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『令和4年度第2回東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー』レポート②
2023年2月16日~17日、山形県山形市で『令和4年度第2回東北地域中心市街地及び商店街関連セミナー』(東北経済産業局・中小機構共催)が開催されました。
2日間にわたり基調講演、グループ討議、事例発表や視察など盛りだくさんの内容で行われ、東北エリアを中心に22地域から49名の参加者が集いました。レポート②では、2日目に行われた事例発表についてご紹介します。
(1日目) ■開会挨拶 ■支援制度説明 東北経済産業局、中小機構まちづくり推進室 ■基調講演 一般社団法人多治見市観光協会(たじみDMO) COO 小口英二氏 ■グループ討議 (2日目) ■グループ討議結果発表 ■事例発表ⅰ 山形市商工観光部山形ブランド推進課 街なか・商業グループリーダー 池野晃央氏 ■事例発表ⅱ 七日町御殿堰開発株式会社 代表取締役 結城康三氏 ■現地視察 |
<レポート②の目次>
⑥七日町御殿堰の戦略/「創ったものに人は集まらない。人はあるものに集まる」
※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。
1.事例発表ⅰ 『山形市中心市街地のまちづくりについて』
山形市は山形盆地の東南部に位置する、人口244,102人(2022年12月1日推計)の中核市です。山形市の中心市街地のまちづくりについて、山形市商工観光部 山形ブランド推進課 街なか・商業グループリーダーの池野晃央氏の講演内容をご紹介します。
①山形市の概況
当市は四方を山々に囲まれた自然豊かな都市であり、歴史的・文化的資源、豊かな食文化等の地域資源に恵まれた地域です。
中心市街地には歴史的資源が多数残っており、重要文化財の「文翔館」や江戸時代に整備され中心市街地を網の目のように流れている水路は山形五堰として知られています。また、かつて日本一の生産量を誇った紅花で財を成した商人が多く活躍した地域であり、京と江戸の交流により2つの文化の蔵店、蔵座敷、荷蔵が混在し複数残っています。
文化的資源としては、市内には創業100年を超える料亭が3か所あります(社会情勢やコロナ禍で6軒あったものが減少)。また、全国的にも高い評価を得ていた山形芸姑を官民連携にて支援しており、料亭のお座敷ではやまがた舞子が活躍しています。東北で唯一の芸術大学である東北芸術工科大学が所在し、アカデミー賞公認映画祭の山形ドキュメンタリー映画祭、東北では山形市と仙台市のみにあるプロオーケストラ(山形交響楽団)など、これらの文化資源もまちの活性化に欠かせない地域資源です。
直径6.5mの鍋を使った日本一の芋煮会のイベントも有名であり、玉こんにゃくなど独自の食文化が育まれています。冷やしラーメン発祥地でもあり、外食でのラーメン年間支出額全国1位でもあります。また、寒暖差が大きい土地柄で果物が甘く育つ特徴があり、さくらんぼやシャインマスカットをはじめとした果物が多く生産されています。
②中心市街地活性化とグランドデザインについて
当市では2008(平成20)年度より中心市街地活性化基本計画の取組みを開始し、現在では第3期計画を推進中です。2019(平成31)年には中長期的ビジョンであるグランドデザインを策定しました。
<商業を核とした第1~2期計画、グランドデザインに基づく第3期計画>
第1期計画では3つの新名所づくり(御殿堰整備、山形まなび館、山形まるごと館紅の蔵)を核に事業を推進したところ、観光入込客数は大きく増加した一方、歩行者通行量への波及効果は薄く、空き店舗の増加等新たな課題が表面化しました。
そこで、第2期計画では第1期計画で整備した各事業の効果を面的に波及させることで、回遊性の向上、空き店舗の解消、更なる観光客の誘致を図りました。
これまでは商業を核にした活性化施策を続けてきましたが、社会経済の変化を含めた中長期的な将来ビジョンが必要であると考え、2019(平成31)年にグランドデザインを策定、それに基づき第3期の中心市街地活性化基本計画を策定しました。
第3期計画(令和2年11月~令和8年3月末)のテーマは、「人が集い、暮らす、次代へつなぐまちの魅力の創出」です。「歴史・文化資源の魅力向上による賑わいづくり」「エリアマネジメントによるまちの魅力の向上」「街なかへの居住推進」を基本方針に、86事業を推進しています。
