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「まちと人との交わりを。まちづくり会社の仕事」~草津まちづくり株式会社~
(滋賀県草津市)

 2021年11月30日、滋賀県草津市で開催された『近畿中心市街地活性化ネットワーク研究会in草津』(以下セミナー)において、草津まちづくり株式会社の西澤奈都美氏の講演がありました。講演内容を事例としてまとめています。
(※セミナーの詳細報告は下のボタンをクリックしてください)

 視察先の事例や事例集を参考に同じことをしても、自地域で事業として確立することが難しいのが実状です。また、まちづくりの担い手不足はどの地域でも共通の課題です。
 草津まちづくり会社では、他地域の視察等からヒントを得て、マーケット(『草津小市』)を立ち上げており、そこから派生した地域のコミュニティ作りは特徴的です。コミュニティが自走的に発展し、まちのファンが増えていくプロセスを確立しています。

地域概要と課題 

 草津市は滋賀県の南東部に位置しており、県庁所在地の大津市に次ぐ県下第2位の人口を有する都市です。中心市街地は東海道と中山道の分岐・合流点という交通の要衝として、江戸時代には宿場町として栄え、当時の面影をとどめる寺院や歴史的建造物が残されています。

 草津市は、草津川跡地軸とJR線2つの軸とそれによってできる3つのエリア(駅西エリア、駅東エリア、本陣エリア)に分けられます。近年、駅東地域では人口増加が著しく、宿場町跡の本陣エリアでは趣ある建物と、高層マンションが混在しています。

草津市中心市街地活性化基本計画(第2期)概要版より

 草津市では平成25年に第1期中心市街地活性化基本計画認定を受けてから現在2期目の認定計画を遂行中です。拠点整備等ハード事業主体の取組みを進めてきましたが、商業活性化や回遊性の向上などの課題解決には至りませんでした。

 中心市街地の現状としては、歴史的な文化資源が残る一方で、マンションが多く建設され、30代~40代の子育て世代が多く転入してきています。マンション立地が盛んな反面、公共施設の老朽化、大規模店舗の出店や高齢化の影響で商店街の商業機能が低下しています。

 これまでハード整備を主とした活性化策を中心に取組みを進めていましたが、2期計画では、先述の2つの軸と3つのエリアの個性を活かしながら連携を図る事業を進めています。

まちづくり会社の主な事業 

  • niwa+(ニワタス)運営
  • 東海道・草津宿テナントミックス事業
  • KUSATSU COCORIVA(クサツココリバ)運営
  • 中心市街地公共空間賑わい創出事業(草津市委託)
  • 中心市街地活性化協議会事務局
  • 中心市街地活性化基本計画フォローアップ事業

まちづくり会社 3つのテナントミックス事業

①アニマート跡地テナントミックス事業/niwa+(ニワタス)運営
 ニワタスは草津市中心市街地活性化基本計画の第1弾プロジェクトとして、草津駅前にあった低未利用地を活用し、草津市が公園整備、まちづくり会社が店舗を建設してテナントを誘致。官民連携による新しいスタイルの公共事業として開業しました。

②東海道草津宿テナントミックス事業
 本陣エリアでは空き店舗率が高く高齢化も進む一方、旧街道の趣ある建物やまちなみを残しています。これらの地域資源を活かしながらまちの賑わいを創出するため二棟の建物を借り、改修してテナントを誘致しました。

③草津川跡地テナントミックス事業/クサツココリバ運営
 草津市が草津川跡地公園において公園整備を行い、まちづくり会社が草津川跡地公園・草津市中心市街地に賑わいを波及させる3つの店舗を整備するテナントミックス事業です。ニワタスや草津宿でのテナントミックス事業と連携しながら、中心市街地全体へと人の流れをつくります。

  • アニマート跡地テナントックス事業
    (草津まちづくり㈱HPより)
  • 東海道・草津宿テナントミックス事業
    (草津まちづくり㈱HPより)
  • 草津川跡地テナントミックス事業
    (草津まちづくり㈱HPより)
各テナントミックス事業の位置
「草津まちづくり株式会社 テナントミックス事業の歩み」より

各地の視察、まちづくりの勉強 (『草津小市』が出来るまで) 

 平成14年に廃川となった草津川跡地空間は6つの区間に分けて整備が進められ、平成29年に草津川跡地公園「ai 彩ひろば」、「de 愛ひろば」がオープンし、残りの区間も引き続き整備が進められています。

 一方、本陣エリアでは、草津川跡地公園の完成を機に、マンション建設が急加速的にすすみ、趣ある古い建物等がなくなっていきました。そのような中まちづくり会社は、行政だけでなく地域の建物所有者や住民にも声をかけ、空き店舗対策やテナントミックス事業の参考にするため、まちづくりの勉強として、各地へ視察に赴きました。

