(株)まちづくり長野
今回のまちづくり会社訪問は、多くのまちづくり会社が事業収益の確保に苦慮している中、会社経営の基本にたった取組みにより、確実に収益をあげている㈱まちづくり長野を取り上げました。 (株)まちづくり長野の収益事業にスポットをあて、その取組みをご紹介します。
取り組みのポイント
まちづくり長野では、各事業の立ち上げ時に、入念な損益計算を行っています。予想損益にもとづき、補助金制度の効果的な活用や支払地代の圧縮等によりコスト削減に取組むとともに、各事業ごとにターゲットを明確化し、マーケティングを行う等により安定した収入を得るための対策を徹底化し、事業収益の確保を図っています。
まちづくり長野では、まちづくりの先導的な事業を実施し、活性化への機運醸成を図ることがまちづくり会社の役割と考え、事業の収益性との両立を図りつつ、多くの事業に取組んでいます。
1.まちづくり長野の概要
- 会社名:
- (株)まちづくり長野
- 所在地:
- 長野県長野市
- 設立日:
- 平成15年1月
- 資本金:
- 8,000 万円
- 主な 構成員:
- 長野商工会議所、長野市、中小企業者(商店街、商業者等)、大企業(流通、建設、金融、放送)、その他(NPO、個人)、計92者
- 従業員:
- 正社員3名、嘱託・パート36名
- 組織図:
- 下図参照
- 収益状況:
- 平成21 年の営業収益は約7億4,492万円、営業費用は約7億367万円で、営業利益は約4,125万円、当期利益は約3,143万円をあげています。 後掲「㈱まちづくり長野損益計算書」参照
2.まちの概要
位置・人口
長野市は、長野県北部、長野盆地に位置し、四方を2,000m級の山々に囲まれた、人口約38.8万人(平成22年4月現在)の地方中核都市。
交通アクセス
長野駅は、JRの信越本線、飯山線、篠ノ井線や、長野電鉄、しなの鉄道などが乗り入れる鉄道網の結節点となっています。また長野市(長野駅)へは、長野新幹線で、東京駅から最短で1時間25分。車でも上信越高速道を利用すると、東京(練馬IC)長野(長野IC)間で、 約2時間15分と、首都圏とも短時間でつながっています。
まちの特色
長野市は、長野県の県庁所在地で、政治、経済の中心的都市であるとともに、国宝善光寺の門前町として、年間入込み客数が約900万人(うち善光寺が約600万人)に達する観光都市でもあります。
3.中心市街地の現状
現状と課題
長野市は、これまで善光寺の門前町として栄えてきました。しかし、モータリゼーションの進展や、平成10年開催の長野五輪にあわせた郊外部への様々なインフラ整備により、商業と住宅の郊外化が進み、それに伴い大型店の郊外出店が急加速しました。その結果、平成12年に中心市街地の核店舗であった「長野そごう」と「ダイエー長野店」が相次いで撤退し、中心市街地の空洞化が深刻化しました。
主な活性化策
2つの大型店の撤退を受け、長野市では賑わいの核となる拠点の整備に取組んできました。第一には、「ダイエー長野店」が撤退した空きビルを市が取得し、商業施設と公益施設を整備し、「もんぜんぷら座」として再活用を図りました。次に蔵や古民家を再生し、飲食・物販からなるテナントミックス施設「ぱてぃお大門」や駐車場を整備しました。
さらに、「長野そごう」の撤退した跡地に、再開発事業により複合ビル「トイーゴ」を整備し、賑わい創出の拠点化を図りました。
4.まちづくり長野の取組み
まちづくり長野は、長野市との協働により、中心市街地活性化に向け、以下の様々な事業に取組み、事業成果をあげるとともに、まちづくり会社としてトップクラスの事業収益を確保しています。
(1)「もんぜんぷら座」施設管理事業
1.事業概要
長野市では、中心市街地の活性化のために、撤退した「ダイエー長野店」の空きビル再生が重要と判断し、平成14 年に同物件の土地と建物(地上8階、地下1階)を取得しました。
その後、平成15年に、同ビル1階に食品スーパーが、地下1 階、地上2 階、3 階に、子育て支援施設や市民活動支援施設、会議室等が入居し、商業と公共の複合施設「もんぜんぷら座」として、同年にグランドオープンしました。 さらに平成18年には、地上4 階に日本司法センター、消費生活センター、ながの観光コンベンションビューロー等がオープン。平成20年には、地上5 階から8 階にNTT東日本のコールセンターが入居し、「ダイエー長野店」撤退から7 年目にして全館がオープンを果たしました。
