本文へ

中心市街地活性化協議会支援センター

文字サイズ
まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例
  • HOME
  • まちづくり事例
  • 共働で新たな活力を生み出すまちの実現~時代・エリア・人をつなぐ~(山形県長井市)

共働で新たな活力を生み出すまちの実現(山形県長井市)
~時代・エリア・人をつなぐ~

 山形県長井市では、中心市街地活性化基本計画で整備した拠点施設をきっかけに、市外からの交流人口が増加しています。今回長井市、長井商工会議所、同市を代表する施設『旧長井小学校第一校舎』『くるんと』の指定管理者へ取材し、中心市街地における事業や各拠点における取組・工夫、今後の展望等を伺いました。

(長井市)       商工振興課 補佐 梅津 正樹氏
             同   商工労政係長 鹿間 朋子氏
             同   商工労政係主任 丸森 慎平氏
(長井商工会議所)   事務局長 梅津 毅氏
(くるんと)        施設長/子育て世代活動支援センター長 滝口 友和氏
(旧長井小学校第一校舎)施設長 平 みわ氏

  • 左より 梅津毅氏/鹿間朋子氏/
    梅津正樹氏/丸森慎平氏
  • 滝口友和氏
  • 平みわ氏

<目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.長井市の中心市街地 変わるまちなか

 長井市は人口24,892人(2023年11月末日現在)、最上川舟運で育まれた西置賜地域の中心都市としての歴史・文化があります。大正時代以降、郡是製絲(現:グンゼ株式会社)や東京芝浦電気(現:株式会社東芝)など、製造業を中心とする企業城下町として発展してきました。近年では郊外型の大型店舗出店による影響や後継者不足等の問題があり、中心部の賑わいは衰退していました。
 第1期中心市街地活性化基本計画では「人、モノ、情報をト・メ・る」というテーマを掲げました。STEP1として「人を止める・停める・泊める」事業で、人が集う取組を実施、STEP2ではまちなかでの交流機会を増やして「留める」取組を、STEP3では交流の結果経済活動の活性化により「富める」ことを目指しました。一定の成果を得た一方、最終ステップの「富める」の実感に至らず課題が残りました。現在は第2期基本計画を推進中で、中心市街地区域を性格によって「都市機能充実エリア」「歴史・文化活用エリア」「集客・交流促進エリア」の3つに分け、特色や街並みを活かした活性化施策を推進中です。
 第2期長井市まち・ひと・しごと創生総合戦略(令和2年度~令和6年度)では、「子育て」と「教育」をメインテーマに掲げて、子育て世代に選ばれるまちを目指しており、中心市街地活性化においても重要なポイントとなります。

変わるまちなか

 2021年に竣工した新市庁舎は、長井駅と一体化した全国初の施設で、7か所に分散していた行政機能を集約して市民の利便性を高めました。
 長井駅を降りて庁舎に入るとコンコース、市民交流ホールがあり、そこでは電車を待つ人、飲食をする人、勉強する学生の姿も見られ、市民が集う場になっています。そばには売店があり、プレッツェルやドーナツ等のスイーツや食品・日用品・印紙等のほか、長井市のお土産や鉄道グッズも販売しています。365日営業の無人店舗のスマートストア(有人の時間帯もあり)で、デジタル地域通貨「ながいコイン」や電子マネーのほか、アプリでも決済できます。奥に進むと市民の利用頻度が高い市民課などの行政窓口があり、駅舎と市庁舎は内部で行き来できます。
 新市庁舎・市民交流ホールの利用客も増え、まちの様子が変化していることが見て取れます。

  • 新庁舎全景
    (画像出所:長井市役所web)
  • 市民交流ホール
    (画像出所:長井市役所web)
  • 市役所内のスマートストア
    (画像出所:山形県公式観光サイト)

 同市の中心市街地エリアには、基本計画で整備した各拠点があり、人が留まる集客核となっています。道の駅『川のみなと長井』、交流施設『旧長井小学校第一校舎』など、人を停めて留める交流施設としての役割を果たしています。
 また2023年9月に開業した『くるんと』は、図書館と子育て支援機能が一体となった施設です。週末には市内だけでなく県内からも多くの親子連れが来所する集客核になっています。
 今回、主な交流施設の中から『くるんと』と『旧長井小学校第一校舎」についてご紹介します。


2.くるんと(長井市遊びと学びの交流施設)

