松江市中心市街地活性化協議会
取組のポイント
地元ガイドによるまち歩きでファン作り
まちなかの話題と協議会の活動を伝える「松なか通信」
松江おもてなしブースでコンベンション客をまちなかへ
1.中心市街地の概要
(1) 第2期基本計画
松江市では、平成25年3月から第2期基本計画に取り組んでいます。 第2期のテーマは、「住んでよし、訪れてよしの“松江らしい”まちづくり」~住み続ける暮らしの中に流動性を生み出す~です。
松江市は「水の都松江」と称されるように、宍道湖や松江城など観光資源に恵まれています。第2期基本計画でも街なかを楽しむ「観光・交流」は基本方針の一番目に掲げられています。平成25年に出雲大社「平成の大遷宮」があり、観光客が大幅に増えたため、その反動で翌平成26年の減少が心配されましたが、同年の観光入込客数は、前年比約5.2%減少の960万人※で、軽微な減少に留まりました。逆に、遷宮前の平成24年と比較すると、約14%増加しており、観光客は順調に増加していると言えます。
平成27年7月には、「松江城天守」が国宝に指定され、松江城を訪れる観光客も増加しています。
※松江市産業観光課発表
(2) まちあるき観光推進事業
松江市内には松江らしさを体験できる多様な魅力・観光資源が多くあり、観光客と市民との交流を推進し、観光交流人口の増加をめざしています。松江市の取組みの特長は、市民を巻き込んで魅力ある観光資源を作り出し、地元の人と来街者の交流の活性化を図っていることです。
第2期基本計画の「観光・交流」の目標指標としては、宿泊客数と「まちあるき定時ガイドコース」の参加者数を目標としています。平成27年の中間フォローアップによると、宿泊数は平成25年の1,360万人より2.5%減となったものの、基準値より着実に増加しています。また、定時ガイドコース参加者数は大幅な増加となっています。
松江のまち歩きの取組みを2つ紹介します。
1) 松江おちらとあるき(まちあるき定期ガイドコース)
「おちらと」とは出雲弁で「ゆっくりと」を意味します。「まちあるき」は、地元ガイドの案内で、古くからある商店、路地裏、道端の石柱、 地方独特の瓦屋根、長年見守ってきた橋など、住民の暮らしぶりや歴史が感じられる「まち」そのものを感じながら歩くものです。
「おちらと歩き」は、長崎市の「長崎さるく(まちのぶらぶら歩き)」をモデルに、松江開府400年祭(平成27年)に向けて、平成23年から市が推進役となって旧松江市内の公民館ごとにマップを作り、まちあるき団体などが中心になり、様々なテーマで作られた観光コースがベースとなっています。現在は、毎日催行される定時コースと団体向けのコース合わせて、15余のコースが用意されています。一般の観光ガイドによる名所旧跡の案内ではなく、まちの人との交流や地元ならではの発見がいい思い出となり、また訪れたいと思うファンづくりにつながっています。
2) 「縁雫(えにしずく)」プロジェクト
松江の6月は、雨が多く観光にはマイナスですが、松江市立女子高等学校国際観光科の生徒達が縁結びの地である松江の雨を「縁雫(えにしずく)」と名付けて、松江で雨に降られたらよい縁に出会えるという観光企画を立てました。この企画は、神戸夙川学院大学主催の「観光甲子園(現在は、『観光プランコンテスト』)」第1回大会(平成21年)でグランプリを獲得し、その後、卒業生とNPO法人松江サードプレイス研究会や(一社)松江観光協会が立ち上げた縁雫プロジェクト事務局で商品化しました。パワースポットブームと相まって、女性観光客が増えています。
2.松江市中心市街地活性化協議会の取組み
(1) まちづくりのよろず相談窓口
松江市中心市街地活性化協議会(以下「協議会」)の活動の特長は、市民の様々なまちづくりを支援するまちづくりのよろず相談窓口の役割を果たしていることです。平成27年から協議会事務局として、商工会議所の2名とまちづくりコーディネーター(井ノ上知子さん)に加えて、まちづくりサポーター(石倉さやかさん)が加わりました。まちなかコーディネーターとまちなかサポーターの2名の専任職員が、毎日電話やメールで相談を受け付けています。