<グランドデザインの改訂>
戦略プロジェクトや民間開発の進展や、まちなかの集客の核だった大沼(百貨店)の閉店などさまざまな変化を踏まえ、令和4年11月にグランドデザインを改訂しました。改訂前に来街者へのアンケート調査を実施し、分析した結果、次のことがわかりました。
・中心市街地に来る際の平均人数や立ち寄り箇所数が少なく、滞在時間も短い傾向がある
・休憩場所や日陰などの歩きやすさ、ゆっくり、ゆったり過ごせる空間を望む傾向が見られる
・中心市街地の居住人口は増加しており、街なかへの居住ニーズや職住近接の意識が高い状況にある
・市民のニーズは多岐に渡るが、商業機能の集積と利便性の向上が求められている
そのほか民間事業者への調査も経て、取組みの方向性を整理し、グランドデザインを改訂しました。
改訂グランドデザイン 取組の方向性 (1)「モノ」消費から「コト」・「トキ」消費へのシフトを考慮した都市基盤の再構築 (2)生活者目線での都市機能の整備 (3)エリアマネジメントの推進強化 |
グランドデザインで示した取り組みの方向性を踏まえた「まちづくりの取組イメージ」は次のとおりです。
③エリアマネジメントの推進強化とゾーニング
グランドデザインでは、エリアマネジメントの考え方を導入し、具体的な事業を戦略的に実行していくため、周辺のエリアの特徴を踏まえて商業強化・観光機能集積ゾーン、商業強化・居住推進ゾーン、リノベーション強化ゾーン、商業強化・オフィス誘致ゾーン、医療福祉・居住・子育て推進ゾーンなどのゾーニングを設定しています。
④現在進めている主な事業
●旧大沼(百貨店)の活用
令和2年1月に県内最後の百貨店であった大沼が閉店し、山形市の外郭団体である山形市都市振興公社が取得しました。現在は短期的・中期的・長期的視点の活用を検討するプロジェクトチームを組織しています。隣接地にある市立病院済生館が法廷耐用年数を迎えるのに併せ、サウンディング型市場調査(自治体が民間事業者を対象に行うマーケティング)を行いながら、中心市街地の活性化をけん引する地域となるよう、周辺を含む再開発の在り方について検討を進めています。
●七日町歴史と文化活用街区整備事業
街区整備と御殿堰の沿道整備により小径と余白を創出し回遊環境を向上するとともに、歴史的建造物周辺敷地の整序により歴史・文化的な景観を形成するものです。街路事業とミニ区画整理事業のハイブリット方式により、地権者のニーズに合わせた柔軟な事業展開が特徴的です。
●七日町第6ブロック北 御殿堰整備事業
七日町御殿堰の西側に所在する老舗菓子店の建て替えに伴い、その建物南側を流れている御殿堰を開渠し、石積み化と歩道の整備を行うものです。
●七日町第8ブロック南地区 暮らしにぎわい再生事業
山形銀行本店の建て替えにおいて、公共的に活用できるホールや広場、シェアスペース等の機能を持つ施設として整備する予定です。
このほかグランドデザインの実現に向け、20の戦略プロジェクトを推進しています。それに伴い多くの民間投資が生まれており、各プロジェクトと連動させながらビジョンの実現を図っています。
⑤事業の推進体制と他団体との連携
山形エリアマネジメント協議会(以下、エリマネ協議会)はグランドデザインを推進するための組織として商工会議所をはじめ、金融機関、マスコミ、不動産、関係団体などの参画を得て設立し、戦略プロジェクトを推進しています。
主な事業として、空き店舗の情報収集・提供や各補助制度の紹介、事業計画の作成支援等を行う「街なか出店サポートセンター事業」、中心市街地の情報を集約したサイトやSNSの運営等を行う「街なか情報発信事業」を行っています。そのほか、各種調査事業、キャッシュレス化推進や決済データを活用したデータマーケティング事業等、さまざまな取組みを通してグランドデザインの実現を目指しています。
また、当市中心市街地には法人格を持った複数の商店街組織があり、それらの代表者で組織された協議会があります。この会議体の事務局をエリマネ協議会が担っており、中心市街地の関係者との情報共有や連携を行っています。
現在、中心市街地では民間主導のリノベーションや再開発計画、マンション建設が次々と事業化しているほか、今後10年間をかけて大規模な事業も予定されており、まちを取り巻く環境は日々変わっていることから、課題解決のためには自治体だけではなく、関係団体と連携して取組みを進めていく必要があると、池野氏はまとめました。
2.事例発表ⅱ『御殿堰開発とこれからのまちづくり』
