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10年後につなぐ・つむぐ/未来ビジョン「みちしるべ」を元に進める「まちそだて」
~地域に必要な機能を。新しい場づくりへの挑戦~(福島県須賀川市)

 福島県須賀川市は、人口73,683人(2023年1月1日現在)、福島県のほぼ中央に位置した緑豊かなまちです。同市では官民連携で積極的にまちづくりを行っており、特に民間の動きが活発です。その中のひとつ、民間出資100%の株式会社テダソチマは空き家バンクの運営、低未利用地の利活用、空き店舗・遊休施設活用といったまちづくり事業を精力的に行っており、都市再生推進法人にも指定されています。
 経済産業省 令和4年度地域商業機能複合化推進事業(地域の持続的発展のための中小商業者等の機能活性化事業)※に採択された『須賀川市とまちづくり会社による、空きビルを活用した魅力あるコンテンツの集積事業』の事業主体でもあります。同社の代表取締役大木和彦氏に取材を行い、事業内容や今後の展望等について伺いました。

株式会社テダソチマ 代表取締役 大木和彦氏

<目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。

 
◆須賀川市の中心市街地活性化の取組みについては、以下の記事も御覧ください。


1.テダソチマの設立経緯と事業内容

 株式会社テダソチマは、民間出資のまちづくり会社として2019年8月設立されました。また、同年に須賀川市から福島県初の都市再生推進法人として指定されています。

 会社名を逆さから読むと、「まちそだて」になります。弘前大学の北原啓司教授の研究『まち育て』に共感した大木氏が、社名を付ける際に北原教授に相談したところ、「テダソチマ」と名付けていただいたということです。「そこに暮らす人々が活力に溢れ、夢や希望を持って暮らすことができるまちを育てていきたい」という想いが込められています。 

 同社は設立以降、多くのプロジェクトを実施しています。複数のリノベーション事業、須賀川南部地区エリアプラットフォーム(後述)、お試し居住、所有者不明土地対策、空き家バンク【イエソダテ】、須賀川市の魅力を発信するためのプロモーション動画作成まで、まちづくりに関する幅広い事業に取り組んでいます。
 大木氏は、同市のまちづくり会社「こぷろ須賀川」で中心市街地活性化基本計画の事業にも携わっていました。本業は不動産業ということもあり、まちづくりへの入口は空き店舗・空き家問題を解消して「まちの価値を高めたい」という視点からだったそうです。そうして、まちに必要な機能や事業を考える中、スピーディーに事業を推進する必要性を感じ、ステークホルダーをコンパクトにしたまちづくり会社を設立しました。各取組みを行ってきた結果、より須賀川の魅力を向上させるため、現在では中心市街地だけでなく、市内で過疎地域となった旧長沼町のプロモーション等にも手を広げています。
 

「空き物件をみんなの居場所に」/まちに必要な事業を考え行政に提案

 リノベーション事業のひとつに、「みんなのイバショソダテ」があります。この事業は、須賀川市が所有していた旧母子生活支援施設を引き受け、交流や学びができる滞在拠点にリノベーションするものです。建築士の指導のもと、ボランティアを募集してDIYを行っており、主に福島大学の学生等が参加しています。
 背景としては、市内のホテルはビジネス利用で満室になる傾向が多く、イベントの際に宿泊する場所がない、宿泊費用が比較的高いという声がありました。「須賀川で何かに挑戦したい」「学びたい」といった意欲を持つ人材が、安価で手軽に滞在できる空間を整備することで、地域外からの人材の受け口にする目的があります。

(左)みんなのイバショソダテ チラシ   (右)大学生が参加するリノベーションの様子
(テダソチマ社HPより)

 市では施設を解体する方針でしたが、同社が施設の活用提案を行い、プロポーザル方式で受託が決定しました。解体費用が不要になることで行政は財政負担が軽減され、当事業を通して関係人口を増やすことができれば、まちにもプラスになります。
 例えば、2,000円から3,000円で宿泊できるドミトリーがあれば、学生がお手伝いをしながら旅ができるような仕組みが作れます。このような低未利用不動産の利活用を通じて、地域にコミュニケーションとアクティビティを生み出していきたい考えです。

