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令和6年度「東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー」レポート
東北経済産業局は、独立行政法人中小企業基盤機構と共催で、2024年9月12日(木)~13日(金)の2日間にわたり、令和6年度「東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー」を岩手県盛岡市において開催しました。
「『妄想』と『実走』から考える 次世代のまちづくりセミナー」をメインテーマに、中心市街地や商店街等の活性化に関わる人々や機関の連携構築、まちづくりに携わりたいと思う人々のマインド醸成等を目的とした、本セミナーの概要を紹介します。
本セミナーでは、1日目に事例発表と『妄想編』としてのパネルディスカッション、2日目に『実走編』としてグループワーク、個別相談会を行いました。
目次
事例紹介3「マルヒコビルヂングを拠点にしたエリアリノベーション」
※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。
事例紹介1「異彩を、放て。」
岩手県盛岡市(人口約28万人)を拠点に活動する、株式会社へラルボニー 代表取締役Co-CEO、松田文登氏に講演を頂きました。ヘラルボニーは、2018年に設立され、主に知的障害のある作家150名以上と契約し、アート作品をプロダクトにして社会に提案するブランド『HERALBONY』の展開や、企業やブランドとのコラボレーション事業を行っています。2023年12月には、盛岡市と地方創生に関する包括連携協定を締結、2024年4月には岩手銀行とパートナー契約を締結するなどし、多様な企業と共創の取り組みを行っています。アートプロデュースを手掛ける「HOTEL MAZARIUM(マザリウム)」は、『じゃらん』が行う「東北 泊まって良かった宿ランキング」ホテル部門総合の1位を獲得しました(ランキングの集計期間は2023年8月1日~2024年7月31日までの1年間)。
ヘラルボニーは、作家に正当なロイヤリティをお支払いすることを大切にしており、中には確定申告をする作家もいらっしゃいます。自身の兄も障害を持つ松田氏は「岩手では(ヘラルボニーが携わった場所をきっかけに)誰もが「ここにいていいんだ」と帰属意識が高まる形を作りたい」と話しました。
参加者からは「企業理念にストーリー性があるからこそ、人の興味を惹くことができていると感じた」「地域に芸術で回遊性をもたせる取組が面白い」との感想がありました。
事例紹介2「まちに灯台を作る」
福島県いわき市(人口約35万人)にある平三町目商店会副会長、北林由布子(ゆうこ)氏に講演を頂きました。北林氏は上京後、2004年にUターンし、カフェダイニング「La Stanza(スタンツァ)」をオープンしました。2011年の震災をきっかけに地元生産者との連携を開始し、「三町目ジャンボリー」という名のマルシェイベントを企画運営しています。2018年には、まちの活動拠点としてゲストハウスを作りたいと考え、どんなゲストハウスにしたいか考える「妄想飲み会」を開催しました。そのとき遠くから歩いて来た人に、飲み会の場所が「灯台みたいだった」と言われたそうです。
この発想は、2020年にオープンした「Guest House & Lounge FARO (ファロ)iwaki」の店名にも由来しています。現在はインターン生の受け入れや、自転車で地域をまわる「いわき時空散走プロジェクト」なども行っています。また、歩道の一部をみんなの場所として活用し、まちで過ごす日常の時間を豊かにする「ほこみち(歩行者利便増進道路)」の指定に向けた社会実験、
たいらほこみち「いわき駅前公園化計画」 – まちの主役を、車から人へ 別ウィンドウで開きます
にも取り組まれています。
参加者からは「うまく行政・警察を取り込みながら、よい関係性を築いている」「芝生、ござ、ハンモックをまちなかに設置するなど、小さいことでも効果があるのだと気づいた」との感想がありました。
事例紹介3 「マルヒコビルヂングを拠点にしたエリアリノベーション」
