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「ルーバンフラノ構想」に基づいて戦略的に進める“連鎖する”まちづくり 
 ~富良野市中心市街地活性化の取組み~(北海道富良野市)

 富良野市の中心市街地活性化の取組みは、まちづくり会社を中心とした多様な公民連携事業を連鎖的に展開している点が特徴的です。経済産業省や国土交通省の事例等においても、まちづくりの先進的事例として数多く取り上げられています。
 
 富良野市は第1期の認定計画時からまちづくりのビジョンが非常に明確です。ビジョンは行政・民間問わず関係者でしっかり共有され、それに基づいて各取組みを行ってきました。その結果、これまでの取組みが市街地全体へと波及させるエリアマネジメントに繋がっています。

 平成20年に第1期中心市街地活性化基本計画が認定され、平成22年にオープンした「フラノマルシェ」も12年目を迎えています。フラノマルシェ近傍の路線価は、平成26年以降6年連続で上昇しており、まさに活性化の成果といえます。
 現在市内3例目の市街地再開発事業を進めている富良野市で、これまでの中心市街地活性化の取組みと成功のポイント、これからの展望等についてお話を伺いました。

  • ふらのまちづくり株式会社
    広報・企画担当 藤田美緒氏
  • 富良野市建設水道部都市建築課
    主幹 黒﨑幸裕氏 
  • 富良野商工会議所 
    業務課長 木川田正和氏

<目次>

各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。

  1. 1.地域概要と中心市街地の課題(中心市街地の空洞化とまちづくりビジョン策定まで)
  2. ルーバンフラノ構想と富良野市中心市街地活性化基本計画の主な取組み
  3. 取組みの特徴と成功のポイント
  4. 今後の展望:賑わい・交流機能の拡充、暮らしの充実。都市再生推進法人指定の検討。
  5. 終わりに

※富良野市における中心市街地活性化の取組みは、動画でもご紹介しています。是非ご覧ください。


1.地域概要と中心市街地の課題 (中心市街地の空洞化とまちづくりビジョン策定まで)

 富良野市は北海道のほぼ中央に位置し、自然に恵まれた観光と農業のまちです。TVドラマ「北の国から」で始まる富良野三部作により、観光地として確立しました。多くの観光客を惹きつける素晴らしい観光資源を有していますが、その多くは郊外にあり、中心市街地には観光客を呼び込む魅力的なコンテンツも少なく、観光消費を取り込めていませんでした。

 そのような中、平成14年度から行政主導で富良野駅前地区の再開発事業(土地区画整理事業+市街地再開発事業)に着手しましたが、既成市街地での土地区画整理事業実施であることから、総事業費の約6割を既存物件の移転補償費で占め、また、事業費そのものも当時の財政事情により、当初の構想から大幅なスケールダウンを余儀なくされました。

 また、地区内権利者数も当初の49権利者から23権利者へと半減したことに伴い、地区内の既存店舗数も減少し、中心市街地の活性化を目指し取り組んだ事業効果は、当初の想定より大きく後退することとなり、一部の市民や経済界からは厳しい評価を招く結果となりました。
 その一方で、この事業で富良野駅前に交通結節点が整備されたことにより、公共交通機関が全て駅前地区に集約され、市民や観光客の利便性向上に大きく寄与する形となりました。

 しかし、中心市街地では新たな問題として、市内で大きな集客力を持つ地域センター病院(民間)が平成19年に中心市街地の目抜き通りから駅裏へと移転し、病院による経済波及が商店街から失われていきました。このことは同時に市内で最も活気ある通りの一角に病院跡地2000坪の大規模空地を発生させる結果となり、中心市街地全体の沈下に繋がりかねない状況が新たに発生しました。

病院移転後 当時の写真(ふらのまちづくり株式会社資料より)

 行政としてはこの問題に対し、駅前開発に続き、機動的に対応出来るほどの財政的余力も残っておらず、この状況を憂いた地元民間企業の経営者等が集まって協議会を立ち上げ、行政だけに頼らない民間が中心となった中心市街地活性化を進めることになります。


2.ルーバンフラノ構想と富良野市中心市街地活性化基本計画の主な取組み

 「ルーバンフラノ構想」は中心市街地活性化基本計画で掲げられたコンセプトです。「ルーバン」は、「ルーラル(田舎)」と「アーバン(都会)」を合わせた造語で、「都会の魅力と、田園の魅力を併せ持つ、ちょっとおしゃれな田舎まち」を意味します。

