカフェがオープンするまで行った創業支援に、「起業しない起業塾」があります。「起業しない起業塾」は、尾野寛明氏(有限会社エコカレッジ)が越ヶ谷TMOと協力して越ヶ谷宿の商家を利用しながら行うものです。マルシェ参加者にも案内しながら人生設計と事業計画を6回に分けて勉強していくことを勧めています。参加者は約20名で、その後、越谷市中心市街地で起業する参加者は3名という結果が出ています。