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多様な地域資源を活かして進めるまちづくり(鳥取県倉吉市)
~新たな付加価値創出による滞在周遊型観光地を目指して

 鳥取県倉吉市は、歴史的な景観資源に加えて、近年では企業誘致をきっかけにポップカルチャーによる活性化にも力を入れています。現在、これまでの取組を活かしながら、中心市街地のコンテンツや体験の場を充実させ、滞在周遊型観光地への移行とまちなかの活性化を目指しています。同市の取組と今後の展望について取材しました。

・倉吉市 経済観光部しごと定住促進課 雇用政策・企業支援係長 山増 博通氏(取材当時)
・株式会社赤瓦 常務取締役/倉吉市タウンマネージャー/株式会社SOURYU 代表取締役 田栗 進氏

左:山増 博通氏 右:田栗 進氏

<目次>

※各目次をクリックすると、それぞれの記事にジャンプします。


1.中心市街地の状況

 倉吉市は人口44,298人(令和6年2月1日現在推計)、鳥取県の中部に位置する中心都市として古くから発展してきました。歴史的建造物が残る打吹(うつぶき)地区と、交通利便性の高い倉吉駅周辺地区を中心とした都市構造です。
 打吹地区の玉川沿いに並ぶ白壁土蔵群は、江戸・明治期に建てられたものが多く、白壁土蔵群と赤瓦(※)が印象的なまち並みは重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、同市の主要な観光名所です。

※赤瓦
島根県石見地方で生産される石州(せきしゅう)瓦は赤い色が特徴的な耐寒性に優れた瓦で、豪雪地帯でもある鳥取、島根エリアで昔から使われています。

  • 白壁土蔵群
  • 趣のある街並み
  • 白壁土蔵群周辺の店舗

 かつて、このエリアには国鉄倉吉線の打吹駅(1912(明治45)年の開業から1972(昭和47)年の間の名称は倉吉駅)があり、中心市街地は駅を中心とした賑やかな繁華街でした。しかし、1985(昭和60)年に国鉄倉吉線が廃止となり、大型商業施設が相次いで閉鎖、それに伴い商店街が衰退していきました。
 このような状況を背景に、商店街活性化拠点の整備、観光誘客拠点の整備などをメイン事業として第1期の認定基本計画が2015(平成27)年より始まりました。しかし、同年に商店街11店舗が延焼した火災、翌年の2016(平成28)年は住宅街に甚大な被害をもたらした鳥取県中部地震の発生など、2年連続で災害に見舞われたこともあり、同市の活性化事業は復興の歩みでもありました。


2.これまでの活性化事業

 同市では、各取組の事業熟度が上がると、事業者、関係者、市、商工会議所、中心市街地活性化協議会を中心にワーキンググループを立ち上げ、関係者全体で事業を推進しています。そのなかの主要な取組をご紹介します。

<打吹回廊整備 中心市街地再生のシンボル> 

 白壁土蔵群は年間約60万人の観光客で賑わう観光地です。しかし、多くの観光客は白壁土蔵群の観光のみで周辺の商店街を訪れずに帰ってしまうことから、まちなかの回遊性向上、商店街の活性化が課題となっていました。
 そこで、まちの中心にあったレストラン・宴会場「旧ナショナル会館」跡地を活用して交流拠点を整備する計画が持ち上がりました。跡地は地元企業が取得し、商店街と地元企業、まちづくり会社である㈱赤瓦の3者が連携し中心市街地活性化協議会がバックアップする形で、エリアの再活性化と復興、新たな拠点の機能検討を開始しました。
 地元住民や観光客に調査を行ったところ、「団体飲食の受け入れ場所」、「女性が集まりやすい明るい雰囲気のカフェ」「子どもが自然と触れ合える場所」「まちの玄関口としての機能」等のニーズが得られました。
 これらのニーズを踏まえ、回遊促進と地域コミュニティ再生の拠点として、複合施設『打吹(うつぶき)回廊』が同地元企業により整備されオープンしました。赤瓦の街並みを見晴らす塔と、中央にはイベントや商店街の催しに活用できる芝生エリア、地元食材を使った料理を楽しめるレストランやカフェスペースも備えています。

  • 打吹回廊 外観
  • 打吹回廊 中央
  • 打吹回廊カフェ

 オープン後まもなく新型コロナウイルス感染症の拡大により大きな影響を受け、予定していた事業も中止となりましたが、商店街や地域催事等との連携した施設活用や、地域団体と連携したコミュニティプログラムの拠点として、中心市街地のシンボルとしていきたい考えです。

