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複雑な権利関係のもと「複合商業施設」の再生に挑む(滋賀県守山市)

事業成功のポイント
  • 市、地権者、まちづくり会社が互いにリスクを分散し、再融合する体制を構築
  • まちづくり会社が、ランドオーナー(所有者)から信頼を得、サブリース事業を展開
  • これまでの事業で培った人脈を活かし「複合商業施設」課題の空きテナント解消を推進

滋賀県守山市のまちづくり会社である「株式会社みらいもりやま21」(以下、MM21)が守山市から指定管理を受け、「あまが池プラザ」や「うの家」などの交流施設を利活用するプロセスを前回お伝えしました。今回は、空テナントを抱える駅前複合商業施設を、MM21が官民共同で再生に挑む姿を紹介します。

セルバ守山外観(MM21提供)
セルバ守山外観(MM21提供)

複合商業施設の衰退と再生への課題

「セルバ守山」はJR守山駅前に直結したビルです。「セルバ守山」の用地にはもともと複数の事業者が商いを営んでいましたが、1986年にその事業者たちが中心となり住商複合施設を整備しました。地階には土地権利を持つ地元大手スーパーが入居し、地上階では、事業者がそれぞれ区分所有権を持ち、各テナントとして商いを続けると同時に、管理組合を立ち上げ必要に応じてイベントや売り出しなどを企画・実行していました。しかし、1994年に郊外に大型ショッピングセンターが進出して以降は移転や廃業が相次ぎ、空き区画が増加しました。さらに集客の核となっていた地元大手スーパーも2002年に閉店しました。
以上のような事情を背景に「セルバ守山」が再生に向けて動き出すための課題として以下の項目を挙げます。

土地権利面

営業を諦めた事業者の多くはテナント区画オーナーとなり物件を貸し出します。区分所有のため、貸し出しの決定権は、そのテナント区画オーナーにあります。その為、テナントミックスという一体的な動きが制限されることとなりました。
実際、「セルバ守山」では、郊外大型ショッピングセンターの進出が衰退の大きな要因と見たテナント区画オーナーは、店舗としての貸し出しから事務所貸しに移行する動きをとり始めました。事務所は物販店舗のように通路に面した部分を開放しておく必要はありません。壁代わりにシャッターを閉めてしまうのです。事務所の進出によってテナント区画オーナーには収入が入りますが、シャッターが目立つことに変わりはなく、ショッピングセンターとしての活気やいろいろな交流は失われたままでした。

組織面

テナントの移転や廃業により、管理組織のキーマンも去ってしまったことで管理組織の運営が滞るようになってしまいました。即ち管理組合は求心力を失ってしまったのです。結果、管理組合会議を開いても少人数しか参加せず、ショッピングセンターの活気を生むイベント等の展開も難しくなってしまいました。

設備面

「セルバ守山」は駅前の好立地にもかかわらず、飲食需要に対応したテナントが少ないことも欠点でした。出店を促す為、上下水道の整備や給排気設備等の導入工事をしようとしても、建物の躯体に関わるため「セルバ守山」の総会(多数のテナント区画オーナー)の承認が必要となります。先述のように事務所の増加が進む「セルバ守山」では、入居者である事務所の営業時間内に騒音を発生させる工事を承認するテナント区画オーナーは少ないのが現状でした。
また、ビル共用通路の警備システムの関係で22時から10時までは「セルバ守山」への来店はできなくなるため、営業時間枠の制約もあります。つまり、「セルバ守山」で飲食店を営みたい事業者が現れても、設備工事に取り掛かるまでのハードルの高さや初期投資の大きさ、さらに営業時間枠の制約が災いして敬遠されてしまっていたのです。

さらに、「セルバ守山」はバブル時代に高騰していた建築費を投じて整備したこともあり、維持管理費が高くなっています。その上、駅直結の好立地ということもあり固定資産税や都市計画税も決して安くはありません。テナント区画オーナーとして、空き区画が増えている「セルバ守山」の現状を理解できても維持管理費や固定資産税などを家賃に転嫁せざるを得えず、家賃は高止まりしています。

以上のような課題を抱える「セルバ守山」を、守山市やMM21はその再生に努めています。

核テナントの誘致

「セルバ守山」は、2013年に転機を迎えます。守山市にとっても駅前商業複合施設である「セルバ守山」再生は悲願といえるものです。守山市はMM21と共に再生計画を模索し、「セルバ守山」中心市街地活性化のための活用法を公募することにしました。公募により選ばれた民間事業者とMM21が連携して施設を運営することになりました。この地下1階の賃借関係は、地権者から賃借した守山市がMM21へ転貸、MM21は民間事業者に再転貸する形です。
しかし、民間事業者が決定しても「セルバ守山」の改修という大きな課題が立ちはだかりました。駅前の一等地であるとともに、消防法上の規制が更に厳しくなる床面積のため地上階の改修として3億1,300万円の投資が必要でした。  