 丹波篠山市のマルシェでヒントを得た、「イベントの時のみ空き店舗を貸してもらう」こと。福井のリノベーションスクールでの「付加価値は不要、すでにそこにある潜在価値を見出せ、また日常に眠る地域資源を顕在化し、編集する」という講師の言葉。長浜でヒントを得た歴史あるまちのまちづくりビジョンや、仲間づくりの起点となるコンテンツづくり等。視察等から発想を得て企画したのが、まちなかを使った小さなマーケット『草津小市』でした。

他地域の事業を参考に、草津に合う形に作り上げた『草津小市』

 暮らしがテーマのマーケット『草津小市』は、草津大市(※)から着想を得て、西澤氏が立ち上げたイベントです。他の地域での視察や勉強等からもヒントを得て、企画・実施しました。
 本陣エリアの路地裏にあるお寺を会場に開催した『草津小市』では、歳時記にあわせた品々を販売するマーケットや、地元農家の季節野菜が購入できるファーマーズマーケット、しめ縄作りのワークショップ等を開催しています。(コロナ禍により2021年は開催していません)

※草津大市
江戸時代お盆と歳末に開かれていた「二季の市」が、明治時代に「草津大市」に引き継がれ、1960年代位まで実施されていました。毎年8月、12月に市が立ち、露店等が並び多くの人で賑わう、年に2回の娯楽でもありました。特に12月の大市ではお餅やしめ縄等の正月用品を揃えるほか、お茶碗や衣服など来年に向けて新調する等、大人も子供も楽しみにしていた市だったそうです。

 かつての賑わいの象徴であった草津大市をモチーフにしながらも、敬意を表しつつ、まずは「小さくはじめよう」との思いから『草津小市』と名付けました。

プロのデザイナーを起用してまちの魅力を引き出す、一貫したブランディングの実施

 『草津小市』を立ち上げるにあたり、「新しいものを持ってくる」のではなく「もともとあるものを引き出す」ため、プロのデザイナーを活用しました。
 デザイナーと草津小市のコンセプトやビジュアルを作り上げ、デザイナーと一緒にまちを歩いて撮影し、ポスターにまとめるところまで一貫して実施しました。

Instagram #草津小市より https://www.instagram.com/kusatsu.koichi/ 別ウィンドウで開きます

 古くからある茶屋やお寺など宿場町の面影を残す建物、どこか懐かしい路地裏、他にはない風景などを、デザイナー目線で撮影した写真をSNSで発信したところ、駅前のにぎやかなイメージと異なる風景写真に、若い世代を中心に多くの反響があったそうです。
 結果、第1回目では、近隣住民の方や若い世代の方を中心に参加者がゆるやかに集まり、楽しい冬の催しを楽しまれたそうです。

 2017年に実施した第1回目『草津小市』を開催して以降、回を重ねるごとに会場は広がり、参加人数も増えていきました。3回目では、お寺やまちなか等の複数会場で開催する大規模なものになりました。

  • 2019年開催のチラシ(表)
    (草津まちづくり株式会社 HPより)
  • 2019年開催のチラシ(裏)
    (草津まちづくり株式会社 HPより)

 本陣エリアの路地裏には、お寺が多く集まっていることも特徴的です。当日はお寺の本堂や境内を開放いただき、ファーマーズマーケットによる野菜販売や、社会福祉協議会による豚汁の振る舞い、地元ラジオ局によるラジオの生放送(コイチラヂオ)では、草津街道交流館の館長やさまざまな人たちが出演し、まちと人の交わりが広がりました。

 通常、イベントを企画・開催する際は販促費用を抑えるため、担当者により写真撮影やチラシ作成を行うことが多いのではないでしょうか。
 『草津小市」成功のポイントのひとつとして、プロデザイナーの活用とブランディングが挙げられます。デザイナーと草津小市のコンセプトやビジュアルを作り上げ、デザイナーと一緒にまちを歩いて撮影し、ポスターにまとめるところまで一貫して実施しました。
 コンセプト、ビジュアルをデザインすることで、草津のまちに来てほしい人が来てくれるようになりました。

