コミュニティFMが安心・安全とまちの一体感の醸成に貢献 (株式会社TMO大曲)
取組のポイント
東日本大震災をきっかけに防災対策としてコミュニティFM局開設
ボランティアのパーソナリティが地元密着のコミュニケーションに貢献
さらなる花火のまち活性化への期待
1.中心市街地活性化の背景
秋田県大仙(だいせん)市は、平成17年3月に大曲(おおまがり)市と6町1村が合併し誕生しました。大曲は、一晩に70万人の観覧者が集まる8月の「大曲の花火」で有名です。大仙市は8月以外にも毎月市内どこかで花火が上がる花火の街です。
平成27年11月に中心市街地活性化(以下「中活」)基本計画(平成22年4月~平成28年3月)の中核事業である市街地再開発事業が完成し、商業・医療・福祉施設が中活エリア内に集結し、まちの賑わいが復活しました。再開発区域は、公募で「大曲ヒカリオ」と名付けられました。
大仙市の中心市街地であるJR大曲駅前周辺は、大仙・仙北圏域の中核病院である仙北組合総合病院(以下「仙北病院」)や診療所・薬局、地元百貨店、商店街などの都市機能が集積し、大曲バスターミナルや国道ICも近く、利便性の高いまちでした。
しかし、仙北病院は敷地が狭い上に老朽化が激しく、最新医療機器導入や駐車場整備が困難なため、外来患者が減少し続け、郊外への移転を検討していました。平成20年には地元百貨店が倒産し、中心市街地の空洞化はますます深刻な事態となりました。
そこで、大仙市は、医療、福祉、交通の拠点づくりとして、仙北病院建替え整備、バスターミナルと駐車場の再整備、児童・高齢者福祉施設、商業施設を一体的、計画的に整備する2.6ヘクタールの市街地再開発事業を計画しました。
平成21年に大仙市が中活基本計画を策定し、平成22年に内閣府に認定され、平成24年から再開発工事が始まりました。
病院や公共交通を利用する市民の利便性を損なうことなく、大規模な再開発工事を進めるため、閉鎖百貨店と商工会館など、第1期工事の北街区を先に取り壊し、平成26年5月に病院とバスターミナルが完成しました。その後、第2期工事として、南街区の仙北病院の建物を撤去し、平成27年11月に残りの施設が完成しました。これにより以前は不足していた駐車場や保育施設、高齢者施設が整備されました。
平成26年3月完成 第1期 北街区 | 平成27年11月完成 第2期 南街区 |
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大曲厚生医療センター | 事務所棟(大曲商工会議所、TMO大曲他) |
大曲バスターミナル | 健康福祉センター(大仙市)、FMはなび |
Anbee(アンベー)大曲 交流施設 | 保育施設(大仙市、保育所90名、幼稚園90名定員) |
ショートステイやすらぎ | 駐車場棟(265台収容) |
2.株式会社TMO大曲の取組
(1)事業概要
株式会社TMO大曲(以下「TMO大曲」)は、平成16年10月に秋田県7番目のTMO構想の認定を受けて設立されました。平成17年3月の全国花火サミットの運営受託など、花火を中心に「人を集める」「快適に過ごせる」「来やすくする」「まちづくりを考える」を事業の4本柱とし、「花火のまち」のまちおこしの役割が期待されていました。
平成20年11月には、中活法に基づいた法定組織者のまちづくり会社として、大曲商工会議所とともに中活協議会を設立しました。基本計画認定後の平成23年3月にタウンマネージャー(以下、「TM」)として、藤沢康雄氏が就任しました。
基本計画では、次の2つの目標を掲げています。
目標1 多くの人が訪れる医療・福祉機能が充実したまちを目指す
目標2 多くの人が活き活きと交流・活動できるまちを目指す
TMO大曲の取組みについて、藤沢TMに話を伺いました。
(2)「まちなか待合室」事業
「まちなか待合室」は、医療施設を目的に来街する人の多い中心市街地で、医療施設内の混雑解消とまちなかで買い物や飲食をして診療や会計を待つことができるように企画されたものです。平成24年度補正中心市街地魅力発掘・創造支援事業でニーズ調査事業を行った後、整備されました。
平成20年の住民アンケートでは、中心市街地への来街目的は、病院・診療所と答えた人が54%と最も多く、「まちなか待合室」は、来街者の利便性を高め、まちなかを回遊する通行量の増加に寄与する事業として、基本計画の中に組み込まれました。
具体的には、中心市街地内にある交流施設等に医療機関との連携により、待ち時間などを表示したモニターを設置し、まちなかの交流施設に待合機能を持たせるものです。平成25年よりモニターはJR大曲駅、大曲厚生医療センター、あんべー大曲(複合商業施設)、ペアーレ大仙(健康増進施設)および花火庵(にぎわい創出施設)の5か所に設置されています。
残念ながら、この事業はモニター設置後の病院の受診待機情報のコンテンツ提供を受けることが難しく、運用に至っておりません。理由は、病院のシステム変更の費用負担や変更に伴うセキュリティ上の問題があげられます。計画では、市街地の個人開業医の待ち時間情報も集約して掲載予定でしたが、こちらも調整が難しい状態です。モニターはすべて市内の人通りの多い交流施設などに設置しているため、現在は大仙市の観光情報や行政情報の提供に活用されています。
3.FMはなび
平成27年11月の南街区再開発事業の完了とともに、TMO大曲は新しい役割を担うことになりました。それが、FMはなびの運営です。
(1)FMはなび開局まで
大仙市でコミュニティFMの必要性が議論されたのは、平成23年の東日本大震災がきっかけです。市の防災対策として、防災行政無線の整備を検討しましたが、整備には数十億円かかります。震災後に行われた総務省のアンケートによると、被災地の情報伝達手段としてラジオが大きな役割を果たしていました。ラジオから情報提供できないか検討するため、平成24年に市と民間の有識者でプロジェクトチームを作り、準備を始めました。
