「飫肥(おび)城下町食べあるき・町あるき」事業で観光客を商店街へ呼び込む!
ポイント
- 通過型観光から滞在型観光へ
- 観光客呼び込みと商店街活性化の相乗効果
- 場所:
- 宮崎県日南市(飫肥(おび)地区)
- 人口:
- 約5.5万人
- 分類:
- 【商店街販促】【地域資源・地域特性】【イベント】
- 協議会:
- 日南市は有り 飫肥地区は含まず
- 実施主体:
- 飫肥城下町保存会
- 参考URL:
1.活性化への取組
(1)まちの課題と取組のきっかけ
飫肥地区は、飫肥城を中心に、石垣や門、伝統的な武家屋敷や資料館が整備されており、毎年多くの観光客がこの地区を訪れています。
しかし、観光客の大半は大型観光バスで訪れ、バスが飫肥城近くに駐車して飫肥城とその周辺を見学し、1時間程度で去ってしまうという「通過型」観光でした。飫肥城と商店街のメインストリートである本町商人通りは、200m程度離れており、歩いて5分程度ですが、飫肥城が坂の上、商店街は坂の下ということもあり、観光客が商店街を散策する事はほとんど無く、飫肥城周辺に観光客は来るものの、商店街にはお金が落ちないという課題がありました。
そのような状況を打破したいと考えていた日南商工会議所の事務局次長であった(現事務局長)の黒田泰裕氏のところに、岐阜県の郡上八幡では食べあるき・町あるきの事業を行っており、町の回遊性向上に一役買っているという情報が入りました。この取組みは、飫肥でも応用できるのではないかということで、黒田氏が飫肥城下町保存会事務局長の郡司均氏と共に、商店会に積極的に働きかけ、郡上八幡へ視察に行きました。その後、視察メンバーを中心に、郡上八幡の事業を飫肥に合わせて参加店舗数を増やすなどの工夫を加え、2009年4月29日、16店舗が参加して、「飫肥城下町食べあるき・町あるき」(以下、「食べあるき・町あるき」)がスタートしました。視察から事業の開始まで、3ヶ月という早さでした。
飫肥の食べあるき・町あるき事業の仕組みは、下図の通りです。
利用者は、マップ(有料施設入館券+食べあるき・町あるきセットは1,100円、食べあるき・町あるきのみは600円)を飫肥城下町保存会が運営するマップ販売所で購入する。マップには5枚の引換券がついており、本事業に参加している店舗を訪れ、対象商品と交換する。参加店舗は商店会事務局へ引換券を持って行き、現金に換金する。商店会事務局は集まった引換券を飫肥城下町保存会へ持って行き、現金と交換するという流れです。
参加店舗は日南商工会議所が作成した共通ののぼり旗と店舗番号の入った杉板を店頭に掲げ、利用者へPRしています。
また、参加店舗は年会費を払って本事業に参加しており、1年に1回、参加店舗の入れ替わりがあります。
引換できる商品は、飫肥名物のおび天や厚焼(この地方特有の甘い味付けの卵焼き)、飫肥杉の箸などがあります。おび天や厚焼は複数の店舗で引換商品となっているので、食べ比べもできます。
(2)取組の効果
2009年に始まった本事業の利用者数は、2009年が21,400人、2013年は26,600人となっており、年々増加しています。スタートした時には物珍しさと話題性があり、多くの人を呼び込むことができても、それを継続させることは大変です。本事業が継続的に利用者を増やしている理由は、参加店舗を増やした事により、選ぶ楽しさがある、一度利用した人でもまた他のお店で楽しめるという点にあります。事業開始前は、観光客が商店街を訪れることはほとんどありませんでしたが、今ではこのマップを手に商店街の中を歩く観光客の姿が多くみられるようになりました。
取組の効果は、来街者の増加だけに留まりません。商店街に多くの人が訪れる事により、各店舗で商品の品ぞろえを増やしたり、本事業の商品の引換に訪れた顧客に商品説明などの丁寧な接客を行うことにより、引換商品以外の商品の売上を伸ばす店舗も出てきました。引換商品は、利用者に楽しんでもらう事を目的に引換商品を決めている店舗も多いため、引換だけでは参加店舗側はあまりもうからず、訪れたお客さんにその他の商品も買ってもらう努力が必要ですが、それぞれ個店の努力により売上を伸ばしている店舗も増えてきているようです。