<倉吉銀座復興プロジェクト 面で商店街を形成した先進事例>

 打吹回廊の整備等を契機に、衰退した商店街の活性化を図るべく、倉吉銀座復興プロジェクトを始動しました。
 商店街が進むべき方向性を示す「商店街ビジョン」を設定し、打吹回廊を整備した3団体が連携した「銀座春まつり」や官民連携の「鳥取中部福高祭」、伝統的な祭りを復活した「銀座土曜夜市」など、若手組合員を中心に企画・運営したイベントを通して、商店街一体でプロジェクトを推進しました。
 同商店街で特徴的なのが、「通り」の概念をやめて、地域全体を商店街とする考え方です。倉吉銀座商店街を中心とした「面」を商店街とすることで、加盟店舗数を増やしました。
 その考え方により、まちづくりに参加したい店舗、イベントを楽しみたい、一緒に作っていきたい若手事業者が加わり、新たなコミュニティを形成しました。加盟店舗数は2013(平成25)年時点の28店舗から、現在80店舗まで増加しました。これからのまちづくりに必要とされる考え方を、すでに実行していたのは先進的といえます。

  • 土曜夜市
    (画像出所:倉吉銀座商店街webサイト)
  • 福高祭
    (画像出所:倉吉銀座商店街webサイト)

 さまざまな取組が評価され、2018(平成30)年の国の「はばたく商店街30選」にも選定されました。また、授賞式で席が隣り合った倉敷本通り商店街(岡山県倉敷市)と、“名前が似ている”、“ゆるキャラのデザインが似ている“、”両商店街とも災害に遭った“等の共通点から関係が深まり、全国的にも初めての『姉妹商店街提携』を結びました。復興協力、ひとの交流、観光連携などの共働を進めています。

  • はばたく商店街30選定
    (画像出所:倉吉銀座商店街webサイト)
  • 倉吉市と倉敷市の連携協定
    (画像出所:倉吉銀座商店街webサイト)

<フィギュアミュージアム/フィギュアのまち倉吉>

 同市には現存する中では日本最古の円形校舎(旧明倫小学校円形校舎)があります。老朽化等で小学校として使われなくなってからは地区の公民館や市役所の書庫等として活用されてきましたが、耐震基準を満たしていないことから一度は解体の方針が決定しました。しかし、地元住民を中心に惜しむ声が多く、時を同じくして世界的なフィギュアメーカーの製造工場が市内に誘致されたことをきっかけに、地元団体が中心となり関連企業が連携して、フィギュアミュージアムとして再生しました。国の補助事業やクラウドファンディングを活用して改修し、『円形劇場くらよしフィギュアミュージアム』として2018(平成30)年にオープンしました。
 同施設では、精巧に作られた約2,000点のフィギュアがジャンル別に展示されています。日本を代表するフィギュアメーカーの作品を一挙に見ることができる場所として人気です。また、町なかにテーマ性を持たせたフィギュアを展示する「フィギュアのまち倉吉」の取組も行っており、観光客の回遊の導線をつくっています。

  • 旧明倫小学校円形校舎
    (画像出所:円形劇場くらよしフィギュアミュージアムwebサイト)
  • 円形劇場外観
    (画像出所:円形劇場くらよしフィギュアミュージアムwebサイト)
  • 赤瓦1号館内のフィギュア展示
    (画像出所:㈱赤瓦提供)

3.取組から得られた倉吉の多様な資源

 第2期認定基本計画のテーマは「レトロとクールの融合」です。各事業を進める中で、従来の景観資源、歴史的資源のほか、中心市街地活性化を目指して積み重ねてきた取組で得られた資源もあります。

<ポップカルチャー/聖地巡礼地として>

 「ひなビタ♪」は株式会社コナミデジタルエンタテインメントにより、ウェブを中心に展開されているコンテンツで、ネット上の架空の地方都市「倉野川市」に住む女の子たちがガールズバンドを結成し、音楽の力でまちに活気を取り戻そうと奮闘する地方活性化をテーマにした物語です。
 倉吉市と倉野川市は歴史的背景や景観など共通点が多いことから、「ひなビタ♪」の聖地として国内だけでなく海外からも多くのファンが倉吉を訪れています。
 商店街の各店舗にはキャラクターのパネルが設置されており、パネル探し等はまちなか回遊と店舗に足を踏み入れるきっかけになっています。