「水の町屋七日町御殿堰」は、七日町エリアの集客核の一つです。約400年前、生活用水や農業用水確保のために作られた「山形五堰」のひとつ「御殿堰」を復元し、市民の憩いの場として、商業施設として整備した施設です。行政と民間が役割分担して整備を進めました。当施設の開発、管理運営を行う七日町御殿堰開発株式会社の代表取締役 結城康三氏の講演内容をご紹介します。
①官と民の役割分担で進めた御殿堰整備事業
七日町御殿堰開発株式会社は2006年に設立、「水の町屋七日町御殿堰」の開発、管理運営を行っています。
<当時の中心市街地と御殿堰の状況>
当時の中心市街地は、相次ぐ大型店の撤退、県立病院の郊外移転、仙台圏への買物客の流出などにより、まちの空洞化が進みつつありました。
中心市街地の賑わいを取り戻すため、同市では第1期中心市街地活性化基本計画において3つの新名所づくりを掲げ、御殿堰整備はそのうちの一つでした。
昭和初期頃まで、堰は農業用水・生活用水はもちろん、さまざまな産業に利用されていました。高度成長期に入ると、生活排水や工業排水の流入等により水質悪化が急速に進んだこと、まちなかの利便性が重視されたこともあり、市街地の堰は暗渠(覆いをされて外から見えない水路)となったり、石積み水路からコンクリート水路に改修されました。
<行政と協力しながら御殿堰整備を実施>
同社は市と協力して御殿堰整備に着手しました。御殿堰周辺の土地を取得し、隣接土地を借りて、水路の周りにあった歴史ある蔵を再整備したほか、町屋風の商業施設「水の町屋」を建設しました。
堰の整備は市が行いました。同社からの意見提案を積極的に取り入れ、水路の蓋を外してかつての石積みの水辺空間を再生しました。また水路の両側の民地を市が取得し歩道として整備しました。
御殿堰を整備した後の変化は顕著でした。土日祝日の来街客が増加、特に県外からの顧客が非常に増えました。また、外国人旅行者もまちなかに見られるようになりました。
<木造2階建て商業施設>
「水の町屋七日町御殿堰」は、黒塗が特徴的な木造2階建ての町屋風の商業施設です。
完成当時、全国各地で開発されていた商業施設の形態は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造、多数のテナントが入る大型施設が主流でした。その中で七日町の中心部に「木造二階建てなのか」という声もあったそうですが、結城氏には、「これでなければ活性化はできない」という信念と戦略がありました(七日町御殿堰の戦略については後述)。
②商店街衰退に関する考察/時代の変化に対応する必要性
「商店街はまだ夢を見ている、夢から覚めていない」と、結城氏は表現しました。時代の変化とともに変わっていかなければならないのは、どの業界、どの事業でも同じです。変化に対応すべきところ、昔と同様の取組みを続けている商店街が多いことも衰退の原因ではないかと、結城氏は考えています。
時代の変化には、自家用車の普及、交通インフラや公共交通機関の整備により移動が便利になったこと、ネット通販の普及などが挙げられます。これらの変化を総合すると、消費者の行動範囲が著しく広がっていることがわかります。
商店街が賑わっていた時代は移動手段が少なく、消費者は近所の商店街で買い物をしていたため、商圏内の顧客だけで商売は成り立っていました。
今は消費者の行動範囲も選択肢も広がっています。仮に商店街の商圏人口が全く変わらず、また購買力が変わっていなくても、商圏内の消費者が買い物をする空間は広がっているので、商店街で使うお金は間違いなく減っています。どのような活性化策を行ったとしても、消費者がすべての買い物を商店街で済ませることはなくなっていることを、結城氏は指摘しています。
③商店街が戦略を持つことの重要性 商店街が構築すべき戦略
商店街が持続していくには、商店街ならではの戦略を持つ必要があります。戦略がなければ活性化はできない、と結城氏は考えています。
従来商店街が戦略としてきた「専門店を揃える」だけでは、今や通用しません。これまでとは違った戦略を立て、競争に勝つ必要があります。例えば、品揃えを良くしても、ネット通販の品揃えに勝つことは難しいです。時代の変化に対応するということは、競合と同じ土俵で戦うことではなく、「自分が得意なもの、相手ができないもの」で戦うことです。
