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『わがまちを愛し、誇れるまちづくりを』 セミナーレポート(青森県八戸市)

 2023年2月24日に八戸市中心市街地活性化協議会は、株式会社まちづくり松山の代表取締役社長 加戸慎太郎氏を迎え、『わがまちを愛し、誇れるまちづくりを』と題し、DXとまちづくりを内容としたセミナーを開催しました(本セミナーは中小機構の診断・サポート事業セミナー型支援を活用)。121名が参加した本セミナーの様子をレポートします。
 

セミナー会場のグランドサンピア八戸
セミナー会場のグランドサンピア八戸
セミナーの様子
セミナーの様子

目次


地域の取り組みとセミナー開催

 八戸市の中心市街地では、活性化のための様々な方策が官民で検討・実施されています。2023年1月には、第3期八戸市中心市街地活性化基本計画にまちなかの Wi-Fi化やAI カメラの設置等を盛り込んだ「はちのへAI中心街・バス活性化プロジェクト事業」が新規追加されました。事業実施にあたっては、個々の事業性向上とともに、スマートインフラの複合化による価値向上など、地域内での連携と持続可能性の追求が重要としています。

 一方で、ウィズコロナが長期化した中、域外観光客・ビジネス客に選ばれる地域づくりの重要性も高まり、第3期計画に掲載されている複数の祭りや、外国人旅行客受入支援事業と連動した「観光と中心市街地活性化」の一層の連携・深化が求められています。

 そこで、第3期計画を効果的に実施するヒントを得るため、独自システム構築などデジタルを駆使したDX時代の中心市街地活性化の先駆であるとともに、観光産業と連携した商業振興や情報発信に意欲的に取り組む愛媛県松山市の事例を学ぶこととしました。

 講師にお迎えした加戸氏は、1982年愛媛県松山市に生まれ、ゴールドマン・サックスにてソリューション営業として活躍後、2009年に家業である洋装店 株式会社とかげや 代表取締役社長に就任。2014年より松山銀天街商店街振興組合理事長、株式会社まちづくり松山の代表取締役社長を務めています。 現在、愛媛県商店街振興組合連合会理事長他、多数の要職を兼任されています。地域独自の決済プラットフォーム「まちペイ」、来街者人流捕捉システム、一括免税サービスを備えた観光カウンターの設置、地域独自運営によるデータマーケティングシステムの構築等の取り組みにより、同社として2021年に「第10回地域産業支援プログラム表彰」経済産業大臣賞を受賞されています。

セミナー中の加戸慎太郎氏
セミナー中の加戸慎太郎氏

「まちはそこに住む人の意識以上にはよくならない」~八戸と松山のつながり、DX時代のまちづくり~

 セミナーの冒頭で、加戸氏からまちづくりで最も大切な考え方として、「まちはそこに住む人の意識以上にはよくならない」が紹介されました。住民の意識が高くなければ良いまちづくりはできない、という意味です。加戸氏は、この考え方に出会わなければ、まちづくりに携わっていなかったとも。その言葉との出会いは、同社の代表取締役会長である日野二郎氏からでした。

 この「まちはそこに住む人の意識以上にはよくならない」という言葉は、本セミナー開催地の八戸市において、1975年に生まれた八戸青年会議所のスローガン「ラブはちのへ」運動の考え方です。日野氏は、松山青年会議所時代の活動を通じて「ラブはちのへ」運動を知り、理念のすばらしさに触れました。このときから八戸と松山はつながっていました。そして同社のまちづくりの考え方「人と想いをつなぐ」にも影響を与えています。

  • 「ラブはちのへ」運動のロゴ
    「ラブはちのへ」運動のロゴ
  • 株式会社まちづくり松山のロゴ(人と人がつながり“まちづくり”“松山”の“M”を形作っている)
    株式会社まちづくり松山のロゴ
    (人と人がつながり“まちづくり”“松山”の“M”を形作っている)

 本セミナーでは、同社が実践してきたまちづくりの数多くのノウハウ、事例、考え方が紹介されました。特にDX時代の、来街者捕捉カメラによる人流分析、まちペイによる金流分析、アプリやデータ分析を活用した消費喚起による商流分析は目を見張るものがありました。本レポートでは、特にまちづくり体制の枠組み「MAP’S+O」(マップスプラスオー)と地域独自の決済プラットフォーム「まちペイ」の取り組み、そして「共助のあり方」を紹介します。

(参考)株式会社まちづくり松山がイノベーションネットアワード2021経済産業大臣賞を受賞 画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料
(参考)株式会社まちづくり松山がイノベーションネットアワード2021経済産業大臣賞を受賞
画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料

MAP'S+O(マップスプラスオー)

 持続的なまちづくりに向けた体制構築においては、適時にその役割を見直す必要があります。そのための枠組み「MAP’S+O」が紹介されました。これは、まちづくりに関わる様々な立場の人々を表します。
 ①マネージャー(Manager)(例:地域または事業における中心的人物)
  地域の持続的発展に取り組む中核的な人材であり、利害調整やバランス役が可能な人材
 ②アグリゲーター(Aggregator)(例:キャッシュレス決済IT技術の提供事業者)
  地域の持続的発展や事業に資する製品又はサービスを供給する組織
 ③プレイヤー(Player)(例:個々の地域の事業者)
  マネージャー及びオーガナイザーの呼びかけに応じ、協力・連携する地域内外の組織・人材
 ④サポーター(Sponser Supporter Stakeholder)(例:市役所)
  オーガナイザーへ支援を行う地方公共団体等
 ⑤オーガナイザー(Office Organizer)(例:まちづくり会社)
  マネージャーと連携して主に事業の事務・出納管理等を行い取組に透明性を持たせる役割を持つ組織