 「まちに必要な事業を考え行政に提案しながら、趣旨が合う補助制度があれば活用する」と大木氏は述べました。まちづくりに必要な事業を積極的に提案する姿勢で、さまざまな関係団体と連携しながら、各種事業を行っています。


2.「須賀川南部地区エリアプラットフォーム」と未来ビジョン「みちしるべ」について

「須賀川南部地区エリアプラットフォーム」

 同社は産学官金連携で進めている「須賀川南部地区エリアプラットフォーム」の発起人です。このプラットフォームには、中心市街地のまちづくりに関わる地域団体や企業、金融機関、大学の教授や学生、行政など、多様なメンバーが参画しています。

エリアプラットフォームの体制図(未来ビジョン『みちしるべ』より)

 ここでは、異なる立場からの視点で、まちづくりについて意見交換を行っています。まちの魅力・課題を見つけるためのまち歩きワークショップの開催、未来ビジョン『みちしるべ』策定、ビッグデータを活用した旅客流動分析事業等を実施しました。

未来ビジョン『みちしるべ』の策定             

 未来ビジョン『みちしるべ』は、先述の須賀川南部地区エリアプラットフォームで策定されたまちづくり推進のための行動指針です。計画期間は2022年~2031年、主に須賀川市役所を中心とした南部地区といわれる地区と須賀川市民交流センター(tette)を含んだエリアを対象にしています。
 この地区では公共空間や低利用地の利活用が積極的に進められ、毎回6,000人~7,000人の来場者があるRojima※等のマルシェイベントも盛んに行われています。東日本大震災で甚大な被害を受けたエリアでもありますが、その後のハード整備がほぼ完了し、今後はこれらのまちなか資源を有機的に連携させることが必要になっています。

※Rojima(ロジマ:広場や路地を活かしたマーケット)
須賀川の街の中で、新たなヒトとモノの交流が生まれることを願い、路地裏散策をテーマに2015年から始まったマーケットです。駐車場や空き店舗、広場など、街中の路地に面した様々な空間を利用しながら、毎月第2日曜日に開催されています。民間団体である一般社団法人ロヂカラが運営しています。

 未来ビジョン『みちしるべ』では、「つなぐ・つむぐ」をコンセプトに、人と社会、人と場、人と環境をつなぐ「10のみちしるべ」を示しています。同エリアプラットフォームでは未来ビジョン実現に向けて、様々な事業を推進しています。

(参考:外部リンク)須賀川南部地区エリアプラットフォーム 別ウィンドウで開きます

  • 「みちしるべ」表紙
未来ビジョン「みちしるべ」より

 地域商業機能複合化推進事業を活用した、「須賀川まちなかチャレンジプロジェクト」も、未来ビジョンを実現する取組みのひとつです。


3.「須賀川まちなかチャレンジプロジェクト」(地域商業機能複合化推進事業活用)


①「須賀川まちなかチャレンジプロジェクト」事業概要  

 「須賀川まちなかチャレンジプロジェクト」の目的は、事業者がチャレンジできるまちを目指すとともに、まちなか全体の回遊性向上、中心市街地への滞在時間を延ばして賑わいを創出するものです。主にチャレンジショップの整備と情報発信サイトの制作運営の二本柱で事業を進めています。
 チャレンジショップの整備は、中心市街地の集客核である「市民交流センターtette」に近接する4階建ての「中島ビル」1階を改修し、「チャレンジショップ」と「子育て支援」機能を持つ場とするものです。情報発信サイト「スカチャレ」は、須賀川の魅力を発信するとともに出店者や来街者同士のコミュニケーションを深めることを目的としています。

(外部リンク)「スカチャレ」 別ウィンドウで開きます

(左)マチソダテベースのチラシ  (右)空間イメージ
(テダソチマ社 資料より)

②小さな挑戦が集まる価値創造実験基地「マチソダテベース」

 1階のチャレンジショップは「マチソダテベース」と名付けられ、起業を目指す人が気軽に挑戦できる場として整備され、2月4日にプレオープンしました。

 ビルのフロア面積は約370平方メートルと広く、1階のチャレンジショップフロアには一辺約2mのキューブ状のブースを8基配置しています。家賃は水道代や光熱費を含めて月額1万円の設定であり、出店しやすい価格帯です。