秋田県能代市(人口約4.7万人)にて家具作りとまちづくり活動を行う、合同会社のしろ家守舎代表社員の湊哲一氏に講演を頂きました。湊氏は当初、静かな場所で家具作りを行いたいと考え、2017年に能代にUターンしました。しかし、Uターンから2年ほど経った時、静か過ぎる商店街に危機感を覚えるようになったそうです。そこで駅前の旧酒店「丸彦商店」をリノベーションした「マルヒコビルヂング」を拠点として、2020年に合同会社のしろ家守舎を設立されました。合同会社のしろ家守舎の事業は、カフェ事業など多岐にわたります。「KILTA能代」では、DIT(Doing It Together)という「共に作る」プログラムを通じて、空間づくりを学ぶワークショップを開催しています。湊氏は「一緒に作り上げることで、参加者同士が共感を生み出せる場を作りたい」と語ります。一般的にDIYは「日曜大工」というイメージが強いですが、湊氏は「お父さんだけでなく、ママさんや子どもたちも一緒に楽しめるものにしたい」と、この活動への想いを話します。能代市は、大学のないまちです。そのため一度はまちを出ていく可能性がある子どもたちに、能代市を好きになってもらうための新しいお祭りを行いたいと考え、2020年より、駅前商店会主催で「のしろいち」というイベントを企画・開催。初年度から1万人を超える参加者に恵まれ、大変な賑わいを見せています。今年で4年目を迎え、年々成長を続けるこのイベントは、地域の活気を支える恒例行事となりつつあります。
参加者からは「テーマづくりから、実行に移すまでの過程が参考になった」「シャッター街から、この発表にあったようなにぎわいづくりが行われたことに感銘をうけた」との感想がありました。
パネルディスカッション 「次世代のまちづくり」
これからのまちづくりを担う人たちが考えたい「次世代のまちづくり」をテーマに、進行役と4名のパネリストによるディスカッションを行いました。
パネリスト | 所属とまちづくりとの関わり |
---|---|
齊藤健吾 氏 | 株式会社斎藤商事 代表(盛岡市の肴町商店街振興組合青年部の活動でにぎわい創出事業に携わる) |
玉木春香 氏 | 合同会社ホームシックデザイン 業務執行社員・副代表(「若者が活躍できる岩手・盛岡」をキーワードにまちづくりの活動を行う) |
三浦悠 氏 | 株式会社街づくりまんぼう 街づくり事業部プランナー(宮城県石巻市にて、マンガを活かしたまちづくりを行う) |
阿部天音 氏 | 東北経済産業局 産業部 商業・流通サービス産業課 |
伊藤大海 氏 (進行役) |
愛知県半田市 中心市街地活性化市⾧特任顧問、まちづくりLand for Next Generations.代表 |
伊藤氏からの「自分が次世代と感じるのはどんなとき?」、「自分にとっての次世代とはどんな人?」といった問いに、パネリストの皆様がテンポよく答えながら進行していきました。 開始当初は、「自分が次世代と感じるのは上司の仕事姿を見たとき」「学生や若い世代が次世代」等といった様子で、年齢を軸に話がすすんでいきました。次に、齊藤氏からの「まわりには70代以上の方でもパワーがあり、元気に活動をしている人たちがいる。次世代は年齢に関係ないのでは。」といった意見が出たことをきっかけに、そこから精神的な面を軸に話が展開していきました。
「継続事業をやめる判断ができる人も次世代。先輩が作ったものを続けなければという気持ちが大きく、ときめかない活動を続けることは難しい」(齊藤氏)、「次世代とは、次のステージに行こうとしている人のことを指すのかも」(玉木氏)、「異質や革新的という言葉がキーワード」(阿部氏)、「伝統を新しいかたちでできる人が次世代」(伊藤氏)、「次世代が活躍するためには、場所や環境、お金も正直必要」(三浦氏)などといった率直な意見がかわされ、参加者の関心が寄せられました。
また、会場全員がQRコードを活用し、個人のスマートフォンから自身の意見を入力することで、会場のリアルタイムな意見がスクリーンに投影されました。「次世代まちづくりのキーワードは?」の問いに、、「仲間」「寛容性」「挑戦」などといった言葉が特に多く、「次世代」に大切な要素としてそれらが現場では求められている様子がうかがわれました。
