まちづくり会社「まちあい徳山」の取り組み —Minna-projectの実践—
ポイント
- 自立を目指したまちづくり会社の育成
- 中心市街地活性化事業のコーディネート
- 空き店舗対策(テナントミックス事業)の展開
- 場所:
- 山口県周南市
- 人口:
- 150千人(中心市街地人口約11千人)
- 分類:
- 【空き店舗・空きビル】
- 協議会:
- あり
- 支援策:
- 中心市街地再生事業(平成26年度補正)
- 参考URL:
1.中心市街地活性化へ取り組みの概要
周南市は、平成25年3月に中心市街地活性化基本計画(以下「基本計画」)の認定を得て以来、まちの玄関口であるJR徳山駅周辺を核に中心市街地活性化が動き始めています。JR徳山駅南北自由通路(ぞうさんの散歩道)、同橋上駅化などの駅周辺整備が進展し、平成30年には、民間活力導入によるカジュアルな図書館が入居する(仮称)新徳山駅ビルがオープンする予定です。また、駅前中心街の銀座通りでは、歩車共存道路への可能性を検証する社会実験も行われました。このように、基本計画が掲げる「パークタウン(公園都市)構想」の実現に向け、胎動しています。
中でも、若手が引っ張るまちづくり会社「株式会社まちあい徳山(以下、「まちあい徳山」)が、中心市街地活性化協議会(以下「協議会」)の機関車役となって活発に活動しています。
2.まちづくり会社の役割と取り組み
「まちあい徳山」の役割
「まちあい徳山」は、平成22年10月、協議会の法定組織者となることを目的に、「若い人たちが中心となって今後のまちづくりを進めてほしい」との思いで、徳山商店連合協同組合青年部を母体に、同組合と周南市等が出資する第三セクターとして設立されました。そして、代表取締役には、青年部のメンバーであった当時30歳の河村啓太郎氏が就任しました。
「まちあい徳山」は、中心市街地活性化に向けて、様々のマネジメント活動を実践していますが、設立して5年の間に、まちのみんなで取り組む<minna-project>を実践してきた結果、ノウハウの蓄積、人材の育成に実績を積み上げ、まちづくり会社としての実行力を獲得しつつあります。
「まちあい徳山」の取り組み実践
(1)bloom&dream(b&d)事業実現へのサポート
minna- projectの実践主体の一つが、「まちあい徳山」の他に民間事業者3者で共同出資した株式会社minna(社長松本健一朗氏:まちあい徳山の出資割合51%)です。 旧銀行建物を活用した小規模複合商業拠点施設を、26年度補正予算(中心市街地再生事業)を活用して、平成27年7月にオープンしました。これは、「まちあい徳山」が、場所の確保、プレーヤーの発掘、資金調達、補助申請など、事業化への課題をサポートしながら、実現に導いたものです。
(株)minnaは、「まちあい徳山」の協力の下、本事業に先立って、平成25年に実証事業として「カフェminna Sand&Bakery」を創業し、自社ノウハウを蓄積してきました。これが、今回のb&d事業の施設づくりと運営に大きな自信となっています。施設は、新規出店に思いのある仲間が集まり、㈱minna直営のカフェ&ダイニングの他、雑貨店、書店、美容院、フラワーショップの5店で構成する小さな拠点ですが、手作り感のある店づくりは、若者やファミリー層に新しい魅力を提供しています。開店後の運営状況は、市民の反応も良く、順調な滑り出しとのことです。
また、「まちあい徳山」は、小さな事業会社で課題とされている資本担保の面においても、資金調達に企画調整力を発揮し、出資金(地元銀行ファンドの活用)、マル経融資、市の制度融資を確保しつつ、国の中活の補助制度も実現し、新規に創業したいと希望する若手事業者達の事業化を効果的にサポートしています。
さらに、店舗全体の運営は、松本社長が各売り場の責任者をまとめる形でリードしていますが、テナントはそれぞれ新規創業者であることもあり、地元事業者や有力企業などのアドバイスを得られるバックアップ体制を確立しており、これが、店舗運営の持続性を高めることにつながると評価されています。
本事業は、平成23年に中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)の中心市街地活性化診断・サポート事業(プロジェクト型)(以下「診断・サポート事業」)が実施されています。当初の事業予定場所では実現できなかった経緯はあるものの、事業の進め方について検討した成果が、場所を変えて、本事業に結実したものです。
(2)テナントミックス事業