そのような効果を聞きつけて、参加店舗もスタート時には16店舗でしたが、今では42店舗に増えました。利用者にとってはますます選ぶ楽しさが広がっています。
また、食べあるき・町あるきで商店街の集客力がアップしたことに魅力を感じ、5年間で新たに18店舗が飫肥地区に出店し、空き店舗は現在ありません。空き店舗が増え、シャッター街化してしまう商店街が多い中、新規出店が相次ぎ、空き店舗が無くなったということからも、飫肥の商店街が活気付いているということがわかります。
食べあるき・町あるき事業をやることにより、来街者が増える、来街者が増えたことに魅力を感じた商店が出店し、さらに商店街が活気付くというプラスのスパイラルが生まれているのです。
2.今後の課題と対応
食べあるき・町あるき事業は好評で認知度も高まっており、商店街には多くの人が訪れるようになりました。しかし、食べあるき・町あるきの参加店舗から店舗へ移動するだけの人がまだ多く、商店街への来街者は増加したものの、ゆっくりと時間をかけて町なかの散策を楽しむという状況にはまだなっていないのが現状です。
ベンチや木陰のある広場など、来街者が憩えるスペースを作ったり、休みの日には小さなイベントをやるなどの工夫をして、飫肥の町に滞在する時間が長くなると、その分飫肥の町でお金を使う機会も増えることになります。その仕組みづくりについて、参加店舗の商店主の方たちから提案があると、飫肥がより一層活気のある魅力的な町になっていくと黒田氏は話してくれました。
3.まちの声
参加店舗の商店主からは、「この事業に参加するようになって、遠いところからもお客さんが来てくれるようになったので、お客さんとの対話が楽しいし、張り合いがある。本事業を課外授業で取り入れる学校もあり、小中学生が訪れてくれるのもうれしい。」という声がありました。本事業は、参加店舗のモチベーションの向上にも繋がっているようです。
4.取材を終えて
本事業が成功しているポイントは、町あるきしたくなるような街並みが整備されていることと、その地域に根差した“食”があることだと黒田氏は話してくれました。飫肥は、城下町の街並みを残す風情ある地域で、道路の整備もされており、安全に町あるきを楽しめる環境が整っています。また、飫肥天や厚焼き玉子といった、地元の昔ながらの特色ある食べ物もあります。
その様な、食べあるき・町あるきをするための土台・素材があるという事はもちろん重要ですが、黒田氏や郡司氏、本事業スタート当初の参加店舗のような「やってみよう!」というやる気のある人がいるか否か、そしてその人たちが楽しんで取り組んでいるかが、事業成功の最も重要な点だと思いました。
最後に、飫肥の町には、本事業により町が賑わいを取り戻しているということを聞いて、全国各地から視察や問い合わせがあるとのことでした。黒田氏は、「我々が郡上八幡を参考に本事業を作って成功したように、飫肥を参考に、各地で本事業を応用した事業で町が活気付いてくれたらうれしい」と話してくれました。
利用者は楽しく、参加店舗はモチベーションが上がり、地域が活性化する本事業。各地でこの様な取り組みが広がると、新しい町を訪れる楽しみがひとつ増えると思いませんか?
5.まちの概要・人口・交通アクセス
飫肥は、宮崎県南部の日南市にあり、かつては飫肥藩伊東家五万一千石の城下町として栄えました。江戸時代前期の町割りがほぼそのまま現在まで保存されており、九州の小京都と呼ばれる風情のある地域です。
現在、日南市の人口は約5.5万人で、飫肥地区の人口はその約10%にあたる5,900人です。 交通アクセスとしては、宮崎駅からJR日南線で南下して約70分、宮崎空港からもJR日南線で約70分で飫肥駅に着きます。
<取材:平成26年8月>
関連リンク
協議会訪問
日南市中心市街地活性化協議会