HUB(結節点)を活用した新たなまちづくりの価値創造(滋賀県長浜市)
琵琶湖のほとりにある滋賀県長浜市。認定中心市街地活性化基本計画を2期実施してきました。第2期計画では経済産業省の特定民間中心市街地経済活力向上(S特)事業を活用した「湖(うみ)のスコーレ」(体験型複合施設)を整備しています。2020(令和2)年に第2期計画が終了したのちは、独自計画である「湖(うみ)の辺(べ)のまち長浜未来ビジョン」を策定し、中心市街地活性化に取り組んでいます。
今回は『HUB』を活用した長浜市のまちづくりについて、長浜まちづくり株式会社の常務取締役である竹村光雄氏にお話を伺いしました。長浜には官民が連携したまちづくり会議「湖の辺のまち長浜デザイン会議」がありますが、そこで全てのまちづくりのアイデアを出している訳ではありません。長浜を愛し長浜で実現したい、アイデアや情熱をもった若者たちの意見を上手く取り込んでいます。そのシステムであるHUBと長浜のまちづくりを紹介していきます。
目次
HUBは令和のまちづくりエンジン
「湖の辺のまち長浜未来ビジョン」というまちづくりの指針を分かりやすく伝えるために、長浜市は中心市街地を舞台に10年後に叶えたい夢を描いた地図、
DREAM MAP 別ウィンドウでpdfファイルを開きます
を策定しています。自分達のまちでやってみたいアイデアがある若者が中心となって描きました。彼らのようなエネルギーある若者は、中心市街地活性化協議会のようなまちづくりの会議体に、参加したがることはまずありません。その問題に対して長浜市は、まちづくりの様々な課題やアイデアを持ち寄る拠点、HUBを設けることで解決しています。
HUBという拠点は、長浜まちづくり株式会社が試行錯誤の上で編み出しました。HUBの1つである「
湖北の暮らし案内所どんどん 別ウィンドウで開きます
」(以下「どんどん」と言います。)が発端となっています。どんどんはいわゆる長浜市の観光エリアから外れ、地元の住民が楽しむ秘密基地のようなシェアスペースです。そこでは自分たちのディープなまちの魅力を語る、エネルギーある若者が活発に意見交換をしています。観光地として有名な黒壁ではなく、田んぼや川の風景の方が、彼らにとってはこれからの時代でも通用する魅力と感じています。
黒壁などを有名にした平成初期からまちづくりをけん引してきた従来のプレーヤーは、郊外への投資を中心市街地への投資に振り向けさせるアイデアが得意でした。令和の時代ではまちの魅力をPRしなければ、そもそも誰も投資自体をしてくれません。では令和のまちづくりで大切なものは何なのか、その答えは難しいと竹村氏は考えていました。従来のプレーヤーのアイデアではなかなかまちづくりが進みません。
そんな中でもまちづくりの事業が動き出すのが、どんどんのようなアイデアやエネルギーが集まる場所でした。例えばDREAM MAPに記載されている「川床で夕涼みながら旨い酒と旨い肴を嗜む」もどんどんから生まれたアイデアの1つです。エネルギーとアイデアさえあれば、実現への障壁は取り除けます。一級河川に杭を打つことはまず不可能という問題がありましたが、どんどんで
ペットボトルと発泡スチロールの浮かぶ川床のアイデア 別ウィンドウで開きます
が生まれ、子供もたちと作りあげました。HUBこそが令和のまちづくりのエンジンになると竹村氏は確信しました。
HUBを活用したまちづくり
これからのまちづくりを竹村氏はスポーツに例えます。リング上にあがるべきは、まちづくりへのアイデアを持ち、10年後のまちを盛り上げるエネルギーある若者です。行政や平成初期からまちづくりを支えた従来のまちづくりプレーヤー、まちづくり会社のステークホルダーはリングサイドで支援するスタイルが適していると言います。
長浜市のまちづくりは黒壁スクエアなど、まちなか再生事業の成功事例として全国に取り上げられてきた歴史があります。従来の長浜のまちづくりが成功したのは、観光客にお買い物を楽しんでいただいて売上を立てるという、様々な利害関係者間での共通認識があったからです。売上が好調なので投資回収のサイクルを効率よく回すことができました。行政中心に官民連携で作成した骨太のまちづくりビジョンを前提としていました。1991年以降、市長は選挙のたびに代わるほど不安定な地域情勢であったにも関わらず、まちづくりの基本的な方針だけは変えることなくずっと継続してきました。
しかし、この10年ではコロナ禍の影響もあって、お買い物を楽しむという人が少なくなりました。過去の成功体験はもはや通用しません。そんな中、行政やまちづくり会社、商店街組織の人からは認知されていない若者が、どんどんで夢を熱く語っていました。例えば減農薬・無農薬農法の原料を用いた酒造を営む者や、ECサイトを立ち上げて自身で販路開拓する農業を営む者です。骨太のビジョンがない中、エネルギーを持ってまちづくりを実行に移すのは彼ら若者でした。
どんどんのヒントを得て、長浜市はHUBを拠点としたまちづくりを推進するシステムを採用しました。しかしHUBがあるだけでは、アイデアやエネルギーのある若者の取組みをまちづくりに昇華できません。竹村氏はHUBというシステムをふまえて、まちづくり会社の新たな役割を「ディレクション役」と考えています。ディレクションとは行動や思考の方向性を決めることです。「若者のスポットの取組みをつなげて、全体像を組み立てることがまちづくり会社の役目」だと竹村氏は考えています。
第2のHUB「BIWAKO PICNIC BASE」
長浜まちづくり株式会社はどんどんの成功をもとに、第2のHUBである
BIWAKO PICNIC BASE 別ウィンドウで開きます
を立ち上げました。BIWAKO PICNIC BASEは学生から社会人までの幅広い顔ぶれが、穏やかな日のピクニックを楽しむように、出会いアイデアを交換し、新しいことにチャレンジするきっかけになる場を目指しています。長浜バイオ大学のサテライトキャンパスのほか、コワーキングスペース、自転車やピクニックセットのレンタルのサービスを提供しています。
個性の異なるHUBを設けて、HUBのマネージャーがアイデアある若者に声掛けをすることで、活気あるコミュニティを創造することが、まちづくりでは大切です。どんどんは路地裏の秘密基地として、地元の知る人ぞ知るメンバーが集いました。BIWAKO PICNIC BASEでは長浜に在住していなくとも学生から社会人まで幅広く門戸を広げています。
BIWAKO PICNIC BASEはどんどんとは異なり、外から見た長浜をよく知っている若者が新たなアイデアを創造することが期待されます。当初懸念点もありました。どんどんのように自然に人が集まったいわゆる「天然」のHUBではなく、人が集うように長浜まちづくり株式会社が意図して設けた拠点です。そのためBIWAKO PICNIC BASEには大きなキッチンを設けて、利用者間のコミュニケーションが促進されるよう工夫しています。キッチンは学生や祭りの打ち上げなどで活用されています。
これまでHUBによるまちづくりのアイデア創造について紹介しました。最後に「サンクスアワード」を紹介します。「サンクスアワード」は湖の辺のまち長浜未来ビジョンに向けて面白い挑戦をした人や、アイデアを出した人の表彰です。長浜のまちづくりに対して夢のある若者に、湖の辺のまち長浜デザイン会議に興味を持ってもらうための企画です。長浜で実現したいアイデアや情熱をもつ若者を、どのようにまちづくりにディレクションするか。長浜まちづくり株式会社の挑戦は続きます。