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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

人からはじまる、1万人のまちづくり(宮崎県都農町)

 宮崎県都農町といえば、くだものや都農ワインといった農産物のまちとして有名ですが、2023年の日本まちづくり大賞を受賞した、まちづくりの取組みも今や全国区となりました。 
 こうしたまちづくりの中心機能を担っているのが民間のまちづくり事業支援会社である株式会社イツノマです。人口1万人の町で起業し、株式会社イツノマが進めている「こどもたちとのまちづくり活動」を取材しました。

株式会社イツノマ 代表取締役 中川敬文氏プロフィール
東京都文京区出身 関西学院大学社会学部卒業
上越ウィングマーケットセンター等の開発事業等を実施後
1999年   UDS株式会社入社
2003年   代表取締役に就任
2006年   キッザニア東京開業(経営・企画・スポンサー開発・設計)
2019年まで ホテル・住宅・商業施設・オフィスなどの企画・設計・運営のほか、大日向中学校のイエナプラン導入、
      地方自治体のまちづくり事業を支援(100周年を迎えた都農町のグランドデザインも制作)
2020年   宮崎県都農町に移住 株式会社イツノマを起業

目次


1.都農町の概要

 都農町は県都・宮崎市と工業拠点・延岡市の中間に位置し、東に日向灘を臨み、西に尾鈴の山並み、丘陵性台地による平坦地が広がる自然豊かな町です。温暖で日照時間が長く、近年は台風上陸も減少したことで、住みよい気候と明るく開かれた地形のある、恵まれた自然資源を有しています。

Google Map
出所:Google Map

 果樹栽培や施設園芸、畜産を中心とした農業が基幹産業で「都農ワイン」は全国的にも知られています。一方で2010年に口蹄疫が発生し家畜は全頭処分、町の経済に深刻な影響を及ぼしましたが、生産者救済のための「道の駅の開業」、「ふるさと納税」への注力により、全国でもトップクラスの納税額を確保し、一般財団法人つの未来まちづくり推進機構(つの未来財団)を設立、町のまちづくり活動の中核を担っています。
 都農町の2024年1月の定住人口は9,574人、3,990世帯。1995年に1万2,000人を超えていましたが、2020年には1万人を切り、2040年になると、7,500人台まで減少すると推計されています。こうした人口減少に伴って課題となっているのが、町の中心部、特に商店街の衰退と、生産人口の減少によるまちづくりの担い手不足です。2021年には県立都農高校が閉校され、高校生をはじめとした若者は町外へ流出している状況となっています。

総務省 国勢調査及び国立社会保障・人口問題研究所 将来推計人口、総務省 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数を基にGD Freak作成
出所:総務省 国勢調査及び国立社会保障・人口問題研究所 将来推計人口、総務省 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数を基にGD Freak作成

2.まちづくりのテーマは “こども参画”

 そこでイツノマが着目したまちづくりのテーマは “まちづくりへのこども参画” を積極的に促していく仕組みや場所を積極的に提供していくことでした。では少子高齢化が急激に進む過疎地において、こうした取組みが町やこどもたちにどんなメリットを提供できるのでしょうか。
 まず町にとっては、「まちづくりが未来志向になること」、「プレイヤー不足のまちづくりの担い手が増えること」、「いまのこどもたちが大人になったときにUターンを考えるきっかけになること」があげられます。また地域のこどもたちにとっては、「総合的・探究的な学びにつながること」、「こども自らがコトを起こし人やまちを動かす起動力が養えること」、「いろいろな大人との交流を通して多様性が身につくこと」などがあげられます。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

 “こども参画まちづくり” の中で、実行していく具体的な手段は「キャリア起業教育」と「まちづくり教育」の2つの視点です。愛着教育や人のつながりだけでは町へのUターンにはつながっていかないため、自分で仕事をつくれることや、自分たちがまちを変えていける、といった原体験を踏まえ、これにより「仕事がない」「まちがつまらない」という課題を解決しながらUターンしたくなるまちへと変えていくことが可能になると考えられます。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

 株式会社イツノマはこうした提案を町に投げかけ、“まちづくり” と “教育” を重ね合わせることでこれからの町の未来を描くことにつなげていく、というコンセプトを打ち出して活動しています。それにより株式会社イツノマが “まちづくり”と“教育” の架け橋的役割を担い、これまで連携が少なかった町内の組織(町役場、教育委員会、学校、商店街、地元企業など)を結び付けることができてきています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

3.“こども参画まちづくり” の4つの活動

 町の未来を主体的に変革していくための手段、「キャリア起業教育」と「まちづくり教育」を実践してきた活動の総称が “こども参画まちづくり” です。これには大きく4つの活動「つの未来学」「GreenHope」「まちづくり部」「みちくさ市」があり、それぞれが相互に連携する形で実施されています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