協議会がまちづくりのよろず相談所である特長は、協議会のホームページ(以下「HP」)にも表れています。HPトップページに、協議会に関する情報の他に、「支援制度」「まちづくり組織紹介」「これまでのまちづくり紹介」のページを設け、国・県・市などで行っている商業、地域振興、コミュニティ再生の支援制度や松江でまちづくり活動を行っている組織とその活動内容、まちのイベント事例を紹介しています。
協議会や中心市街地活性化(以下「中活」)に限らず、幅広くまちづくりに興味のある人や問題を抱えている商店街関係者が必要とする情報を一か所にまとめ、相談しやすいしくみを作っています。協議会では、まちづくりコーディネーターとまちづくりサポーターが、相談者の話を聞きながら、まちづくりの事例を紹介したり、具体案(たたき台)を提案したり、イメージされているまちづくりの実現を具体化できるように支援しています。
(2) 情報発信
もうひとつ、協議会で力をいれているのは、松江市のまちづくりに関わる人たちに向けた情報発信です。HPでは、トップページに「協議会からのお知らせ」「まちづくりサポーターのレポート」「Newイベント案内」「Newまちなかニュース」の4つのニュース欄を設けて、カテゴリー別に最新情報を届けています。HPに、協議会の取組みだけでなく、松江市のまちなかの情報を幅広く紹介することで、協議会の情報も届けやすくなります。
さらに、平成27年から、まちづくりサポーターの石倉さんが担当し、定期的に協議会の活動や松江のまちなかの話題を紹介する「松なか通信」を発行しています。カラーA4両面で、コンパクトな紙面に協議会の活動内容や基本計画の進行状況など中活の取組みをわかりやすく報告しています。裏面にはまちなかの新しいショップのオープンや商店街訪問記を紹介しています。
「松なか通信」では、松江城天守閣国宝指定の後、『お城の観光客は増えたが、まちなかの人は減少している』という商店主の声で、観光地別の観光動態の変化を数値で確認したり、各観光拠点で昨年と比べてどのような変化が起きているのか、月別の推移を調べて報告しています。
観光地の入込数や商店街の通行量調査について、商店街やまちの人は調査資料を目にすることはあまり多くないので、毎号テーマを絞って、具体的な数値と簡単な説明を示すことで、まちの変化を実感してもらえるのではないでしょうか。
「松なか通信」は、まちづくり関係者を対象に配布していますが、郵送するのでなく、まちづくりコーディネーターやサポーターがまちの店舗や関係者を訪問時に手渡しやメールで配信して届けています。協議会では、市の商店街担当者と一緒に商店街を訪問して課題を共有したり、話題の店舗や新ショップを取材したり、商店街の関係者との接点を増やす工夫をしています。
「松なか通信」でもまちなかの店舗の紹介や商店街訪問が掲載されているので、協議会を身近に感じてもらえるようです。
3.アフター コンベンション プロジェクト
(1) 背景
協議会のプロジェクトの中で、平成27年度に「観光・交流」の取組みとして、力を入れているアフターコンベンションの取組みを紹介します。
松江市では、島根県立産業交流会館(愛称:くにびきメッセ)や県民会館で様々なコンベンション(会議、展示会、団体の全国大会など)が開催され、国内外から年間4万人が訪れます。アフター コンベンションとは、見本市・シンポジウム・展示会などのコンベンションのあとの催しや懇親会のことで、会議や展示会で訪れる旅行者に地元の飲食や観光を楽しんでいただけるように、積極的に主催者や参加者に情報提供や予約サービスを行います。アフター コンベンションによる、県内の経済波及効果は、直接的経済効果:約19億8千万円、間接的経済効果:約48億3千万円、合計:約68億1千万円と算出されています。(「松なか通信」より転載。出典:コンベンション情報誌「神々の郷」 Vol.63(平成26年4月))
(2) 取組み
