北九州まちづくり応援団株式会社
取組のポイント
空きビルを1棟一括のテナントミックスにより再生
まちづくり会社自立・継続のための方策を自ら調査研究
地権者・テナント・地域・住民とのつながり
1.まちづくり応援団の取組
(1)北九州まちづくり応援団株式会社の設立
平成16年、北九州商工会議所(以下「商工会議所」)は、TMO(*)の認定を受け、中心市街地活性化を推進することになりました。
その際、具体的にまちづくりを進めていくには、まちづくり会社が必要との判断が関係者から出され、これを受け、北九州まちづくり応援団株式会社(以下「まちづくり応援団」)が、平成17年に、地元商業者を中心とする事業所と商工会議所会員有志の出資により、行政からの出資のない純民間出資の株式会社として設立されました。
当時の活動は、販売促進等を目的としたソフト事業だけで、ハード整備関係の事業は活動範囲に入っていませんでした。
その後、平成18年に改正中心市街地活性化法の施行とともに、北九州市(以下「市」)では、市内の小倉・黒崎の両地区を対象に「中心市街地活性化基本計画(以下「基本計画」)」の認定による活性化を目指すことになりました。そうして、平成19年に市はまちづくり応援団に出資し、ソフト・ハード両事業に取組む、現在の会社組織になりました。
このような経緯から、まちづくり応援団は、民間企業の意識を濃く持つ会社という特色があります。
(2)まちづくり会社の自立に関する研究会
北九州市は、平成22年3月に基本計画が認定され、以降、各種事業が推進されることになりましたが、まちづくり応援団の会社としての収益基盤は、受託収入や補助金収入が大半で、安定したものではありませんでした。
そのため、平成23年4月に市からの委託事業として、「まちづくり会社の自立に関する研究会(以下「研究会」)」を設置し、これからもまちづくり応援団が自立して継続できる仕組みをどのように構築すべきか、調査研究することになりました。
まず、研究会では、「現在の主要事業は、まちづくり応援団でなければできないものなのか。」について検討しました。
その結果は、次のとおりとても厳しいものでした。
事 業 名 |
まちづくり応援団に しかできないのか? |
代替機関・組織 |
---|---|---|
1.(商店街おもてなしの)ハローズ事業 | × | 商工会議所、商店街 |
2.インフォメーション事業 | × | We Love小倉協議会 |
3.共通駐車券事業 | × | 商店街 |
4.低・未利用地活用事業 | △ | 行政が直接雇用で実施可能 |
5.イベント事業 | × | 商工会議所、商店街 |
6.小倉城等指定管理業務 | × | 民間企業 |
7.都市機能の増進に関する事業 | × | 市住宅供給公社 |
次に、研究会では、全国のまちづくり会社に「業務内容」、「収益基盤」「人材育成」等を内容とするアンケート調査を行いました。その結果は、まちづくり応援団の抱えている問題点と共通しており、これを踏まえ、これからの活動理念と今後の収益事業の柱について、同年12月に報告書をまとめました。
[報告書の要点]
まちづくり応援団のドメインは、理念として「同じまちにいて同じ方向を向く」とする。中心市街地活性化に関する事業は、統一性・継続性の観点から、同じ団体・組織が取組むべきであり、そのため、まちづくり応援団は、会社として自立した収益事業の柱を確保しなければならず、既存の事業に加え次の事業に取組むべき。
- (a)
- サンリオ小倉ビルを再生し、ここにまちづくり応援団が移転し、施設管理収入を確保するとともに商店街に足場を築く。
※当時、まちづくり応援団は、現在の魚町(サンリオ小倉ビル)から500m離れた商工会議所ビルに入居していました。
- (b)
- 商店街の空き店舗対策に取組み、不動産仲介手数料収入を確保する。
- (c)
- 商店街に不足する機能を補完する業務に取組み、コンサルティング収入を確保する。
- (d)
- 市内各種団体の事務局業務を受託し、手数料収入を確保する。
(3)サンリオ小倉ビル(空きビル)の再生
(ア)サンリオ小倉ビル
サンリオ小倉ビルは、小倉地区商業の中心、魚町商店街のほぼ真ん中にある(株)サンリオの4階建て自社ビルで、直営店として営業していた当時は、多くの市民に親しまれていました。
しかし、撤退後は一時期テナントが入居していたものの、最後のテナントが撤退してから3年以上空きビルの状態が続いていました。
商店街では、この好立地の空きビルを何とか再生できないものか、頭を悩ませていましたが、自社ビルの直営店だったため、エレベーターやエスカレーターがなく内階段だけで、各フロアも各階独立性のある構造になっていなかったため、1棟一括の利用しかできず、なかなかテナントが決まらない状況でした。
(イ)再生への取組
まちづくり応援団は、サンリオ小倉ビルを一括して賃借、改修し、テナントミックスにより再生することにしました。
改修経費については、補助金がある場合とない場合に分け、テナントからの賃貸料はテナントの組み合わせによる予定収入を何種類も想定し、それによってどこまで改修費として計上できるか、そして、融資を受ける場合、返済期間は「5年」と設定し、100を超えるパターンで収支計画を作成しました。
国からの支援としては、地域商業再生事業の採択を受け、銀行からは無担保無保証で融資を受けられることになりました。
(ウ)テナントミックス
テナントについては、地域ニーズと来街者ニーズに合致したものにするため、アンケート調査や通行量調査、そして多世代を対象にグループインタビューを実施し、綿密に、今まちに「何が足りなく」「何が必要なのか」を分析しました。
