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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

「ヒト・モノ・コト」が集まる、古くて新しいまち ~栄町市場~

ポイント

  • 市場を歌った音楽やアートを題材にすることで、「ヒト・モノ・コト」が集まる
  • 医商連携による市場の活性化
場所:
沖縄県那覇市
分類:
【イベント】【医療・福祉】【空き店舗・空きビル】【商店街販促】
人口:
32万人
協議会:
あり
実施主体:
栄町商店街振興組合
参考URL:

http://www.sakaemachi-ichiba.net/ 別ウィンドウで開きます


まちの概要

規模・人口

那覇市は、沖縄本島南部に位置する県庁所在市、また人口31.5万を擁する沖縄最大の都市で、政治、経済、文化の中心都市です。

交通など

移動手段は鉄道がないため車が中心となり、慢性的に渋滞が起きておりますが、中心市街地への公共交通機関としてはバスの利用客も多く、平成15年に開業したモノレールも通勤客など利用が増えております。

まちの特色

国際通り、平和通り及びその周辺をエリアとする那覇市の中心市街地は、沖縄県における代表的な商業・業務機能の集積地域ですが、近年の市郊外や近隣市町村への大型商業施設の進出により、中心市街地の顧客吸引力減少など、活力低下が懸念されています。

事業内容

栄町市場の現状と課題

沖縄都市モノレール安里駅に隣接する栄町市場(沖縄県那覇市)は、戦後の闇市として復興し、現在に至っています。
約1.3haの街区からなる市場内には迷路のように路地が入り組み、それに面して食料品を中心に約100店舗がひしめき合うように軒を連ね、どこか懐かしい雰囲気を醸し出しています。また、栄町市場一帯には多くの飲食店が集積し、社交街としてもオールドファンの馴染みの場所になっています。

室内授業風景

常連客や近隣住民の「台所」として根強く支持されてきた栄町市場ですが、近年、大型店の出店や少子高齢化に伴う買物客の減少、空き店舗の増加などが顕著になってきています。しかし、この様な劣勢のなかでも「ヒト・モノ・コト」を栄町市場に呼び込もうと取り組む人たち(組織)が次々に現れ、その活動が始まっています。

取り組みの効果

その1 市場生まれの音楽 ~「めいどいん栄町市場」~

卒塾式

栄町市場といえば、何と言っても、市場を歌にした音楽CD『めいどいん栄町市場』。2006年4月にリリースされて以来、大きな話題を呼び、今回、2010年3月にVO2.が発売されました。


"おばぁラッパーズ"や"栄町オールスターズ"など、市場で商売をする人達が中心となり、これらにデザイナーやアーティストなど市場関係者が加わり、市場を歌った音楽集です。過去にはNHK全国ニュースで放映されるなど各メディアからの反響が多く、今では栄町の代名詞にもなりつつあるといいます。
毎月一回行われる(通常、6~10月)市場の祭りでは、これらの歌のいくつかが披露され、市場は大フィーバーへと。これを目当てに来る観光客もいるようです。
なかでも、"おばぁラッパーズ"は、市場で商売をやっている"おばぁ"が、自らの市場での日常を、うちなーぐち(沖縄方言)中心に、ラップで歌い上げるという何とも興味深いもので、今では県内のイベントに呼ばれるほどにもなっております。


市場活性化のために始まった試みが、市場へのラブソングとして、多くの老若男女の参画を呼び、市場に通う人達が音楽に酔いしれ、市場にかかわるヒトの結束、市場への愛着がますます深まってきております。

その2 アートを通して市場の魅力を引き出す ~NPO法人前島アートセンター~

NPO法人前島アートセンター(以下、「MAC」という)の活動は元々、那覇市前島地区にあった空ビルを民間主導の新しい芸術・文化活動の拠点に作り変える趣旨でスタートしました。


2007年10月からは、その活動拠点を栄町市場に移して空店舗を活用した「おきなわ時間美術館」を開設し、「新しい文化の発信地」としての活動や交流を積み重ねています。軒下に吊り下げられた愛らしい小鳥の人形、空店舗のシャッターに貼られたメッセージ性のあるグラフィックアート、思わず手に取ってみたカッコいいマップ、店先にまるで店主が二人いるかのように精巧にできたフィギュア等のアート作品が、栄町市場内を歩くと目に飛び込んできます。
フィギュアが置いてある商店主は、「これまで来なかった人たちが来るようになった」、「若い人が来て活気が出てきた」とMACを歓迎します。