  • プレオープン済のショップ
    プレオープン済のショップ
  • キューブ状のブース

 令和5年2月現在3者の出店が決まっています(取材時)。寄付された子供服とハンドメイド作家の雑貨等を販売する『TUNAGU SHOP(つなぐしょっぷ)』、アメリカントイを販売する『cobsanya(こぶさんや)』、ハンドメイドの布小物や和のインテリア雑貨等を販売する『福の縁(ふくのえん)』です。

  • TUNAGU SHOP
    (スカチャレHPより)
  • cobsanya
    (スカチャレHPより)
  • 福の縁
    (スカチャレHPより)

 なお、2階は運動教室など多目的利用、3階は若手芸術家支援のギャラリーなどを将来的に構想しています。
同社の大木氏は、「最初から完成した施設に出店してもらうのではなく、出店者と話し合いながら、運営方針やビル内の設え、方向性等を一緒に作り上げ、場を育てていきたい。」と述べました。2~3月はトライアル期間として課題を抽出し、課題の優先順位をつけながら、施設を作り上げていく計画です。
 例えば、相談して内部の設えの方向性を決める、配置するベンチ等の備品を決める、一緒に壁を塗る等、マチソダテベースを共に作り上げるプロセスを通じて、出店者の自立意識の醸成を含め、事業者としての成長も促していきたい考えです。

  • 課題が書かれたブースの黒板
  • 中島ビル2F
  • 中島ビル3F

③意見交換会の様子

 プレオープンの数日後、(株)テダソチマと「マチソダテベース」の出店者や関係者が参加する意見交換会、専門家からの助言(中小企業庁令和4年度外部人材活用・地域人材育成事業)が行われました。
 出店者からは、完成イメージ図と比較し、「施設の環境が整っているとはいえない」「施設が完成していないように見える」といった意見がありました。
 先述のとおり、大木氏としては話し合いを重ねながら一緒に場を育てていきたい考えがあります。意見交換会ではお互いの考えを話し合い、「優先順位をつけてひとつずつ解決していく過程で、スピード感など、もどかしさを感じる部分があるかもしれないが、都度話し合いながら一歩ずつやっていく」ことで合意しました。まずは安全面等に関する課題を優先的に対応していくことになりました。
 集まった出店者はビル内の設えについてもそれぞれ嗜好や考えが違います。こうした意見交換を通して、同施設が成長していくことが想定されました。

  • 意見交換会のようす
  • 専門家の梶岡氏と出店者のみなさん

 専門家の梶岡誠生氏より、参加した出店者へは計画的な情報発信の重要性、お互いの意見をすり合わせするための必要機能等の助言のほか、テナントが一緒に作り上げる商店街の事例等を紹介いただきました。また、事業者の稼ぐ力をステップアップさせるような伴走支援の仕組みを自治体がいかに作れるかも、必要な要素であることを説明いただきました。

 今後、出店者が出揃ってから施設の運営等について協議・コンセンサスを図る組織を作る計画です。話し合いながら中身を作り上げていくことで、マチソダテベースを自分たちのステージだと思ってほしいと、大木氏は考えています。
 また、マチソダテベースの出店者は、週末起業や本格的な創業前のチャレンジオープン等を想定していることもあり、同社が伴走支援機能を担いながら、ウルトラFM(須賀川市の地域コミュニティFM)等や情報発信サイト「スカチャレ」を通して、出店者のPRをしていきたい考えです。


④今後の方向性(場を育て、事業者を育てる) 

 1階のチャレンジショップに配置されたブースは可動式で、間を詰めれば余剰スペースができます。今後はそのスペースをどう活用していくか、出店者と話し合いながら決めていきたい考えです。
 マチソダテベースの出店者は、土日だけ営業する人、昼間だけ営業する人等さまざまです。一緒に施設を作ることを通して出店者間の関係性を育み、自店舗だけでなく他も思いやれる事業者へ育てたい、と考えています。大木氏は、「中島ビルの中に“小さな商店街”を作りたい」と述べました。
 なお、意見交換会後の週末は、Rojima開催日でした。マチソダテベースの空ブースをRojima出店者が利用したことで多くの人で賑わい、良いお披露目になりました。