  • 赤瓦一号館前のキャラクターのパネル
  • 店内のキャラクターのパネル
    画像出所:倉吉観光MICE協会web
  • キャラクターのマンホール
    画像出所:倉吉観光MICE協会web

<赤瓦の各店舗>

 中心市街地では「赤瓦」の名称を持つ15店舗の飲食店、土産物販売店や雑貨店等が営業しています(取材時)。㈱赤瓦が、まち並み保存や地元商店街活性化を目的に、白壁土蔵群周辺の歴史的建造物を活用した店舗を「赤瓦○号館」として指定しています。観光客としては信頼できるお店の目安にもなり、まちなかの散策マップにも掲載されています。

  • 倉吉絣(かすり)の手作り工房くらよし絣
    (赤瓦二号館)
  • 石臼で挽いた珈琲が人気の久楽(くら)  
    (赤瓦五号館)
  • 旧三輪医院を改修したマイクロブルワリー
    BREW LAB KURAYOSHI(赤瓦十七号館)

                         画像出所:株式会社赤瓦 公式web
  
 第2期基本計画の事業として整備されたマイクロブルワリー「BREW LAB KURAYOSHI」は、古民家(旧三輪医院)を改修したクラフトビール醸造所兼パブで、2020年にオープンしました。「クラフトビールで住みます芸人」として、吉本興業との協業も話題になりました。
 赤瓦一号館から始まり、旧中活法のときから増やしてきた赤瓦を冠する各店舗も、重要な地域資源といえます。

<歴史的資源/小川家邸宅>

 小川家は造り酒屋等で財を成した県内屈指の資産家で、倉吉の近代化基盤を作り文化芸術向上にも大きな影響を与えました。広い敷地内には主屋、酒蔵、庭園を有し、2015(平成27)年に鳥取県文化財指定を受けたことを契機に、新たな集客施設として整備する計画を進めていましたが、鳥取県中部地震の影響で休止しました。
 整備検討を再開するタイミングで宿泊施設にする計画が持ち上がり、2020(令和2)年に㈱赤瓦、小川家当主、バリューマネジメント㈱、倉吉市、鳥取銀行、山陰合同銀行、倉吉信用金庫において、小川家の歴史的建物を宿泊施設として整備(後述)し、エリア活性化を目指す「連携協定」が締結されました。なお、庭園(環翠園)は復旧工事が行われ、すでに一般公開が始まっています。

  • 打吹山茶亭と「南山荘」
  • 「環翠園」の扁額
  • 茶亭 「南山荘」内観

                     画像出所:小川氏庭園 環翠園公式web
 
 これまで中心市街地には宿泊する場所が少なかったため、同エリアは滞在することなく通過される観光地でした。そこで、滞在周遊型観光地への移行を目指すために現在手掛けている一大事業が、分散型宿泊施設の整備です。


4.伝統的建造物の利活用/分散型宿泊施設の整備事業

 分散型宿泊施設の整備事業は、中心市街地に点在する未活用の古民家、旧店舗などを、整備・改修して宿泊施設とするもので、中心市街地全体をホテルに見立てています。同市では、この取組により滞在時間の向上を図り、観光産業による経済効果を高めたいと考えています。
 観光客誘致のほか施設利用を通して、地域の文化、歴史等を体感してもらうことを想定しています。第1期整備プランでは先述の小川家主屋を含めた2棟11部屋を改修します。2棟の建物のうち、片方にエントランス機能と6部屋、もう片方の棟にレストラン機能と5部屋を設置予定です。第1期が軌道にのったのち、他の建物にも着手したい考えです。
 2024(令和6)年度より着工、2026(令和8)年度のオープンを目指しています。㈱赤瓦が事業主体となり、バリューマネジメント㈱が運営する計画です。文化財に指定されている建物の維持、保存という観点からも、今後地域全体で整備を進める構想です。

事業体系図(画像出所:倉吉民泊公式サイト https://kurayoshi-stay.jp/)

<倉吉絣(かすり)の暖簾(のれん)>

 2023(令和5)年秋頃より赤瓦各館や周辺店舗等を中心に、「倉吉絣」で織られた暖簾(のれん)をかけ、“軒先に揺れる暖簾が彩る倉吉”を演出しています。店舗の軒先には紺色の暖簾が揺れ、訪れる人々の目を楽しませ、統一感あるまち並みのイメージ作りに寄与しています。2024(令和6)年3月末までに30店舗に掛けられ、その後も順次増やしていく予定です。

