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令和7年度九州地域交流会『NEXT九州・まちづくりミーティング~地域資源×まちづくり』レポート
2025年11月21日(金)、福岡県福岡市において令和7年度の九州地域交流会を開催しました。
『NEXT九州・まちづくりミーティング~地域資源×まちづくり』をテーマに、基調講演とトークセッションという内容で行われた交流会は、会場参加32名、オンライン参加66名、合計98名と、九州地域だけでなく域外からも多くの参加があり、賑やかな雰囲気のなかで開催されました。本交流会の概要を紹介します。
主催:九州経済産業局
共催:独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)
目次
※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。
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1日目
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1.主催者挨拶
2.基調講演「地域資源を強みに変える発想」 流通科学大学 商学部 マーケティング学科 准教授 新 雅史氏 3.トークセッション「地域資源を活かした持続可能なまちづくり~実践者の視点から~」 【事例発表】 八女商工会議所 専務理事 稲葉修一氏 一般社団法人 紬貴(つむぎ) 代表理事 緒方千奈氏 【ファシリテーター】 中小機構アドバイザー 東 朋治氏 【講評】 流通科学大学 商学部 マーケティング学科 准教授 新 雅史氏 4.関連支援施策紹介 5.参加者交流会(名刺交換会) |
当日は、「Polls(ポールズ)」を活用し、会場とオンラインの参加者に質問や投票を行うことで、参加者の一体感を高めるよう工夫しました。

画面に映されたQRコードから回答する 
Pollsを使って質問をする様子
1.基調講演
「地域資源を強みに変える発想」
流通科学大学 商学部 マーケティング学科 准教授 新 雅史氏
はじめに、本講演での3つの視点として「①地域の‘見方’を変えると、地域は動き出す。②資源を活かすには、組織と仕組みが必要。③行政・民間・中間組織の役割と順番を整える」を示したのち、地域には4つの資源(物的資源・文化資源・人的資源・ネットワーク資源)が眠っているとしました。
そして、地域資源を活かせない理由・失敗に共通する本質的問題・地域資源を「価値」に変える3つの段階と、新さんが実際に調査に入った事例5地域(いずれも「地域にかがやく わがまち商店街表彰2024受賞」)に共通する「地域資源の再定義」について解説しました。
「地域資源の意味づけが変わったときから、動く主体と事業が生まれた」とし、地域が自走していく力を持つための「地域資源を価値へと変えていく3原則」を導き出しました。そして、これらの動きを支えるには、行政・民間・中間組織の協働が必要であると結びました。
2.トークセッション(事例発表+トークセッション)
「地域資源を活かした持続可能なまちづくり~実践者の視点から~」
トークセッションは、九州地域内の2事例の発表ののち、ファシリテーターが発表者に質問をしていく形で進行しました。
事例1「大島紬の魅力再発見!商店街を彩る和装レンタル事業の挑戦」
一般社団法人 紬貴(つむぎ) 代表理事 緒方千奈氏
緒方千奈さんは、「大島紬を娘に伝え残したい」という思いから、若い人たちが気軽に和装に触れ、身近に見る・楽しむ機会を作ろうと、大島紬などの和装によるファッションショーのイベントを始めたそうです。最初は仲間もなく資金も持ち出しで、各地で開催されるイベントに参加していましたが、徐々に評判が広がり、海外から声がかかるまで成長したとのこと。しかし、コロナ禍で予定していたイベントが全てキャンセルになってしまったそうです。
そんなとき、地元・鹿児島市天文館の商店街から声がかかったそうです。緒方さんのそれまでの取り組みを知り、一緒にイベントをやらないか、ということでした。
若い方は着物の扱い方が分からないけど、着物を楽しみたいと思っている。もし着物姿の若者が商店街を歩く姿が見られるようになれば、まちに賑わいが戻るのではないか。コロナ禍で活気を失っていた商店街と、大島紬を広めたい緒方さんの、双方の「困りごと」が一致してつながった瞬間でした。
商店街の近くで和装レンタル事業を始めた緒方さんは、着物姿で楽しむボーリング大会やカラオケ会など、毎月のようにイベントを開催しているそうです。イベントは商店街の中の店舗を利用しており、まちの回遊性向上にも寄与しているとのこと。
鹿児島県の伝統的工芸品である大島紬には、「敷居が高い」というイメージもあるそうです。元々大島紬の生産・販売事業者ではなかった緒方さんだからこそ、若者にも受け入れやすい、新たな和装の着こなしや楽しみ方を提案でき、地域資源として再定義できたのではないか、とのことでした。
事例2「八女福島観光プロジェクト~古民家ホテルを核とした地域活性化と観光の展開~」
八女商工会議所 専務理事 稲葉修一 氏
「八女茶」で有名な福岡県八女市では、近年、基幹産業である農業の高齢化・就労者の廃業などが進んでいるそうです。そこで商工会議所では、「観光交流人口増による、地域経済の活性化」を課題解決のキーワードに掲げ、中心部の八女福島地区での古民家ホテルの開設を検討することとしました。県補助金などを活用して各地の古民家ホテル事例を研究し、福島地区での伝統的建造物保存地区内での古民家ホテルの開設と、宿泊滞在型観光による観光消費増大を目指すとしたそうです。
