中町こみせ通りを活用した複合宿泊施設整備による黒石市中心商店街観光消費創出事業
(青森県黒石市)
2021年11月11日~12日、青森県八戸市で開催された『東北地域中心市街地および商店街関連セミナー~まちの人材育成編~』(以下セミナー)において、経済産業省の補助事業を活用した東北地域の事例の中から、地域の関係者がネットワークを構築し、合意形成を進めながら拠点形成を行った事例として、2つの地域の発表がありました。発表の詳細を事例としてまとめました。
(※セミナーの詳細報告は下のボタンをクリックしてください)
事例紹介【青森県黒石市(こみせ通り商店街)】 <複合宿泊施設整備>
(発表者)こみせ通り商店街振興組合 理事長 村上陽心氏、事務局長 中田和道氏
事業概要
(事業名)
|
中町こみせ通りを活用した複合宿泊施設整備による黒石市中心商店街観光消費創出事業
|
(活用した事業)
|
平成31年度商店街活性化・観光消費創出事業
|
(取組概要)
|
複合的な商業施設を整備
|
【ハード】
【ソフト】
|
・「こみせの宿ホテル逢春」の建設
市の中心市街地の結節地点に、新たに複合宿泊施設を整備
①黒石こみせまつりと連携した屋台村(夜市)の開催
②弘前大学と連携した、インバウンド向けモニターツアーの実施
③商店街・飲食店多言語マップ及びHPの作成
|
(課題と目的)
|
・宿泊施設や屋内イベントスペース等を備えた複合的な商業施設を整備し、まちなかへの滞在時間を増加させるとともに、市民を含めた様々な世代の憩いとなる場を提供する。
・イベント等の実施により、来街者に商店街や飲食店を回遊してもらい、商店街に活気をもたらす。
・行政や地域と密に連携し、インバウンドに対応した宿泊施設の整備や地域大学等の留学生モニターツアー等を実施し、インバウンド需要を創出することでインバウンド観光誘客を推進する。
|
商店街等の位置情報
地域概要と課題
青森県黒石市は、県指定の無形民俗文化財でもある黒石ねぷた祭をはじめとする歴史的文化が残る町で、近年ではご当地グルメ「黒石つゆやきそば」も有名です。
近年台湾や中国からの個人旅行者が増加傾向にあり、市内には観光客やビジネス客が毎年60万人ほど来ているにもかかわらず、まちなかの宿泊機能が弱いことで滞留時間が短く、商店街や飲食店の経済的機会損失が懸念されていました。
※こみせとは:建物の表通りに設けられたひさしのこと。「こみせ通り」には藩政時代に作られた木製アーケードや歴史的建造物が残っています。
「こみせ通り」は平成17年に重要伝統的建造物群保存地区の選定を受け、また「美しい日本の歴史的風土100選」にも選定されています。
発表では、こみせ通り商店街振興組合の村上理事長より、まちづくりに関わった経緯、どのような思いで活動しているか等を交えながらエピソードが披露されました。
まちづくり参加のきっかけ、NPO法人化へ
もともとは役者志望で首都圏で活動し、黒石にUターンしてきた村上理事長がまちづくりに関わるきっかけは、旅行客に「こみせ」の意味を聞かれた際に答えられなかったことだといいます。その後、まちなかのガイドを作成したり、まちコン(テーマを設定した出会いサポートイベント)、まち歩き等の取り組みを開始した後、NPO法人『横町十文字まちそだて会』を設立しました。
NPO法人『横町十文字まちそだて会』では、黒石らしいまちづくりを目的として、商店街や行政、地域の関係者と連携をとりながら、まち歩きツアーなどのソフトから店舗改装デザイン・食のプロモーションなど事業支援まで手掛けています。
リンク:NPO法人『横町十文字まちそだて会』 別ウィンドウで開きます
複合的商業施設整備へ(ハード事業の取り組み)
黒石市中心市街地に所在するこみせ通り商店街では、国内外から毎年多くの観光客が訪れていますが、滞留時間が短く、街中に落ちるお金が少ないことが課題でした。そのような背景から、宿泊施設も盛り込んだ複合施設を作ろうという構想が立ち上がりました。
中心市街地活性化基本計画の基本方針も追い風となり、平成31年度の商店街活性化・観光消費創出事業(経済産業省)を活用して、中心市街地の中の動線の結節地点に新たな複合宿泊施設「こみせの宿 ホテル逢春」を建設しました。
まちなかに弱かった宿泊と、会議から宴会対応可能なホール、カフェとお土産販売、および居酒屋の併設により、地域外からの来訪者のまちなか滞在時間を増加させるとともに、市民を含めた様々な世代の憩いとなる場を提供することができるようになりました。
ソフト事業の取り組み
ソフト事業としては、来街者がまちなかに滞留するしくみ、お金が落ちるしくみを考えて活動してきました。八戸市の朝市にヒントを得て黒石市では夜市を開催したり、弘前大学と連携して県内在住留学生を対象に、歴史あるまちを歩いてもらうようなインバウンド向けモニターツアーも行いました。
ちなみにこみせ通り商店街振興組合の中田事務局長は、本来は行政職員です。NPO、地域の公益団体、商店街メンバー等といった民間と行政が密に連携し、取り組みを進めてきたのが黒石市の取組の特徴でもあります。
これらの活動を通して大学生など含めた関係人口が増えてきた中で、村上理事長をはじめ関係者は『まちづくりは人育て』であるという考えを持つようになりました。
なお、上記の取組などを踏まえて、今年度、中小企業庁が優れた取り組みを行う商店街を選定する「はばたく商店街30選」を授賞されました。
今後について
村上理事長は終わりに、「コロナ禍で実現できていない事業もある。これからどのように内外の顧客を取り込んでいくかが課題。この複合宿泊施設を核にして黒石のまちづくりにバリエーションをひろげ、非日常をまち中に作り上げていきたいという思いで、引き続き活動していきたい」と今後の考えを述べました。