島根県では、くにびきメッセの管理運営者である松江コンベンションビューローがコンベンション誘致と主催者への補助事業や開催サポートを行っています。協議会では、平成25年より松江コンベンションビューローと連携し、市や松江商工会議所、(一社)松江観光協会とともに、アフター コンベンション プロジェクトとして2つの取組みをしています。
1つは、主催者のHPに松江市内の飲食店・宿泊情報を紹介する「おもてなしガイド」バナーの提供です。主催者のホームページに付けられたバナーをクリックすると、「松江おもてなしガイド」のHPにリンクし、主催者や参加者は予算や利用人数に応じて、松江市内のお勧め飲食店やナイトスポットを簡単に検索できます。HPの運営および無料の予約サービスは、外部に委託しています。
もう1つの取組みが、松江市の観光・飲食情報を紹介するため、会場内に「松江おもてなしブース」を設営していることです。コンベンションに訪れたひとを会議場からまちなかへ誘導し、まちに経済波及効果をもたらすことと松江のおもてなしを体験していただくことを目的にしています。
協議会では、主催者と会場の了承を得て、コンベンション会場にテーブルを設置し、協議会スタッフや商工会議所、商店街スタッフが会場で応対し、観光や飲食店・土産品、交通機関等の問合せにお応えしています。
参加者の問合せで多いのは、
近くておいしいランチ、出雲そばのお店は?
1時間程度で観光したいが、おすすめは?
松江城・出雲大社までのアクセス
松江らしいお土産は?
などです。(協議会HPより、抜粋)
右の写真は、平成27年6月13日(土曜日)第56回 日本臨床細胞学会総会春期大会(くにびきメッセ、3,200人規模)での「おもてなしブース」です。松江市観光文化課、松江市交通局、(公財)松江市観光振興公社、(一社)松江観光協会、松江商工会議所、松江市中心市街地活性化協議会、(株)伊勢宮界隈元気プロジェクトが協力して運営しました。
「おもてなしブース」設置は、参加者1,000人規模以上のコンベンションを対象としています。年によって異なりますが、松江では医療系、教育系のコンベンションが多く、平成28年には、参加者1,000人以上の催しが10回ほど予定されています。
「おもてなしブース」は、会議に来場される行政関係者にも好評で、地元でも設置したいと「おもてなしブース」の様子を撮影していく人も少なくありません。
4.協議会の役割と今後の課題
協議会の役割は、まちづくりのよろず相談窓口であり、まちづくりを進める市民の活動を支援します。まちなかの動きや中活の情報を外部へ発信するのも重要な役割です。
アフターコンベンションの取組みでは一定の成果が確認できたため、平成28年4月から協議会の手を離れ商工会議所へ移行します。先進的な取組みにプロジェクトチームを組んで取組み、持続的な事業にできるかどうか見定めるのも協議会の役割です。
松江市の課題は、観光・交流人口は増えていますが、滞在時間が短く、松江城を中心とした通過型の観光客が多いことです。ゆっくり宿泊し、まち歩きを楽しんでいただくような取組みが必要です。
5.協議会の概要
- 協議会名:
- 松江市中心市街地活性化協議会
- 所在地:
- 島根県松江市
- 設立日:
- 平成18年12月7日
- 構成員:
- 49名
松江市、松江商工会議所、公益財団法人松江市観光振興公社、島根大学、松江まちづくり株式会社、
NPO法人松江ツーリズム研究会、NPO法人まつえ・まちづくり塾、合同会社だんだんまちづくり会社、
松江商店会連合会 他
- 法定組織者:
- 【都市機能増進】 公益財団法人松江市観光振興公社
【経済活力向上】 松江商工会議所
- 参考リンク協議会訪問:
- まちかつ!:
- カラコロエリアの集客拠点形成により中心市街地活性化をけん引!(平成25年9月取材)
取材:平成28年2月
関連リンク
- 松江市中心市街地活性化協議会 別ウィンドウで開きます (新規ウィンドウ表示)
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