 例えば、補助金を活用してもまちづくりに十分な効果が出ないとき、MAP’S+Oで説明ができると加戸氏は言います。具体的には、サポーター(市役所)がアグリゲーター(提供事業者)に資金を供給しても、同アグリゲーター(提供事業者)が魅力あるサービスを提供し続けられないケースが多くみられます。サポーター(市役所)は、①資金政策、②提供事業者の統治や役割分担、③情報発信・共有の3つを明確にして、資金の提供を考える必要があると考えることができます。

 別の例では、アグリゲーター(提供事業者)やプレイヤー(地域の事業者)がまちづくりへの熱意を持ち続けられないときです。対処としてはマネージャー(商店街の中心人物)やオーガナイザー(まちづくり会社)がかかわることによってまちづくりの理念やゴールを見失わないように誘うことが重要と考えられます。例えば前述した「ラブはちのへ」運動のような考え方を持つことです。このようにまちづくりの体制・役割を見直し、説明しやすくする枠組みがMAP’S+Oです。次に紹介する「まちペイ」にも、このMAP’S+Oの考え方が取り入れられています。

地域の課題解決への取組その1 画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料
地域の課題解決への取組その1
画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料
地域の課題解決への取組その2 画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料
地域の課題解決への取組その2
画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料

まちペイは地域の価値を創造するプラットフォーム

まちペイ(クリックするとまちペイ公式サイトへ遷移します) 別ウィンドウで開きます は、松山市の地域独自の決済プラットフォームです。ICカード、スマホアプリ、QRコード付きチケット等の媒体で展開されていて、誰一人取りこぼすことなく利用できる地域決済だと加戸氏は語りました。地域限定で使用できるポイントや、利用者の分析データ等により、域内資金循環を促進します。

 しかし、単にいわゆる“地域通貨”を展開するためにまちペイをつくったのではないと加戸氏は言います。MAP’S+Oのそれぞれの立場の人々が、機動的かつ柔軟に役割を果たすために、地域の価値を創造するプラットフォームが必要と考えたとき、そのプラットフォームの入り口としては、生活に密着した活動である“決済”が適していると考え、まちペイ事業を立ち上げたそうです。

例えば、マネージャー(地域・事業における中心的人物)の立場からは、まちペイ事業が「人と想いをつなぐ」という理念に沿った事業になっているかを俯瞰します。アグリゲーター(キャッシュレス決済IT技術の提供事業者)の立場からは、地域電子マネーの技術基盤を提供します。プレイヤー(地域の事業者)の立場からは、地域独自の決済プラットフォームである特性を活かして地域一体での顧客の囲い込みを実現します。サポーター(市役所)の立場からは、まちペイ事業に対して補助金等の資金を投入することで地域の経済活力を向上させます。オーガナイザー(まちづくり会社)の立場からは、サポーターに対してまちペイ事業の①資金政策、②資金を使う事業者の統治や役割分担、③情報発信・共有を説明することで、サポーターの資金提供が地域にどのような効果をもたらしたかの分析を手助けします。

 このようにまちペイは、他のキャッシュレス決済システムとは発足の思想が異なります。極端な話では、他に松山市の地域の価値を創造するに適したプラットフォームがあれば、別に地域決済事業でなくても良かったと加戸氏は考えています。

まちペイは誰もが使えるスマートインフラ 画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料
まちペイは誰もが使えるスマートインフラ
画像の出所:株式会社まちづくり松山講演資料

共助のあり方

 最後に共助のあり方について加戸氏の考えを紹介します。共助とは地域やコミュニティといった周囲の人たちが協力して助け合うこと、自助とは自分自身の事業や生活を守ること、公助とは行政による支援を言います。ここでは商店街の個店を自助、商店街を共助、行政を公助とします。

 昔のまちづくりでは自助・共助・公助が一体となっていました。例えば商店街のアーケードを作ることで、個店は雨の日でも売上を獲得できる、商店街はアーケード建築により個々の店舗から感謝される、行政はアーケード建築を支援した成果が個々の店舗の増加した税収となって得られるという好循環でした。

 いまでは共助の立場の商店街は感謝されないことも多いです。自助の個店からは商店街は役に立たないと言われ、公助の行政からは多額の支援をしても成果がでないと言われる地域もあります。昔とは自助・共助・公助のバランスが変わってしまっています。大切なことは八戸市のバランスはどうなっているのか現状を把握すること、八戸市のバランスはどうあるべきか、特に共助のあり方についてじっくり考えることだと、セミナーを締めくくりました。


セミナーを受講して

 本セミナーを開催した八戸市中心市街地活性化協議会は、まちづくり松山が展開する電子地域マネー「まちペイ」や、人流捕捉カメラの運用とデータ活用の実態など、DXと中心市街地活性化の実態について、具体的数字も含めて教示いただくことが出来、八戸での展開に大いに参考になったと言います。また、デジタルツールを如何に活用するかに当たって、地元商店街側でどのようなまちを目指すかの意識統一の重要さと、目標、戦略、計画、実践、検証のサイクルの重要性について、参加者に理解しやすくお話をいただくことが出来たとも。

 八戸市は現在、第3期八戸市中心市街地活性化基本計画の最終年度を実施中です。あわせて、次期計画策定を見据えた様々な動きが進んでいます。本セミナー開催を通じて、これから益々の八戸市の中心市街地活性化が期待されます。