最後に伊藤氏が「次世代というのは、“自分たちが次世代”である側面と“自分たちにとっての次世代”という存在がある」「自分たちにとっての次世代が活躍するまちづくりのために、自分たちが先輩たちに“こうあってほしい”と感じていたことを、自分たちが次の世代に提供することも意識していくことが必要なのではないか」と締めくくりました。
交流会
1日の終わりには、monaka(モナカ)内にあるレストランにて、名刺交換交流会を行いました。盛岡の食材を使った料理とともに、各地域の活発な交流が行われました。
monaka(モナカ) 別ウィンドウで開きます
は、中ノ橋通一丁目地区第一種市街地再開発事業にて建設された複合商業施設で、2024年7月11日にオープンしました。肴町商店街のアーケードに隣接して作られ、商店街と一体となったにぎわいを見せています。
まち歩きとグループワーク
2日目は、まち歩きとグループワークを行いました。
午前は盛岡市の協力を得て、中心市街地のまち歩きを行いました。大正時代の消防屯所をはじめとした古民家が建ち並ぶ「紺屋町」、人と地域の魅力をつなぐローカルハブ「盛岡バスセンター」、複合商業施設monaka(モナカ)と隣接する「肴町商店街」、地域課題の解決を図る社会実験の一環として盛岡市が運営する「なかのはし1-1ひろば」などをめぐりました。新旧入り混じるまちなかには回遊のしくみが多く施されており、次世代まちづくりへの妄想を膨らませる一助となったことと思われます。
「実走編」となるグループワークでは、参加者は(自身の関心の高いまちづくり課題別に)5つのグループに分かれ、コーディネーターとともにディスカッション・作図などを実施しました。
グループ | コーディネーター | 概要 |
---|---|---|
Aグループ | 湊哲一 氏(合同会社のしろ家守舎) | 若者と地域の未来:(大学のないまち・能代から考える)共に考えるまちづくり |
Bグループ | 北林由布子 氏(平三町目商店会) | 車社会の地方都市において“ウォーカブル”なまちづくりが生み出す新しい商店街の価値 |
Cグループ | 苅谷智大 氏(株式会社街づくりまんぼう) | まだ見ぬ次世代のために私たちがまちづくりですべきことを考える |
Dグループ | 柳沢拓哉 氏(株式会社まちづくり八戸) | まちの「場」の魅力を測る「プレイス・ゲーム」体験 |
Eグループ | 伊藤大海 氏(愛知県半田市 中心市街地活性化市長特任顧問) | 持続的な地域経営に向けて、次世代と自分の役割を考える |
各グループの成果発表の概要は次のとおりです。なお、各グループワークで作成された作図など成果物は、成果発表後に掲示され、参加者の閲覧に供されました。
(Aグループ)若者と地域の未来:(大学のないまち・能代から考える)共に考えるまちづくり
若者の地域離れとまちづくりについて、思いつくことを付箋で書き出しながら話し合いました。子どものうちにお祭りなどを体験し地元の良さを植え付けたい、学校と協力しボランティア体制を作りたい、などと子どもに焦点をあてた話し合いがされていましたが、最後には「楽しそうな大人がいることが大事」という結論が発表されました。コーディネーターの湊氏は「このまちには何もない…等といったネガティブなことをつい大人が言ってしまいがちだが、それが子どもへの洗脳のようになってしまう。子どもたちがまちを好きになり、一度地元を離れてもまた戻ってきたいと思えるようになるためには、大人自身がまちを好きでいるかどうかにかかるのではないか。」とコメントしました。
参加者からは、「学生を取り込むには、様々な方策をつくる前に、大人が楽しく頑張っている姿を見せることが大切」との感想がありました。
(Bグループ)車社会の地方都市において“ウォーカブル”なまちづくりが生み出す新しい商店街の価値
大きな商店街の地図に、自分たちがまちなかに欲しいと思うものを自由に書きこんでいきました。長い流しそうめん、長い綱引き、歩きながらもぎ取れる果物の木、地域の子どもと関わりが持てるホスピスなど、みんなの「スキ」が詰め込まれた楽しい地図が発表されました。このグループワークは、コーディネーターの北林氏がご自身の仕事でまちの未来を考える際にも実際に行っている作業です。北林氏は「ワークを始めるとまずは『ゴミ箱』などの便利で実用的なものが書き足されがちだが、この作業は実際にできることを描くというよりも「マインド」を共有するための作業。自分たちがやりたいことを思いつくままに描いて『これがわたしたちのまち』といえるものを作り、マインドを共有してほしい」とコメントしました。
