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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

いきいき唐津株式会社

取り組みのポイント

市街地に求められている「機能」を把握し、まちづくり会社が「事業」として実施。
まちづくり会社がビジネス感覚を持ち、カフェ運営等の多岐にわたる事業を展開。
公募により若手社員を採用。公的機関からの出向ゼロ。

1.会社概要

会社名:
いきいき唐津株式会社(http://ikiiki-karatsu.jp/)
所在地:
佐賀県唐津市大名小路1番54号
設立日:
平成22年3月26日
資本金:
3,000万円
従業員:
16名(非常勤役員1名、タウンマネージャー1名、正社員6名、契約社員2名、パート・アルバイト6名)

2.まちの概要

位置・人口
 唐津市は、佐賀県の北西部に位置し、玄界灘を臨み、古くは大陸との窓口でした。人口は約13万人で、佐賀県内の市町村で2番目に人口が多い都市です。

交通アクセス
  電車では、福岡・博多より約80分、高速バス、車では高速道路を利用すれば60分弱、佐賀より約70分でアクセスできる都市です。

まちの特色

中央商店街

 江戸時代初期に潅漑政策として松浦川の大規模河川改修と虹の松原(国の特別名勝)がつくられ、現在の唐津湾の風光明美な景観が生まれました。また、町人文化が盛んで200年以上にわたって唐津神社の秋季例大祭の「唐津くんち」(国の無形文化財)や唐津焼などの伝統文化・産業があります。市内には多くの歴史的な建造物が残されており、ツアーが企画されたり、観光ガイドの養成講座が開かれたりしています。

3.いきいき唐津株式会社の取り組み

(1)取り組み背景

 平成8年から平成22年の約15年間で、まちなかの歩行者通行量が1/4に減少していることが分かり、市民に対して「求める市街地の機能・商店」についてアンケート調査を実施しました。その結果、「本屋」「映画館」「カフェ」等の店舗が上位に上がったため、「映画」「カフェ」に係る事業をまちづくり会社が実施し、「本屋」については地元の「まいづる百貨店」にて新店舗出店することで、まちなかの賑わいを取り戻そうとしました。

(2)カフェ「Odecafe」の運営

店内の雰囲気

平成23年10月よりまちづくり会社の直営で営業開始したところ、売上は約230万円/月となり利益を出す事業となりました。利益を出せたポイントは、明確なお店のコンセプトをもちながら、以下の5点を追求した結果だと思われます。



1)公的機関が運営するカフェでは、「オシャレ」「味」を追求していくことが難しい例もありますが、Odecafeでは、立ち上げの際に徹底的にマーケティング調査を行い、ビジネス感覚を重視して、市民、特に30~40代の女性に支持されるインテリアやフードメニューを追求しています。また、店内は気楽に入れるオープンカフェのような空間を意識しています。その結果、中心市街地から足が遠のいていた客層が来店するようになりました(月平均約4000人が来店)。

マーケティング調査に基づくフードメニュー等
唐津初上陸のイタリアilly社の豆の使用
リーズナブルでさっと美味しく食べられる日替わりのオリジナルパスタ、カレーの用意
唐津名店のパティスリーから仕入れた選りすぐりのスウィーツの販売
唐津の産直の食材を使用し季節ごとの特別ランチ、ディナーの企画、ビアガーデンなどの実施

2)低コストで効果的なPRを行うため、FacebookによるPRの実施や、地元広告会社と提携した折込チラシなどを利用しています。その結果、コストをかけずに地元の人に広く知ってもらうことができています。

忘新年会の企画

3)スタッフを「人財」ととらえ、主体性、積極性を大事にしています。常時お客様には無記名で記入いただけるアンケートボックスを設け、いつ誰がきても気持ちの良いサービスを受けることができるよう月に1度は合同研修を行っています。また、徹底した衛生管理を行うためのオリジナルマニュアル、クレーム対応マニュアルを作成しています。その他、明確な賞与基準を設けることでスタッフのモチベーションを高めるインセンティブを与え、人材強化を図っています。

4)地元唐津を最大限に生かしたお店づくりをしています。地元パティスリーからの商材を揃えたり、地元加工食品を使ってオリジナルメニューを開発したりすることで、唐津のアンテナショップのような役割を担い、また地元農家からは、規格外になって販売が難しいものの鮮度の良い産直野菜を安く仕入れ、一方では地産地消で、地元の方から親しまれるお店のブランディングをしています。その他、唐津焼若手作家とのコラボの企画など、食にとどまらず唐津の魅力の発信もしています。