「まちあい徳山」は、周南市の空き店舗対策事業「周南市中心商店街テナントミックス推進事業」により、出店希望者と空き店舗物件のマッチングを行い、事業者への出店サポートを実施しています。これは、周南市の委託先となる徳山商工会議所の業務の一環として実施しているものですが、「まちあい徳山」に「まちなか出店サポートセンター」を平成23年に設置し、平成27年現在まで31件の出店実績を上げており、現在では、新たな空き物件の確保が課題となっているほどです。
このマッチング業務の中で、「まちあい徳山」は、店舗出店についての事業計画の作成能力を高めたといってよいでしょう。
(3)再開発事業などのコーディネート
平成25年2月に、周南市中心市街地の核店舗であった百貨店が閉店することとなり、周辺も含めた商店街の再建に向け、徳山みなみ銀座再開発事業の検討が始まりました。この動きにおいて、「まちあい徳山」は、再開発準備組合と連携して、中活事業として事業推進を図る環境づくりに支援を行っています。
さらに、平成26年1月に「徳山商店街将来ビジョン策定事業」で、まちづくりの基礎データを収集し、整理する業務を担うなど、地域情報を把握する力をつけてきたことが、このような役割を担うこととなったといえます。
再開発事業初動の段階から、中小機構の「診断・サポート事業」を導入して、新たな商業核施設づくりにつなげるまちづくりのコーディネート役を果たしています。
(4)収益事業確保の取り組み
まちづくり会社としての自立性を確保すべく、以下の収益事業に取り組んでいます。
○ポイントカードの代理店事業
提携店数増強の代理業務を行っており、中心市街地において加盟・提携店が増えれば、入会金の一部が「まちあい徳山」に還元され、自主財源の確保になる仕組みです。
○旧和光ビルリノベーション事業
閉店となった旧和光ビルを、地権者の理解と協力により、「まちあい徳山」が低家賃で定期借家契約を結び、商業とコミュニティの拠点施設として再生利用する「リノベーション事業」が始まりました。 「まちあい徳山」は、テナントミックス事業で培ったノウハウを生かし、自ら事業計画を立案し、実施主体となることで、運用収益を確保し、まちづくりに生かしたいと考えています。
3.今後の課題
「まちあい徳山」は、協議会の法定組織者であるまちづくり会社として、収益になりにくいまちづくりに関する事業を手掛けることが求められていますが、一方で、会社の持続性確保にむけ、自立的に収益事業の拡充と確立に取り組んでいくことが課題となっています。
4.関係者の声
「まちあい徳山」の河村社長は、「新たなプレーヤーを街に呼び込むことが使命」と強調し、会社が役割を果たすためには、「市民・行政の理解と信頼関係の構築が重要」になり、「協議会の中でのまちづくり会社」であることが鍵になると語ります。また、㈱minnaの松本社長は、b&d事業をスタートに「夢咲かせる出会いをすべての人に」の思いをさらに具現化していきたいと意気込みを語っています。
5.終わりに
「まちあい徳山」の取組みは、小さなことから一つ一つ実績を残すことで、持続性のある「まちづくり会社」として成長している好例となっています。強いまちづくりへの意識を保ちながら、より大きなプロジェクトを動かしていくだけのけん引力をもつことは、民間主体ではなかなか難しいことですが、「まちあい徳山」にはそれが期待されます。
このためには、市民の理解と協力を得られる「まちづくり会社」としてのポジションを保ち続けることがポイントになるようです。
取材:平成27年10月
まちの概要
規模・人口
2003年4月、徳山市・新南陽市・熊毛町・鹿野町が市町村合併して誕生した周南市は、山口県の東南部に位置し、北は中国山地を背に、南は瀬戸内海を望み、その海岸線に沿って大規模工業が立地し、それに接して東西に比較的幅の狭い市街地が続いています。北側には、なだらかな丘陵地が広がり、その背後の広大な山稜には農山村地帯が散在しています。また、島しょ部は、瀬戸内海国立公園区域にも指定されており、美しい自然景観を有しています。人口は14.7万人(推計2015年10月現在)、面積656.13㎢であり、共に山口県内第4位の規模です。
交通アクセスなど
周南市の玄関口は、JR徳山駅。山陽新幹線と山陽本線が乗り入れています。徳山駅の南300mの場所には、離島の大津島や大分県国東市(竹田津港)への航路の発着港である徳山港があり、ホームから海が見える唯一の新幹線駅です。また、市内には山陽自動車道のインターチェンジが3つ、中国自動車道のインターチェンジが1つあり、山陽自動車道を走る東西主要都市への高速バス路線があります。