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「全員集合」「ワンチーム」がキーワード ~エリア全体の活性化を考え、観光ウォーカブル都市を目指すまちづくり(山口県下関市)

 一般社団法人からまち・協同組合唐戸商店会(山口県下関市)は、中小企業庁が令和6年度に実施した「地域にかがやく わがまち商店街表彰2024」に選定されました。
 2025(令和7)年1月28日、同地で開催された商店街視察・意見交換会(会場は商店街の中心部にある亀山八幡宮)には、各地の行政機関や大学関係者ら約30名が参加しました。ここでは本会で伺った内容をもとに、一般社団法人からまちの、活性化のためのエリア一体化の取り組み等を紹介します。

  • 意見交換会の様子
    画像:意見交換会の様子
  • 亀山八幡宮
    画像:亀山八幡宮
  • 亀山八幡宮境内にあるふくの像
    画像:亀山八幡宮境内にあるふくの像

目次


1.地域の概要

 山口県下関市(人口24.3万人)は、本州最西端に位置し、九州との玄関口として、また海運をはじめとした交通の要衝として発展してきました。対馬海峡を隔てて韓国とも相対しています。
 同市の中心市街地には市南部のJR下関駅を中心とした下関エリアと、市役所等がある唐戸エリアとの2つのエリアがあります。そして唐戸エリアには、協同組合唐戸商店会と赤間本通り商店街商店街振興組合の2つの商店街があり、一般社団法人からまちが両商店街の事務局を担っています。
 唐戸エリアには、「唐戸市場」や「カモンワーフ」等の観光施設があり、また、源平の「壇ノ浦古戦場前」や耳なし芳一伝説の「赤間神宮」など歴史名所も数多くあります。加えて、城下町である長府エリアに隣接し、関門トンネルをくぐれば北九州市の門司港レトロ地区にもアクセスできる、観光の拠点となっています。
 唐戸エリアは、観光と地元の生活とが交差し、また、伝統と現代の融合を感じられる場所です。

  • 唐戸市場
    画像:唐戸市場
  • 赤間神宮
    画像:赤間神宮
  • 関門トンネル人道
    画像:関門トンネル人道

2.一般社団法人からまちの設立

 商店街視察・意見交換会では、梶原康弘さん(一般社団法人からまち副代表理事)から説明がありました。
2009年(平成21)年度からスタートした中心市街地活性化基本計画は、思うような成果があがらず、唐戸エリアの人口減少は続き、店舗やアーケードの老朽化、後継者不在等の問題もあり、エリアの商店街組織は解散の危機にあったと言います。
 梶原さんは、この唐戸エリアで商売をされていますが、次の世代に老朽化したままのアーケードのような「負の遺産」を残してはいけないという強いおもいがありました。それには、エリアにある協同組合唐戸商店会と赤間本通り商店街振興組合の2つの法人、4つの通り会(任意組織)が「ワンチーム」にならなければと考えました。
 梶原さんは4つの通り会の一軒一軒へ訪問しながら、通り会を解散してもらい、2つの組織のいずれかへの加入を促し、チームづくりに取組みました。
 さらに、2つの法人を一元化する必要があります。賛同を得た7名から基金への拠出を得て、両方の事務局を担う「一般社団法人からまち」を2022(令和4)年5月に設立しました。以来、一般社団法人からまちは、商店街で起きた問題の引受けを徹底しています。


3.一般社団法人からまちの取り組み

 一般社団法人からまちは、活動範囲を唐戸エリアから城下町のある長府エリアを結ぶ沿岸沿い830haとし、数多くの取組みをしています。その中のいくつかを紹介します。


(1)若手創業者の育成(コンテナショップの運営)

 一般社団法人からまちは、道路占用許可を得てコンテナショップ2店舗を設置し、若手創業者を支援しています。同ショップでは、購買データの収集分析を目的に、POSシステムも無償で提供しています。出店期間は3ヵ月を無料として延長も可能ですが、半年先まで予約が埋まっている状況です。
 商店街の空き店舗への出店サポート等も行い、2024(令和6)年11月までに、3店舗が唐戸エリアに新規出店しました。一般社団法人からまちにも組合員増等のメリットがあります。