総務省では、コミュニティFM放送局を民間放送局と位置付けているため、設備は市が用意し、運営は第3セクターのまちづくり会社に任せる「公設民営」放送局を作ることとしました。平成26年3月に、市とTMO大曲で準備室を設置し、「おらほの(自分たちの)」FM局に親しみをもってもらいたいと愛称を公募し、「FMはなび」と名付けられました。
開局前年の平成26年8月には、「大曲の花火」大会と「大曲花火ウィーク」の4日間、民間テレビ局の設備を借り、イベント会場で試験放送として実況生放送を行いました。実は、大会直前に大雨に見舞われ、イベントが一部中止になり、河川敷の臨時駐車場も閉鎖するなど大会運営に大きな影響がでました。FMはなびは予定の番組を急きょ大幅に変更し、水害や交通、駐車場情報などを随時提供し、即時性に優れたラジオの力が発揮されました。
FM事業立ち上げのため、TMO大曲が1,000万円から2,800万円に増資した際、大仙市が一口5万円で出資者を募り、120人の一般市民が株主になりました。日々の運営は、市の広報業務の一部を請け負い、市の委託費で経費の3分の1を賄い、残りの3分の2は広告収入を充てています。こうして平成27年8月8日にFMはなびが開局しました。
(2)コミュニティFMの運営
運営スタッフは、技術担当の放送局長である藤沢TM、男女1名ずつのアナウンサー、それに5名のボランティアスタッフです。市民参加型のFM局にしようと、平成26年10月にボランティア募集の説明会を行ったところ、希望者がたくさん集まりました。元々、藤沢TMが、まちづくりに興味があるいろいろな会に関わっており、それぞれの活動をもっと広く知っていただくため、みんなのFMで発信しようと誘ったところ、その趣旨に多くの方が賛同していただくことができました。
FMはなびの特徴は、ラジオがなくても、パソコン(以下、「PC」)やスマートフォン(以下、「スマホ」)アプリで聴けること。リクエストもはがきや電話ばかりでなく、PCやスマホからメールが送れるので、双方向のコミュニケーションができます。
番組構成は、平日、朝、昼、晩と3本の生放送があります。お昼の生放送は、4人のボランティアパーソナリティが持ち回りで担当します。下の番組表で、黄色の帯が生放送、白地は市の広報や観光などの制作番組、残りのグレーが衛星放送です。毎月、どこかで行われる花火イベントは、中継をしています。
(3)コミュニティFMの役割
TMO大曲によると、コミュニティFMの開局はこの地域にとって4つの意味があります。
市民の安全・安心につながる防災時の情報提供ができること
市町村合併から10年を経て、市内全地域に一体感をもたらせること。
市民と行政、市民同士のネットワークの活性化が期待できること
放送スタジオを設置することで中心市街地ににぎわいを創出できること。
(大仙市広報誌「だいせん日和」掲載の代表取締役 賢木新悦氏のFM開局あいさつより抄出)
TMO大曲が、開局後の10月にイベント会場でアンケートをとったところ、ラジオを聴く人が増え、FMはなびは認知されてきました。市民からは、「地域の活動を知らせてほしい」「子育てや学校の情報が欲しい」「地域に密着した出来事を伝えてほしい」「花の見ごろや近道案内が欲しい」などの希望が寄せられています。
毎月発行される大仙市の広報誌に「FMはなび通信」を掲載し、親しまれるFM局になるよう心がけています。生放送のパーソナリティを務める4人のボランティアは、市民講座のコーラスの指導者や美容業界出身者などで、音楽や美容・健康など得意なジャンルを中心に、大仙市の身近な情報をきめ細やかに伝えます。生放送中は、PCやスマホ画面に右図のように、番組名とパーソナリティが紹介され、リスナーはメールやツィッターですぐに参加できます。地元密着のライブ感がファンを増やしています。
4.再開発後のTMO大曲の役割
再開発エリア「大曲ヒカリオ」の整備が完了し、新しい健康増進センターや認定こども園が開園し、医療関係者や親子連れが多く行き交うようになりました。新しく完成した南街区には、イベント広場もあり、「大曲ヒカリオ」に移転したTMO大曲には、イベント広場を活用した賑わい創出も期待されているようです。グランドオープン後の平成27年12月には広場に面した建物をライトアップし、おおみそかには「カウントダウン花火2016」実行委員としてイベント広場で花火を打ち上げ、約150名の市民が花火で新年を祝福しました。
さらに、平成28年9月の国際花火シンポジウムの開催地が大仙市に決まり、その統括責任者をTMO大曲が務めることになりました。今後さらに、花火によるまちのまちおこしの担い手として、大きな期待が寄せられています。
5.まちの概要
位置・人口
大仙市は、秋田県の南東部に位置し、平成17年3月に大曲泉北地域の8市町村が合併し生まれました。 大曲は日本三大花火大会の一つである「大曲の花火」として知られており、毎年8月に全国花火競技大会が開催されます。人口8.6万人(平成27年11月取材時)
交通アクセス
秋田新幹線こまちで、東京から盛岡経由で3時間30分、秋田へ30分の位置にあります。
6.まちづくり会社の概要
会社名:株式会社TMO大曲(愛称FMはなび)
所在地:秋田県大仙市大曲通町1-14
設立日:平成16年10月
資本金:2800万円
主な出資者:大曲商工会議所、大仙市(旧大曲市)、
事業所、一般市民
参考リンク
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取材年月:平成27年11月