5)毎日の売上については、メニューの部門別、曜日別に整理し、天気、来客数も踏まえて分析し、それにもとづいたメニュー開発、キャンペーン企画を行っています。

3)「唐津シネマの会」の運営

唐津城から唐津湾を望む風景

 平成24年度より、いきいき唐津㈱では、映画を通じて、文化・芸術的機会を提供し、市民生活の質の向上を目指すとともに、文化的活動の担い手の育成、定着を図ろうとしています。なぜなら、日々の生活そのものに必要不可欠ではない文化、芸術活動への行政投資が減りつつあるからです。

運営体制としては、複数の文化団体等からなる協議会で運営する「唐津シネマの会」を立ち上げ、いきいき唐津㈱が事務局を担っています。唐津シネマの会の運営上のポイントは、以下の6点と思われます。

1)映画館としてハード施設を整備すると負担が大きくなるため、上映会方式で実施しています。大手口センタービル(中心市街地の再開発事業)の多目的ホール、旧唐津銀行ホールなど、市内のさまざまな場所で、週に1~2回、上映会を実施しています。

2)郊外にあるシネコンとの差別化を意識し、シネコンと競合しないオリジナルコンテンツによる上映を実施するとともに、映画だけでなくプラスアルファの事業(トークイベント、ワークショップ等)を実施しています。

3)1回1,000円(会員or回数券購入者は1回600円)という低価格帯の価格設定を行っています。約280名(平成24年11月現在)の方が、唐津シネマの会に入会しており、鑑賞料金割引等の特典を受けられる「会員」になっています。

4)さまざまな地元メディア(コミュニティラジオ、ピープル放送、フリーペーパー等)に活動内容を理解いただいた上で、広告を無料で掲載・放送させてもらい、広告宣伝費を削減しています。

5)映画作品の独自の配給のパイプを築き、上映にあたってのコストを縮減しています。

6)地元の映画好きが集い楽しめるような大学の映研のようなサークル活動(例えば、映画の試写会&懇親会を月に一度開催する「シネマズバー」等)を主催し、上映作品もサークルメンバーによって提案されたものを採用するなど、地元の方の草の根的な活動を促しています。

以上のような工夫を行うことで、採算が取れるよう検討しています。事業実施1年目の運転資金は、佐賀県の助成金970万円を充て、2年目以降は鑑賞料収入や個人・法人会費などで賄えるような運営を目指しています。

「唐津シネマの会」による上映会の様子

(4)いきいき唐津株式会社の職員体制、その他の実施事業について

 代表取締役社長は民間企業出身であり、職員についても公的機関からの出向等がいない状況です。優秀な人材をハンティングするため、ハローワークだけでなく、有料求人情報誌を戦略的に利用して優秀な人材が集まるような求人広告を考え、募集をかけています。その結果、平成23年6月の採用時には30人以上の申し込みがありました。まちづくり会社の職員の前職は、コンサルタント、広告会社、音楽イベント会社、企画営業等であり、東京の一流企業に勤め、地元唐津に戻ってきた方もいらっしゃいます。現在、まちづくり会社の社員の平均年齢は若く、7割が35歳以下で構成されています。

唐津城から唐津湾を望む風景

 なお、いきいき唐津㈱では、前述の2事業(Odecafe、唐津シネマの会)の他、不動産管理(駐車場の管理・運営、再開発事業ビル(大手口センタービル)のテナント管理)、文化教育事業(市民交流文化イベントの実施、まちなか体験STUDY)、まちづくり・観光活性化事業(中心市街地活性化基本計画指標調査、空き店舗チャレンジ誘致、リノベーション事業、他)など、多岐にわたる事業を展開しています。

4.今後の展望・課題

 いきいき唐津㈱は、設立後、まだ間もないまちづくり会社です。地域密着型のまちづくり会社として中心市街地の再生に取組む際、市民の皆様への周知、理解を得ることに時間がかかることがあります。しかしながら、事業成果が除々に出され、日々の交流を深めていくなかで、いきいき唐津㈱は唐津のなかで大きな存在になりつつあります。 いきいき唐津㈱が活動することで、まちづくりの実働を担う若手雇用・移住が生み出され、唐津は人口減少社会に対応した生産力・魅力のあるまちへと向かっています。

取材年月:平成24年11月