中小企業庁の商店街実態調査によると、各商店街で実施しているハード事業には、街路灯の設置、アーケードの新設・改装・撤去、空間の整備や商店街の外観の統一、駐輪場・駐車場の整備等があります。環境整備として非常に大切ですが、街路灯を設置して顧客が増えるわけではありません。商店街や店舗の整備はあくまでも戦術であり、戦略があってはじめて戦術が有効に働くのです。「商店街は戦略なしに戦術を一生懸命やろうとしている、それではなかなかうまくいかない」と結城氏は述べました。
④商圏以外から顧客を呼び込む
では、商店街はどうすべきか。結城氏の考え方は、「“商圏”という考え方に捉われず、頻度が少なくても全国各地から来街者を集める」です。
前述の通り、商店街に集中していた消費は近隣都市や郊外のショッピングセンター、web等に流れていますが、逆に考えると、普段近隣都市や郊外を利用している消費者が商店街に来ることも容易になっているということになります。これからの商店街に必要な考え方であり、実際にそれを実践しているのが、七日町御殿堰です。七日町御殿堰の顧客は、近隣都市から来る方が多く、特に土日祝祭日は県外客で賑わっています。
そして、活性化のために最も大切なことは、各店舗の努力です。七日町御殿堰の業績は順調に推移していますが、どのテナントも一生懸命商売をしているからこその結果だと、結城氏は述べました。
街の活性化にとって店舗の努力が70~80%、整備・開発事業はそれを補完する20~30%に過ぎません。店舗のやる気がなければ、どのような整備・開発を行っても徒労に終わることを、結城氏は強調しました。
⑤再開発の目的=「事業が成立する」ことを第一に
第一の目的を「まちの活性化」にしてはいけない、と結城氏は考えています。第一の目的は事業体が「儲かる=事業が成立する」ことです。事業が成立しない限り、まちは活性化しません。例えば活性化の指標である歩行者通行量は結果としてついてくるもので、事業が成立すれば自然に人は増えます。
そして、事業が成立すれば黒字を計上でき、黒字を計上できれば借入金を返済でき、資金繰りが安定して次の開発に投資することができ、更なるまちの活性化に繋がります。株主へ配当もでき、納税もできます。補助金を活用して施設を整備しても、納税という形で補助金分を返すことができます。
もう一つの視点として、事業が成立して安定収入があるということは、テナントから滞りなく家賃が入っているということになります。問題なく家賃が払える=事業が成り立つ入込客数があるということは、来街者が増加して歩行者通行量の増加に寄与することになります。
⑥七日町御殿堰の戦略/「創ったものに人は集まらない。人はあるものに集まる」
結城氏は「創ったものに人は集まらない。人は(元々のかたちのまま)あるものに集まる」と考えます。
「創ったもの」とは、「人類が積み上げて来た集積を無視して創られた個人好みの作品」という意味があります。また「あるもの」とは、「長い歴史の中で創られてきた人々の経験的・美的コンセンサス」という意味があります。
「人はあるものに集まる」をキーワードに、七日町御殿堰はかつての姿に戻し、自然な形での開発を実施し、集客に繋げています。
例を挙げると、堰(水路)に手すりをつける問題が浮上したときです。法令で定められているため、堰の両側に手すりを付ける必要がありましたが、手すりを付けることで、「あるもの」が「創ったもの」になってしまうことから、堰を浅くして、手すりを付けないままとしました。
また、石垣の堰を再生しています。時間の経過とともに、石垣に苔が生え、本来の風景として「あるもの」となり、それが人を惹きつけています。
建物も「あるもの」に拘り、設計士と打ち合わせを重ね、イメージを共有するため設計士とともに視察にも赴きました。商業施設「水の町屋」となる母屋は低層とし、木材を積極的に活用しました。店舗・歩道・蔵・庭等で構成される空間の連続性と内外のつながりを意識した設計で、オアシスのような空間を目指しました。
その結果、全体を「あるものの空間」として見せることができ、市内を代表する観光名所となっています。観光地図や旅行雑誌に掲載されるため、広告宣伝費はほぼかからないということです。
結城氏は毎日堰を掃除して、美観を維持しています。
御殿堰の空間が美しいのは、綺麗な建物を作ったからではありません。日々の地道な活動により綺麗な空間が保たれているのです。そうすることで市民の憩いの場・広範囲から集客できるまちなかの人気観光スポットとして親しまれています。
「綺麗であるよう手間をかけ続けることで、あるものの空間として、見ていただける空間になるのだと思う」と結城氏はまとめました。