 「ルーバンフラノ構想」では次の2つのテーマで事業を展開しています。
〇まちなかに観光客を呼び込むことで賑わいを取り戻す。持続的なまちづくりのため「稼ぐエンジン」をつくり、そこで得た利益をまちの活性化のために投資をする経済循環を目指す。

〇超高齢化社会を見据えて、まちなかに機能性・利便性のある施設を集積し、車がなくても「歩いて暮らせる富良野流コンパクトシティ」を目指す。

 「ルーバンフラノ」には“都市的な感性を持って、快適で心豊かな田園都市を自分たちの力で育んでいこう”という、市民の思いが込められています。
 明確なビジョンとそれを達成するための計画・多様な取組みにより、中心市街地の活性化を進めてきました。

病院跡地での商業施設整備/フラノマルシェ事業(平成22年~)

 まちなかの賑わい復活を目的に、病院跡地(市有地)に「食」をテーマとした複合商業施設を整備しました。土地は富良野市が取得し、まちづくり会社に固定資産税相当の低廉な家賃で賃貸し、持続可能な運営を図っています。

 フラノマルシェは国道沿いに立地した「まちの縁側」でもあり、フラノマルシェを訪れた観光客を中心市街地に回遊させ、まちなか全体の賑わいを創出し、「稼ぐエンジン」として地域経済を底上げする役割を担っています。

 観光客もターゲットにしていますが、地元の方が集える場所としての役割もあります。敷地の中心には100坪近いイベント広場があり、地元の方が足しげく立ち寄って過ごせる場所となっています。

  • フラノマルシェ
    (ふらのまちづくり株式会社 HPより)
  • フラノマルシェのイベント広場
    (富良野市『富良野市の官民連携による中心市街地の活性化について』より)
<フラノマルシェのこだわり>
①「車」より「人」が大事
②レストラン・食堂などは作らず、インフォメーションによりまちなか回遊を促進
③徹底的に地域資源を活用する
④オーナー・テナントともに持続可能な健全経営
  (ふらのまちづくり株式会社 資料より)

 フラノマルシェは、全国的にも評価の高い富良野の農産物等といった地域資源を活用し、富良野食文化の発信拠点として、地元の「農と食」を活かした商品をメインに取り扱っています。中心市街地に観光客を取り込む拠点をつくることで中心市街地を訪れる人を増やし、「まちなか観光」の情報機能を充実させました。敷地内に飲食店を作らないことでまちなかでの歩行者数の増加と回遊を促進したことで、近隣の飲食店の売上も伸び、15の飲食店を含む33店舗が、中心市街地に新たに出店しました。

<「道の駅」ではなく「マルシェ」である必要>

 フラノマルシェを建設する前に実施した市民アンケートでは「道の駅」を希望する声が多かったとのことです。まちなかに観光客の消費需要を取り込むことも目的のひとつですが、まちの「入口」になるゲートであるためには観光客が通りすぎるような「道の駅」ではなく、何よりも富良野市民が「地元の食文化」を楽しめる、市民の憩いの場である必要がありました。そのため、「道の駅」ではなく「マルシェ」を作り、敷地の中心には開けた広場を設けています。
 フラノマルシェに来る方は、遠方からの観光客だけではなく、7割が地元や道内の方です。

フラノマルシェ中心の広場
(富良野市『富良野市の官民連携による中心市街地活性化について』より)

東4条街区市街地再開発事業/ネーブルタウン事業(平成27年~)

 ネーブルタウンは「歩いて暮らせるまちづくり」をテーマに、「フラノマルシェ」の隣接地に商業の再集積、医療福祉機能を集約しています。「商業・賑わいゾーン」には商業施設「フラノマルシェ2」、全天候型多目的交流ホール「TAMARIBA(タマリーバ)」。「医療・福祉ゾーン」には市立保育所、サービス付き高齢者向け住宅、内科クリニック、賃貸住宅等が配置され、まちなか居住の促進及び3世代の交流促進を図っています。

 複数の施設により面を埋めていく再開発手法(低高度利用型面的再開発)により、まちなかで安心して居住・子育てができ、歩いて買い物ができる、コンパクトで利便性のある生活空間・環境を創出、四季折々のイベントで賑わうTAMARIBA(タマリーバ)も、地域にとって欠かせない場所となりつつあります。


  • ネーブルタウン位置図
    (富良野市『富良野市の官民連携による中心市街地活性化について』より)
  • TAMARIBA(タマリーバ)
    (富良野市『富良野市の官民連携による中心市街地活性化について』より)

コンシェルジュ フラノ事業(平成30年~)