一方、MACの宮城潤理事は「まちの魅力を引き出すことをやっている」、「アートの活動で栄町市場に来る人が増えたが実際には売上げに結び付かない。人が来ることはチャンスで、それに対して栄町市場で提供できるものがあるかが大事」と各々のスタンスを強調します。


MACの活動は栄町市場の風景の中にアートという異物を挿入することにより、アートを通してお店や商品を見ること、知ることを喚起し、栄町市場の面白さや魅力を創出するだけでなく、商店主とのコミュニケーションツールにも成り得るものと感じられました。

室内授業風景

その3 医療機関と商店街とのコラボ ~地域の中高年の若返りと街の活性化プロジェクト~

医療法人陽心会(以下、「陽心会」という)は「地域に根差した地域のための医療」を目指して、那覇市内に総合病院、クリニック、社会福祉施設等を幅広く展開しており、道路を挟んだ栄町市場の向かいには陽心会大道中央病院が立地しています。


陽心会の特徴的な取組みの一つは「自宅の病床化」の推進です。自宅にいながら福祉・保健・医療サービスを24時間365日受けることが可能なシステムを、そして衣・(医)・食・住全てにわたって医療介護の面からサポートする機能を充実させることで、介護を受ける者やその家族の意向を反映しようというものです。


陽心会の高良健理事長は、「元気な高齢者ならば生産活動を行うべきである」、「街の中そのものがデイルームである」として高齢者が積極的に街に関わる環境づくりを推進しており、平成21年度に取組んだ経産省・地域総合健康サービス産業創出事業「地域中高年の若返りと街の活性化プロジェクト」もその一環であることが伺えます。


本プロジェクトは、健康づくりから食事・食材の確保、買物の支援等まで高齢者を支える体制を、医商連携により地域ぐるみで整備するものです。
参加する高齢者には会員カードと総合カルテが発行され、陽心会の医師や管理栄養士、運動指導士による月1回の健康チェック及びそれに基づいた栄養指導、献立指導等の他、買物カートの貸出し、有料宅配サービス等を受けることができます。
献立指導は、栄養指導の栄養処方箋に基づいて、栄町市場内の飲食店や惣菜店、弁当屋、魚屋、肉屋、八百屋での購入を支援してもらうことができます。栄町市場側では、商店名と業種が記載されたマップを用意して、高齢者の食事・食材の調達に対応しています。


「栄町市場商店街ポイントカード」を発行して、本プロジェクト参加店舗で買物をすると100円毎に1ポイント(シール1枚)が付加され、貯まったポイントに応じて景品(血圧計、電子体温計、加湿器等)や医療サービス(ワクチン、検診、スパ利用券等)に交換できるようになっています。
体重1㎏減・腹囲1㎝減で100ポイント、市場まで1000歩を歩いて1ポイント等のユニークなポイント付加もあり、参加者の健康への意識付けが図られています。また、本プロジェクトでは運動療法士によるフィットネス、スパ入浴、エステ等の運動メニュー指導も行っており、内的だけではなく外的アンチエイジングへの取組みも用意されています。


高良理事長は「アンケート調査によれば、栄養指導等による体調、体力等の向上が確認できた」、「売上げ、買物人口の増加による街の活性化も期待できる」と一定の成果に手応えを感じており、本格導入が望まれるところです。

室内授業風景

取材を終えて

栄町市場に集まる各々の主体が、地域のポテンシャルを活かした多様な活動を展開することにより、幅広い年齢層に対して新たな魅力を創出し始めました。
かつての商店街が地域コミュニティ形成の場であったように、栄町市場は本来の商店街の姿へと原点回帰しているといえます。この新陳代謝を推し進めているのは、栄町市場に関係する各々の愛着、愛情と、古いものの中に新しいものを許容する栄町市場の懐の深さであると感じられました。
栄町市場の次なる"新しい"挑戦が待ち望まれます。