 『くるんと』は、グンゼ(株)、グンゼ開発(株)と連携し、PPP(官民連携)の手法で整備された公共複合施設です。2023年8月11日のプレオープン以降2024年1月末までで、延べ来館者20万人を突破した人気の施設です。
 コンセプトは「学び・育ち・遊び・出会いを紡ぐ場所」で、屋内遊戯場(以下、あそびば)をはじめとする子育て支援施設、図書館、カフェ、外のひろば等を備えた、幅広い世代が集う交流施設です。

  • くるんと外観
    (画像出所:くるんと公式サイト)
  • 長井市立図書館
  • くるんと内 あそびば

 来場者は月平均3~4万人で、長井市がある置賜(おきたま)地方から約6割、それ以外の地方から約4割(約3割が山形市を中心とした村山地方、1割が県外・庄内地方・最上地方)ということです。この結果からみても、『くるんと』オープン以降長井市の交流人口は増えていることが分かります。

市内外から多数の来場者 あそびば(屋内)、ひろば(屋外)

 最大入場人数400人のあそびば(屋内)には、大型遊具、レールや乗り物のおもちゃ、ブロック、運動遊具やレクリエーション遊具のほか、親子で絵本を楽しめるスペース、多目的ルーム等があり、イベントステージではワークショップやダンス、ゲーム等のイベントが毎日開催されています。
 事前予約を推奨しており、公式LINEから予約するシステムです。当日の混雑状況はwebから確認でき、予約なしでも利用できます。なお、屋外の3つのひろばは予約不要で、自由に遊んだり散策できます。


  • おもちゃやブロックで遊ぶ親子連れ
  • 大型遊具やトランポリン、滑り台などが
    設置されているボールプール
  • 屋外:緑のひろば
    (画像出所:くるんと公式サイト)

市外の人も利用可能な子育て支援機能

 子育て支援機能として、一時預かりルーム、子育て支援センターがあります。
 一時預かりルームは、保護者の通院や冠婚葬祭、買い物やリフレッシュ等の際に、理由を問わず一時的に子どもを預けることができる施設で、専属の保育士が常駐しています。生後6か月から小学校就学前までの子どもが対象で、0~2歳児が1時間400円、3~5歳児が1時間200円と、利用しやすい価格です。
 長井市内には日曜・祝日に子どもを預けられる施設がなかったため、「リフレッシュ等の目的で利用できる施設が出来て良かった」という声が多くあるそうです。なお、一時預かりルームは市内・市外関係なく、一律の金額で利用できます。
 また、子育て支援センターでは、子どもを遊ばせながら育児に関する悩み事を気軽に相談でき、月1回助産師による子育て相談・育児相談も行っています。産後の悩みや夫婦間の相談など、相談内容は多岐にわたり、あそびばとしての施設利用だけでなく、相談利用者も一定数いるということです。

新たな図書館の役割/サードプレイスを意識

 『くるんと』には市立図書館が併設されています。館内は座席だけでも100席以上あり、奥の方には学習できるスペース、コワーキングスペース、ゆったりできるソファ席も設置されています。本を読む、借りる以外の目的として、自宅や学校・職場に次ぐ第3の居場所『サードプレイス』としての居心地の良さも提供したい、という想いで設計されています。

  • 図書館内部
  • 靴を脱いで本が読める児童書エリア
  • 居心地の良い空間

 旧図書館ではスペースの関係で蔵書のうち開架できる本(利用者が直接手に取れる本)は約4万冊に限られていました。同施設内に新図書館が整備されたことで、旧図書館の蔵書11万冊のうち開架できる本が8万冊に増えました。また、児童書エリアが全体の3分の1で、子どもを連れていても話し声や物音などにも気を遣わず利用しやすい広さとなっています。

運営上の工夫

●市内事業者との連携

 同施設では、来館者を市内に回遊させて、地域の活性化に繋げることをミッションとし、地域事業者と連携した取組を活発に行っています。長井の食材を使った「あま恋ジェラート」の販売を契機に、地域の飲食店組合によるキッチンカー出店を開始しました。直近では11月29日(にくの日)に因み、飲食店組合が監修した肉メニューで市内飲食店5店舗がキッチンカーを出店したところ、準備した140食が約1時間で売り切れました。施設の集客力とともに来館者のニーズを感じています。
 平日と祝日に出すメニューを変える等、協力者と協働して試行錯誤しながら企画のブラッシュアップを続け、地域の店舗に波及させていきたい考えです。

●平日と休日で場所を使い分け(子育て支援センター周知向上の取組)

 土日祝日は場所を交換して、子育て支援センターの活動をあそびばで、一時預かりルームの機能を子育て支援センターのスペースで行っています。来場者が多くなる週末に、人の目のつきやすいあそびば(ベビーパーク)で相談対応等を行っていることを周知し、利用頻度の向上を図っています。