この大規模改修に対し、国の補助金1/2補助(中心市街地魅力発掘・創造支援事業費補助金)の活用があったとはいえ、「セルバ守山」が長年積み立てていた約8,000万を始めとして、MM21も「セルバ守山」の投資に対し大きな決断をしました。守山市、MM21、「セルバ守山」は不退転の覚悟をしたと言えます。こうして2014年2月、食と文化がテーマの交流施設「チカ守山」がオープンしました。

チカ守山地下道からの外観とチカ守山内のカフェ
チカ守山地下道からの外観とチカ守山内のカフェ

空き区画の解消

チカ守山がオープンしたことにより、館内では若者や親子連れの姿が見られるようになっただけでなく、テナント区画オーナー達が運命共同体ともいえるMM21と協働する道を模索するようになりました。具体例としては、閉店目前の予定の店舗(以下、図①)からMM21に対し、区画を貸し出すので活用してみないかとの申し出がありました。この申し出に対しMM21は、民間事業者を誘致するサブリースという形で応えることにしました。この物件は、ビル内の共用通路だけでなく、外の道路にも直結していました。つまり、先述したセルバ守山の課題であるビルの共用通路警備の制約を受けない店舗運営が可能となるのです。よって、MM21は地下一階のチカ守山だけでなく、地上部分にも飲食店を設置することで人の流れを作ろうと考えました。

しかし、飲食店を呼び込むにはまだまだ課題がありました。まず、申し出があった区画は飲食店を営むには狭いスペースであったことです。次に、幸い、隣接する区画(以下、図②)は10年近く空いたままの区画であり、併せて使用すれば広いスペースが確保できますが、別のテナント区画オーナーからサブリースの契約を結ばなければならないこと、さらに、区分所有法によりテナント同士を遮る壁を撤去するためには、「セルバ守山」総会での承認が要ることです。

インド料理店が入居する2つのテナントの位置関係(MM21提供の画像を基に作成)
インド料理店が入居する2つのテナントの位置関係(MM21提供の画像を基に作成)

図①のテナントに面した入口は共用通路の警備の制約を受けないが、図②は共用通路に面しているため、共用通路の警備の制約がある。

以降MM21は、一つ一つ課題解決に乗り出します。まず、隣接するテナント区画(図②)オーナーに直接相談しました。ここで、いわゆるよそ者である石上氏が地域に溶け込むために努力してきたことが活きてきます。石上氏は、800年続く守山市の伝統行事である勝部火祭りを執り行う松明組に所属し、地域の方々と交流を深めてきましたが、このテナント区画オーナーも、かつてその松明組に所属していたのです。この縁がきっかけとなり、「セルバ守山」にかけるMM21の思いを共有したところ、サブリースの申し出を受諾してくれたのです。

チカ守山の誘致やテナント区画オーナーとの協動に尽力するMM21の姿に、管理組合なども飲食店誘致に協力的になります。その結果、テナントを遮る壁の撤去や上下水道や排気設備などの設置工事について「セルバ守山」総会から承認を得られました。こうして、1階にインド料理店がオープンすることとなったのです。

テナント改修工事の様子と入居したインド料理店(MM21提供)
テナント改修工事の様子と入居したインド料理店(MM21提供)

まとめ

1つの成功例が次々と新しい流れを生み、今では、「セルバ守山」の空き区画はほぼ解消されました。この「セルバ守山」の空き区画解消の動きは、MM21への信頼度を高め、さらに市内の空き店舗情報がMM21にも入ってくるようになり、サブリースの申し出や民間事業者誘致の相談が次第に増えてきました。今ではサブリース事業が同社の収益の一角を担うまでになりました。なお、「セルバ守山」の空き区画や市内の空き店舗を誘致する民間事業者については、前回記事「施設稼働率100%を超える交流施設活用法とは(滋賀県守山市)」で述べた通り、MM21がソフトイベント展開時に培った人脈も活用されています。

  

施設稼働率100%を超える交流施設活用法とは(滋賀県守山市)

  

石上氏は、「MM21が調整役として間に入ることで幅広く借り手が探せてテナント区画オーナーも「安心できる」「空き区画や空き店舗に入居した事業者のパートナーとして、入居後も協力関係を築いていけることがまちづくり会社の醍醐味」と語ります。

MM21は、他地域の事例や経済産業省・中小機構などの専門家派遣メニューから学びながら実践を繰り返してきました。そのMM21の実践が、前向きに事業を展開するまちづくりプレーヤーを呼び込み、それに応えることで彼らの信頼を得、それを財産としてきました。
ひと口に実践といってもまちの人全員から受け入れられるものは確かに無いかもしれません。しかし、まちの為に、一歩一歩辛抱強く試行錯誤を繰り返しながら、事業展開にまい進することが信頼関係の構築につながるのだとMM21の姿を見て感じることができました。

  

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テナント改修が進むセルバ守山
テナント改修が進むセルバ守山