株式会社 まちづくり柏原
取組のポイント
まちづくり会社が空き町屋等を活用しテナントミックスを実施
街路整備や町屋改修をまちづくり会社自らが実施
10年以上にわたりイタリア料理レストランを直営
1.株式会社 まちづくり柏原(かいばら)の取組
株式会社 まちづくり柏原(以下「まちづくり柏原」)は、イベントや起業セミナー等のソフト事業も行っていますが、空き店舗へのテナントミックス、街路の美装化、そして店舗等のファサード等整備といった、どちらかというと街並み・ハード整備に関する取組にウェートが置かれ事業を推進しています。
(1)テナントミックス
(ア)概要
この事業は、まちづくり柏原の設立当初から取組まれており、まちなかの空き店舗や空き家等にテナントミックスにより飲食店等が開業しています。
これにより、まちに新たな集客ポイントが生まれ、空き店舗や空き家だった時と比べ、街並みが維持され、まちの魅力が向上しています。
まちづくり柏原は、まちなかの空き店舗・空き家情報を把握しています。一方、テナント希望者は、柏原地区に病院や県の機関等がいくつも立地していること、そして、門前町・城下町だったことから観光客が流入していること、さらに、街並みが整備されていることやこれまでのテナントミックスによる開業実績を知っている方も多いため、持続的に問い合わせや申込が寄せられています。いわば、にぎわいがにぎわいを呼ぶというプラスのスパイラルになっています。
このため、まちづくり柏原では、テナント募集のチラシを作成したり関係先へ説明に出向くということはしていません。
テナント希望者がどの空き店舗等に開業するかは、基本的には商店街からの希望業種を優先していますが、その「通り」に必要だと考えられる業種・業態に開業してもらうというコンセプトとすり合わせ、まちづくり柏原役員の希望者へのヒアリングを踏まえ、最終的に決定しています。
このヒアリングですが、役員は全員ベテランの経営者で、事業プランを見極めるノウハウを持っています。甘い開業プランで臨む希望者は、このヒアリングをクリアすることができません。
地権者の「空き店舗を貸しても良い。」という意向が分からない場合、まちづくり柏原の役員は個人的なネットワークを活かし、市外に住んでいることも多い地権者と条件交渉にあたっています。
(イ)テナントミックスと収益
このテナントミックス事業を収益事業の観点でみると、2つに分かれます。1つはテナントミックスによる開業支援だけを行った店舗で、まちづくり柏原には家賃収入の収益が発生していないケースで2店舗あります。
もう1つは、まちづくり柏原に家賃収入が発生しているケースで、直営のオルモを除き6店舗あります。
このうち3店舗は、「商店街・商業集積活性化施設等整備事業に関する補助金」(以下「リノベーション補助金」)を活用し、まちづくり柏原が新築した「ガーデン栢(かや)」に入居しており、直接の「家賃収入」が発生しています。
あと3店舗は、まちづくり柏原が地権者から家屋を賃借し、「戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助金」(以下「戦略補助金」)により改修された店舗にテナントとして入居しており、転貸による「家賃収入」が発生しています。
最初のテナントミックスは、まちづくり柏原直営のイタリア料理店「オルモ」ですが、先ず、まちづくり柏原の会社としての収益事業を立上げるために取組まれました。
以下、リーディングプロジェクトである「オルモ」についてご紹介します。
(2)イタリア料理店「オルモ」
(ア)イタリア料理店
発端は、商工会から空き店舗活用事業を持ちかけられたところから始まります。地権者の意向を確認したところ、取壊し駐車場にする予定とのことで、築100年以上の風格ある建物を有効活用できないかと、テナントミックスにより飲食店を開業することにしました。
地権者へは、駐車場にした場合の一定の稼働率による収入相当額に家賃を設定するなど条件を説明し、了承をもらいました。