●情報発信

 オープンして3か月で公式LINE登録者は11,000人を超えました(取材時)。LINEから営業日やイベント予定などの情報を発信しています。そのほか施設に設置されているデジタルサイネージを活用して、市内飲食店の情報等も発信しています。地域の店からもサイネージの情報を見て来店した顧客についてフィードバックがあり、送客効果が出ていることがわかります。
 市内への波及という点から、1万人を超える公式LINEのお友だちに情報発信できる強みを生かして、同施設のイベントを紹介しながら長井市の魅力も併せて発信していきたい考えです。例えば、5月といえば長井の黒獅子まつりですが、同施設では「自分だけの黒獅子(おしっさま)を作るワークショップ」を開催するなど、『くるんとイベント×長井市の魅力』で集客していきたいと考えています。
 「事業者との連携や情報発信で、これまで以上にお店や地域の良さを伝え、施設から広がる人の流れを作っていきたい」と施設長の滝口氏は述べました。


3.旧長井小学校第一校舎(学び×交流)

 もう一つの主な交流施設に、学びと交流の施設『旧長井小学校第一校舎』があります。建物は1933(昭和8)年に建設された木造2階建て、現存する木造校舎としては最大級で、2009(平成21)年に国登録有形文化財に登録されました。2015(平成27)年まで校舎として使われていましたが役目を終え、耐震、免振、内装工事を行い、2019(平成31)年4月に「学び」と「交流」をテーマとした交流施設としてリニューアルオープンしました。なお、長井小学校は現存しており、隣接する新校舎で授業を続けています。

 同施設は長井駅と、観光交流センター道の駅『川のみなと長井』をつなぐ導線上に位置しています。車で同市に来る人の玄関口であり、中心市街地への回遊性向上を図る起点としての役割を持っています。

  • 旧長井小学校第一校舎 外観
  • エントランスの階段
  • フリースペース(元職員室)

 最後まで使われていた職員室は、カフェ機能が追加されたフリースペースに生まれ変わりました。館内には多目的ルームを含めて貸室が7つあり、小規模な発表会、展示会、イベント、観光、学生の学習等、様々な用途で利用されています。2階には事業利用スペースが3つあり、県内企業が入居しています。入れ替わりはあっても、施設オープンから空室になったことがない人気の事務所スペースです。
 1階の常設展示室では、歴史や観光名所等を紹介しています。大正時代、多くの女性は郡是(グンゼ)で働きました。郡是では女工向けに縫物、女性としての生き方を含めた教育を行ったほか、勤続年数に応じて鏡台や箪笥を贈りました。「祖母が同じ箪笥を持っていた」と、懐かしそうに話す市民もいたそうです。なお、同市の中心市街地には郡是通りがあり、地域との深い関係が見て取れます。ここでしか見ることのできない長井の歴史を紹介する映像もあり、観光客だけでなく市内小学生も歴史を学びに訪れます。
 先述の『くるんと』が目的をもって来る施設だとすれば、同施設は“目的がなくても来られる場所”といえます。お茶を飲んだり休憩したり、友達と勉強したり、来館する人は思い思いに過ごしています。そうした人をまちなかに回遊させることが当初からのミッションであり、それを起点に事業を組み立てています。

  • 長い廊下
  • 1階 常設展示室の案内動画
  • 展示された鏡台・箪笥

施設の特徴

●市内へ回遊させる拠点

 来館者のうち約3割は県内の方で、平日の来館者は平均200~300名、土日は500~600名、マルシェ等のイベントの際は1000名近くになります。回遊させる仕組みのひとつとして、先述のフリースペースでは市内の飲食店紹介等も行っており、市内各所へ観光客を誘導しています。
 定期的なマルシェを開催するほか、市内商店でサービスを受けられるチケット付きイベント「袴で巡る春(秋)の長井」ほか、歴史を学ぶ座学とまち歩きを組み合わせた企画等も数多く行っています。

(左)イベントチラシ (中)着付けは平施設長が実施 (右)マルシェのチラシ
(画像出所:旧長井小学校第一校舎Facebook)
●出会い、交流の場づくり

 オープンから約5年経過し、道の駅に来た人が道路を横断して同施設を訪れる一定の誘導は出来上がっている、と平施設長は実感しています。回遊の入口としての役割もありますが、地域内外の人と人の出会い・交流を生み出す場づくりに取り組んでいます。事業ごとのターゲットに合った広報手段(チラシ、SNS、HP、市の広報等)により、イベントの集客だけでなく日々の利用者を増やす工夫を行っています。
 市民向けには、生涯学習・大人の学び直しのための「大人のクラス活動」、こどもの学び「あそべるがっこうシリーズ」をはじめとした、多くのコンテンツがあります。

