古民家再生による宿泊施設
ポイント
- まちなかにある空き家物件の古民家を再生し、宿泊施設に転換
- 宿泊施設運営の地元事業推進体制
- 外国人観光客への対応
- 場所:
- 和歌山県田辺市
- 人口:
- 7.9万人
- 分類:
- 【地域資源・地域特性】【空き店舗活用】
- 協議会:
- あり
- 対象地域:
- 田辺市中心市街地
1.事業の内容等
(1)事業の内容「古民家を宿泊施設に改修」
2013年2月に、南紀みらい株式会社(まちづくり会社:以下「南紀みらい(株)」)は、空き家物件である古民家を活用し、新たなゲストハウス「紺屋町家」をオープンしました。これは、田辺市中心市街地活性化基本計画(2008年9月~平成2014年3月)の中で、「街なか住み替え支援事業(地域創造支援事業)」として計画していたものです。南紀みらい(株)は10年間空き家だった民家(1955年建築の木造2階建て)を改修し、一棟貸宿泊施設(定員6名)に再生しました。
所在地 | 和歌山県田辺市紺屋町74 |
---|---|
敷地面積 | 57.34㎡(17.38坪) |
1階床面積 |
37.73㎡(11.41坪) 旧52.03㎡(15.74坪) リビング7帖、キッチン、バス、トイレ |
2階床面積 |
37.73㎡(11.41坪) 旧38.80㎡(11.74坪) 6畳2部屋 |
延べ床面積 | 75.46㎡(22.82坪) 旧90.83㎡(27.47坪) |
国 | 316万円※国土交通省「空き家再生等推進事業」を活用 |
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田辺市 | 316万円 |
南紀みらい(株) | 368万円 |
【権利関係】 南紀みらい(株)が借地の上、建物改修・運営
(2)事業の計画・課題
中心市街地活性化協議会(以下「協議会」)が中心となり、中活計画エリア内で、空き家物件数を調べたところ、128軒あることがわかり、空き家物件の再利用について検討を重ねました。空き家物件の所有者へ中心市街地における居住・にぎわい創出のため、資産の有効活用をすすめてきました。そうした中、古民家物件が売りに出されている情報を協議会のプロジェクトチームが入手し、これまで様々な中活事業を担ってきた南紀みらい㈱が古民家再生事業を行うことになりました。併せて、田辺を訪れる多くの人に施設を利用してもらうため、ゲストハウスとして運営していくこととしました。
まちづくり会社である南紀みらい(株)が土地の賃借を地権者から受け、建物を1,000万円の予算(国・市補助金・自己資金)で改修しました。南紀みらい(株)が中心となって施設を改修・運営していく計画とし、稼働率30%を収支の基準に設定し、自社の資本金から全事業費の1/3強を負担しました。
(3)事業の推進体制
運営面では、簡易宿泊営業の許可を得た「南紀みらい(株)」が建物管理と併せ事業主体となり、また、国内の募集型企画旅行を扱える第二種旅行業の免許を取得した「田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下「ビューロー」)」が連携して、施設の予約・決済等を行っています。ビューローは、2005年の田辺市の合併に伴い、翌2006年4月、新田辺市内の4観光協会を構成団体として設立された、官民協働の観光プロモーション団体(一般社団法人)です。
問い合わせ先であるビューローは、英語等の外国語対応も可能です。外国人の職員も常駐し、当該宿泊施設をはじめ、近年増加傾向にある熊野地域への外国人旅行客に柔軟に対応しています。
宿泊施設内にはフロントがありません。そのため、チェックインは南紀みらい(株)が運営する紀伊田辺駅前の物産販売店で行っています。昨今増加傾向の外国人への対応はビューローの協力があり、スムーズです。
施設の改修にあたり、田辺商工会議所は、工事進捗の管理、国への補助金申請、許可申請、地元関係者の調整等、全面的にバックアップをしました。
【役割分担と事業イメージ】
南紀みらい㈱とビューローの事業連携
南紀みらい(株):事業主体 簡易宿泊営業 | 関係性 |
田辺市熊野ツーリズムビューロー :旅行手配業務 |
---|---|---|
土地:借地、建物:取得・管理 改装:自己資金+補助金 |
手配 |
ターゲット:・熊野古道歩き個人客 ・外国人旅行者 等 |
業務:施設管理、受付等 → 宿泊料収入 | 手数料 | 業務:予約、決済、各種問い合わせ対応等 |
宿泊:食事の提供はなし 朝食は近隣の飲食店と提携 |
免許等 | 第二種旅行業 |
田辺商工会議所:事務的支援(各種許認可、調整)、 田辺市:補助金他
人数 | 料金(税別) | 一人あたり |
---|---|---|
1人 | 8,000円 | 8,000円 |
2人 | 10,000円 | 5,000円 |
3人 | 13,500円 | 4,500円 |
4人 | 16,000円 | 4,000円 |