2.事業の仕組み及び収支状況
まちづくり長野では、この「もんぜんぷら座」の施設管理業務を市から入札により受注するとともに、各階の入居企業等から清掃業務、セキュリティ業務を請負っています。
これにより、市から受注している施設管理業務収入と合わせて年間約7,950万円の営業収入をあげております。
3.取組みポイント(収益を確保するポイント)
こうした営業収入を確保するうえで、「もんぜんぷら座」全館の設備管理業務を受注できていることが大きいといえます。こうした設備管理業務の受注を可能にしているのは、同館開館時からの実績と信頼に加え、設備管理のプロを雇用し、メンテナンス、セキュリティ等で質の高い業務サービスを提供できているからといえます。
(2)「TOMATO食品館」直営事業
1.事業概要
まちづくり長野では、多くの地元住民から食品スーパー開設の要望を受け、全国でも珍しいまちづくり会社直営による食品スーパー「TOMATO 食品館」をオープンしました。
売り場面積・・・約300坪
営業時間・・・・AM10時~PM10時
年間利用者・・・587,931人(1,620人/日)(平成20年度)
年間売上高・・・約58,337万円(日商約160万円)(平成20年度)
2.事業の仕組み及び収支状況
「TOMATO 食品館」への改修等にあたっては、経済産業省の大型空き店舗活用支援事業費補助金制度を活用し、約4,600万円の補助を受けるとともに、国民金融公庫から約3,000 万円の融資を受けています。
建物は「もんぜんぷら座」1階を市から賃借。事業立ち上がり時の平成15年から17年の3 年間はコスト負担の軽減化を図るために、経済産業省より賃借料の補助(商店街・商業集積活性化施設等整備事業補助金(リノベーション補助金)、合計2,100万円)の申請をしています。
平成20年度の年間売上高は、約5億8,337 万円で、オープン時に比べ6.2%増となっています。
顧客に高齢者が多いため、客単価が低く売上が伸び悩んでいることや、商品ケースなどの初期投資負担がかかっていることから、同事業の平成20年度決算では、年間1,000 万円程度の赤字でしたが、開設から約7年が経過した平成22年度は、設備の償却期間が過ぎ、黒字化が見込まれています。
3.取組みポイント(収益を確保するポイント)
顧客ニーズに合った品揃えの充実に努め、とくにメイン顧客である高齢者に対し、 惣菜等の即食系商材の強化を図って売上増に取組むとともに、前述のように、国等の補助金制度を効果的に活用し、借入金額を抑え、賃借料の軽減化を図り、営業利益の確保につなげています。
(3)「ぱてぃお大門」テナントリーシング事業
1.事業の概要
まちづくり長野が中心となり、平成17 年に「小さな旅気分を味わえるまち」をコンセプトに、まちなか回遊を図る拠点として大門町に残る空き蔵・町屋を有効活用した、飲食、物販などを中心とする商業施設「ぱてぃお大門」をオープンしました。
平成20年度の年間来場者数は、約70万人(レジ通過客数約33 万人)で、テナント15店全体の年間売上高は、年間約4億8,000万円となっています。
敷地面積・・・約942坪
延床面積・・・約758坪
建物棟数・・・15棟
テナント・・・15店舗(飲食8、物販6、サービス1)
2.事業の仕組み及び収支状況
建物用地は、20年間の定期借地権契約により確保しています。
施設の建設にあたっては、商店街・商業集積活性化施設等整備事業補助金(リノベーション補助金)制度を活用し、経済産業省と長野市から合計約2 億8,976 万円の補助を受けています。その他の資金は、商工中金から約1 億5,000 万円の融資(無担保)と、建設協力金として約1 億1,660 万円をテナントから調達しています。
平成21年度でオープン5年目を迎えますが、㈱まちづくり長野が「ぱてぃお大門」のクオリティーの維持に取組んでいることにより、長期間の空きテナントの発生もなく、テナント運営がなされています。平成21年度の15店舗のテナント収入は6,600万円で、事業別収支も黒字化しており、㈱まちづくり長野の収益に貢献しています。