古民家ホテル実現に向けて「どの家屋を使うか」「資金をどう調達するか」「誰が運営するか」が課題になったとのこと。家屋は、蔵元である喜多屋の母屋と、有志が購入した家屋を賃貸して確保し、資金は経済産業省の補助金を活用したそうです。
運営は、意思決定などのスピード感を重視し、商工会議所事業ではなく、新たに「八女タウンマネジメント(株)」を設立して行うこととしました。当時の会頭である山口氏が単独で出資したことから、地元関係者に古民家ホテル実現への本気度が伝わり、追加投資などの事業への賛同者が増えていったそうです。実際のホテル運営は大宰府で実績があったバリューマネジメント(株)に委託することとしました。
完成した古民家ホテル「NIPPNIA HOTEL」のコンセプトは「八女茶 TEA HOTEL」。八女茶体験をしてもらいながら宿泊を楽しむものだそうです。
事例発表者への質問とトーク
ファシリテーターの東さんが、両事例の発表者に質問を投げかけ、実践の背景や課題、今後の展望について掘り下げました。
【鹿児島市の和装レンタル事業(緒方さん)】
東さんからは、商店街との関係性や事業継続の秘訣についての質問がありました。
緒方さんは、当初は商店街から相手にしてもらえなかった、と苦労を振り返りました。しかし、「何を言われても気にしない」という強いマインドと、持ち前のコミュニケーション力で、イベントを継続し、着物姿で商店街を歩く光景が定着するにつれ、商店街側も協力的になったとのこと。今では、イベントでの連携や協力など、相互にメリットを生む関係が築かれているそうです。
和装レンタルの利用者は観光客よりも地元の方が多く、結婚式やランチ、記念撮影など日常的な利用が中心とのこと。客単価は約15,000円で、男性の利用も意外に多いそうです。このことに東さんは「一度きりの体験に終わる観光客より、リピートの可能性が高い地元の方をターゲットにすることで、費用対効果が高くなる」とコメントしました。
「様々な人を巻き込むことが大切と思っているので、常に巻き込む人数を具体的にイメージしている」そうで、イベント協力者、商店街の人々など、多様な人材を積極的に巻き込む姿勢が大切と話されました。
今後の課題としては、インバウンド対応や大島紬の魅力発信を挙げました。伝統的な色柄が地味と捉えられやすい中で、軽さや職人技といった本質的な価値をどう伝えるかが大切とのこと。観光協会との連携やクルーズ船寄港時の体験イベントなど、外部との協力も進めていきたいそうです。
【八女市の古民家ホテル事業(稲葉さん)】
古民家ホテル事業の運営体制や、商店街との関わりについて質問がありました。
体制としては、新設した八女タウンマネジメント(株)が運営し、その事務は商工会議所が受託する形をとっているそうです。出資者は地元を中心に12名に増え、地域の理解と協力が進んでいるとのことです。
古民家ホテル開業を契機に、商店街では100円商店街や夜の飲み歩きイベントなどが始まり、宿泊者の滞在を楽しませる工夫が広がっているそうです。当初は商店街の協力が得られにくかったものの、リーダーシップを示した会頭の本気度が伝わることで、協力体制が整ってきたとのこと。現在は新たな商店街組織を作ろうという動きも見られるそうです。
また、実際の運営を専門業者であるバリューマネジメント(株)に委託したことで、商工会議所には無かったホテルの運営ノウハウだけでなく、内装や調度品選定などにも専門的な判断を取り入れることができたとのことです。その結果、質の高い空間を実現でき「ここにしかない価値」を生み出すことができたそうです。
今後の課題としては、観光交流人口の増加を地域経済の活性化に一層つなげることを挙げました。新規出店を促すための空き店舗バンクの設置や創業塾の開催など、市と連携した取り組みも進行中とのこと。インバウンドに対応するための受け入れ態勢の整備も課題とのことでした。
3.講評
最後に、ファシリテーターの東さん、基調講演を行った新さんから、講評をいただきました。
【東さん】
地域資源の活用には、地域内だけでなく、外部の専門性を取り込むことが有効であることを指摘しました。八女市の事例では古民家ホテル運営を専門会社に委託し、鹿児島市の事例では商店街が外部人材である緒方さんに協力してイベントを実施していることを挙げ、「その道のプロ」を巻き込むことで、地域資源の価値を高め、経済効果を生み出せると述べました。
また、現地でしか体験できない魅力が重要であり、ネットショッピングなどでは代替できない「わざわざ行く価値」を創出することが鍵だと強調しました。さらに、地元住民の消費行動を促す「手土産」需要にも触れ、地域資源がまちの広報宣伝につながる可能性を示しました。
【新さん】
「まちに行く楽しみ」を再構築する重要性を指摘しました。ネットショッピングでは得られない、おでかけに特別な服を選ぶことや誰と出かけるかなどを考える「わくわく感」を取り戻すことが、ひいては中心市街地の活性化につながると述べました。
また、リノベーションを例に取り、本来は高い価格で取引されるべきものが低い価格で取引される場合、その価値に先に気づいた者がチャンスをつかむことができると、差額地代論を基に説明しました。
一見、活かせそうな地域資源がないことは逆にチャンスであり、新たな人材の参入などをきっかけに地域資源が再定義されることで、事業が生まれ、結果として地域に潤いをもたらす可能性があると結びました。