『草津小市』からひろがる活動

 『草津小市』をきっかけとした交流が始まり、その後自主的運営に移行し小市から巣立っていった主な例としては、ファーマーズマーケット、アートラボが挙げられます。

<ファーマーズマーケット>
 1回目の草津小市で野菜を販売したところ地域の方に非常に喜ばれ、2回目の草津小市ではファーマーズマーケットを実施しようと企画していましたが、実施主体が決まっていませんでした。そのとき、偶然にも大学生から「海外で体験したマーケットを、日本で実現したい。イベントを開くことについてノウハウを教えてほしい」とSNSを通じてコンタクトがありました。
 そこで、彼らのファーマーズマーケットの第一歩を、草津小市の中で実現してもらいました。現在コロナ禍ですが、大学を卒業して社会人になった今でも、草津川跡地公園でファーマーズマーケットを開催しています。

<くさつまちなかアートラボ>
 イラストを描いたり陶器を作るなど、ものづくりが好きな草津在住の5人のママさんがユニットを組んで「くさつまちなかアートラボ」という名前で活動しており、『草津小市』ではじめて展示会を行いました。草津小市だけの活動ではなく、その後はまちなかの古民家を借りて展示会を開催するなど今も活動を続けています。

非日常を日常に。 ~『みんなのハナレ』の立ち上げ~

 色々な繋がりができた『草津小市』ですが、年1回の開催のため、あくまでも非日常の出来事でした。
「ここで生まれたつながりを日常にできないか」「まちとの“関わりしろ(関われる余白)”ができないか」という思いから、西澤氏は『みんなのハナレ』を立ち上げることにしました。

(リンク)『みんなのハナレ』https://hanare.kusatsu-koichi.com/ 別ウィンドウで開きます

 当初、この事業は東海道・草津宿テナントミックス事業の中の実験として、1年間の期限で実施したものだったため、予算も限られていたそうです。改修費も多くなく、家具や道具等も購入できる資金がなかったので、ダメ元で「家で使っていない昔ながらの家具道具を譲ってもらえないか」と呼びかけたところ、もうすぐ解体する旧家から古いテーブルやミシン等を譲ってもらうことができました。今なお、施設内にはまちの方々からゆずってもらった家具や道具が多く使われています。

みんなのハナレ HPより

 内装についても、『草津小市』で関わった人達に声をかけて自分たちでペンキを塗る等、自分たちでできるリノベーションを行い、2019年にオープンしました。

『みんなのハナレ』を通じて増える、まちに関わるひと

 『みんなのハナレ』にはキッチンがあるためシェアスペースとして使われることが多いほか、毎週火曜日に県内の農家さんから無農薬の野菜を仕入れて販売しており、近隣の方が訪ねてくるきっかけにもなっています。
 ものづくりのワークショップや作品展、ヨガ教室など、さまざまな催しが行われています。
 また、誰でも気軽に訪ねていただけるように、月に一度茶話会を開催し、新たな人との出会いやつながりを促す仕掛けづくりも行われています。

  • ドクターズカフェ
  • 雑貨店ミモザとカルトナージュ教室
  • 哲学カフェ

Instagram #みんなのハナレより https://www.instagram.com/minnano.hanare/ 別ウィンドウで開きます

 このように『みんなのハナレ』を通じてまちに関わる人が増えてきました。番頭さんを中心に、イベントを企画する風土が生まれ、イベントに参加する人が周りで感想を広め、それを聞いた人や参加した人も「自分もやってみようか」と、外から見ている人も内側にまき込まれるようなスパイラルが自然と出来上がりました。

草津まちづくり株式会社 西澤奈都美氏の発表資料より

取組みの効果:本陣エリアにおける出店増加

 草津市には魅力店舗誘致事業補助金という、中心市街地で空き店舗を使って事業をする場合、改装費の3分の2(最大200万円)を補助する支援制度があります。対象範囲は駅前を含む中心市街地内となっているのですが、本陣エリアで活用される事例(ベーカリーショップ、焼き菓子店など)が増えたそうです。現在では、補助金を頼らずとも、日本料理店やフラワーショップ、カフェの開業が続くようになりました。

 「『草津小市』や『みんなのハナレ』が直接的な要因ではないとしても、何か動きのあるエリアには人が集まるのではないか」と西澤氏は考えています。

今後について

 本陣エリアはマンション建設に伴い新しい住民が増える一方、昔から住んでいる方々も多い地域です。このエリアにある『くさつ夢本陣』(観光案内所・無料休憩所、コミュニティ F M 放送局を併設)の広場を、新旧の世代が交わる場所として使えないかと、実験的に様々な活動をしています。
 また、まちづくり会社の今後の事業として、草津小市で活発になったエリアから立木神社方面へと、さらなる取組みを進めていく計画です。

 西澤氏は終わりに、「まちづくり会社がこれから出来ることは、人を集めるイベントを企画するのではなく、何かをやりたい側の人を集めてサポートすること。どれだけやりたい側の人を増やしていくかだと思う」とまとめました。