3.取組みポイント(収益を確保するポイント)
・入居テナントの選定にあたって、仲介業者を通さず、㈱まちづくり長野が「ぱてぃお大門」のコンセプトを直接伝えるとともに、入居テナント経営者の事業方針を直に聴取します。また入居後は、テナント料が滞らないよう、各テナントの経営状況の報告を随時受け、テナントの接客面から経理面までマネジメントにあたっています。
・テナントの早期退店による㈱まちづくり長野の収益の悪化を防ぐために、賃貸借契約書に、入居5年以内に退店した場合は、前もって拠出してもらった建設協力金の一部返却しないこと旨の契約条件を付しています。
・施設の建設にあたっては、補助金制度の活用や建設協力金の徴収により、借入金の負担を軽くし、㈱まちづくり長野の経営の安定化を図っています。
・地権者に対しては、商業施設としての魅力を確保するために、ゾーン一帯での整備の必要性を一軒一軒説くとともに、拠出できない地権者側の理由(悩み)に一つ一つ対処し、事業採算が図れる用地の確保に努めました。また賃貸借契約にあたっては、事前に地代相場を調べ上げ、㈱まちづくり長野の収益が確保できる支払地代を算出し、それを基づく交渉を徹底しました。
(4)「表参道もんぜん駐車場」運営事業
1.事業の概要
まちづくり長野では、「ぱてぃお大門」及び周辺商店街の来街者の利便性向上と回遊性拡大、滞留時間延長を目的に、平成18年に「ぱてぃお大門」の近接地に駐車場(鉄骨2階建て)を整備し、運営を行っています。
駐車台数・・・49台
営業時間・・・24時間、年中無休
2.事業の仕組み及び収支状況
駐車場用地は、10年間の定期借地権契約により確保しています。
駐車場の建設にあたっては、戦略的中心市街地中小商業等活性化支援事業費補助金制度を活用し、経済産業省と長野市から合計約8,300 万円の補助を受けています。その他には、地元の地銀から約5,500 万円の融資を受けています。
同駐車場は、善光寺正面に面しており、観光客も認知しやすく、高い稼動率となっています。月平均で約3,000 台、年間約1,200 万円の営業収入をあげており、収益面も良好で、「もんぜんぷら座」設備管理事業、「ぱてぃお大門」テナントリーシング事業とともに、㈱まちづくり長野の収益の柱となっています。
3.取組みポイント(収益を確保するポイント)
収益確保のポイントは、こうした稼働率の高い優良用地を確保できたことにあります。
この優良駐車場用地は従前、複数の敷地に分かれ、店舗や駐車場等個別の利用が行われていました。㈱まちづくり長野では、倒産した店舗の土地を弁護士と交渉の末購入したり、隣接地にある地元町民所有の平面駐車場を定期借地により賃借するなどして、複数の地権者から、購入や賃借によって土地をまとめ、立体駐車場として整備しました。地権者と度重なる交渉を続け、時間をかけて信頼関係を構築してきたことが、地権者からの土地購入合意を得られた大きな要因といえます。
5.今後の課題
まちづくり長野では、これまで中心市街地活性化に向けて、善光寺につながる中央通りに沿って、多くの活性化事業に取組み、一定の成果を上げてきました。今後の課題としては、衰退が著しく空き店舗率30%に達している、中央通りに連なる権堂商店街の再生問題、さらに長野駅善光寺側駅近くの約3万㎡の大型空地の再開発問題があります。これらの課題への対応により、これまでの「線」としての中心市街地活性化から、「面」としての活性化に広がることが期待されています。
6.関係者の声、まちの声
これまで長野市のまちづくりを牽引してきた㈱まちづくり長野の越原照夫タウンマネージャーは、まちづくり会社の活動に触れ、「まちなか再生の要となる事業で、行政、民間が手を出しにくい事業に取組み、中心市街地活性化の口火役となることが求められているのではないでしょうか。またこうしたまちづくり事業を実施するための財政基盤の確保には、常に気を配っておく必要があると思います。」と、まちづくりの中核を担う組織の必要性と財政基盤の重要性を説かれました。
取材年月:平成23年4月
【参考】