アートを通じて地域づくり 日常にアートを!
ポイント
- アートの切り口で田辺の価値、歴史性、自然の素晴らしさを再発見
- 市民に広がる共感の輪
- 継続的な活動でまちづくり
- 場所:
- 和歌山県田辺市
- 人口:
- 約8万人
- 分類:
- 【教育・文化】
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- アート田辺実行委員会
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1.まちの概要
(1)規模・人口
和歌山県田辺市は、紀伊半島の南西部、県南部に位置し、県庁所在地和歌山市に次ぐ県内第2位の都市であり、南紀地域では最大の経済規模を有する都市です。
南紀地域の商業拠点として、田辺市は長く当地域の生活者の要請・期待に応えてきました。
(2)交通・アクセス
鉄道輸送は、海岸部に沿ってJR紀勢本線が走っており、大阪市内からの所要時間約2時間となっています。
また、平成19年に「近畿自動車道紀勢線」の南紀田辺ICが供用開始されたことで、和歌山・大阪の大都市圏との時間的距離が短縮され、容易に他の都市圏へ買い物に出かけられる環境となりました。
(3)まちの現状
中心市街地周辺の沿線上に大型小売店が進出したことで、中心部にある9つの商店街への入込数が減少し、退店を余儀なくされる商店も増加しているのが実情です。
このように厳しい商業環境の下、中心市街地の活性化・再生をめざす動きが市を中心に出てきました。
その結果、平成22年3月には、「田辺市中心市街地活性化基本計画」の認定を受けました。以来、基本計画掲示事業が順次実施されています。
中でも、まちづくり会社が中心商店街で整備・運営を行っている「銀座複合施設 ぽぽら銀座」は、平成22年11月の開業以降、商業施設としての機能の他に、市民の出会いの広場として重要な役割を担っています。さらに、各商店街等が実施主体となって取組むハードやソフト事業に対して支援を行うことで事業の推進を図り、商業の活性化と中心市街地の賑わいの創出を実現する「中心市街地活性化支援事業」においても各種事業が実施されています。
2.取組内容
(1)きっかけ
発端は12年前、田辺に5人のアーティストが集まり、中心市街地の空き店舗を利用し作品の展示を始めました。その出来事は多くのアーティストの共感をよび、まちの人々を惹きつけてきました。田辺の人々のおおらかな気風、コンパクトなまちなみ、歴史、自然が彼らを魅了したのです。
(2)目的
まちなかを会場にしてアートイベントを開催することで、まちの賑わいにつなげるとともに、地域の人とアーティスト、地域の人同士がつながり、アートを通じてまちを見つめ、地域の良さ、まちへの想いを実感、共感することを目的に、田辺のよさを見直し、再発見していきます。
(3)内容
平成24年7月「アート田辺実行委員会」は田辺市中心市街地活性化協議会の承認のもと「アート田辺2012」を開催しました。市在住の画家の呼びかけに応じた県内外の芸術家ら数名が、作品展やシンポジウムを開催。今回のイベントの位置づけを「芸術家の輪を広げ、イベントを定着させ、アートのあるまちづくりを進める」としています。
さて、今回は初めてのイベントなので、毎年8月に行われる田辺祭り期間とあわせ約1週間、2011年に休館になった旧図書館(現在は新図書館が市内他所に移転)を「図書館アート実験室」と銘打ち開催しました。会場はアーティストの作品と紀伊半島の自然、田辺のまちのひとびとの遊び心が相まった空間です。期間中、作品の展示とあわせ、地域の子供たちが気軽に工作できるコーナーやカフェの設置、市民参加型ミニ講座、ライブ等様々なイベントが開催されました。
また、「アートを視点としたまち歩き」をテーマに、実行委員会の案内のもと、田辺の中心市街地に長く残る昔ながらの建築物に焦点を当て、商店街で古くから営業を続ける老舗蒲鉾店を訪れるなどまち散策を行いました。
「アート田辺実行委員会」
市内にあるアトリエのメンバーを中心に、これまで4年に1度開催されてきた展示会はまちなかで行ってきましたが、今回、そのメンバーを中心とした実行委員会がイベントを開催するにあたり、中心市街地活性化協議会の承認を得て、市、商工会議所等の後援を受け、まちづくりを見据え、本格的に活動が開始されました。
今後、活動を継続的に行っていく中で、アーティスト、一般の市民の活動を束ね、まちづくりにアートを還元していく役割を担っていきます。
3.取組の効果
アートは、人々を地域や社会とつなげていくもので、まちづくりにおいても、触媒の働きをし、不思議な化学反応をおこします。市民の眠っている創造的な力を呼び起こすものがアート。そのためには、人々が共存する場所、魅力的なプロジェクトが必要で、今回のような旧図書館を利用し、地域に活動を伝えることから始めたことは市民へのアピールとしてはとても重要なことでした。
また、アートは若年層が非常に参加しやすいイベントでもあります。活動そのものが、すぐに中心市街地の活性化として顕在化するものではありませんが、特別な人だけが、特別なことをすることだけがアート活動ではなく、多くの市民が参加し、今後、じわりじわりと地域や社会に小さな勇気をつくりだし、やがて大きな流れとなっていくことが期待されます。
4.今後の課題
現在、日本全国で「アートとまちづくり」をテーマに多くの活動が行われています。
田辺の場合、地元アーティストを中心とした、イベント活動から始まりました。
今回、トークセッションの中で講師から、今後は、アートを通じて様々な民間活動を促進していくことの大切さについて提言がありました。
市民が、アートを含め多くの活動を行っていくにあたり、今回の旧図書館のような開かれた場のほか、空き店舗を活用した活動も考えられます。
場の存在と併せ、イベントを切れ目なく継続的に行っていくうえで、市民が生活の中でアートを感じることができるような体系的なプログラムをどう構成していくのか。アート活動は、楽しいが、つかみにくく、表面的なものになりやすい。今後活動の参加者間で温度差がでてきたときに、活動が停滞しないよう乗り越えていくだけのマネジメントも必要になってきます。特定の人がすべての活動を請け負うのでなく、各チームが得意分野をいかしていくバランスを維持していくことが望まれます。
まちづくりでは、このような、活動プロセスそのものが、非常に大切で、まち全体としてチーム感を生み出していくことが、アート活動の最大の目的なのかもしれません。
5.取材を終えて
城下町である田辺市は、450年余の歴史をもつ田辺祭り、熊野古道、生物学者・南方熊楠をはじめ、様々な催し・場所・人から多くの歴史の魅力を感じることもできます。
「日常にアートを!」この言葉をキーワードに、日々の生活に潜んでいるアートを市民が見つけ、活動に参加し、歴史と今を結び付け、共存してこそ、田辺のまちが一層魅力的なものになるのではないでしょうか。田辺では活動が始まったばかりです。
<取材日H24年8月>