                   画像出所:のれんの揺れるまち倉吉リーフレット

  
 暖簾は「倉吉絣保存会」が織機で手織りしており、各店舗の模様が異なるため、見て回るのも回遊の楽しみになっています。こうした取組も、分散型宿泊に連動する、歴史的資源を活用した活性化事業のひとつです。


5.倉吉が目指す滞在周遊型観光(地域資源を活かした新たな付加価値づくり)

 2025(令和7)年、同市に鳥取県立美術館がオープンします。ポップアートの旗手アンディ・ウォーホルの作品を展示する予定で、県が購入した『ブリロの箱』はニュースでも話題になりました。
 また、観光庁が進める「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりアクションプラン」に基づき集中的支援を実施する11のモデル地域に、鳥取県・島根県の両県合わせて「日本の紀元・神話の國(くに)」として選定されました。
 鳥取県では、大山等の豊かな自然、鳥取和牛や松葉ガニ等の食、温泉や伝統工芸等の魅力を掘り下げていく計画です。同市においても、中心市街地だけでなく市全体でインバウンドを取り込むための取組を進めます。
 これまで同市ではレトロ(歴史的資源)とクール(ポップカルチャー)を観光戦略として進めてきました。今後は「アートのまち」としての要素も増える中、スピリチュアル(神話・精神性)やウェルネス(健康・温泉)の訴求も踏まえ、従来の地域資源を活用しながら新たな付加価値を創出しています。

<倉吉の地域資源を活用したコンテンツ造成>

 目の肥えた海外の富裕層向けに、歴史的建造物を宿泊所に整備する分散型宿泊事業とともに、コンテンツのつくり込みも進めています。観光庁のインバウンド支援事業に採択され、㈱赤瓦が外国人向けのモニターツアーを企画し、バリューマネジメント㈱の協力を得て実施しました。
 モニターツアーは、同市が三徳山と大山の二つの神山に挟まれていることから、テーマを「神山修行と精進落とし」に設定。三徳山三仏寺での六根清浄(ろっこんしょうじょう)修行や、旧銀行建築を活用した飲食施設での冬の味覚体験など、鳥取県中部の観光コンテンツを体験するものです。明治時代に行われた皇太子(後の大正天皇)の山陰行啓の際に宿泊所として作られた建物(飛龍閣)で、当時皇太子だった大正天皇が召し上がった朝食を再現して振る舞い、外国の方からも非常に高い評価を得ました。


  • 『さくらの名所100選』に選ばれた打吹公園
    画像出所:倉吉観光MICE協会webサイト
  • 打吹公園内の飛龍閣
    画像出所:倉吉観光MICE協会webサイト

<滞在周遊型観光を目指して/地域に根差した観光資源を磨き上げ>

 同市では、すでにある地域資源と、それらを磨き上げ組み合わせて新たな付加価値を創ることで、観光スポットだけではなく、食事・宿泊・体験等、エリア全体で観光収入を得られるような滞在周遊型観光を目指しています。
 同市が持つ多様な地域資源は、来街のきっかけとなりえます。歴史的なまち並みを楽しみたい人、ポップカルチャーが好きな人、アートが好きな人など、それぞれのニーズに応じて楽しんでもらえれば良く、「いろいろある」ことはプラスになると、タウンマネージャーの田栗氏は考えています。それらのニーズをどうプロモーションしていくか課題はありますが、さまざまな楽しみ方ができる場所として提案し、倉吉市全体で活性化を図っていく考えです。

(取材を終えて)
 倉吉市は度重なる災害に直面したうえ、同市の中心市街地活性化はコロナ禍の影響を大きく受けました。そのような中でも数々の活性化事業を推進しており、多くの地域資源を創出してきました。歴史的な町並みだけなく、整備された各拠点、ポップカルチャー、面的展開をしている倉吉銀座商店街や積極的に活性化の取組に参画してくれる店舗も、貴重な地域資源といえます。
 地域の魅力を高め、インバウンドの受入れ体制構築を含めた活性化施策に取り組む中で、同市の中心市街地は大きく変わる過程にあります。
 中心市街地の域を超えた新たな活性化ステージへ向けて動き出している同市の取組に、引き続き注目したいと思います。