 平成28年にまちなかの百貨店が撤退した後の空きビルをまちづくり会社が取得し、再生したものです。施設は「観光・滞在・食」をキーワードとした構成で、1階は観光インフォメーションを主体とし、富良野の食材にこだわった農村レストラン、コーヒースタンド。2階は市商工観光課、商工会議所、観光協会などのシェアオフィス、3階はドミトリー形式と個室からなる簡易宿泊施設を運営、4階にはコミュニティFMなどを配置しています。

 2階部分の一部を富良野市が買い取り、商工観光課・観光協会・商工会議所といった商業を司る団体が一つのフロアに入居しています。すぐに打ち合わせができる距離にオフィスがあるため、官民連携体制を更に強化することができ、観光まちづくりの各種取組みを推進しています。

コンシェルジュフラノ
(ふらのまちづくり株式会社HPより)

3.取組みの特徴と成功のポイント 

 これらの取組みの結果、フラノマルシェ隣接の路線価は6年連続で上昇しました。一気に上がるのではなく、年々少しずつ上がっていき、2019年1月時点での路線価は2013年比で31%アップという結果に加えて、7年間で113億円を上回る経済波及効果を生み出しました。

 富良野市中心市街地活性化における特徴的なポイントをご紹介します。

特徴① まちづくり会社がリスクを取りながら公益デベロッパーとして事業を推進     
(それぞれの得意分野で役割分担する官民協働のスタイル=ふらの型官民連携)

 各種の収益事業はまちづくり会社が主導し、自治体は計画策定・補助金申請等の事業環境整備等といったサポートに徹底する官民協働のスタイルで活性化に取り組んでいます。
 まちづくり会社の役員は市内企業の経営者であり、「経営のプロ」としてまちづくり会社を経営し、各種事業を推進するほか、初期段階では代表取締役会長と社長が2億円の債務を個人保証で引き受ける等、自らリスクを取って事業を推進しています。

 実際は補助金を活用することができたためイニシャルコストの負担が軽減されていますが、フラノマルシェは補助金がなくても成り立つような、改修も見込んだ15年の事業計画を作り、金融機関から融資を受けました。まちづくり会社は国の補助金や制度資金の受け皿となりつつも補助金頼みになることなく、事業主体としてまちづくりを推進しています。

 なお、フラノマルシェの土地は市有地であり、富良野市は固定資産税相当額という低廉な価格でまちづくり会社に優先的に賃貸することによりランニングコストで継続的な支援を実施し、商工会議所は協議会事務局を担うほか、まちづくり会社と連携しながら商品開発支援等を行うなど、各自の得意分野で役割分担・協働する仕組みになっています。

(富良野市『富良野市の官民連携による中心市街地の活性化について』より)

特徴② 明確なビジョンのもと、戦略的に事業を推進

 中心市街地活性化基本計画の初期の段階から、マルシェ事業で収益を上げ、次の事業に投資する方針で進めてきました。

 第1期のフラノマルシェでまちなかに人の流れができた後は、第2期のネーブルタウン事業で居住空間の確保だけでなく福祉施設・医療施設、子育て機能をまちなかに再集約・整備してコミュニティを再生、まちなかに滞留できる施設TAMARIBAや仕掛けを作りました。そして次の第3期計画では「賑わい・交流機能」整備を進める・・といったように、ビジョンに基づき戦略的に事業を推進し、連鎖的に再開発を行っています。

 「コンシェルジュフラノ」はもともと計画にありませんでしたが、まちなかに空きビルがあるとエリアの価値が下がり活性化にマイナスであるため、急遽基本計画を変更し、優先順位を上げて2年で完了しました。これも、「ルーバンフラノ構想」というビジョンに基づいたエリアマネジメントといえます。

 デベロッパー的役割としてのまちづくり会社の運営だけでなく、収益性を伴った経営を行う必要があるという考えのもと、まちづくり会社主導により「公民連携」で「ビジョンを共有」して多様な手法や取組を組み合わせ、エリアの価値や持続可能性を高めてきた取組みは「市街地整備2.0」の事例として取り上げられました。

(参考:外部リンク)国土交通省 市街地整備2.0新しいまちづくりの取り組み方 別ウィンドウでpdfファイルを開きます

特徴③ 事業費縮減等の工夫「玉突き移転」

 「ネーブルタウン事業」は、平成21年に準備会を設立してから平成27年9月の終了まで、約6年間かけて実施しています。
 通常の再開発では、権利者が出た後一気に建物を解体して建設する流れが一般的です。まちづくり会社では休業補償や移転補償を最小限にするため、空いている場所に1棟店舗を新築して移転してもらい、次を解体・建築・移転・・を繰り返す“玉突き移転”の形で行いました。最後空いた土地に「フラノマルシェ2」、全天候型多目的交流ホール「TAMARIBA」を建設して、平成27年に事業終了となりました。