コンテナショップ
画像:コンテナショップ

(2)デジタル活用(AIカメラによる人流分析、アプリ「唐戸だよ!全員集合」の運営)

 AIカメラによる人流調査・分析を行っています。唐戸エリアを中心に14か所に設置され、年齢・性別・リピート率等の属性を読み取っています。
 また、観光等で下関へ流入する来街者向けのサービスとして、アプリ「唐戸だよ!全員集合」を運営しています。アプリではエリア内駐車場の満空情報や宿泊施設の案内、そして店舗情報を集約しています。そして下関市役所の「しもまちアプリ」との連携が始まっています。

  • AIカメラ
    画像:AIカメラ
  • アプリ「唐戸だよ!全員集合」
    画像: アプリ「唐戸だよ!全員集合」

(3)ウォーカブルなまちづくり(パークレットの設置)

 一般社団法人からまちは、観光客の商店街への誘導、地元の人々の休憩や子どもたちの遊び場として、歩道にパークレットを設置しています。パークレットは道路の一部を利用して作られた歩行者のための公共空間です。
 設計には山口大学工学部の協力を得ました。パークレットにはグリーンを置くことで視覚的なやすらぎ効果や木のぬくもりを感じられるようにしています。設置には国土交通省の「ほこみち(歩行者利便増進道路)制度」を活用しています。
 商店主らは、設置当初は「こんなものを作って…」と懐疑的でしたが、来街者が増しパークレットの効果が見えてくると、「いいものを作ってくれた」と感謝しているようです。

画像:商店街内のパークレット
画像:商店街内のパークレット

4.今後の展望と課題

 梶原さんは、県外や海外からの人々を手厚く招き入れられる、そんなまちづくりをしていきたいと話します。現在も地域の人口減少は進んでいるものの、郊外にはあらたにマンションが建ち、韓国等の外国からもアクセスがしやすい土地だからです。
 そして、「いかに外の人に対して寛容であるかが鍵」と考えています。そのうえで安心安全なまちを目指し、いずれはリピーターを作れるしくみづくりも考えていきたいと話します。また、他のエリアとの連携についても意欲的で、歴史資源の豊富な長府エリアを巻き込んだ観光ツアーなども考えているそうです。
 
 商店街視察・意見交換会の最後に、表彰の審査委員を務められた東京大学の村山顕人教授より総括がありました。
 村山教授は、空き家やシャッター街の課題はすぐに解決できるものではなく、まちづくりを25年くらいの長いスパンで考えてほしいと話されました。また、今ある資源を手直しして使いながら、まちづくりを動かすという発想も大切だと話されました。
 そして、まちのビジョンづくりにおいては、①歴史、自然、風景との調合を大切にすること、②温暖化等の気候変動を意識すること、③まちへの投資を意識することの3つが大切なポイントだと話されました。

 唐戸エリアでは老朽化したアーケード対策も課題となっていますが、アーケードの枠を利用した太陽光発電といったサスティナブルな発想もあります。また、気候変動による夏期の猛暑には、日陰をつくることで歩きやすくなるといった需要もありそうです。
 外の世界との融合に積極的な唐戸エリアであれば、自然環境との融合にも対応されていくものと思います。

老朽化のため屋根を撤去し骨組みだけになったアーケード
画像:老朽化のため屋根を撤去し骨組みだけになったアーケード

 エリアの商店街を一つにまとめて活性化に取組んでいる全国でも数少ない事例でした。一般社団法人からまちの長期的な視野と組織的な活動、商店街等の活気ある若手店主皆さんの様子などから、唐戸エリアのエリア価値は高まっていくものと感じました。引き続き、唐戸エリアの取り組みに注目していきたいです。