イタリア料理店にすることにしたのは、当時、柏原町内の飲食店は町内の中高年の男性中心のお店が多く、町外・市外、そして若者や女性客に支持される店が必要だったこと、「町内に本格的なパスタが食べられるレストランがほしい。」という声がこれまでの消費者アンケートやワークショップ等で寄せられていたこと、京都に古民家再生のレストランの人気店が現れ、京都のレストランへは役員が視察に出向き、専門家からもアドバイスをもらい、最終的にこの業種に決定しました。
(イ)開店
空き店舗のレストランへの改修には2,500万円が必要でした。
幸い県に1,000万円の助成制度があり、これを活用することにしましたが、1.500万円が不足します。この不足分は、役員全員が連名で金融機関から融資を受けることにしました。
空間設計は立命館大学教授 高田 昇氏、テーブルや椅子は隣町の木工作家 笹倉 徹氏に依頼し席数は32、店長(シェフ)も役員の紹介で採用することができました。
コンセプトは、「伝統的な町屋のシックな空間で本格的なイタリアン。」で、商圏は柏原地区だけでなく、丹波市内他地区や近隣市町、観光客を含めた広域的なエリアに、そしてメインターゲットは、20~50代の女性に設定しました。
店名の「オルモ」はイタリア語で、「ケヤキ」の意味です。柏原のシンボル「木の根橋」のケヤキの木から名づけられました。
平成12年10月の開店時、近隣の市町を含め、このような本格的なイタリア料理店がなかったため、マスコミに紹介され一挙に人気店になりました。
現在、来店客はほぼ想定通りの客層で、開店前まではほとんど流入してこなかった女性がたくさん中心市街地を訪れ来店しています。こだわりの空間と本格的なメニューは、好評を博しています。
年間来店者数は14,000人程、売上は3,000万円以上、全体の平均客単価は2,000円台前半です。
このように、まちづくり柏原は設立数ヵ月後の段階で、まちづくり会社の取組を、オルモを通じて関係者や町民に分かりやすいかたちで見せることができました。そしてこのことは、今後の各種事業の推進上大きなメリットになりました。
(ウ)大きな問題が発生
こうして開店当初から人気店になり、お客様もたくさん訪れていたオルモでしたが、大きな問題が発生しました。それは、決算をすると赤字だったのです。開店1年半で累積赤字は600万円になりました。
早速、役員が赤字の理由を調べたところ、直営だったことによるTMO事業との合算会計に原因があることが分かりました。日々の食材仕入れが甘くなっており、それが見えなかったのです。
そこで、TMO事業とレストラン事業の合算会計を部門決算として見える化し、仕入管理を徹底することにしました。 しかし、これの改善はすぐに効果が出てこなく、開店3年目からようやく単年度黒字にすることができました。
現在は、仕入れコストとリピーター確保のバランスをとりながら黒字化しています。また、部門収支を月次で把握できるようにしています。
(エ)労務管理上の特長
オルモでは、正社員に福利厚生を厚くし、安心して働ける状態にしており、最終的な当期利益を期末賞与として社員に分配しており、社員のモチベーションを高めています。
(オ)家賃と本部経費
オルモはまちづくり柏原の直営店ですので家賃は発生していませんが、会計業務等の経費分を毎月9万円(年間108万円)、「本部経費」としてまちづくり柏原に支払っています。
(2)街路美装化事業
まちづくり柏原では、平成13年度に「中心市街地活性化ワーキング会議」を開催し、その結果をもとに柏原町(当時、以下同じ)へ街路の美装化を提案しました。
この事業は、まちなかの道路を、車道は脱色アスファルト、歩道は自然石で舗装しようというもので、城下町らしい落ち着いた上品な雰囲気が醸し出されています。
平成13年度は柏原町の単独事業で行われましたが、平成14年度から最終年度の平成16年度までは、まちづくり柏原がリノベーション補助金を活用し自ら実施しました。
整備した区画は、全9区画で総延長は1,950mです。
特に道路に面している店舗等へは電柱、街路灯の民地へのセットバックを依頼し、道幅が従来より広くなり、来街者に好評を博しています。
(3)街なみ環境整備事業
この事業は、事務局を担当している柏原まちづくり協議会の事業です。店舗のファサードをはじめ小公園等の整備を行う取組で、平成15年度から平成24年度までに28カ所が対象になりました。