特徴④ 地元でお金がまわる仕組みを作る/地域内での資金循環と経済波及効果

 「フラノマルシェ」では、地元の原材料を積極的に利用した商品を販売、「フラノマルシェ」及び「フラノマルシェ 2」 の出店者はすべて地元事業者です。また、再開発に係る工事は大手ゼネコン等に発注せず、地元企業を特定代行業者に指定することで、地元企業が行うようにしています。
 このようにマルシェ事業で得た資金が地域内で循環し、雇用創出や、高い経済波及効果に繋がっています。


4.今後の展望:賑わい・交流機能の拡充、暮らしの充実。 都市再生推進法人指定の検討 

 現在進めている再開発事業の構想は、「フラノマルシェ2」と富良野駅の間の街区(東5条3丁目街区)を低容積の建物で埋める所謂「低高度利用型面的再開発」を従前に続き実施し、東5条通り(街路)をウォーカブルな賑わいある通り(マルシェストリート)とする計画です。「フラノマルシェ」から富良野駅までの区間の賑わいを連続させるため、「フラノマルシェ3」や「飲食店街」「コミュニティ交流施設」等の『賑わい・交流機能』のほか、まちなか居住施設や暮らしを充実させる施設を整備していく予定です。

  • フラノマルシェ案内図
  • 東5条3丁目街区周辺

 北海道は一筆当たりの土地が広く、敷地が空いていると賑わいや活性化イメージが低くなります。そのため、富良野市では限られた敷地内に高容積の建物を建設する通常の市街地再開発事業を実施するより、より広範な土地を低容積の建物で埋めていく方が地域事情に合致し、積雪寒冷地の市街地整備にも適していると考えられます。

 また、再開発事業による新たな都市機能として広場(汎用性の高いオープンスペース)の整備を検討しています。平常時はキッチンカーなどを活用した稼げるスペースとして活用(所謂「移動商店街」)。緊急時には、防災拠点として活用可能な給水設備や電力供給(※)可能な防災広場として活用することも検討されています。

※富良野市は各自動車ディーラー会社と災害協定を締結しており、災害時のPHV車、HV車貸し出しにより、避難所等で電力供給ができるような仕組みを構築しています。

 今年度は、都市再開発支援事業(国土交通省施策)を活用し、地区再生計画を作成、来年度は街区整備計画を作成し、法定再開発に向けての準備が着々と進められている状況です。身の丈再開発を軸に、先進地に於ける様々な優良事例も取り入れながら官民連携した富良野オリジナルの中心市街地活性化を推進していこうとしています。

 中心市街地活性化のアプローチとして、当面は「市街地の更新」を軸にハード整備に重点を置いて事業推進を図っていきますが、完成後には「経済活性化」として稼げる仕組みの構築と、まちづくりにつながる次の展開を仕掛けていく、ということです。


終わりに

 冒頭でご紹介したとおり、まちづくり事例として取り上げられることから、富良野では多くの地域から視察を受け入れています。そこでよく質問されるのが「我が町にも「マルシェ」のような施設があれば中心市街地が活性化するのか?」という質問だそうです。

 観光客をまちなかに取り込むことにより、外貨をまちなかに落としてもらう仕組みづくりからフラノマルシェは始まりましたが、成功の主なポイントは初期の段階から「ルーバンフラノ構想というまちづくりのビジョンが明確であったこと」、「まちづくり会社の経営はプロに任せて自治体は支援に徹したこと」が大きいといえます。
 まちづくり会社の役員がリスクを取り、いろいろと試行錯誤しながら行ってきた結果が今に繋がっています。

 近年エリアマネジメントの重要性が言われるようになりましたが、「最初からエリアマネジメントを意識したことはなく、これまでのまち全体を考える継続した取組みが有機的に結びつき、気が付けばそれがエリアマネジメントと言われるようになった」と富良野市役所の黒﨑主幹は振り返りました。

 少子高齢化時代において、経済・雇用を成り立たせるためにも富良野市では2万人の人口を維持したい考えです。次の再開発で富良野が目指す方向性は「まち歩きが楽しいまちなかの居場所・環境づくり」で、引き続き快適生活空間「ルーバン・フラノ」を目指していきます。