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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

株式会社まち未来いしおか

取組のポイント

まちづくり会社が「農産物直売所」と「カフェ」を直営
小さな売上でも成り立つ仕組みをつくり、収益を確保
野菜専売から健康手づくり惣菜主体に転換
地元高校との連携

1.取組事業

(1)背景

 株式会社まち未来いしおか(以下「まち未来いしおか」)は、平成17年、TMO構想に基づき、石岡市・石岡商工会議所・金融機関などを株主として設立されました。当初は、空き店舗対策としての「チャレンジショップ事業」や市の「石岡市乗合タクシー事業」の受託を主な業務としていました。

 その後、平成21年12月に認定された石岡市中心市街地活性化基本計画(以下「基本計画」)に基づき、空き店舗の「テナントミックス事業」として平成23年2月に2つの事業を立上げました。

 ひとつは「農産物直売所」で、地元の新鮮野菜を直売し周辺地域から中心市街地へ市民をひきつけると同時に中心市街地に住む高齢者へ新鮮な食材を提供し、多世代が集うコミュニティの機能を果たすことをねらいとしました。

 もうひとつは「石岡カフェ」で、石岡産の四季折々のフルーツを素材にスイーツを開発しブランド化するアンテナショップです。地元菓子店と連携しコンテスト・販売促進イベントを行い、女性や高校生が集まることを想定しました。

(2)直営2店舗のオープンと東日本大震災の影響

 オープン1ヵ月後の平成23年3月に発生した東日本大震災により、2店舗は大きな影響を受けました。それぞれの店舗で抱えていた経営上の問題に加え、風評被害や歩行者通行量の激減等により売上が低迷し、そこから抜け出すことが非常に難しくなったのです。店舗で抱えていた経営上の問題点は次のとおりです。

(ア)農産物直売所

 農産物直売所の経営不振は、もともと収益性が低かったところに根本的な原因がありました。

 地元農産物の直売所といえば、近隣農家が毎朝採れたての新鮮野菜を持ち込むイメージですが、仕入れ農家とのネットワークが弱かったため、地元農協からの仕入れに頼らざるを得ませんでした。その結果、価格・品質・品揃えのいずれも近隣のスーパーと差別化できず客数が伸びません。売れ残りの廃棄ロスも少なくありませんでした。

 そのため、平成24年秋から中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)の 中心市街地商業活性化診断・サポート事業(プロジェクト型) 別ウィンドウで開きます を活用し、農産物直売所の経営改善に取り組みました。

(イ)石岡カフェ

 石岡カフェは、オープン前の平成22年秋の準備期間中に石岡フルーツスイーツコンテストを実施し、優秀商品を商品化し名物スイーツとすることを目指しました。コンテストの優秀商品以外は市内菓子店のスイーツを仕入れることにしました。ところが、仕入れ値の高止まり、菓子店からの商品納入のタイミングのずれ、さらに、売れ残りの廃棄ロスなどの問題があり、収益事業としての継続さえ危ぶまれる状況になってしまいました。

(3)経営改善

 診断・サポート事業で農産物直売所の経営改善を行うにあたり、現状分析や消費者インタビューを行いました。それにより、経営改善の方向性として、次の3点を整理しました。

(ア) コンセプトとターゲットの見直し

 野菜専売にこだわらず、「地元の安心安全な食材」「コミュニティの拠点性」をキーワードにお店のコンセプト・商品構成・ターゲットを見直しました。

(イ) マネジメントシステムの改善

 農産物直売所の運営は2名の臨時社員が行っていましたが、販売・陳列・商品管理を行うだけで損益や財務状況の把握はしていませんでした。経営改善を図るためには、マネジメントシステム自体の改善を図る必要がありました。これにはまち未来いしおかの役員自ら実務責任者として鋭意改善に当たりました。