  • 2月のRojimaでは空きブースを出店者が利用
    (写真出典:スカチャレより)
  • 2月Rojima時 ビル内の様子
    (写真出典:スカチャレより)

 出店者は定期的に更新し、新しい風を取り入れていく計画です。チャレンジショップという位置づけのため、同施設を卒業した後は、市民交流センターtette内のチャレンジショップや空き物件での開業等にステップアップしていくことを期待しています。


4.これまでの中心市街地活性化施策との相乗効果/tetteを核とした回遊性向上

 中島ビル正面から入り、フロアの奥に進むと、突き当りに出入口があります。出入口のシャッターを開くと、市民交流センターtetteの北側入口に通じる構造になっており、出入口を解放すると一つの通りになります。
 チャレンジショップ出店者が出揃い、中島ビル内部の設えが出来上がった際には、ショップのブースに立ち寄ってもらいながら、子育て支援機能や休憩スポットほか自由な空間活用ができるスペースとして、また市民交流センターtetteへつながる通りとして、回遊性向上を図りたい考えです。

  • 中島ビル1F
    (正面入り口から奥に抜けることができる)
  • 中島ビル裏側
    (通りのつきあたりはtette北側入口)

 これまでに整備された各施設、活性化施策や創業支援機能との相乗効果も期待でき、中心市街地への波及効果も大きいと考えられます。


5.今後の展望(パートナーとして、市民ニーズと行政サービスのかけ橋として)  

 同社は、市で行っているさまざまな活性化施策の相乗効果を高めるため、ただ建物をリノベーションして提供するのではなく、使う人と「共に場を育てていく」という考えで事業を行ってきました。
 自治体が空き家バンクを運営する(または外部に運営委託する)地域が多い中、自治体に提案して民間で空き家バンクの運営を行っています。補助金がなくても収益を上げられるよう、まちづくり会社で宅建業も取得しています。
 また、数々の活性化事業を行う中で直面した「所有者不明土地」問題の対応も始めています。まち中で相続登記を済ませていない、所有者が須賀川市に住んでない不在地主問題を解決するため、今後、所有者不明土地利用円滑化等推進法人の立ち上げを検討しています。
 同社のスタンスは、自治体のパートナーであること。まちに必要で、行政にもメリットになる事業を提案し、リノベーション事業や既存建物の活用、まちの活性化活動を行ってきました。それらの活動が結果として公民連携という形になったと、大木氏は振り返りました。

 今後の展望は、会社として市民ニーズと行政サービスのコミュニケーションを支援することです。市内では民間・行政・商工会議所等においてさまざまな事業・イベントが行われていますが、なかなか市民に届きにくいため、情報を一元化できるプラットフォームが必要だと、大木氏は考えています。
 例えば、須賀川に越してきた子育て中の女性が、自分の嗜好に沿ったサークルやイベントと出会えるような、商工会議所やまちづくり会社等が発信している情報をひとつに集約できるようなサイトを立ち上げるとともに、コンシェルジュ機能を併せ持つプラットフォームを作りたいということです。
 そこで集まった意見を行政サービスに反映できれば、市民ニーズを取り入れた行政サービス提供のための支援もできると考えています。
 少子高齢化の中、須賀川市の人口も減少が予測されています。外に拡げるのではなく、内に充つる(住民の生活が充実していること、市民の活力が充ちていること)まちを目指したい、ということです。


6.取材を終えて

 通常のテナントリーシングでは、完成した施設に出店者を誘致するケースが多いですが、地域商業機能複合化推進事業を活用した「須賀川まちなかチャレンジプロジェクト」は、出店者とともに「場を育てる」という考え方で進めています。
 最初から整備された建物に入ることを想定していた出店者にとっては驚いた点もあったかと思いますが、関係者が話し合いながら内装の設えや運営等を決めていくという、非常に挑戦的な試みであると感じました。
 「まちそだて」という同社のコンセプト通り、その過程で出店者同士の関係、経営者としてのステップアップ、「場」としての成長等が予感されます。
 今後、マチソダテベースにどのような機能が揃っていくのか、この場所からスタートする魅力的なコンテンツで須賀川のまちなか風景がどう変わるのか、引き続き注目したいと思います。

正式オープンを目指して続々とオープンするチャレンジショップのようす
(スカチャレHPより)