●稼働率の高さ

 貸室の稼働率は年間平均45%です。当初の目標は30~35%であり、高い水準で稼働しているといえます。写真家やイラストレーターの展覧会、ピアノ教室の発表会、趣味の活動を発表する場や、講座を受けてアウトプットする場など、市民が活躍する場として使われています。

運営の工夫

●普段来る人をリピートさせる取組を重視

 イベントは参加者数を求めるのではなく、学びの意欲やリピーターを生み、波及効果につなげていく視点を重視し、参加のハードルが低く気軽に楽しめ、学びになる内容を考えています。
 普段から来てくれる200名に、いかにまた来たいと思ってもらえるか。普段来る人を考えた接遇、運営、事業の組み立て等により、イベント参加や貸室利用に繋がると、平氏は述べました。

●敢えて着地を決めない気軽なイベントも実施

 施設のテーマに沿った事業とは別に、気軽に楽しめる、敢えて落としどころを考えない企画も行っています。例えば、「ひみつきちをつくろう」は、貸室を解放して段ボールや折り紙、新聞等を置いておき、自由に出入りして各自がやりたいように場所を作るイベントです。壁を作ったり、絵を描いたり、工作したり、子どもたちは思い思いに過ごすことができ、非常に好評ということです。
 その他、1階の長い廊下を活かし、ロール紙を端から端まで敷いてひたすら長い線を書いたり、飛行機を飛ばしたり。子供向けに置いたシャボン玉は、若いカップルも喜んで遊びSNSで拡散されたり、想定外の効果があったといいます。これらは普段来る人を飽きさせない工夫といえます。

  • 貸室を貸し切ったイベント
    (同施設公式webサイトより)
  • ゲームのランキング
●イベント募集だけでなく結果も報告

 イベントの募集はしても結果を報告することは少ない中、同施設では毎月「黒板通信」を発行し、活動報告と当月のイベント情報を発信しています。イベント結果の報告を見ればイベントのイメージが掴めるため、参加をためらう方の心理的ハードルを下げることに役立っています。

●小さな喜びや思い出を積み重ねる工夫

 毎日イベントはできないため、気軽にチャレンジできるボードゲーム等を設置しています。勉強や運動が得意でなくても、ゲームで上位になると名前が載る。そうした喜びや日常の中の想い出を積み重ねて、「地域への愛着や、地元に戻るきっかけになってくれたら嬉しい」と平氏は述べました。

事業を通じた人材育成

 “学校というシチュエーションで昔に戻れるので、建物のポテンシャルに助けられている”と謙遜されていましたが、ハードを活かす取組、運営が評価され、同施設は日経BP総合研究所の「新・公民連携最前線」の『まちのチカラを引き出したPPPアワード2020 』に入賞しています。館内の工夫はスタッフも共に考えアイデアを出し合いながら行っており、同施設に関わる人の成果といえます。
 平氏は、事業に参加した人が将来どうなってほしいかなど、未来を考えた事業の組み立てに、やりがいと面白さを感じています。
 同施設の事業運営は、まちの人材育成でもあります。各事業の意味合い等に気づいて、面白い・関わってみようと思ってくれる人を育成・増やすことができれば、地域の活性化、本質的な賑わいに繋がります。そうした人材育成の場のひとつが旧長井小学校第一校舎だと、平氏は考えています。


4.まちなかへの波及効果についての調査・分析

 整備された各拠点の影響や効果を測定するうえで、長井商工会議所が行っている調査・分析が非常に参考になります。
 同会議所では、市外等に流出する購買力を地元に留め、地域内経済循環を高める「BUY長井プロジェクト~子ども達にまちを残すために~」を推進しています。長井で消費するものはできるだけ長井で購入するよう呼びかけて市の経済基盤を強化し、子どもたちに住み良く安心して暮らせるまちを残そうというものです。

(出所:長井商工会議所Facebook)