(ウ) 収益の確保

 コンセプトの見直しに先立ち、小規模施設で収益を確保するポイントとして、次の5点を確認しました。

低い売上高でも成り立つ仕組みをつくる
店舗の性格を明確にしてアピールする
儲かるものを売る
他の場所での収益も我がものとする
良い顧客を見極める

 社会的に人口減少が続いているなか、売上増加は限界があります。低い売上高でも最低限、経費がまかなえる固定費低減や効率的な経営の仕組みをつくることが大原則です。

 広告やPRができなくてもアピールしやすい分かりやすい商材で、安売りをしなくても買ってもらえるもの、そして、通行量が少ないなら外部イベントや配達で売上があげられるのもの、さらにいいものを出せば認めてもらえリピーターになってくれる顧客を確保する、などを考慮し事業コンセプトを大幅に見直しました。

(4)再出発、新たな取組

(ア) 農産物直売所
農産物直売所

 新しい取扱商品として、「惣菜」と「石岡一高ブランドの農作物」を選定しました。 具体的には、美味・出来立ての漬物・惣菜・揚げ物を小分けで提供する「惣菜」をメイン商品にしました。農産物は近隣の茨城県立石岡第一高校園芸部(以下「石岡一高」)で栽培している農産物を目玉に切り替えました。

 新コンセプトで再出発するためには新体制が必要です。まち未来いしおかでは、取引先と従業員をかえるため株主や関係者と調整を図りました。店舗は一度閉店し、2か月後新体制で再出発しました。

 新店長は、飲食店経営の経験のある女性調理師でスタッフを連れて入社しました。まち未来いしおかから目標粗利を指定し、あとはすべて任せることができる人材です。

 惣菜はすべて店内のオープンキッチンで手づくりし、毎日売り切りです。健康的で美味しい惣菜を中心に、定番惣菜のほかに毎日10品目前後が並びます。一人暮らしの高齢者でも買いやすいように100gの小分けで販売をしています。毎日のメニューは店頭の黒板に紹介されています。毎日15~20個限定で作られる日替わり弁当も人気となっています。

 石岡一高の農産物は、教育目的で手間とコストを惜しまず栽培しているため、品質が非常に高いことが特長です。しかし、教育年度にあわせて栽培されるため、品目が少なく通年出荷できないことが弱点です。これは見方を変えると希少性があるということです。石岡一高ブランドとして人気が高くこれを目当てにたくさんのお客さまが集まります。

農産物直売所

 特にぶどうは無農薬・無化学肥料栽培で、有機JAS認定を受けています。今年はこれまで廃棄していたバラバラのぶどう粒を活用した限定25,000本のぶどうサイダーが人気を集めています。

店舗で店長にお話を伺いました。

 「メニューは前日の昼過ぎに材料を見て決めます。健康と手作りにこだわり、冷凍素材は使わず作り置きしません。定番はきんぴら・マカロニサラダ・唐揚げです。同じ品目が続かないように工夫していますが、人気の品目は『次はいつ』と心待ちにしている人もいらっしゃいます。惣菜だけでなく白飯や炊き込みご飯も用意しています。白飯が残りそうなときにピラフを作ったらあっという間に売り切れました。新しいお客様は毎日1、2人いらっしゃいます。」

 この惣菜事業は、「高い粗利が確保できる」、「手作り・高品質の惣菜は近隣スーパーの冷凍・定番品の惣菜と差別化できる」、「野菜に加え惣菜を扱うことで、野菜の廃棄ロスが少なくなる」、「イベントや企業への出張販売が可能」、「弁当や惣菜は毎日購入する人が多く新規客も獲得しやすい」など収益の柱にする事業としての条件を備えています。

(イ) 石岡カフェ
石岡カフェ

 石岡カフェは、農産物直売所の経営改善と同時期にまち未来いしおかの山中取締役が中心となり、コンセプトの大胆な見直しを行いました。山中氏は、石岡市が賑わっていた時期に市内で喫茶店を経営し成功を収めた経験を持つ飲食店経営のプロです。

 歩行者通行量が減っているとはいえ、駅前にはランチやお茶を飲む場所がほとんどありません。そこで、スイーツ主体から地元食材を使った本格ピザやパスタなど豊富なランチメニューを備えた気軽なカフェとして再出発することにしました。