その結果、次のことが分かりました。
○通行量調査:通行量は下げ止まっており、来街者の6割が女性
○女性へのグループインタビュー:
業種、機能のニーズは、手づくりの店、おむつ替え・授乳・キッズのためのスペース、多目的障害者用トイレ、休憩できる場所
購買行動は、知り合いからの口コミが多い
魚町のイメージは、通過するが、買い物しようとは思わない(特に20・30代=新規潜在購買層)
また、テナントミックスの前提として、既存商店街の店舗と競合する業種は避けることにしました。
以上の検討を経て、サンリオ小倉ビルは、平成24年9月にオープンしました。
各フロアのテナントや機能は次のようになっています。
1階 カルディコーヒーファーム(輸入食品販売)
2階 ママトモ魚町(子育て支援施設:休憩と託児機能、教養講座の開催)
3階 多目的ホール(ママトモ魚町の教養講座とも連携)
4階 まちづくり応援団事務所
カルディコーヒーファームの入居については、近隣のSCに既に出店しており、女性へのグループインタビューによると利用者が多く評価も高かったため、カルディ側にこのビルへの出店を要請し、実現しました。
また、1・2階には、衛生陶器産業の盛んな小倉だけあって、立派な「多機能トイレ」と「ママトモ幼児用トイレ」が設置されています。
現在、1・2・3階ともに売上や利用率は好調で、順調な運営が続いています。
2.今後の予定
まちづくり応援団の果たした役割を経営モデルとして見ると、不動産オーナーとテナントの間に位置し、再生のための取組を企画・実行し双方にメリットを提供する転貸デベロッパーということになります。
不動産オーナーは、まちづくり応援団からの安定した賃貸料を得ることができ、また、テナント入居のための改修経費はまちづくり応援団が調達し、優良なテナントを捜し入居させてくれるというメリット、そしてテナントは、まちづくり応援団が改修し、そこで開業した場合の売上・採算見込みについて的確な情報を得ることができるというメリットがあります。
別の見方をすると、リスクを分かち合うシステムととらえることができます。
また、魚町エリアの観点でみると、テナントにより新たな雇用が発生し、集客ポイントが生まれることから商店街への波及効果が期待できます。
まちづくり応援団には、この取組を通じて、空きビル再生のノウハウがどんどん蓄積されました。このノウハウを活用し、空きビル・空き店舗の増えている魚町地区で第2第3のプロジェクトが動き出しています。
3.関係者の声
まちづくり応援団エリアマネージャーの二宮啓市氏は、次のとおり語っています。
「研究会の提言を受け具体的に取組んだサンリオ小倉ビルですが、再生することができました。テナント法人の売上は順調で、まちづくり応援団への賃貸収入も安定しています。また、同ビルに入居したことからキメ細かなビル管理ができ、管理収入があります。しかし、何より空きビル再生のノウハウが蓄積されたことが大きいと思っています。これを活かして他の空きビルの再生や、コンサルティング収入も期待できます。そしてこのことは、地域内で他の企業・組織では対応できない、まちづくり応援団独自のものとして経営上の強みになっています。これからも、まちづくり応援団の多面的な力を、魚町を中心としたエリアの活性化・エリアマネジメントにつなげていきます。」
4.取材を終えて
サンリオ小倉ビルは、多世代の市民が交流する施設として再生されました。
まちなかに拠点ができたことから、まちづくり応援団と学生グループとの連携が活発になっています。
また、計画の途中でサンリオ側からビル名からサンリオを外しても良い旨の打診があったそうですが、市民に親しまれた名称だったことから変更しないことにしました。
幼児をはじめ多世代が幅広く交流し活用されている姿に対して、サンリオの評価も高く、昨年のビルオープン1周年の際には突然2階のママトモ魚町にキティちゃんの訪問があり、子供たちは大喜びだったそうです。
そしてカルディ側では、赴任した店長はSCでは得られない経験を、商店街の中でいろいろと積むことができ、一回り大きく成長することができると評価が高いようです。
このように、ここでは箱モノ・単純な床の貸し借りを越えた関係が生まれてきています。
まちづくり会社の取組を中心に、エリア・商店街・地権者・テナント・学生グループそして市民が有機的につながっている様子を取材することができました。
*TMO 平成10年(~18年の法改正まで)施行の中心市街地活性化法に基づき、中小小売商業高度化事業構想を作成し、この構想が適当であると市町村の認定を受けた者を認定構想推進事業者、TMO(タウンマネージメントオーガナイゼーション)という。平成18年の中心市街地活性化法改正以降は任意組織。
取材日 平成26年10月
まちの概要
小倉地区は、北九州市の中心として、市役所本庁舎、小倉城のほか魚町銀天街、京町銀天街、日過市場、井筒屋をはじめとする商業集積があり、また、産業的には工業地域として発展してきました。 北九州市は、近年、北九州エコタウンなどのエコビジネスの集積や、門司港レトロ・スペースワールドなど観光地としての取組が活発になっています。
- 会社名:
- 北九州まちづくり応援団株式会社
- 所在地:
- 北九州市小倉北区魚町2-2-11
- 設立:
- 平成19年6月27日
- 資本金:
- 3,200万円(うち北九州市100万円)
- 社員数:
- 40人
- URL:
- こくらTown Navi