参加者からは、「やりたいことをみんなで考える場が大事」「ハードありきでなく、ソフトを優先に考える楽しいワークだった」との感想がありました。
(Cグループ)まだ見ぬ次世代のために私たちがまちづくりですべきことを考える
自己紹介やアイスブレークのゲームなどを経て、「2054年のwebコラムニストになったつもりで、わがまちの30年のまちづくりの取組を記事にしてみましょう」というグループワークが行われました。発表は自治体からの参加者が行い、現在の市の取り組みをもとに想像で書いた記事をお話されました。自分の今現在行っている取り組みが30年後にどうなっているかを想像することで、取り組みの影響や課題が想像でき、自分たちがすべきことも見えてくる有意義なワークショップとなりました。コーディネーターの苅谷氏は、「次世代のためといっても、自分たちがやりたいことは続けるべき。自分らのくらしも、まだ見ぬ次世代のくらしも豊かになるよう、バランスが大事」とコメントしました。
参加者からは、「自分の仕事を見つめなおすことができた」「今取り組まなければならないこと、大切にしなければならないことを学べた」との感想がありました。
(Dグループ) まちの「場」の魅力を測る「プレイス・ゲーム」体験
盛岡のまちあるきをしながら、同時にその場の魅力を評価するワークショップ「プレイス・ゲーム」体験を行いました。まちあるき後、会場近隣の商店街や公共空間の良い点悪い点、場所の持つ機会や課題、すぐにできること、長期的な改善などの視点で付箋に書いて貼りだしました。コーディネーターの柳沢氏は「にぎわいのあるまちでも、評価する視点を持って歩くと気になることが見つかることを体感してもらった。ご自分のまちで実施する場合は、批判で終わらせずに、官と民で課題をすりあわせて、改善するチャンスだととらえてほしい」とコメントしました。
参加者からは、「ゲーム形式で現状整理することは、市民を巻き込む手法として取り入れやすいと感じた」「にぎわっているように見えても、さまざまな視点で改善点はあると学んだ」との感想がありました。
(Eグループ)持続的な地域経営に向けて、次世代と自分の役割を考える
当グループではまず、地域を未来に持続する「“次世代”」の定義について話し合いました。その結果、「承継する…私たちに大切な物事を」「変革する…広い視点の担い手となる」「創生・創世する…自由に、恐れず、自信をもって創る。間違ってよい」存在が、次世代であると定義しました。
さらに、コーディネーターの伊藤氏があらかじめ実施した56人の高校生のアンケートをもとに、分科会参加者と学生の意識がいかに乖離しているかという体験をしました。
そのうえで分科会への参加者が“次世代として”“自分たちの次世代のために”「せねばならないこと」「したいこと」「すべきこと」「してはならないこと」を自分事として考えていきました。
伊藤氏は「寛容性や機会がないまちづくりの現場では、そもそも『したいことをする』という発想がわきづらい。次世代がコミュニケーションで理解しあう場やチャレンジできる機会をつくることが大事」とコメントしました。
参加者からは、「次世代というキーワードでこれだけ様々な意見が出ることに驚いた。改めて人と話すことの大切さを感じた。」「中高生や大学生の趣味嗜好を知っておく必要性がある」との感想が寄せられました。
セミナー開催を終えて
本セミナーには行政や支援機関、民間事業者のほか大学生の方を含め、36機関44名の方に参加頂きました。メインテーマ「『妄想』と『実走』から考える 次世代のまちづくりセミナー」に沿った内容で実施できましたこと、ご協力を頂きました専門家、登壇者の皆様、開催にあたって各段のご尽力を頂きました盛岡市の皆様に感謝申し上げます。
閉会後の参加者アンケートでは、「共通して立ち返れるビジュアル(こんなまちにしたい、目指している風景はこれ)はぜひ作りたい」「グループワークの手法をすぐにでも地元の商店街に伝えたい」「行政・民間関係なく、意見交換をする場が重要」などの前向きな記述が多くありました。セミナーの目的であった中心市街地や商店街等の活性化に関わる人々や機関の連携構築、マインド醸成等、まちづくりの人材育成の一助になれたものと感じています。