(1)つの未来学:都農中学校 総合学習
 町内に唯一ある都農中学校で、各学年で年間24時間の総合学習を使い、まちづくりをテーマに探究していく取組みを行っています(全国でもほとんど例のない、教育を専門としていない民間企業の取組み)。町の当事者たちが直接、中学生に課題を出し、関心のあるテーマごとにチームをつくり、課題解決の企画を具体的な取組みに引き上げていきます。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

(2)GreenHope:ゼロカーボン宣言を受け、小中学生の選抜チームを創設
 都農町は2021年に「ゼロカーボンタウン宣言」を表明しました。この背景には「つの未来学」の気候変動対策で出された300のアイディアがあります。中学生から町に案が出され、自分で意見を出せばまちを変えていけるという大きなきっかけにもなっています。
 「ゼロカーボンタウン宣言」を受けて町では、ゼロカーボンU-18議会を創設、2050年にはいまの10代が当事者となるこから、ゼロカーボンの施策は10代から提言しよう、という趣旨で設立されました。毎年の本議会終了後、議場を使い小中学生の選抜チーム「GreenHope」より、町内に2万本の木と花を植え、町にはそのお世話をするボランティアチームを組成してほしいという提言を行い、町で予算化されました。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

(3)まちづくり部:中学生の地域クラブ創設
 都農中学校1年生(部員5名)でつくる地域クラブ「まちづくり部」が発足し、部員のアイディアをもとにクラブ活動を実施しています。町内のイベント(みちくさ市など)に出店したり、YouTubeに動画を投稿したり、楽しみながら町の魅力発掘を続けています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

(4)みちくさ市:企画提案の具体的実現の場
 「つの未来学」「GreenHope」「まちづくり部」が考えた企画を具体的に実現する場として実施されているのが「みちくさ市」です。
商店街活性化事業の一つとして、商店街の中央にある空地(町有地)を活用して、企画してきた「中学生カフェ」「古着屋さん」「Dr.YATAI」「巨大すごろく」などが出店しています。
 それぞれの実施チームを5つの会社に見立て、商品を考えるための4P(価格、場所、商品、販促)の検討、事業計画書の作成、地元スーパーやお菓子店などとの仕入れ交渉など、より現実的な事業体験を総合学習に組込んでいます。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

4.“こども参画まちづくり” モデル — 行政×学校×民間(イツノマ)の連携体制

こうした全国でもほとんど例のない、都農町の“こども参画まちづくり” モデルは、都農町(行政)、都農町教育委員会(学校)、都農中学校(学校)、株式会社イツノマ(民間)が同じ想いのもとに連携し、資金×場所×企画、それぞれが機能することで、継続して実現できるモデルとなっています。
株式会社イツノマが企画提案し、都農町(行政)より事業の受託を受け、都農町教育委員会(学校)の協力を得ながら、「つの未来学」「GreenHope」「まちづくり部」「みちくさ市」などの事業を推進しています。


5.まちづくりの基地として外からの人材を呼び込むHOSTEL ALA

 耕作放棄地5反(5,000㎡)の畑の中にある2件の空き家とトレーラーを再⽣し、ホステル(14床)&トレーラーホテル(3床)&住宅&オフィスの複合施設を整備し、運営しています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

 ALAでは各種のスタディツアーが企画され、東大生地方再生コンソーシアム(東京⼤学の農学部博⼠課程の学⽣をリーダーに東⼤⽣5名)が2泊3⽇で、都農町の課題、⺠間のまちづくり会社イツノマの経営戦略について議論、提案。また東京の高校(新渡戸文化高校)や京都の高校(日吉ケ丘高校)が新たな形の修学旅行「スタディツアー」で訪れ、都農町民との交流会を実施しています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

 またサントリーや三菱重工グループなど大企業のビジネスマン12名とも一緒にワークショップを実施。「サーキュラーエコノミー」のビジネスモデルづくりに、小中学生たちも積極的に参加しています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

6.これからの展開 まちづくり×教育×観光

 株式会社イツノマの今後の展開としては、「まちづくり」と「教育」の重ね合わせに加えて、「観光」という地域資源も同時に連携させていくことを進めています。こどもを中心とした地域住民(定住人口)の維持・確保に加え、観光による地域の交流人口や関係人口を増やしていく企画提案を実施していきます。
 地域の季節行事やイベント、農産品などを活かした観光資源での連携はもちろん、「教育」をテーマとした、地域課題をスタディするオーダーメイドツアーや、新しい観光の形(場所づくりやアイディア)を創造していく提案など、地域のこどもたちとの共同作業を軸に展開されています。

株式会社イツノマ作成
出所:株式会社イツノマ作成

 今回の取材を通して強く感じたことは、少子高齢化が進み人口が減少する地方都市にあっても、「地域に住むこどもたち」に着目し、「こどもたち」を中心に地域が積極的にまちづくり活動を推し進めていくことで、多くの提言や具体的事業によって様々な課題解決に向かって進んでいることです。
 これまで連携してこなかった地域組織を改めて見直し、連携活用していくことで、未来に向けた “まちづくり” の核をつくっていくモデルとして、全国に展開できるコンセプトになると感じました。