『中心市街地活性化、行政の関わり方と面白さ』 セミナーレポート(愛知県半田市)
中心市街地活性化基本計画の認定を目指す半田市は、講師に元兵庫県伊丹市職員の綾野昌幸氏を迎え、市役所職員を対象に『中心市街地活性化の取り組みと行政の関わり方、期待される役割 行政マンの面白さ』と題したセミナーを、2023年3月7日から8日の2日間にわたって開催しました(本セミナーは中小機構の診断・サポート事業セミナー型支援を活用)。セミナーの様子をレポートします。
目次
地域の取り組みとセミナー開催
半田市は愛知県にある知多半島の中央東側に位置した人口117,321人(令和5年6月末)の都市です。名古屋から鉄道で約30分の距離にあり、運河や蔵のある景観など観光資源に恵まれているものの、中心市街地では点在する駐車場など低未利用地の活用が課題となっています。そこで半田市は令和4年に全国公募により、中心市街地活性化市長特任顧問として伊藤大海氏を迎え、中心市街地活性化協議会の設立や基本計画の策定を進めることとしました。また、市職員の中心市街地活性化に対する理解を深め、全庁的な計画策定を実施する意識の醸成のため、本セミナーを開催しました。対象者は半田市役所の職員であり、1日目は27名(管理職員が対象)、2日目は55名(担当職員が対象)が参加しました。
講師にお迎えした綾野氏は、現在は奈良県生駒市の地域活力創生部専門官(コミュニティデザイン担当)を務め、市民活動推進センター所長を兼務されています。2022年3月までは兵庫県伊丹市役所の職員として15年にわたりまちづくりに携わってこられました。他にも白雪ブルワリービレッジ長寿蔵(伊丹市の酒造会社が運営するミュージアム)館長、近畿中心市街地活性化ネットワーク研究会会長、近畿バルサミットの主宰をされてきました。
セミナーでは、冒頭に伊藤特任顧問から開催主旨の説明があり、続いて綾野氏による講演と質疑応答が行われました。
伊丹まちなかバルの成功
講演のはじめに、ソフト事業を実施してもイベント当日しか人が集まらない、つまり、一過性のにぎわいしか創出できないという問題が伊丹市にはあったと、綾野氏は振り返りました。その問題に対し、真の商業活性化とは個々の事業者が儲け続けることだとの考えから、伊丹市は商業活性化の三種の神器(※)のうち、特にバルに注力することとしました。
※商業活性化の三種の神器
綾野氏は、飲食店は「バル」、物販店は「100円商店街」、あらゆる業種では「まちゼミ」の実施が商業活性化につながると考えます。顧客が①店舗に訪問し、②店主と対面でコミュニケーションをもち、③店舗の雰囲気を知り、そして④店舗のファンになる、という購買行動で店舗の売上が拡大するという論理です。
【用語解説】
①バル … エリア共通のチケット制の飲み歩き・食べ歩きイベント/システム
②100円商店街 … 商店街全体で店舗の軒先に100円の商品を並べるイベント
③まちゼミ … 店舗従業員が講師となり、プロならではの専門的な知識や情報、コツ、また趣味の楽しみなどを、店舗にて無料で受講者(顧客)にお伝えする少人数制(2~7人)の講習会。
伊丹市が商業活性化に注力した背景は、わずか25平方キロメートルの市域に店舗面積5万平方メートル超の大規模小売店が2店あり、商店街や個々の店舗が苦戦していたからです。従来のイベントは大きな広場やホールで開催する形式であり、来場者を個々の店舗に誘導することが上手くできませんでした。しかし、バルであれば直接イベント来場者が個々の店舗に訪問するものですから、商業活性化が期待できました。結果として伊丹まちなかバルは成功をおさめ、各地に知られるようになりました。
伊丹まちなかバルの効果
