計画的な街なか機能向上策がカギ!まちづくり会社のマンション経営(福島県白河市)
白河市のまちづくり会社である株式会社楽市白河(以下、楽市白河)の収入事業の柱の一つはマンション経営です。管理保有しているマンションは2棟で、これらは中心市街地活性化基本計画(以下、基本計画)のもと、中心市街地の都市機能の充実を図った上で竣工されました。
コロナ禍においても安定した経営を展開するマンション経営の収益をもとに、街なか投資を進め、さらなる成長を図っています。
マンション経営が収入事業として位置づけられるまでのプロセスを楽市白河取締役古川氏に伺いました。
中心市街地の環境
中心市街地活性化基本計画立案時点の白河市中心市街地の状況は、公共施設の老朽化・不足、さらに郊外店進出や中心市街地の大型店撤退による都市機能や商業機能の低下、近隣の新幹線新駅周辺などに居住環境が整備され、若者の転出ならびに中心市街地の高齢化などの問題により空洞化していました。
よって、基本計画では、中心市街地の活力向上、コミュニティ維持に向けて、子育て世代や高齢者世帯が暮らしやすい生活環境の整備が課題となりました。
中心市街地の機能回復にむけて
マンションを整備するにあたり、4年をかけて、行政とまちづくり会社が役割分担をし、以下のように都市機能回復のためハード整備を行いました。これはマンションに入居者を呼び込むためにはまず、都市機能の充実を図り、新幹線新駅周辺に対して優位性を築く必要があるとの考えです。
行政主体のハード整備
新しい図書館と文化交流館コミネスは白河駅のすぐそばに整備されました。新しく整備された2つの拠点はいずれも好評です。図書館は市外からも利用客があるほどです。文化交流館コミネスは、新しい音響設備が導入されるなど機能が高まったため、レベルの高い公演・イベント実施が可能になりました。多様な芸能イベントが日々開催されるようになり利用率が高まるとともに市民の満足度も高まっています。
また、街なかに整備した中心市街地市民交流センターであるマイタウン白河は、楽市白河の運営管理の下、市民を呼び込む施設となっています。親子教室など子育て施設や障がい者施設、商業テナント、チャレンジショップがあり。家族連れを中心に利用があります。
まちづくり会社主体のハード整備:駅カフェ、楽蔵、大型商業施設
楽市白河は、まちなかに大型商業施設を呼び込み、利便性を高めるとともに、街なかの蔵を活用し、白河の食の発信の場として整備した楽蔵は、現在では、多様な飲食店がテナント入居し、市民を喜ばせています。
また、駅カフェは大正時代に建てられた白河駅舎を活用した白河の魅力の発信するカフェです。カフェとしての機能を有しながら地域物産直売所、街なか案内所等を併設し来街者の回遊を狙うものです。
以上のように、行政とまちづくり会社が二人三脚でハード事業を進め、成果を出してきたことで行政のまちづくり会社の信頼も大きくなりました。
マンション整備までの課題
当初、マンション整備の主体は、事業法人の集合体で建てる想定をしていました。しかし、白河市の建物の高さ制限により、高層マンションを建築することができません。高層化できない分、入居者が少なくなり、採算性は低くなります。よって参入する民間事業者はいませんでした。
そこで行政と楽市白河が協議し、地代を半額にするなど採算性を確保できる環境を整えた上で、楽市白河が事業主体となりマンションを整備することとなりました。整備にあたっては国土交通省の社会資本整備総合交付金(優良建築物等整備事業)を活用しましたが、楽市白河も約2.5億円の借入を行いました。
マンションの整備
上記のとおり、都市機能の充実を図ったのち、計画策定後の5年後にマンションを整備しました。「都市機能の充実なくしてマンションの整備はない。」計画策定当初、関係者間で同意した通りの動きとなりました。
マンションを建てる土地の所有者は市、建物は楽市白河の所有となります。1階には商業テナント、2階から賃貸形式をとり、若い家族を中心に入居が進み、今では入居率100パーセントとなっています。さらに、2020年に整備された2棟目のマンションは、竣工前の予約の段階で入居率100パーセントに達しました。2棟とも入居率100パーセントを達成した要因は以下の通りです。
市役所をはじめとして、図書館、市民交流センターなど公共施設の充実や、スーパーマーケットの誘致や楽蔵に入居するテナントなど商業環境の充実により暮らしやすさが向上したこと。さらに、マンションからこれらの施設まで徒歩3分から10分圏内に位置しておりアクセスが容易であること。
新幹線新駅周辺のマンションの機能や、家賃相場の調査により、2棟目のマンション(レジデンス楽市Ⅱ)には、セキュリティや収納機能の充実、高齢者向けを含めた3種類の部屋を用意するなど入居者ニーズに応えたこと。
日ごろから地元不動産業者とは空き物件情報など情報共有を密にしています。マンションの空き室情報なども即座に共有され、スムーズに次の入居者が決まるなどの効果があります。
楽市白河の今後の展望
楽市白河は2000年の旧TMO時代に設立され、一時は休眠状態に陥ったこともありました。失敗を経験しながらも中心市街地活性化法の改正により2009年に白河市が第一期中心市街地活性化基本計画を策定・施行するとともに復活を遂げました。
参考リンク「手作りの基本計画で「どん底」から再生 !(株式会社楽市白河)」
大きな失敗を経験しながら会社を立て直してきた役員たちは、青年会議所や商工会議所青年部の先輩後輩の仲間で、まちのために何かしたいという志の下、努力してきた実効性のある人材ばかりです。話し合いの場では、やると決めたことに対してネガティブな発言をせずどうすればよくなるかを考えて実行してきました。
今後は、若返りを図るため若手を役員にする動きを強め、まちのニーズに柔軟に対応したい考えです。さらに、コロナ禍の状況をチャンスととらえ、マンション経営で得た資金をもとに商店街空き店舗のリノベーション活用や楽蔵周辺などへ投資、大学や創業希望者など若手プレーヤーの発掘など積極的に行い、新事業を展開していく予定です。