 現在では、注文を受けてから生地を伸ばす本格ナポリ風ピザやパスタ、都内の老舗ホテルと同じ輸入コーヒーメーカーで淹れるコーヒーが人気で、午前中から仕事の打合せや女性客が来店し、客数を順調に伸ばしています。

2.事業の効果

惣菜メニュー

 どちらも経営改善で大きく変わったのは、スタッフの姿勢です。スタッフ一人一人が日々の売上目標を把握したうえで、前向きにお客様に明るくていねいに接客をしています。直売所事業では、店長がスタッフと一緒に調理や原価計算を行い、ノウハウの共有を図っています。カフェ事業では、個人の調理技術に左右されないように、コーヒーメーカーやナポリピザ専用高熱オーブンを導入し、スタッフが働きやすい環境を整備しました。

 残念ながら、どちらの事業もまだ完全には黒字に達していません。直売所事業は、日商でプラス6,500円、カフェ事業はプラス1,000円の売り上げでトントンというレベルまで来ました。直売所事業は2年以内、カフェ事業は今年度の単年度黒字化を目指しています。

 直売所事業では、弁当などの外部イベントへの出張販売や予約販売を検討しています。これまでほとんどPRを行っていませんでしたが、今後は近隣企業や商店へチラシを配り弁当を予約販売します。計画的な仕入れと販売で収益向上を図ります。

 カフェ事業では、昨年下半期は上半期に比べ平均50%ほど来店客数が増えており、今期もその傾向が続いています。特に会社員が打ち合わせ等で利用するケースが増えているようです。

3.今後の課題

 まち未来いしおかの次の課題は、基本計画の未着手事業の一つ、「まちかどギャラリー」事業の実施です。石岡市は、賑わっていた当時に市民や企業が入手した芸術品の寄贈を受け、多くの芸術品を所蔵しています。所蔵品の中には、石岡一高(当時、石岡農学校)出身の切り絵作家の滝平二郎の作品もあります。基本計画では、中心市街地の空き店舗を活用しギャラリーとして芸術作品を公開し、市民の交流拠点を設ける計画でした。財務シミュレーションも終わっているのですが、問題は使える空き店舗がないことです。被災後、空き店舗はあるものの耐震性に問題があり使用できないのです。今後は、市と一緒にオーナーと協議し、使用できる建物での分散オープンも検討し早急に事業を実施する予定です。

4.関係者の声

大橋氏と山中氏

 まち未来いしおかが設立されてから、株主である市とともに実行部隊として事業を推進してきたまち未来いしおかの取締役 山中英夫氏と石岡商工会議所まちづくり推進室長の大橋信之氏は「文化的なまちづくりで石岡市に賑わいを取り戻したい」、「高校が廃校になり小中学校が合併するなど人が減っている。だからこそ、農産物直売所や石岡カフェが市民の交流拠点となるように努力したい」と語ります。

5.取材を終えて

 カフェ事業では、飲食店経営のプロ、山中氏と食品衛生責任者の資格を持つ大橋氏は安全安心な営業を第一にスタッフの負担を考慮し、お客様満足度の高いメニューを作っています。取材当日、ナポリ風ピザをいただきましたが、これほどのクオリティのピザをいただけるとは驚きでした。着実にお客様が増えることを期待しています。

取材年月:2014年7月

まちの概要

石岡市アクセスマップ

 石岡市は茨城県のほぼ中央に位置する人口8万人弱の市です。常磐自動車道で首都圏から1時間強、JR常磐線で上野から1時間半の距離にあります。水戸街道の宿場町で古くから水陸両方の交通の要所として栄えてきました。街中には江戸時代の商家や寺社が点在しています。筑波山と霞ケ浦に近く、豊かな自然に恵まれ、酒造りや果樹栽培が盛んです。

まちづくり会社の概要

会社名:
株式会社まち未来いしおか
所在地:
茨城県石岡市府中一丁目5番8号
設立:
平成17年10月13日
資本金:
1,000万円
主な出資者:
石岡市(30%)、石岡商工会議所(50%)、金融機関、中小企業者など
社員数:
10名(パートを含む)