補助金「0」の空き店舗対策事業
(家賃スライド制 ~新津モデル~ の導入)
ポイント
- 三方一両「得」の仕掛け
- 補助金「0」の空き店舗対策事業
- 場所:
- 新潟県新潟市秋葉区新津
- 分類:
- 【空き店舗・空きビル】
- 人口:
- 80.4万人
- 協議会:
- なし
- 実施主体:
- 新津商工会議所
- 参考URL:
- (新津商店街MAP)
まちの概要
規模・人口
旧新津市が属する新潟市は、平成17年3月に新津市や小須戸町など12市町村と合併し、さらに10月に巻町と合併しました。そして、平成19年4月1日、新潟市は日本海側で初めて政令指定都市に移行しました。(人口804千人<22/7末時点>)
交通など
主要道路として磐越自動車(新津IC)、国道403号と460号が走り、鉄道では信越本線、羽越本線、磐越西線が新津駅で結節するなど、旧新津市は交通の要衝として栄えて来ました。特に平成11年から、「SLばんえつ物語号」として「SL C57-180号機」が新潟駅と会津若松駅間を定期運行しています。
まちの現状
旧新津市が属する新潟市は、政令指定都市への移行に伴い8つの区が誕生し、旧新津市は、旧新津市と旧小須戸町からなる秋葉区に位置しています。 秋葉区は、新潟県のやや北部に位置する新潟市の中で南東に位置し、東西を阿賀野川、信濃川の二大河川に囲まれ、北には小阿賀野川、そして南には山間丘陵部を有した、四季を通じて美しい表情を見せる緑豊かなまちです。
かつて石油・鉄道のまちとして栄え、現在は花き花木、球根の生産地として全国に知られています。サツキ、ボケ、アザレア、シャクナゲを中心とする色鮮やかな花たちが「まち」を彩り、毎年関東や東北方面に数多く出荷されています。近年は、新潟薬科大学を核とした産・官・学連携の研究拠点「バイオリサーチパーク」整備により、新・地場産業の形成と産業基盤強化をめざしています。
まちの課題と活性化の取り組み
(1)課題・問題
旧新津市では、公共施設の郊外移転やショッピングセンターの郊外出店などにより中心市街地の空洞化が進展してきました。平成20年に実施された調査では、中心市街地の空き店舗率が約25%に達するなど商業環境は厳しい状況におかれています。また、旧新津市が属する秋葉区の高齢化率(※)も約25%と、新潟市の8つの区の中では最も高齢化が進んでいる地域です。
そのため、旧新津市の中心市街地においては、商店街の機能を高め高齢者の暮らしを支え安心して暮らせる街を目指して様々な取り組みを行っています。
※高齢化率=65歳以上人口/人口総数
(2)活性化の取り組み
平成22年度より、旧新津市が属する秋葉区において、行政、商工会議所、不動産業者(会議所会員)の連携の下、新津駅前周辺の商店街をモデルに設定し、空き店舗対策の一環として「家賃スライド制」を導入しました。
この「家賃スライド制」の導入により、これまでに二つの空き店舗が埋まり、特に「駄菓子や 昭和基地一丁目 C57」では、開店一ヶ月で、当初設定した年間売上予算額を上回る売上を上げています。
(3)具体的な方法
「家賃スライド制」とは、物件所有者の大家が最小限必要な費用(固定資産税や保険料など)を「物件賃借料」として定めてテナントを募集し、その後は毎年の営業利益に応じて次年度の賃借料を増減させるというものです。営業利益がゼロ以下であれば賃借料は初年度賃料のまま据え置き、利益が出た場合はその利益額に応じて次年度の賃借料を一定のルールに従って算出し上乗せしていきます(賃借料の上限は当初に設定)。
これにより、テナント側では「賃借料(家賃)」が抑えられることにより固定費の負担が軽減され、物件所有者(大家)も毎年度必要最低限の収入が確保できます(テナントの収益が上がれば家賃収入も増える)。更に、当該制度では、毎年度契約を更新するため不動産会社にも手数料収入が毎年度入ってきます。
このように、「家賃スライド制」を導入することにより、テナント、物件所有者(大家)、不動産会社の3者がそれぞれ「得」をするという理想的な設計がなされています。
取り組みの効果
「家賃スライド制」の導入に当たっては、新津商工会議所が旗振り役となって、区役所と不動産会社、そして地元の物件所有者(大家)と調整を行いました。平成22年4月からこの制度の取り組み始めましたが、これまでに6件の物件所有者(大家)の協力を得、そのうち2件で賃貸契約が締結されています(平成22年8月現在)。
これからは、この制度に賛同する物件所有者(大家)を増やしていくことで、旧新津市の中心市街地での新規出店を増やし、そして同時に家賃も適正な水準に抑えていく効果が期待されます。
先に取り上げた駄菓子屋では、郊外店では真似できない要素を取り入れた事により、毎日多くの子供達がこの店に集まり駄菓子を自分で買い、そして店内で友達と遊んでいます。子供たちが集まることでその親や祖父母も集まってきます。そのようにして、これまで人通りが少なかった商店街の一角に、元気で楽しい声が響き渡るようになりました。
今後の課題
「家賃スライド制」の導入からまだ5カ月を経過したところですが、今後の課題としては大きく二つ挙げられます。
一つ目は、この制度に賛同する物件所有者(大家)と地元不動産会社を増やしていくことです。関係者は多数存在しますが、特にこの両者の賛同と協力がこの制度を進めていくうえで不可欠な要素です。
そして二つ目は、営業利益を元にした家賃の改定です。ただ、こればかりは実際にやってみなければわかりませんが、これが円滑に進めばより一層この制度の推進が図られるものと期待されます。
関係者の声・まちの声
「家賃スライド制」は、これまでのところテナント、物件所有者(大家)、不動産会社の3者がそれぞれ「得」をする制度として進められています。
この制度の活用により、これまで空き店舗だった店にテナントが入りお客さんが増えることで商店街や中心市街地に賑わいが生まれてきています。 今後は、この制度をもっと宣伝することで多くの人に活用していただき、中心市街地に再び活気が戻ることが期待されます。
取材を終えて
この制度は、行政などの補助金を投入せずとも空き店舗を埋める有効な手法になる可能性があります。 また、多くの地域では「賃料の高止まり」が新規出店を阻害する要因の一つでもありますが、この制度が広く導入されることで高止まっている賃料が適正な水準にまで下がってくることも見込まれます。
是非、みなさんの地域でも参考にされてはいかがでしょうか。
<取材日H22/8/12>