スタンプラリーの結果は集計・分析

 市内のお店や会社を知ってもらう・入店してもらう、お店同士の繋がりを強化することを目的に、2023年3月26日~5月7日にスタンプラリーを実施。集計・分析した結果は会議所の会報で詳細を報告しています。結果からは以下のことがわかりました。
・3か所の異なる店舗でスタンプを押すことが応募条件のため、市民の購買行動の傾向が明らかになった。
・年齢別・スタンプの多い順に並べたところ特徴的な傾向が見られ、各世代の集客や満足度向上を検討する場合のヒントが明確なデータとして確認できた。(例えば10~20代であれば、肉・文具・書籍、理美容を充実させる必要、70~80代であれば魚・衣料・雑貨・医薬品を充実させる必要がある等)

(出所:ニュース商工長井 Vol.580より抜粋)

『くるんと』オープン後との比較、検証

 また、『くるんと』のオープンに合わせて、2023年9月22日から10月9日の期間、中心市街地の本町大通り商店街で「もとまち青空スタンプラリー(以下もとまちスタンプラリー」を行いました。BUY長井プロジェクトとの比較からは、次のことがわかりました。
・市外からの方の割合が多い(居住地を見ると、BUY長井では90.7%が長井市のところ、もとまちスタンプラリーでは85%)
・居住地は中心市街地南部の割合が一番多い(BUY長井では14.5%のところ、もとまちスタンプラリーでは23.4%)。
・女性の比率が多めである。
・年齢別にみると両スタンプラリーでは60代が最も多いが、もとまちスタンプラリーでは10代以下と80代以上の割合も多い。
 BUY長井プロジェクトのスタンプラリーとは期間や対象店舗が異なるため、一概に比較できない部分もありますが、『くるんと』が出来たことで市外からの来館者が増え、まちなかの店舗にも影響していることが、数値から見ることができます。

もとまち青空スタンプラリー集計結果より抜粋
(出所:長井商工会議所資料)

 同会議所では、実施した後の結果を分析・フィードバックしています。取組結果の分析と振り返りは、言うことは簡単ですが実施できている地域は少ないのではないでしょうか。
 『くるんと』の来館者とまちなかへの波及の関連性、まちなかへ回遊させるために必要なことなど、普段の買い物と比較して見ていったときに取り組むべき課題も見えてきました。スタンプラリーは地元購入を促す以上の効果になっており、こうした同会議所の取組も参考になります。


5.今後の展望と課題

 『くるんと』、『旧長井小学校第一校舎』ともに、市民の居場所であり、域外からの集客核にもなっています。
 両施設ともに民間企業の指定管理者が運営していますが、施設長をはじめ、施設の運営管理に携わるスタッフが同市のまちづくりビジョンを理解し、まちの将来を考えた企画・取組を進めていることが大きいと感じます。『くるんと』の地域への波及を意識した地域事業者との取組、『旧長井小学校第一校舎』の人材育成を意識した事業組み立て、思い出を作る小さな企画の積み重ねも印象深いものでした。両施設ともに、運営や取組方針の考え方、工夫は非常に参考になります。
 スタンプラリーは域内の店舗へ足を運ぶきっかけづくりとともに、結果は集計・分析され各施策の効果検証、次の企画等に役立てられています。

<今後の課題>

 各施設の集客力は高まっていることから、今後はまちなかの回遊性を向上させ、地域への波及効果を高めるとともに、北側の歴史・文化活用エリアの魅力づくりとウォーカブルの推進に向けた取組を検討中です。また、各施設から定期的に情報発信されていますが、地域の魅力や地域資源の発信はまだまだ改善の余地があると同市では考えています。
 例えば、同市は競技用けん玉生産量日本一で、現在では全国のけん玉生産量のうち約7割を占めています。けん玉でまちを元気にしようと「長井けん玉ふる里プロジェクト」を展開し、長井駅からほど近い場所に「けん玉ひろばSPIKe(スパイク)」を開設しています。まちなかで気軽にけん玉を体験でき、けん玉の級や段の認定、購入やペインティング体験もできます。代々の管理人は長井市地域おこし協力隊の隊員が担います。
 けん玉は、国外ではスポーツ競技として定着し、玩具の域を超えています。2020年には“市技”に指定されました。市内の協力店舗で指定された技に成功するとサービスが受けられる「けん玉チャレンジ」など、ユニークな取組をしています。近年はけん玉チャレンジを使ったスタンプラリーを実施するなど利用促進のためのイベントも実施していますが、利用者は限定的であり、情報発信が今後の課題です。

  • けん玉ひろばSPIKe
  • アメリカ出身の4代目管理人
    2018年けん玉ワールドカップ優勝
  • けん玉チャレンジマップ

 課題はありますが、関わる人が同じ方向を向いてまちづくりを進めているのは、長井市の強みといえます。これからも同市の取組に注目したいと思います。