まちづくり柏原では、この事業の窓口として、実施主体である行政と店舗等との橋渡しを行っています。
通りのあちこちに、イメージの統一された店舗等が見られ、「(2)街路美装化事業」による効果と相まって、まちなかがとても趣あるものになっています。
2.今後の取組
まちづくり柏原代表取締役の荻野吉彦氏は、これからのまちづくりへの取組について、次のように語られました。
「私たちはTMOとして、まちの商業の活性化を城下町柏原の歴史を活かしながら、主としてハード整備を中心に取組んできました。柏原地区には歴史ある建築物がたくさんあります。これからもこれらの資産を活かし、テナントミックス事業を推進していきます。そして、2期計画も見据え前進していきたいと思います。また、平成13年度に設立した『柏原まちづくり協議会』の運営、同17年度からの『丹波かいばら起業セミナー』、さらに同21年度からの『関西学院大学連携事業』による毎月のフィールドワークでの学生との取組もあわせて推進していきます。」
3.取材を終えて
まちづくり柏原は、自ら補助金を取得し、テナントミックス、街路整備、空き店舗の改修を行っています。
「街路美装化事業」は、「柏原まちづくり協議会」の「中心市街地活性化ワーキング会議」で意見が集約され、行政に要望として出され、実現したものです。
また、商工会とともに中心市街地活性化協議会の事務局を担っており、まちづくりに重要な役割を果たしています。今後も、各種事業の推進に期待したいところです。
ところで、オルモの開店(改修)にあたり、経費の不足分を借入れていますが、資本金は活用していません。今後も活用するつもりはないそうです。負債を負うことになる場合、その都度役員会で協議し実行しています。
全国のまちづくり会社では、それぞれいろいろな考えがあると思いますが、投資が必要になった場合どのように対処するか、一度考えておいても良いテーマかと思いました。
取材年月:2014年7月
まちの概要
丹波市は、兵庫県の中央東部に位置する人口7万人弱のまちです。
平成16年に氷上郡6町が合併し丹波市になりました。
柏原地区は、明治期以前は城下町、門前町として栄え、明治期からは丹波・篠山地域の行政拠点でした。そのため、地区内には、国・県の出先機関や病院、そして100を超える歴史的な建造物があります。
柏原地区の人口は約1万人ですが、複数の病院や公的機関があるため、推定で年間約30~40万人の観光客が訪れ、経済的には2万人以上のまちに相当するといわれています。
まちづくり会社の概要
- 会社名:
- 株式会社 まちづくり柏原
- 所在地:
- 兵庫県丹波市
- 設立:
- 平成12年7月
- 資本金:
- 2,500万円(うち丹波市の出資額1,000万円)
- 役員数:
- 8名
- 社員数:
- 正社員4名、アルバイト3名
内訳 TMO事業部門
正社員1名
レストラン事業部門
正社員3名
アルバイト3名
- 参考URL:
- まちづくり柏原ホームページ
- イタリア料理「オルモ」ホームページ
設立の経緯
平成12年7月に、当初は公的資金の入らない純民間会社(資本金1,500万円)として発足しました。同年11月、行政からの出資(800万円:後に200万円を増資)により、まちづくり会社となり、翌12月にまちづくり柏原の作成したTMO構想が柏原町(当時)に認定され、TMO(*)としての活動がスタートしました。
*TMO 平成10年(~18年の法改正まで)施行の中心市街地活性化法に基づき、中小小売商業高度化事業構想を作成し、この構想が適当であると市町村の認定を受けた者を認定構想推進事業者、TMO(タウンマネージメントオーガナイゼーション)という。平成18年の中心市街地活性化法改正以降は任意組織。
まちづくり会社を設立した背景として、当時、まちの活性化に関わっていた大学教授(立命館大学教授 高田 昇 氏)の存在があります。高田氏の「まちづくりを進めるには『まちづくり会社』が必要。」の考えに共感した有志が、自分達のまちづくりへの思いを実現するため町内の企業、商店、個人に出資を募り設立されました。
なお、この有志の方々は、まちづくり柏原の役員に就任されています。役員は全員無報酬のボランティアです。