5人 | 17,500円 | 3,500円 |
6人 | 18,000円 | 3,000円 |
2.現況
2014年8月現在、「紺屋町家」がオープンしてから1年半がたちました。昨年度の稼働率は約32%、本年度の4月から8月にかけては約62%。うち、本年度は外国人の利用割合が約38%となっています。特に、日本とのLCC(低料金航空会社)による便が開通したアウトドア嗜好のオーストラリアからの宿泊客が多く、熊野古道、高野山へ訪問する方々がほとんどです。これにドイツ、フランスからの宿泊客がつづいています。 数名での宿泊が多く、1組あたりの宿泊客数は平均で約2.7人となっています。
施設の案内は、ビューローのホームページ(日本語含め6か国語対応)を中心に行っています。最近は、旅行ガイド等への掲載も増え認知度が高まると同時に口コミも広まっています。 宿泊料収入については、南紀みらい(株)とビューローが歩合制で手数料収入を受けることになっています。
3.宿泊施設の取組み
一棟貸宿泊施設ということもあり、宿泊客の感想としては、家族・団体でゆっくりくつろげることを利点としてあげており、リピーターも多くなっています。また、特に外国人宿泊客は古民家が放つ和風の雰囲気に共感するようです。
宿泊施設では、地元の作家が作成した、陶磁器、グラスコップ、時計、スタンドグラス等を宿泊客に利用してもらうことで、さらに、古民家の雰囲気を引き出しています。
改修にあたり、施設のコンセプトを内装やデザインで形にできるよう地元の設計士や大工の協力を得ました。改修後もあえて、古い駆体部分を見せることで、元来の建物の様子が伝わってきます。
建物管理・清掃は、業者ではなく、施設オープン時に協力の意向があった近所の一般市民の方が現在も担い、迅速・柔軟に対応する中で、宿泊客の生の感想が入ってくることもあり、そうした情報が経営上の参考になっています。
朝食券付きプランもあり、近隣飲食店の協力により、プラス500円で朝食をとることができます。
まさに、地元の人々に支えられ運営されている施設です。
4.おわりに(今後の課題)
これまでのところ施設の運営は順調です。しかしながら、シーズン毎に、宿泊客数に変動があることは、1年目の営業から見ても明らかです。
現在、田辺市内の中心市街地で、このような古い建物を再生・リノベーションした一棟貸しの宿泊施設は、この紺屋町家のみで、中心市街地で動きが広がっている状況ではなく、今後、こうした動きを広めるためには、やはり空き物件の所有者の協力は不可欠です。
2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道・熊野古道」が世界遺産に登録され、田辺市をはじめとする熊野地方では、外国人観光客が後を絶ちません。2013年には田辺市内の熊野本宮温泉郷の外国人宿泊数が過去最高を記録しました。田辺市の観光・宿泊パンフレットは勿論、中心市街地においても、案内板、飲食店のメニューなどで、英語表記を行う動きが出てきました。
城下町である田辺市の中心市街地は、歴史の魅力を感じることができます。通りを歩くと、数多くの歴史を感じさせる建物が存在します。空き家となった建物の中にも、うまく活用しリノベーションをすれば、年月を経たもののよさ、地域資源が顕在化してくるものもあるかもしれません。古さを肯定的に捉え、次の世代に手渡していく。そこに誰が気づき、どう動くのかが課題です。
近畿圏では、大都市や地方都市問わず、昨今、古民家・町家再生の動きが活発になってきています。特に、旅の中で地域住民との交流を求める外国人旅行旅行者は共感するようです。
和歌山県田辺市では、まちに存在している日本のよさをもっと発信しようと夢を膨らませています。
5.まちの概要
規模・人口
和歌山県田辺市は、紀伊半島の南西部、県南部に位置する県庁所在地和歌山市に次ぐ県内第2位の都市であり、南紀地域では最大の経済規模を有する都市です。
南紀地域の商業拠点として、田辺市は長く当地域の生活者の要請・期待に応えてきました。
交通・アクセス
鉄道輸送は、海岸部に沿ってJR紀勢本線が走っており、大阪市内から所要時間約2時間となっています。
又、2007年に「近畿自動車道紀勢線」の南紀田辺ICが供用開始されたことで、和歌山・大阪の大都市圏との時間的距離が短縮されました。
中心市街地の現状
中心市街地周辺の沿線上に大型店や大型専門店が進出したことで、中心部の商店は厳しい経営状況です。
2010年3月には、「田辺市中心市街地活性化基本計画」の認定を受けました。まちづくり会社が、整備・運営を行っている「銀座複合施設 ぽぽら銀座」は、商業系の機能と併せ、市民の出会いの広場として重要な役割を担っています。更に、近年では、若手が中心となった市民活動により、まちなかのにぎわい創出を実現するため各種事業が実施されています。
<取材日H26年8月>
関連リンク
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