綾野氏は伊丹まちなかバルの効果を5つ挙げました。①新規顧客が定着したこと、②バル参加店舗のネットワーク構築によるイベントへの意識改革ができたこと、③新メニュー開発の契機を提供できたこと、④美味しい飲食店が多いというまちのイメージアップ(中心市街地の飲食店が296店舗(2009年)から366店舗(2019年)に増加)、そして⑤助成金に頼らず継続できるイベントの創出(チケット販売代金と換金の差額を次回の広告宣伝費に充当)です。
この話題のほかに、民間企業とのタイアップを積極的に実施している伊丹市のまちづくりのトレンドが紹介されました。まちづくりで結果を出せば民間企業からのアプローチが来て、民間企業のPR力や資金力も活用したイベントが実施できます。事例としてキユーピー(株)と連携したイースター・イベントなどを挙げられました。伊丹市のイースター・イベントはイースターにちなんだ商品を販売し、スタンプラリーを実施しています。参加者はキユーピーグッズなどの商品がもらえ、主催者は同社から印刷費用、ノベルティ費用、協賛金の支援を受けられています。
行政マンのまちづくりの面白さ
綾野氏は、行政マン(役人)としてまちづくりに携われる4つの面白さ(得意分野)を挙げられました。
1つ目は、「情報が入手しやすい」ことです。行政にいるからこそ助成金や交付金、補助金の情報がいち早く入手できます。
2つ目は「信用がある」ことです。市役所の職員という肩書は信用があり、事業者や地主の方に安心を与えます。まちづくりの関係者との円滑なコミュニケーションが得意です。
3つ目は「補助金申請等の書類作成が得意」なことです。一般的な事業者の方は補助金制度の公募要領を読んだり、申請書等の資料を作成したりすることが得意ではありません。普段から書類作成業務に携わっている役人の得意分野です。
4つ目は「役割に応じて支援スタイルを七変化」できることを挙げました。役人としての正面業務はイベントの予算確保や関係機関への届け出など側面支援が多いです。しかし、綾野氏が企画した伊丹市のバルのように自身が中心となって企画提案することも可能です。
これら4つの面白さ(得意分野)を持つ半田市の職員は、きっとまちづくり関係者から期待され、まちづくりを成功に導けると綾野氏からの激励がありました。
セミナーを受講して
本セミナーを受講した半田市の職員は、「同じ行政の立場として綾野氏が実践した事例を聴けたのが貴重な体験だった」と述べました。また、綾野氏との繋がりができて人的ネットワークが広がったことも満足でした。
セミナーの後に、伊藤特任顧問から職員に向けて、月1回のまちづくり意見交換会が提案されました。まちづくりに興味のある職員は、所属部署を問わず意見交換する場を設けようというものです。参加された職員のほとんどが挙手されました。本セミナーの目的であった市役所職員の中心市街地活性化に対する理解を深め、全庁一丸となった計画策定に向けた意識醸成は達成できたようです。
半田市中心市街地の現況
セミナー終了後、伊藤特任顧問の案内で中心市街地の現況を取材しました。
①区画整理エリア
特に活性化させたいJRと私鉄(2駅の距離約400m)に挟まれたエリアは、平置きの駐車場が多く、低未利用地の活用が課題となっています。
②大型スーパー等による中心市街地への回遊
名鉄知多半田駅の北側にある大型スーパー(2,995m2)等は、JR半田駅の東側居住者からは遠いため利用が限られています(郊外ロードサイドのスーパーへ流出)。同大型スーパー等による、JR半田駅東側居住者の中心市街地エリアへの回遊が課題です。
③JR半田駅の連絡通路
JR半田駅南側の東西連絡通路は幅が狭く利便がよくありません。高架工事(JR武豊線半田駅付近連続立体交差事業、令和9年度の事業完了予定)の完了による東西交通の円滑化が課題です。
④空き店舗が増えた通り(JR半田駅東側、御幸通り)
空き店舗解消が課題です。
⑤蔵や旧家の風景がある運河エリア
にぎわいづくりが課題です。